自分達の住んでいるアパートに出る幽霊を祓って欲しい。そんな依頼を受けた除霊士、舞鶴温海(マイヅルアツミ)は鮫と呼ばれる怪異と相対する。しかしその力は強大で、一方的に束縛され殆ど身動き出来ない状態にさせられてしまう。
 鮫とは感情を喰らうモノ。出遭った怪異は性的快楽という感情を喰らう鮫。そんな怪異が極上の餌を前にして、何もしない筈が無い。

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鮫

 

 

 

 大学内には幾つかの食堂がある。

 その中でも最も人気の無い食堂で彼女は遅めの昼食をとっていた。

 

 舞鶴温海(まいづるあつみ)。

 背中まで届くロングヘアが特徴と言えば特徴だが、人口の多いこの大学の中ではそんな個性は埋もれてしまっている。

 体付きは女性らしい丸みを帯びていたものの、特筆して大きい小さい太い細い等も無く、アニメや漫画で言うような、モブ、という表現が非常に似合う雰囲気を纏っていた。

 

 そんな温海は、この食堂を好んでよく利用していた。なんでも、人が多過ぎる構内の中で唯一人が少ない場所、というのが気に入っているらしい。……念のため擁護しておくが、この食堂は味に問題がある訳ではない。キャンパス内の主要施設から距離が最も遠いというだけである。

 

 なので、新しく入店した者の足音が自分の方へと向かってくるのであれば、それなりにハッキリと分かるのであった。

 

「……?」

「あぁ、舞鶴さん。居た居た」

「金山(かなやま)先輩」

 

 温海は水泳サークルに所属しており、金山と呼ばれた女性はサークル内でよく話している先輩の一人であった。

 

 そんな彼女は周囲を窺いつつ、温海の目の前の席に座った。

 

「いやーこの食堂って遠いよね。よく来てるの?」

「はい。人が一番少ないので心地良いんです」

「あー分かる。他の食堂めっちゃ混んでるもんね」

 

 参考までに、他の食堂は少々時間がズレていようとも人でごった返していて、座る席を探すのも一苦労な程混み合う。

 

「……私を探しに?」

 

 温海は人混みが苦手だとサークル内で知られているため、金山はここへ彼女を探しに来たのであった。

 

「そうなんだよー。連絡しても舞鶴さん反応無かったし」

「え……あ、ホントだ。すみません」

 

 定食を食べる手を止め、スマホを確認すると確かに金山からの連絡が入っていた。

 温海はスマホをなかなか見ない事でもサークル内に知れ渡っている。

 

「え、っと……何か相談事があるとか?」

「うん。この後時間ある?」

「午後からは講義無いので、まぁはい」

「じゃあちょっとお願い。あぁ勿論食べ終わった後で大丈夫だから」

 

 金山も昼食をとっていなかったのであろう。一度席を立ち、定食を注文して戻ってきた。

 

「……ここで食べるの初めてだわ」

「他と毛色が違って面白いですよ。……ここじゃ出来ない相談なんです?」

 

 食べながら出来ない相談、というものに身構える温海。それに対して金山は苦笑で応える。

 

「あー……いろんな意味で、ね」

 

 

 

 

 

 共に昼食を終え、今の時間は使われていない教室に場所を移した二人。

 

「それで、その、相談だとか」

「うん……舞鶴さんってさ、実家が神社なんだよね?」

「ええまぁ、はい」

 

 これと言って特徴の無かったために、せめて何かキャラ付けをしようと新歓コンパにてそう自己紹介をしたと薄ら思い出す温海。

 

「それで、除霊もできるんだよね……?」

「……ええまぁ、はい」

 

 そして簡単な除霊とか出来ますので入用な際はお気軽に、とトンデモ自己紹介をしたと思い出す温海。

 事実ではあるのだが、もうちょっとマシな自己紹介は出来なかったのかと過去の自分に対して苦虫を噛み潰した。

 

「……え、除霊案件なんですか?」

「うん……あ、除霊、本当に出来るんだよね?」

「自分でもめっちゃ怪しいとは思いますが、まぁ、その、出来ます。そういう神社だったもので」

 

