ナデンの身体が、そっと重なる。焚き火の熱よりも、彼女の体温が近い。
まだ濡れている服が、肌に張り付き、冷たさが際立つ。だが、その冷たさが次第に、僕の体温と混ざり合っていくのがわかった。
「……なんか、変な感じだ」
ナデンが呟く。声は低く、どこか恥じらいを含んでいた。
「何が?」
「こうしてるだけで……心臓が、落ち着かない」
僕はそっと、彼女の背に腕を回す。
「僕もだよ」
「……嘘つけ」
「本当」
体を少し動かせば、肩が、胸が、脚が触れ合う。密着という言葉が、形になるほどの距離。
ナデンの呼吸が、少しずつ浅くなっていくのが分かる。焚き火の光が、彼女の濡れた睫毛を照らし、潤んだ瞳が僕を見つめてくる。
「……もうちょっとだけ、寄っていいか?」
「うん」
彼女はそっと身を預けてきた。全身の力を抜くように、ゆっくりと僕の胸に体を合わせてくる。
「……体、熱いな」
「ナデンが冷たいからだよ」
「……そうかもな」
冗談めいた口調だったが、指先が僕の胸元をなぞる動きは、どこか頼りなげだった。
「……あんたさ」
「うん?」
「こういう時、どうしてる?」
「“こういう時”? どんな時?」
ナデンは、少しだけ顔を上げた。
「誰かと、近づきたくなった時」
言葉の選び方が、彼女らしかった。遠回しで、不器用で、それでも真っ直ぐで。
「……気持ちを、確かめる」
僕は正直に答える。
「それで、嫌じゃないなら……触れる」
「じゃあ、今の私は?」
「……触れたくなる、相手だよ」
ナデンの目が、少し見開かれた。
「……はっきり言うな」
「ナデンが、訊いたんだよ」
「……そうだったな」
小さく笑う。その表情が、どこか安心したようで、こちらも自然と笑みがこぼれた。
手が、そっと彼女の肩に触れる。湿った服の下、細い肩が小さく震えた。
「……嫌なら、言って」
「言わない」
すぐに返ってくる。言葉は短いのに、強さがあった。
焚き火の明かりが揺れて、ナデンの横顔が淡く照らされる。髪が肩に張りつき、露出したうなじが、濡れて輝いていた。
そっと指先で、そのうなじに触れる。
「……っ」
ナデンが微かに息を呑む。
「冷たい」
「僕の指?」
「いや……自分の肌が、びくってなるのが、変な感じで」
「痛くない?」
「……むしろ、もっと……」
そこまで言って、ナデンは唇を噛んだ。
「……なんでもない」
言葉の途中で、首をうつむかせる。けれど、彼女の背に回した僕の手を、自分から解こうとはしなかった。
そのまま、しばらく沈黙が流れた。
焚き火の音だけが、空気を埋める。
ナデンの鼓動が、胸を通して伝わってくる。速い。でも、不安定ではない。何かを確かめるような、そんなリズム。
「……動いても、いいか」
ナデンが小さな声で言った。
「うん」
その許しを受けて、ナデンは自分から僕の胸元に手を這わせてくる。慎重に、ゆっくりと。
指先が服の縁に触れ、そこから肌に触れる。
その一触れが、全身に響いた。
「……変な声、出すなよ」
「……努力する」
「ばか」
ナデンは、ほんの少しだけ笑った。
触れるたび、鼓動が近づく。触れるたび、熱が重なる。
湿った服が、やがて脱がれ、皮膚と皮膚が触れ合う距離になる。
それでも彼女は、最後まで僕の目を逸らさなかった。
「……ちゃんと、見てろ」
命令のように言いながら、どこか震える声だった。
僕は頷く。
「……うん。ずっと見てるよ」
そして、唇がまた重なった。
今度は、もう迷いがなかった。