※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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各々の役割

 燃え残った匂いが、ゆっくりと薄れていく。魔獣の群れは完全に沈黙し、森にはようやく元の静けさが戻っていた。緊張が解けたことで、身体の奥に溜まっていた疲労が一気に表に出てくる。ナデンは深く息を吐き、無意識のうちに拳を握っていた。さっきまで繋がっていた感覚が薄れ、自分がまた一人分の視界に戻ったことを、少しだけ惜しいと感じている自分に気づく。

 

「……終わったな」

 

 イルルが肩を回しながら言う。声音は平坦だが、内側に残った苛立ちが完全には消えていないのが分かった。

 

「群れが崩れた後は、やっぱり早かった」

 

 ナデンは素直にそう言った。事実だ。最後の一掃は、力の差を見せつけるようなものだった。

 

「当然だ。ああなったら、迷う理由がない」

 

「……それが、最初から出来ない状況だったから、さっきは意味があったんだ」

 

 ナデンの言葉に、イルルの眉がわずかに動く。

 

「結果論だろ」

 

「違う」

 

 間髪入れずに返す。

 

「力が強いのは事実だ。でも、あの群れは力を使うほど増幅した。あんたが最初に前に出ていたら、被害はもっと広がっていた」

 

 空気が、ぴんと張る。

 

「……だから?」

 

 イルルの声が低くなる。

 

「だから、今回は私の戦い方が適していた。それだけだ」

 

 一歩も引かない言い方だった。挑発ではない。ただの事実確認だ。

 

「……ふん」

 

 イルルは鼻で笑う。

 

「制御だの分断だの、回りくどい。結局、私が焼いた」

 

「最後だけだ」

 

「最後で十分だろ」

 

 その瞬間、ナデンの視線が鋭くなる。

 

「それは、私が“核”を潰した後の話だ」

 

 一瞬、沈黙が落ちる。二人の間に、見えない火花が散った。

 

 僕は、二人の視線の間に立つように一歩前へ出る。

 

「……二人とも」

 

 声をかけると、イルルがちらりとこちらを見る。

 

「何だ」

 

「どっちが上か、って話じゃないと思う」

 

 言葉を選ぶ。今の空気は、少し触れただけで割れそうだった。

 

「イルルの力がなかったら、最後は詰めきれなかった。ナデンの制御がなかったら、最初から詰んでた」

 

 ナデンは黙り込み、イルルは腕を組んだ。

 

「……だから、役割が違っただけだと思う」

 

 それを聞いて、イルルが舌打ちする。

 

「……気に食わねぇ言い方だな」

 

「でも、間違ってない」

 

 ナデンが静かに言う。

 

「私は、あの群れを一人では見切れなかった。感覚共有があったから、出来た」

 

 一瞬、視線がこちらに向く。

 

「……あんたがいなければ、私は途中で判断を誤っていた」

 

 胸の奥が、少しだけ熱くなる。

 

「……別に、特別なことはしてないよ」

 

「それが、特別なんだ」

 

 ナデンははっきり言った。

 

「力の大きさじゃなくて、見え方を共有する。そんな戦い方、群れでは誰も教えなかった」

 

「……群れ、ね」

 

 イルルが呟く。

 

「お前の元いた場所が、どんなだったかは知らん」

 

「知っている必要はない」

 

 ナデンは、イルルを真っ直ぐに見る。

 

「ただ、一つだけ言わせてくれ」

 

「何だ」

 

「私は、あんたみたいな竜が嫌いだった」

 

 はっきりした言葉だった。

 

「力で序列を決めて、上に立つ者のやり方を正解だと言う。飛べない私は、ずっと“間違い”だった」

 

 イルルの瞳が、細くなる。

 

「……だからと言って、私のやり方が間違いだとは言わせねぇ」

 

「言っていない」

 

 ナデンは首を振る。

 

「ただ……あんたのやり方“だけ”が正解じゃない、と言っている」

 

 しばらく、二人は睨み合った。だが、殺気はない。これは敵意ではなく、価値観のぶつかり合いだった。

 

「……面倒な奴だ」

 

 先に視線を逸らしたのは、イルルだった。

 

「褒め言葉だ」

 

 ナデンは小さく笑う。

 

「……だが」

 

 イルルが、ぼそりと続ける。

 

「今日の戦いは……悪くなかった」

 

 ナデンの目が、僅かに見開かれる。

 

「それは、評価と受け取っていいのか」

 

「好きにしろ」

 

 そう言い残し、イルルは背を向けた。

 

 その背中を見送りながら、ナデンは小さく息を吐く。

 

「……あの竜」

 

「怖い?」

 

「いいや」

 

 首を振る。

 

「分かりやすい。だから、まだ話せる」

 

 そして、こちらを見る。

 

「……あんたが間にいる限りはな」

 

 その言葉に、苦笑が漏れた。

 

 まだ噛み合わない部分が多い。だが、それぞれの役割と距離が、確かに形を持ち始めていた。力の竜と、制御の龍と、戦えない中心。その歪な組み合わせが、これから先も続いていくのだと、何となく予感していた。

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