 除霊、などと言えばいかにも胡散臭い商売だと思われがちであったが、温海の実家である神社は本物であった。

 温海自身も除霊のための鍛錬は積んでおり、一人前の除霊士と呼んでも差し支えない程の実力を有している。

 

「……あたし達の住んでるアパートさ。その、出るんだよね」

「幽霊的なアレがですか?」

「幽霊……うん。幽霊、というか、悪霊、的な」

 

 困った顔で、それを祓って欲しいのだと懇願する金山。

 

「自分達でお祓いの真似事してみたんだけど全然ダメで……もうどうしようもなくて……」

「自分、達?」

「……うん。アパートの住人全員に被害出てるの」

「それはまた……」

 

 これが金山の部屋だけならば勘違いや気の所為というケースも有り得たのだが、住人全員となると一気に信憑性が増す。

 

「皆からお金集めたからこれで……足りない、かな」

 

 お金を集めてまで。その本気の度合に、どこか冗談半分で聞いていた姿勢を温海は改める。

 

「……分かりました。お受けいたします」

「ホント⁉︎ 良かったぁ……!」

 

 まさか大学に来てまで悪霊祓いをする事になるとは、と心の中で溜息をつきながら温海は思考を除霊士のものへと切り替えた。

 

「それで、どのような霊障が?」

「れい、しょう?」

「あー、どんな被害が出ているのでしょうか」

「え、と……」

 

 故に、まずは起きている現象からどのような霊が出ているのかを探ろうとする温海。

 しかし、金山は急に言葉を濁す。

 

「その……言わなきゃダメかな」

「まぁそりゃあ……それによって対処法が変わりますので」

「う、うーん……」

 

 理由を説明しても尚、金山の口は重い。

 説明しづらい、という様子ではない。ただ言いたくない、そんな雰囲気を感じ取る。

 

「先輩」

「な、なにかな」

「悪霊祓い、というのはただお祈りをしたり結界を張ったり、そういうのじゃないんです」

「そう、なの?」

 

 紙垂(しで)を振りながら祈祷を捧げる。というのが大衆のイメージであろうが、実際の除霊は異なるのだと続ける温海。

 

「現象に対し、それに応じた術具を使用して、それに応じた結界を張り、それに応じた祈祷を捧げる。それが除霊です」

「わ、何かそれっぽい」

「なので、起きている霊障を知る必要があるんです」

「うぐ、なるほどそうなるのか……」

 

 ただの興味本位ではなく、必要だから知らなければならない、と説明が為される。

 それに対し金山は言葉に詰まった様子を見せていたものの、観念したかのように溜息を吐いた。

 

「……あのね? 引かないで欲しいんだけど」

「むしろこっちがドン引きされる立場なので全然」

 

 悪霊退散とか出来ます!など普通は頭の痛い子扱いである。それはもう痛い過去があるのである。

 

「……え、っと。その、ね?」

「はい」

 

 先を促す温海だったが、それでもまだ踏ん切りがつかないのか尚も言い淀む金山。

 

「大丈夫ですよ先輩」

「え?」

「いろんな霊を相手にしてきましたから、今更どんなの言われても気にしません。盗撮魔の悪霊の話でもします?」

「え、なにそれ気になる」

 

 着替え最中などの際どい瞬間を盗撮し、そこら辺の紙に念写してばら撒くという傍迷惑な悪霊がいた、と掻い摘んだ説明が為される。因みに撮影対象は少年ばかりであった。

 

「なので、どんと来い、です」

 

 そんなヘンテコな霊の話をされたからだろう。緊張していた金山の体から力が抜け、意を決したような表情を見せた。

 

「……あのね?」

「はい」

「……えっちな幽霊が、出るの」

「あーなるほど」

 

 それで言い難かったんですね、と頷く温海。

 

「そ、そうなの。だから、その、困ってるの」

「どんな風にえっちなんですか?」

「うぇっ⁉︎」

 

