俺は転生者である。
前世は普通のサラリーマン。
一般的な企業に就職して営業をしており、趣味はアニメや漫画の鑑賞やゲームのプレイ、何より女遊びである。
可愛ければ男でも良い。
兎に角色んな可愛い子を抱くのが好きで、特定の相手は作らずにフラフラとしていた。
そうしていたら当然の如く恨みを買ってある日後ろから刺されて死んでしまった。
次の瞬間には赤子になっていて、すぐにそれが生まれ変わりだと理解した。
特筆すべきは転生先の名前がサイタマであることと文明や歴史が俺の知っている漫画の世界観であるということ。
つまりはワンパンマンの世界に最強の主人公として転生したのだ。
俺は大いに喜んだ後に重大な事実に気が付いた。
強くならなければモテないが、強くなったら禿げるのだ。
毛根が残らず消え失せ寂しい頭となり、見た目に大きなハンデを背負ってしまう。
勿論、ハゲだからってモテない訳じゃないが、髪がある方がモテるのは自明の理だ。
女関係で失敗した経験を次に活かそうと考えていた矢先にそのことに思い至ってしまった俺は絶望しながら取り敢えず筋トレすることにした。
サイタマとしての肉体は初期状態だと非常に貧弱で一般的な筋力鍛錬でさえ熟すのがキツい。
それでも体に鞭打って筋トレを続けた果てに世界の摂理として俺は禿げてしまった。
つるつるした頭を撫でて亡くなった髪の毛に思いを馳せる。
髪があればそこそこモテただろうに…。
ともあれ、なくなってしまった物は仕方がない。
思考を切り替えてどうやってモテようかと考える。
原作でもサイタマにはちゃんとヒロインがいたが出会うのは当分先のことだ。
ならばやはり強さこそが全て。
圧倒的なパワーでもってヒーロー活動を行い、地道に名声を稼ぐのが良かろう。
原作通りに進める為にヒーロー協会への登録は先延ばしにするが、個人活動でも強い怪人を倒せば名が売れるだろう。
そんな打算を行いながら豚の貯金箱の怪人を倒す。
体の中からじゃらりと小銭がまろび出て来るが俺は金に執着がないのでしっかりと警察に渡しておく。
その後の報道に寄ればしっかりと元の持ち主の元へと戻ったようだった。
◇
中学時代を終えて、高校も大学も適当に済ませた俺はフリーターとして働きながら怪人を倒す日々を送っている。
カニランテも倒したので無事にヒーロー協会も設立された。
後はのんびりと原作が始まるのを待つだけだ。
確か原作一話はワクチンマンが相手の筈だ。
一話から色々と伏線を張っていたキャラだから適切に対応しないとな。
多分神の手先だから話を聞いておいて損はない。
そんなことを思いながら適当にテレビを見る。
すると臨時ニュースが入った。
それはA市を襲った災害に関することであった。
『物凄い轟音と揺れが続いています!!突如A市を襲った大爆発はなおも規模を拡大させ、町全体がまるで─』
そこで映像は途切れた。
恐らく巻き込まれたんだと思われる。
これこそ原作の始まりだった筈だ。
俺はすぐにスーツを手に取り素早く着替える。
そしてブーツを履いて外に出た。
◇
「うえーん!!パパー!!ママー!!」
泣きじゃくる子供を握り潰そうとする巨大な手から少女を救い出す。
現場は酷い有様だ。
駆け付けたヒーロー達も呆気なく敗北している。
「何者だ。お前は?」
バイキンマンを厳つくした感じの怪人ワクチンマンが問い掛ける。
俺はマントを翻して向き直り、堂々と言い放つ。
「趣味でヒーローをやっている者だ」
「……何だその適当な設定は…」
ワクチンマンは激しい怒りを見せる。
そして此方も胸に手を当て、堂々と名乗りを上げる。
「私は人間どもが環境汚染を繰り返すことで生まれたワクチンマンだ!!地球は一個の生命体である!!貴様等人間は地球を蝕み続ける病原菌に他ならない!!」
ワクチンマンはやはり神の手先であるようだ。
能力も後に出て来るホームレス帝と酷似しているし、疑いようはない。
俺は黙って続きを聞く。
