※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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夜に近づいて

夜が更けるにつれて、森は音を落としていった。焚き火の残り火が微かに揺れ、枝葉の影だけがゆらりと動く。星はまだ高く、空気はひんやりと冷えている。

 

イルルは少し離れた位置で、背中に炎の温度を感じながら膝を抱えたままじっとしていた。胸の中に残る静けさは、とても落ち着くものではなかった。それは温かさでもなく、ただ深い闇がそこにあるだけだった。

 

ステラは焚き火に背を向け、眉根を寄せて空を見上げていた。警戒の目線には、まだ抑えきれない緊張が漂っている。

 

ナデンは黙って座っている。理論を重ねても答えにならない何かが、胸の奥にふわりと触れるようだった。

 

「……来てる」

 

ステラの声は静かだった。だが、その沈黙には確かな重さがあった。

 

その気配は、森の奥から静かに、しかし確実に近づいてきた。森の空気がわずかに冷たくなる。葉の隙間を抜ける風が、いつもとは違う方向へと流れる。

 

ほとんど気配とは呼べないほどの静かな接近。

 

「……これが、あの時の」

 

ナデンが指先で小さく刻印の光を光らせる。波紋のように連なる光は、まだ触れられない何かを示しているようだった。

 

イルルは膝を抱えたまま目を閉じた。呼吸が少し乱れる。

 

――嫌だ。

違和感というより、何か芯の奥へ触れられるような感覚。

 

静けさは、熱とは違う強さを持っていた。

 

そして気配は、確かにそこに立った。

 

黒い影。闇の塊がそこにあるのに、視界は乱れない。ただ深い黒がそこに立っていた。

 

クロ。

その名前が、リンクの奥で震えにも似た波紋を描いた。

 

沈黙が数秒だけ続く。

 

やがて、クロの存在がほんのわずかに揺れた。

 

――近くにいても、死なない。

――静か。静かすぎる。

 

言葉ではなく、感覚として流れ込むその“思考”は、長い孤独の果てに誰かに触れた時の反応のようだった。

 

ステラが少しだけ身をすくめた。

 

「……あれほどの存在が、こんなにも静かだとは思わなかった」

 

その声は、普通の言葉として落ちていった。

 

イルルは震える指先を見つめた。

 

胸の奥の冷たい何かが、わずかに柔らかくなる。

 

ナデンが息を吸う。

 

「……存在の距離が、変わっています。力ではなく、静けさを共有しているようです」

 

その言葉が落ちると、森の気配が一段だけ深まった。

 

クロの静寂は、ただ闇ではない。

何かがそこに触れている。

 

リンクの奥で、クロの感覚がゆっくりと流れ込んできた。

 

――暖かい。

 

誰の心でもない、その“暖かさ”が、ふわりと漂った。

 

イルルが視線を上げた。

その瞳には、闇より深い驚きが宿っている。

 

夜は静かに、深く、沈んでいった。

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