 必要なものは全部話したと思っていたからこそ、まさか追加の質問が来るとは思わず、金山の変な声が教室内に響いた。

 

「さっきも言った通り、出来るだけ詳しく教えてください。どこ……はアパート全体……確か女性専用アパートでしたっけ?どういう状況で、どういう現象が、どういうえっちな幽霊が出るのか」

「う、うぅぅぅぅぅ」

 

 なんの羞恥プレイだ、と金山は内心思うが温海は真剣である。

 だからだろう。逡巡しまくる様子を見せていたが、やがて諦めたようにポツポツと語り出した。

 

「……その、さ」

「はい」

「……一人えっち、するじゃん」

「しますね。はい」

「……そうするとね? 出るの」

「悪霊が出る、と。はい」

「……そしてね? その、身体を、触ってくるの」

「霊が身体を触ってくる、と。はい」

「……ただ触ってくるんじゃなくて、その、あそことかばっか、触ってきて、さ」

「アレなところを触ってくる、と。はい」

「……それで、その、毎回、いっぱいされちゃうの」

「男の霊なのかどうかって分かります?」

「……少し視える子が、女の人だって」

「なるほど、女の霊」

「……それでね? 最初は一人えっちの時だけだったのがさ」

「今は違う、と」

「……うん。やらしい気持ちとか、ムラムラするだけで、アイツが現れて、襲われちゃうの」

「なるほど」

「……このままだと色々マズいし、もっとエスカレートするかもしれないし、最近は部屋に帰るだけで変な気分になって、そのまま襲われるし、かと言って引っ越すようなお金も無いし……」

「はい」

 

 そして、吐き出すように言った。

 

「……だから、助けて……!」

 

 だから、彼女は大きく頷いた。

 

「承りました」

 

 

 

 

 

「サメ?」

 

 自販機から買ったコーヒーで喉を潤し、霊について話し始める温海。

 

「えぇ、鮫です。と言っても海に生息するものとは違いますけど、そう呼ばれている種類の悪霊ですね」

 

 鮫はある特定の感情を餌にしており、それを喰らう事により成長する怪異とのこと。

 怒りを餌にする鮫であれば怒りを喰らい、それだけではなく捕食対象の更なる怒りを助長させ、その増大した怒りを喰らうという習性を持つのだと言う。

 

 感情を喰らう悪霊の類は幾つか例があるが、鮫の特徴は何よりもその嗅覚にあるとのこと。

 普通悪霊といったものは特定の人物や特定の場所に常駐する事が多く、特定の条件で出現するのは稀であり、だからこそ今回のように自慰や発情を切っ掛けにして襲われる、というのは快楽や性的興奮を嗅ぎ付けて餌にする種類の鮫であり、更なる性的興奮を得る為に身体を弄くってくるのであろう、と温海は見当をつけた。

 

「その、えっちな事をしてくるのがサメ?って事なの? 女の人っぽい影だったって視える子が言ってたけど……」

「あぁいえ、捕食対象を嗅ぎ分けて襲ってくる、という特徴が鮫に似ているからそう呼んでいるだけで、海洋生物のカタチをしているわけじゃないんです」

 

 いわゆる俗称なんですと続ける温海。

 

「……じゃあその、レズの女幽霊って事?」

「き、極論そうなりますね、今回の場合は」

「……色々最悪なんだけど」

「まぁ悪霊の時点で最悪ですけどね」

 

 とりあえず悪霊は鮫である、と念頭に置いて対処するとの事。

 しかし、最初はオナニーの際だけだったのが今では興奮しただけで襲ってくるようになっている事から、悪霊が力をつけてきているというのは間違いない。

 だからこれ以上成長する前に早めに対処しなければならない、と温海は締めた。

 

「なるべく急ぎますが、準備に多少時間が掛かるので……この日以降ならいつでも大丈夫です」

「分かった。こっちも急いで他の人達にも相談するね」

 

 その数日後、日程が決まった。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「さて」

 

 仕事着、巫女服に身を包んだ温海は件のアパートの一室に居た。

 住人達はお祓いの邪魔になるために、一日中出払ってもらっている。

 

