※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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気絶からの警戒

意識が戻った気配は、ほんの僅かな動きだった。

 

 担がれていた身体が、ぴくりと揺れる。

 次いで、浅い呼吸が乱れ、喉が鳴った。

 

「……っ……」

 

 イルルは即座に足を止めた。

 

「起きたぞ」

 

 そう言って、乱暴に女――ナデンを地面に下ろす。

 投げ捨てるほど雑ではないが、優しさは欠片もない。

 

 ナデンは咳き込みながら身を起こし、次の瞬間――

 こちらを見た。

 

 正確には、僕を見て、次にイルルを見た。

 

 その目に浮かんだのは、明確な警戒だった。

 野生動物が、罠にかかった後に見せるあの視線。

 

「……っ……」

 

 反射的に、後ずさる。

 だが、逃げ場がないことを思い出し、動きを止める。

 

「……来るな……」

 

 震える声。

 さっきまで襲ってきた相手とは思えないほど、弱々しい。

 

 その瞬間だった。

 

「――その目を向けるな」

 

 イルルの声が、低く響いた。

 

 空気が、変わる。

 肌がひりつく。

 はっきりとした“殺気”が、剥き出しになる。

 

「……もう一度、そいつに敵意を向けたら」

 

 イルルは一歩、前に出る。

 

「次は気絶じゃ済まさねぇ」

 

 赤い瞳が、獲物を射抜く色になる。

 人間形態でも分かる。

 これは、本気で殺す目だ。

 

「……っ!」

 

 ナデンの肩が跳ねる。

 一瞬で理解したのだろう。

 力の差。格の違い。逆らえば終わりだという現実。

 

「……ごめ……」

 

 掠れた声。

 

「……怖くて……」

 

 言葉が、そこで途切れる。

 イルルは鼻で笑った。

 

「怖い?

 だったら最初から襲うな」

「……」

 

「人間を信用しないのは勝手だ。

 でも――」

 

 さらに一歩近づく。

 

「私の“群れ”に手を出すな」

 

 その言葉に、ナデンの視線が揺れ、

 ゆっくりと僕の方へ向いた。

 

「……群れ……?」

 

 困惑と混乱。

 理解できない、という顔。

 

 その瞬間、僕は前に出た。

 

「待って、イルル」

 

 名を呼ぶ。

 それだけで、彼女の動きが止まる。

 

「……なんだよ」

「この人、まだ混乱してる」

 

 僕は、ナデンの視線と同じ高さになるよう、少し腰を落とした。

 

「大丈夫。

 もう襲われないし、襲わない」

 

 ナデンが、信じられないという顔をする。

 

「……嘘……」

「嘘じゃない」

 

 即答した。

 

「君が怖かったの、分かるから」

 

 ナデンの喉が、小さく鳴る。

 

「……分かる……?」

「うん」

 

 うなずく。

 

「人間に捕まって、

 心臓の話をされて、

 逃げたくて、先に手を出したんだよね」

 

 ナデンの目が、大きく見開かれた。

 

「……なんで……」

「君の声、そう言ってた」

 

 その言葉に、ナデンの呼吸が乱れる。

 恐怖と、困惑と、ほんの少しの安堵が混ざった表情。

 

「……聞いて……くれた……?」

 

「うん。聞いた」

 

 短く、はっきり言う。

 

 沈黙。

 

 その背後で、イルルが舌打ちした。

 

「……甘やかすな」

「甘やかしてない」

 

 振り返って答える。

 

「判断してるだけ」

「……」

 

 イルルは、苛立ったように腕を組む。

 

「……次に何かしたら、殺す」

「それは、僕も止めない」

 

 はっきり言うと、イルルがこちらを見る。

 

「……ほんと、変な人間だな、お前」

「よく言われる」

 

 小さく笑う。

 

 ナデンは、そのやり取りを呆然と見ていた。

 竜が、殺さない。

 人間が、庇う。

 

 この世界では、ありえない光景だ。

 

「……あんた……」

 

 ナデンが、僕を見る。

 

「……名前は……?」

 

「まだ名乗ってなかったね」

 

 そう言って、胸を軽く叩く。

 

「僕は――」

 

 その瞬間、イルルが被せるように言った。

 

「私の群れの中心だ」

 

 即答。

 迷いなし。

 

「……え?」

 

 ナデンと僕、同時に声が出た。

 

「細かい説明は後だ」

 

 イルルは視線を逸らしながら続ける。

 

「とにかく――

 こいつに手を出すな。

 それだけ覚えとけ」

 

 ナデンは、しばらく黙り込んだ後、

 小さく、うなずいた。

 

「……分かった……」

 

 怯えは、まだ消えていない。

 でも――敵意は、確かに消えていた。

 

 こうして、

 群れに入る気のない龍は、

 まだ群れにならないまま、

 僕たちの前に立っていた。

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