※この作品はR-18です。

むにっとねっとりドラゴン独占生活   作:ボルメテウスさん

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雨の中のナデン

 雨は、音もなく降り始めた。最初は霧のような粒が葉を湿らせる程度だったのに、気づけば大粒となり、森全体が白く霞んでいる。

 

 僕たちは近くの岩場に避難した。ちょうど洞窟のように入り込める空間があり、内部は乾いていて風も通さない。安心したのも束の間、イルルが腰に手を当てて言った。

 

「……私が外を見てくる。あの気配、ただの雨じゃない」

 

「え、大丈夫?」

 

 イルルは鼻で笑った。

 

「舐めんな。焚き火は残してやる。お前ら、ここから出るなよ」

 

 そう言い残すと、イルルは雨の中へと消えていった。

 

 焚き火の炎だけが、洞窟の奥に柔らかな明かりを落とす。ぱち、ぱち、と薪が弾ける音が静寂を縁取る中、僕とナデンだけが取り残された。

 

 ナデンは洞窟の入り口近くで、じっと外を見ていた。肩まで濡れた髪が滴を垂らし、背中を伝って服が肌に張り付いている。

 

「寒くない?」

 

「……少しだけ」

 

 短い返事。けれど、声は少し震えていた。

 

 僕は躊躇いながらも、近くに置いてあった荷物からマントを取り出して差し出した。

 

「使う?」

 

「……いいのか?」

 

「もちろん」

 

 ナデンは黙ってそれを受け取ると、ゆっくりと身を包んだ。だが、濡れた服のままでは温まるはずもなく、彼女の肩はまだ小刻みに震えている。

 

「火のそばに来た方がいいよ」

 

「……」

 

 無言のまま近づいてくる。僕の隣に腰を下ろすと、ナデンは自分の濡れた髪を絞った。

 

「……あんた、濡れてないな」

 

「ぎりぎり逃げ込めたからね」

 

「運がいい」

 

 そう呟いてから、ナデンはふと視線を向けてきた。

 

「……あんたの体温、分けてくれないか」

 

 一瞬、耳を疑った。

 

「え、体温?」

 

「そう言っただろ。寒いだけだ」

 

 照れた様子はない。けれど、言葉の端が少しだけ硬い。彼女にとっても、そう簡単なことじゃないのだと感じた。

 

 僕は小さく頷くと、マントの裾を広げた。

 

「こっち、入る?」

 

「……ああ」

 

 ナデンはゆっくりと寄ってくる。マントの中に、二人の身体が収まる。距離が近い。息遣いが重なる。濡れた髪が肩に触れ、彼女の冷えた肌が服越しに伝わってきた。

 

「……温かいな」

 

 かすかな声。ナデンは目を閉じ、ほんの少しだけ体重を預けてきた。

 

「こういうの、初めてなんだ」

 

「誰かとくっつくこと?」

 

「……ああ。嫌じゃないのが、初めて」

 

 その言葉が、やけに胸に響いた。

 

「ナデン……」

 

「名前、呼ぶな。余計に変な気分になる」

 

 ぷいと顔を背けた彼女の頬は、火の光に照らされて赤く染まっていた。

 

「……でも、嫌じゃないなら、名前で呼んでもいい?」

 

「……今は、いい」

 

 それだけ言うと、ナデンは目を閉じた。肩が触れ合い、心臓の鼓動が伝わる。彼女の肌はまだ冷たかったが、その冷たささえも、次第に馴染んでいく気がした。

 

「……ねぇ、ナデン」

 

「なんだ」

 

「もし、こうしてるのが……もっと自然だったら、どう思う?」

 

「自然って、なんだよ」

 

「触れることとか、寄り添うことが、当たり前だったらって意味」

 

 ナデンはしばらく黙った後、ゆっくりと答えた。

 

「……たぶん、私は泣いてたかもしれないな」

 

 僕は何も言えなかった。ただ、彼女の肩をそっと抱き寄せる。

 

「……今は泣いてないけど、震えてる」

 

「寒いから?」

 

「それもある。でも、たぶん……」

 

 言葉が止まる。ナデンの手が、そっと僕の胸元に触れた。

 

「お前の鼓動が、近すぎるせいだ」

 

 その手は震えていた。けれど、離れる気配はない。

 

「……少し、甘えてもいいか」

 

「もちろん」

 

 僕の答えを聞いた瞬間、ナデンの手が僕の胸に回された。抱きつくように、でもどこかぎこちなく。ぎゅっと力を込めるたび、彼女の心が少しずつこちらに傾いてくるのが分かる。

 

「……あんたの匂い、落ち着くな」

 

「それは、たぶん……僕も同じ」

 

 ナデンの唇が、喉元に触れた。驚いて顔を覗き込むと、彼女はゆっくりと視線を上げてくる。

 

「……キス、していいか?」

 

「うん」

 

 短く答えた瞬間、彼女の唇がそっと触れてきた。熱を帯びた、柔らかな触れ合い。お互いがまだ不器用なまま、確かめるように唇を重ねる。

 

 火の音が、心臓の鼓動に重なった。言葉がなくても、通じ合えるものがあった。

 

「……次は、もっと近づいてもいいか?」

 

 彼女の言葉に、僕は頷く。

 

「……じゃあ、教えてくれ。こういうのって、どう始めるんだ?」

 

 囁きは、震えていたけれど――

 

 その距離は、もう何も拒んでいなかった。

 

 

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