「阿毘羅(オンアビラ)吽欠蘇婆訶(ウンケンソワカ)」

 

 大日如来に祈りを捧げ、部屋の中に結界を張る儀式が行われる。

 除霊のためならば何をしても良いという事であったが、流石に塩を室内に振り撒くのは抵抗があったため純度の高いアルコールを振りまき、聖別したコインを北東を除いた方角へと散りばめ、室内を簡易的な神殿として定めていく。

 

「…………」

 

 温海自身のお清めはここに来る前に済ませた。

 場の形成も出来た。

 同時に霊を捕らえるための結界も張った。

 

「……マジか」

 

 あとは悪霊を呼び寄せるだけ、なのだが。

 

「……オナニー、すんのか」

 

 温海は現在、一切ムラムラしていない。いたって平常の状態である。

 

「……しかも人んちで」

 

 金山達の言った事は、えっちな気分になった時に現れる、というものである。

 

「……あ、あんあんあーん」

 

 だからとりあえず喘いでみた。雑過ぎる。

 

「…………」

 

 無論何の変化も無かった。

 

「……はぁ」

 

 だから、温海は諦めて悪霊をおびき寄せる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 ベッドに腰掛けるのは何となく気後れし、ベッドの縁に背を預ける温海。

 巫女服の袴をしっかりと押さえながら三角座りの姿勢になっているが、心なしか頬が赤くなっている。

 

「……むぅ」

 

 そう、心なしか、少しだけ、ほんのちょっと、そ(・)の(・)気(・)になっている。

 これからそ(・)れ(・)をする、と考えた時点からほんの少し、そ(・)の(・)気(・)になってしまっていた。

 

 だがアパートの住人曰くその気になると怪異が現れるとの事であったものの……暫くもじもじとしていても一向に現れる気配が無い。

 これでは話が違うと思う温海であったが、現れないものは現れない。

 

 

 

 だから、致し方なく、そ(・)れ(・)を始める事にした。

 

 

 

「…………っ」

 

 装束の上から胸を触り始める。

 さすり、さすり、と表面を撫でるだけの、これからスるのだと身体に教えるための準備運動。

 日本人女性の平均的な大きさの胸。それの形を確かめるように、輪郭に沿って緩やかな丘陵が撫でられる。

 下から、脇を通って、上へ。身体の中心をなぞりながら下へ。服の内側にある膨らみの形を確かめるように、円を描くようにゆっくり、ゆっくりと愛撫が施されていく。

 

「ふ、ん……」

 

 だんだんと身体もその気になって来たのか、少しずつ呼吸が乱れ、鼻にかかったような吐息が時折こぼれる。

 それでも怪異は現れない。

 だから温海は、更なる興奮を得るために、下半身に手を伸ばした。

 

「んっ……」

 

 伸ばした先はふともも。

 袴の上からすり、すり、と内腿にかけて何度も手を往復させる。

 反対の手は胸に置かれたままで、その奥にある肌を装束越しにゆっくりと刺激していく。

 

「は、んっ……」

 

 ゆるゆるとした動き。そんなもので快楽など得られないだろうと思ってしまう程の弱い刺激。

 だが温海にとっては、これがいつものやり方であった。

 極々弱火で、ゆっくりと時間をかけ、入念に、激しい事は一切せず、ひたすら自分を甘やかすような、そんな自慰。

 

「ふ、ぁ……」

 

 だから、身体にそれが染み付いているからこそ、この弱い刺激でも充分に温海は昂ぶる事が出来た。

 胸を、太ももをゆっくりと、撫でる。その速度は変わらないものの、だんだんと、見ている分には分からない程に力が込められていく。

 誰もいない部屋の中に、小さな衣擦れの音と小さな吐息だけが響く。

 それでも怪異は現れない。

 

「…………ん」

 

 だから、仕方なく、そう仕方なく、太ももを撫でていた手を袴の中へと潜り込ませた。

 

「んぅ……っ」

 

 その先は最も秘すべき場所。

 そこを、また布地越しに撫で始めた。

 

