休憩所の天井は一部が崩れ、夜の冷えた空気が静かに降りてきていた。壁際に寄せられた長椅子へ腰を下ろすと、背中に残った振動がようやく薄れていく。瓦礫の隙間から差す光が、細い線になって床をなぞった。
足音がひとつ、近づく。
「……ここなら落ち着けるな」
ステラは周囲を見渡し、扉だった枠に背を預けた。視線はすぐこちらに戻る。いつもの戦闘姿勢ではないのに、隙は見せていない。
「イルル達は?」
「他に何かあるか警戒しているわ。あなたは私達と違って、人間だから少しでも休んでいて」
「・・・そうだね、そうさせて貰うよ」
そうして、俺はそのままゆっくりと椅子に座る。
それと共にステラは、まるで自然の流れで、俺の横に座る。
「ステラ?」
「少し話しがあるの、今、空いているかしら?」」
「ああ」
短く返すと、ゆっくり歩み寄ってくる。間合いを詰める動きに迷いがない。机の端に手を置き、体を少しだけ乗り出した。
「最初は、あなたのその能力のせいで無理矢理操られていた。それは、分かっているわよね」
「それは、悪かった」
「気にしないで、それに今はあまり不愉快じゃないから」
言葉を区切りながら、視線が外れない。
「工場で止めた判断……あれは力ではない。あなたの考えだ」
「考えってほどじゃないよ、ただ線を引いただけだし」
「けれど、私は信じたから」
そう言ってから、躊躇なく隣へ腰を下ろした。距離が急に縮まり、肩先にかすかな重みが触れる。逃げ道を塞ぐ動きではない。それでも意識を引き寄せる圧がある。
「ねぇ、この能力の欠点というよりも、私の疼き、分かるよね」
声が少し低くなる。手甲を外した指が、こちらの袖をそっと摘んだ。
「私は戦場では迷わない。だが……今は少し違う」
「迷ってるのか」
「違う。確かめている」
指先の動きがゆっくりと上がり、肩口で止まる。強くは握らない。触れていると分かる程度の力。赤い瞳が真っ直ぐに重なり、呼吸の間が少しずつ近づく。
「あなたは、私を道具として扱わない」
「当たり前だろ」
「……その当たり前が、私には珍しい」
短く息を吐き、体をさらに寄せる。鎧を外した肩が触れ、温度がじわりと伝わる。視線を落としたまま、額がゆっくり近づいた。
「嫌なら言え。すぐ離れる」
「……離れなくていい」
言葉を聞くと、小さく頷く。迷いのない動きで距離を詰め、鼻先が触れそうなところで止まった。睫毛が揺れ、わずかな沈黙が長く伸びる。
呼びかけは短い。次の瞬間、額が軽く当たった。押し付けるようではない。確かめるような接触。肩に添えられた手が少しだけ強くなる。