※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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竜との遭遇

 道は長かった。

 正確に言えば、距離そのものよりも、隣を歩く存在が長さを強調してくる。

 

「……遅い」

 

 前を歩くイルルが、また言った。

 今日で何度目だろう。

 

「そんなに睨まなくても……ちゃんと歩いてるよ」

「睨んでねぇ」

「いや、睨んでる」

 

 振り返ったイルルは、不機嫌そのものだった。

 人間形態でも隠しきれない威圧感。だが、その苛立ちは僕に向いているというより――我慢している感じが強い。

 

「本来なら、私が運ぶ」

「飛べばいいのに?」

「飛ぶわけねぇだろ!」

 

 吐き捨てるように言い、すぐに言葉を継ぐ。

 

「……この辺り、竜狩りが出る」

「また心臓目的?」

「それ以外に理由があるか?」

 

 肩をすくめるイルルの仕草が、どこかぎこちない。

 ああ、なるほど。

 

「……僕が一緒だから?」

「……」

 

 一瞬、言葉に詰まった。

 その沈黙が答えだ。

 

「お前とリンクしてる状態で、竜の姿を晒すのは危険だ。

 狙われたら、お前が巻き込まれる」

 

「……それ、心配してくれてる?」

「違う」

 

 即答。

 でも目が合わない。

 

「お前が死ぬと、私が困るだけだ」

「それを心配って言うんじゃ……」

「違う!」

 

 語気が強くなる。

 そのあと、ぼそっと付け足す。

 

「……私のものなんだから」

 

 小さすぎて、聞こえたかどうか怪しい声。

 でも、聞こえてしまった。

 

「……え?」

「聞き返すな!」

 

 顔を赤くしながら歩く速度を上げる。

 僕は苦笑しながら、少しだけ早足になる。

 

 ――その瞬間だった。

 

 嫌な気配。

 背筋を撫でるような、獣の視線。

 

「イルル」

 

 名前を呼ぶと、彼女は即座に反応した。

 身体が前に出る。庇う位置取り。

 

「下がれ」

 

 その言葉と同時に、上空から影が落ちた。

 

 衝撃。

 風圧。

 土煙の中に、女の姿があった。

 

 黒髪。鋭い眼差し。

 だが、怯えが隠しきれていない。

 

「……人間……二人……?」

 

 その声に、明確な恐怖が混じる。

 

「来るな!」

 

 叫びと同時に、女は踏み込んだ。

 速い。奇襲。迷いがない。

 

 ――いや、違う。

 迷いを振り切った動きだ。

 

 だが。

 

「邪魔だ」

 

 イルルが前に出る。

 人間形態とは思えない速度で、拳を叩き込んだ。

 

 女の身体が吹き飛ぶ。

 

「……っ!」

 

 木に激突し、それでも立ち上がる。

 目に涙を浮かべながら、歯を食いしばる。

 

「人間め……近づくな……!」

 

 その言葉に、イルルが眉をひそめた。

 

「……同族か」

「……!」

 

 女が息を呑む。

 

「竜の癖に、人間を守るつもりか?」

「守ってねぇ」

 

 イルルは冷たく言い放つ。

 

「私の群れに、勝手に手を出すな」

 

「……群れ?」

 

 女の視線が、僕に向く。

 

「……人間……なのに……?」

 

 その瞬間、女の攻撃が再開された。

 地面が波打ち、石が刃のように飛ぶ。

 

 だが、イルルはそれを腕で弾いた。

 

「遅い」

「……っ!」

 

 間合いに入る。

 一方的な展開。

 人間形態でも、力の差は歴然だった。

 

「――やめろ」

 

 女の喉元に爪が届く。

 イルルの瞳は、完全に捕食者のそれだ。

 

「イルル!」

 

 叫ぶ。

 

「殺す気!?」

 

「当たり前だ。襲ってきた」

 

 正論。

 この世界では、それがすべて。

 

 でも。

 

「待って。……この人、声が」

 

 イルルの動きが止まる。

 

「怖がってた。

 襲う前から、ずっと」

 

 女が震える声で叫ぶ。

 

「私は……捕まったことがある……!

 人間に……心臓を……!」

 

 その言葉に、イルルの殺気が跳ね上がる。

 

「……人間……!」

 

 だが。

 

 僕の胸が強く脈打つ。

 リンクが反応する。

 

「イルル……」

 

 名前を呼ぶだけで、彼女は舌打ちした。

 

「……チッ……」

 

 爪が、離れる。

 

「お前のせいだぞ」

「うん。僕のせいでいい」

 

 僕は女を見る。

 

「大丈夫。

 殺されるほどのことじゃない」

 

 女が呆然とする。

 

「……なんで……?」

「怖かっただけでしょ」

 

 その瞬間、女の身体から力が抜けた。

 意識が落ちる。

 

「……気絶した」

 

「弱いな」

 

 イルルはそう言いながらも、女を乱暴に担ぎ上げる。

 

「……それと、人間」

「なに?」

「勘違いするな」

 

 視線を逸らしたまま、低く言う。

 

「お前が助けたいと思ったから、助けただけだ」

「うん」

「……だから」

 

 一拍。

 

「私が一番だ。

 他の竜がどう思おうが関係ない」

 

 完全な独占宣言だった。

 

 僕は笑って頷く。

 

「……うん」

 

 その返事が気に入らなかったのか、イルルはまた歩き出す。

 

 だが、歩幅は――

 ほんの少しだけ、僕に合わせられていた。

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