「ふっ、ん……っ」

 

 下から上へ、上から下へ。

 筋に沿うように、一本の線を描くようにしてまたゆっくりと。下端から、上端まで、また下端まで、ゆっくりと。

 三角座りでぴっちりと閉じていた筈の両脚が、快感の量に応じてだんだんと開かれていく。

 

「ぁ……は、ぁ……っ」

 

 弱々しい手付き。それでもしっかりと快感を得ており、指先が往復する度にひくん、ひくん、と脚が揺れ動く。

 温海はいつの間にか目を閉じ、自身の世界に引き篭もりながら胸と陰部からの柔らかな快楽に浸っていった。

 

「ふぁ、ん……ん……っ」

 

 だんだんと快楽への欲求が高まり、また手に力が篭もり始める。

 胸の輪郭を撫でていたものは、いつしか胸を軽く揉み込むようになっており、陰部を撫でていたものは、布地にほんの僅か沈むようになっていた。

 

「んっ……んぅ……っ」

 

 もどかしさを感じるような手付き。それでも指先の動きは早まる事なく陰部を撫で摩る。

 音すら鳴らないような静かな自慰。しかしその布地の奥は間違いなく熱を持ってきており、染みが出来ない程度ではあるが徐々に潤いも持ち始めていた。

 

「ん…………はぁ、あ……っ!」

 

 ゆっくりとした手付きは変わらないままに、指先が陰部の上端へと移動する。

 今まで筋に沿うようにしていたのが、女の一番敏感なところを、そこだけを狙い撃ちにするようにして、またゆっくりと上下に摩り始める。

 

「ぁぁ……んっ……んん……っ!」

 

 すり、すり、と指の腹を使って硬くなり始めている陰核が撫でられる。

 陰部にぴ(・)っ(・)ち(・)り(・)と(・)張(・)り(・)付(・)い(・)て(・)い(・)る(・)からこそ、その程度の刺激でも温海にとっては充分な快楽を感じる事が出来た。

 だがやはり、ゆっくり、ゆっくりと中のモノの形を確かめるようにしか動かされない。

 

「はっ、ぁ……ぁ、ん……っ!」

 

 それでも温海は気持ちよさそうに目尻をとろん、と蕩けさせ、確かに快楽を感じ取る。

 まるで初々しい生娘のような、いや、自分がどのようにすれば気持ちよくなれるのかを完全に把握している逆に熟達し過ぎた自涜。

 故に温海は湿度の高い息を吐きながら、その動きを繰り返す。

 

「んんっ……ぁ、ぁぁ……っ!」

 

 ここに来てようやく温海の手付きが変わる。

 丁寧に小さく上下させていた動きを、くるくると、陰核を中心に、密かに硬く育っていた陰核の形に沿うようにして円を描き始めた。

 

「はぁ、ぁっ……んん、んぅぅ……っ!」

 

 今までと違う、明確な快楽を得るための行動。

 その甘い感覚に身体も蕩けて来たのだろう。ベッドの縁に体を預けながらも、ぬるま湯に浸かっているかのように、くてん、と身体が弛緩していく。

 

「んんっ……んんんっ、あっ、ん……っ!」

 

 胸も、陰部も、いつまでも布地越し。それではいつまで経っても高みに昇る事など出来やしないだろう。

 だが温海にとってはこれがいつもの事。だからいつもの通りに高まっていく。

 

「んぅ……んんっ……んっ、ぁ、あ……っ!」

 

 胸を下から持ち上げるようにして優しく揉み込み、陰核を甘やかすように撫で回す。

 いつの間にか両脚は膝を立てながら大きく開かれていて、その影響で袴はずり上がり、その奥にある紺色の布地が顕になっていた。

 隠すべきところは隠されているものの、執拗になぞられた布地が筋の形に沿って食い込んでおり、硬く育った陰核さえも布地を軽く持ち上げている様が分かってしまう。

 

「はっ、あ……あぁ……んっ、ん……っ!」

 

