※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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イルルの不安

夜明け前の森は、静けさを溜め込んでいた。

 

焚き火の残り火が灰色の風景を淡く照らし、湿った土の匂いだけが漂う。

そこに立つイルルの姿は、いつもより強張っていた。

肩先に力が入り、胸の内側がわずかに震えているのを感じた。

 

俺がそっと気配を寄せると、イルルの瞳がゆっくりとこちらへ向いた。

赤い瞳は暗闇の中でもよく見え、闘気ではなく――

どこか不安に満ちているようだった。

 

「……主」

 

その声は低い。

しかし、いつもの荒っぽさとは違う。

刃物のように切れ味のある口調ではなく、ぎこちなく噛みしめられた言葉だった。

 

イルルは焚き火の灰を見つめたまま、ゆっくりと歩み寄る。

一歩、また一歩。

そのたびに、胸の奥で何かが鳴る。

 

「……あの静けさ、なんなんだよ」

 

腕を組み、視線が途切れそうになりながらも、

しっかりとこちらの目を捉える。

 

「俺はな……」

 

言葉が詰まる。

息を吐き、声を少し震わせる。

 

「……お前が近づく前はさ、静けさなんて気にもしなかった」

 

赤い瞳がわずかに揺れる。

 

「燃やせればいいと思ってた。敵なら炎で殲滅するだけだと思ってた」

 

その目は炎を見据えるように細くなる。

だがすぐに表情が歪む。

 

「でもよ……あいつが来てから、なんか違うんだよ」

 

イルルの声が少しだけ低くなる。

いつもより落ち着いた響きだった。

 

俺は少しだけ視線を下げる。

炎の揺らぎが、やけに大きく感じられた。

 

「静かなんだ。

……落ち着かない静けさなんだよ」

 

唇が震え、短く息が漏れる。

視線が外れ、肩が一瞬だけ強く震えた。

 

「お前は……どうなんだよ」

 

問いは真っ直ぐだ。

声が震えたまま、視線は逸れない。

 

イルルの瞳が光る。

怒りでもなく、嫉妬でもなく――

深い不安がそこにあった。

 

「……あいつと、俺、どっちが大事なんだよ」

 

その問いは、戦闘でも理論でもなく、

ただひたすら揺れる感情そのものだった。

 

俺が視線を上げると、

イルルの顔がわずかに強張った。

 

赤い瞳が、胸の内側を必死に押さえつけているみたいだった。

 

しばらく沈黙が続く。

風が木々を揺らし、焚き火の残り火がふっと弱まる。

 

イルルはゆっくり息を吐いた。

 

「……俺はな。

お前の側にいたいんだよ」

 

言葉は短い。

声は低い。

しかし、そこに揺れる感情は、炎より熱を持っていた。

 

胸の奥がチリチリと疼くような感覚。

 

イルルの問いは終わっていなかった。

答えを求めるように、視線だけがこちらを離れずにいる。

 

静寂の森の中で、炎はゆらめき、二つの視線が確かに重なった。

 

少し迷いながらも、俺は答えを出すように深呼吸する。

 

イルルの視線は決して逃げないために。

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