「私はそんな人間どもとそれが生み出した害悪文明を抹消する為地球の意志によって生み出されたのだ!!それを趣味!?趣味だと!!そんな理由で地球の使徒である私に刃向かうとは!!やはり人間、根絶やしにする他ないようだ!!」
ワクチンマンは体を変形させて異形と化して襲い来る。
一通り話を聞いた俺は反論する。
「人類は地球で生まれたんだから、地球の自業自得だろ」
「ぐっはああああああ!!!」
ワクチンマンを一撃でぶっ飛ばす。
多分災害レベル竜の中でも上位に入る強さをしてるだろうが俺には関係ない。
長年筋トレを続ける俺の一撃を災害レベル竜如きが耐えられる筈ないのだ。
そうして俺は原作開始を迎えた。
◇
ワクチンマンの証言を整理すれば、地球は現在人類撲滅の為に怪人を生み出していると思われる。
近年の怪人災害増加の原因は地球だった、という訳だ。
この事態の解決はそう容易ではない。
長年地球を蝕む環境汚染は一朝一夕ではどうにもならない。
とはいえ解決できない問題という訳でもない。
ヒーロー協会に事情を説明して地球との共存の為に環境保護を訴えるのだ。
しかしそれには一定程度の地位を要する。
例えばC級やB級が口にしたところで何の影響も与えられないのだ。
本格的に問題を認識してもらうには最低でもA級でも上位の地位が必要となる。
そこまで行くには時間が掛かるが、こればっかりは地道にやって行くしかない。
社会的な信用というのは長い時間を掛けて積み上げるものなのだ。
一先ずの目標は地球の環境保護と改善をヒーロー協会に訴えるというところだろう。
その為にはジェノスと出会う必要がある。
ジェノスは初手でS級に登録された異例の新人だ。
そんなジェノスの口から現在の問題を口にしてもらえば多少は協会も問題と認識してくれるだろう。
そんな風に目標と計画を立てながらスーパーで買い物をしていると突如轟音と揺れが発生する。
スーパーの外を見ればそこには巨大な足跡が付いていた。
確かこいつも原作で登場した怪人だった筈だ。
俺はすぐに外に出て様子を窺う。
するとビル以上の大きさを誇る巨人が手を動かすのか見えた。
俺は慌てて怪人の手を止める為に走り出した。
そして間一髪、怪人が手を振り払う直前で止めることに成功する。
「貴様は何者だ!!」
疑問の声が怪人の右肩から上がる。
確か声の主はこの怪人を作り出した元凶の研究者だった筈だ。
俺は怪人の目の前まで跳躍して答える。
「ヒーローのサイタマだ。覚えとけ」
そう言ってまたも一撃で怪人を粉砕する。
その体が背後に倒れて町を破壊しそうになったので俺は急いで背後に回って怪人の巨大を支えた。
何とか被害を最小限に抑えることができてほっと安堵の息を吐く。
そしてゆっくりと怪人の体を地面に下ろすと俺は買い物袋の中身が無事なのを確認して歩き出した。
その歩みを止める声が掛かった。
「すみません!!」
「ん?俺?」
「はい!貴方です!!」
俺は唐突に声を掛けられたことで疑わしげに答えて振り返った。
その先にいたのはスーツに身を包んだ細い目の黒髪の女性であった。
何処となく見覚えがあるような気がする。
「突然すみません。ヒーロー協会スカウトのシズカと申します。貴方が怪人を倒すところを拝見しました。貴方さえ宜しければ協会のS級ヒーローとして活躍していただけませんか?」
「S級は断る。C級からなら良いよ」
「何故態々下のランクから始めてるのですか?」
「いきなりS級って角立つでしょ。世間の評価に合わせて地位を上げてくのが良いと思ってね」
そう言えばシズカという職員は納得したようだった。
次いで顔を赤らめて口を開いた。
「それと、これは私的なお願いなのですが……宜しければ今夜お食事でもどうですか?私、強い人が好きでして」
「それなら喜んで受けさせていただくよ」
そうして俺はシズカさんと連絡先を交換して帰路に就いたのだった。
・オリ主
可愛ければ男でも手を出す。
この度C級ヒーローとして登録された。
・シズカ
229話の人。
強い人が好きでオリ主の圧倒的な強さに惚れた。