※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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内部協力者

 夜が更けるほど、音は増える。焚き火の爆ぜる音、眠りきれない子供の寝息、遠くで折れた枝の乾いた音。救えた数より、救えなかった数の方が頭に残る夜だ。だからこそ、近づく足音に気づけた。慎重で、臆病で、それでも決意のある歩き方。敵のそれとは違う。

 

「止まれ」

 

 ステラの声が低く落ちる。影が一瞬、震えた。

 

「……殺さないでくれ」

 

 声は若い。男だ。武器は持っていない。両手を上げ、ゆっくりと焚き火の明かりに出てくる。工房の下級兵の服。血の跡。逃げてきた者の匂い。

 

「話がある。刻印官のことだ」

 

 その一言で、イルルの殺気が跳ね上がった。空気が熱を帯びる。だが、出力は上げない。彼女は学んでいる。

 

「近づくな」

 

 僕が言う。

 

「そこから話せ」

 

 男は頷き、膝をついた。逃げ場を自分から捨てる動きだ。嘘ならやらない。

 

「俺は……技術班の補助だ。兵器を作ってるわけじゃない。刻印の配線と、運搬の帳尻合わせだけだ」

 

「十分だ」

 

 ナデンが淡々と言う。

 

「十分に“内側”だ」

 

 男は唇を噛み、続けた。

 

「今夜の妨害で……二人、死んだ。事故だ。再起動を急いだせいで。刻印官は“想定内”って言った」

 

 リオが毛布の陰で小さく身を縮める。イルルの拳が鳴る。ステラが一歩、彼女の前に立つ。

 

「それで、何を持ってきた」

 

 ステラの問いは短い。逃げ道を与えない問いだ。

 

「再起動条件だ」

 

 男は震える手で布を差し出す。図。刻印の結節。中枢炉の“次の一手”。

 

「部分破壊は効いた。だが、三つ揃えば戻る。媒介石、特定の心臓、刻印官本人。この三つだ。どれか一つ欠ければ、二週間は動かない」

 

 ナデンが図を覗き、即座に理解する。

 

「媒介石は……外せる」

 

「ある場所も分かる。運搬は俺が帳尻を合わせてた」

 

 男の声が掠れる。

 

「心臓は……次は子供だ。小さいのを選ぶ。安定するから」

 

 イルルが前に出た。止まらない。だが、炎は吐かない。

 

「名前」

 

「……ユーハ」

 

「ユーハ」

 

 イルルは低く呼び、視線を逸らす。

 

「嘘なら、死ぬ」

 

「分かってる」

 

 ユーハは頷いた。

 

「だから来た。俺は……“想定内”になりたくない」

 

 沈黙が落ちる。嘘の沈黙ではない。選択の沈黙だ。協力者は刃でもある。握りを間違えれば、こちらが切れる。

 

「条件は」

 

 僕が聞く。

 

「逃がしてくれ。俺と……あの子たち」

 

 視線が子供たちに向く。保身だ。だが、最低限の人間性でもある。

 

「裏切り者だ。戻れば刻印にされる」

 

 ナデンが補足する。

 

「逃がすなら、護送が必要」

 

「分かってる」

 

 ユーハは俯いた。

 

「だから……地図を全部渡す。罠も。偽の試運転も。刻印官の癖も」

 

 イルルが鼻で笑う。

 

「取引か」

 

「違う」

 

 ユーハは首を振る。

 

「償いだ。俺は……数を合わせた」

 

 その言葉が、胸に刺さる。数を合わせた。人の命を“数”で扱った者の告白だ。

 

 ステラが一歩前に出る。

 

「主」

 

「うん」

 

 目が合う。短い合図。決めるのは僕だ。

 

「協力は受ける」

 

 僕は言った。

 

「だが、条件がある。嘘をついた瞬間、ここで終わりだ。もう一つ。救出を最優先にする。破壊はその次だ」

 

 ユーハが深く頭を下げた。

 

「それでいい」

 

 ナデンが図を回収し、即座に整理を始める。

 

「刻印官の癖、話せる?」

 

「……丁寧語だ。心臓の話だけ。自分を“管理者”と呼ぶ。殺す時も、管理だと言う」

 

 嫌な像が、輪郭を持つ。

 

「偽の試運転は?」

 

「やる。必ず。学習した。次は釣る」

 

 イルルが歯を食いしばる。

 

「じゃあ、釣らせる」

 

 ステラが続ける。

 

「だが、こちらの線で」

 

 夜は、もう静かじゃない。火種は揃った。内側からの地図。外側の力。中心の判断。

 

 ユーハは焚き火を見つめ、ぽつりと言った。

 

「……想定外になれて、よかった」

 

 その言葉を、僕は忘れないと決めた。

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