 ベッドに背を預けていた筈がいつの間にかずり落ちて来ており、頭を僅かに反らしながら快感に耽る温海。

 しかしその手付きは止まる事なく存分に快楽を味わっていて、寧ろ腰が前に突き出されたからこそ、更に快感を得やすい姿勢となっていく。

 

「んんっ……あ、あぁ、もう、んん……っ!」

 

 どこまでも弱い刺激であるのに、温海の身体がひくん、ひくん、と揺れ動き始める。

 それに合わせるようにして、また僅か、布地が僅かに形を変える程度に力が込められ、陰核に対する行為が気持ち程度速められた。

 

「あっ、ん、んっ、んっ、ぁっ、あ……っ!」

 

 温海の吐息が早くなる。温海の吐息の湿度が高まっていく。

 こんなにも弱々しい愛撫なのに、温海の限界が訪れようとしている。

 

「んんんっ、んっ、ぁっ、あっ、あぁ……っ!」

 

 すりすりすり、と陰核が撫で回され、ついに布地に小さな染みが浮き上がり始めた。

 だがそんなものはどうでもいい、とでも言うように執拗に行為は繰り返され、ようやく指先の動きは明確に速くなる。

 弱火でじっくりと煮詰められたその身体にようやくご褒美が与えられ、これから訪れる歓喜に打ち震える。

 

 そして、指の腹だけで為されていた筈の行為が、最後に、トドメをさすようにして爪先で、カリッ、と陰核を引っ掻いた。

 

「はっ、んん……っ‼」

 

 その瞬間、ぴくんっ、と温海の身体が跳ねた。

 添えられているだけのようだった胸がぎゅっと揉み込まれ、陰核を甘やかしていた指は一瞬離れたもののきゅぅ、とその中心を押さえ込み、快楽を身体の内側に押さえ込もうとする。

 反らされていた頭は俯き、開かれていた両脚はぎゅっと閉じられ、快楽に対する防衛本能に身体が縮こまる。

 その間もぴくん、ぴくん、と身体は小さく震えていて、あのような軽い刺激ばかりの自慰でも充分に絶頂出来るのだと証明するかのようだった。

 

 

 

 そうして、初々しくも熟達した自慰が、終わった。

 

「ん……は……は、ぁ……ん……っ」

 

 呼吸を僅かに荒げ、確かに絶頂したと体現する温海。

 

 気持ちよかった。

 オナニー、気持ちよかった。

 

 彼女の頭の中は、それだけに満たされていた。

 

「……いやー、良いモノ見させてもらったにゃー」

「っ⁉︎」

 

 部屋の中に、温海とは、部屋の主とは全く異なる声が響いた。

 

「最初はいつもと違う人だーって思って静観してたんだけど、途中から興味深くて最後まで見ちゃった。んんー良い匂いー」

「っ!出たなっ!」

 

 思いがけず最後までして満足してしまったのを必死に隠し、ついに現れた怪異と向き合おうとする温海であったが、

 

「……なっ⁉︎ 体がっ⁉︎」

 

 自慰の余韻に浸った姿勢のまま、体が動かなくなった。

 

「あ、いわゆる金縛りってやつ掛けといたから。……え、っていうか視えるの聞こえるの?」

 

 温海が視線を上に向けると、そこには空を泳ぐように体を揺らめかせている女の姿があった。

 

「わお、視えるのは居たけど聞こえる人は初めて」

「くっ! お前っ……!」

「やっぱりあれ? 本格的に除霊しようとして本職の人来ちゃった感じ? やー金縛りかけといて良かったにゃー」

 

 ふざけているような口調の女であったが、その異能の力は強く、修練を積んでいる筈の温海でさえ術を解く事が出来ない。

 

「阿毘羅吽欠裟婆呵! 術式一番から四番まで並列起動! 消えろ!」

 

 故に、温海は自身にかけられた術を解く事よりも、この怪異を滅する事を優先した。

 行使したのは怪異を捕縛し滅する術、それを四つ重ね掛け。弱い怪異ならば素粒子になるまで砕くような威力を持った術。いかに強力な怪異であろうと耐えられるものでは無い。

 だが、

 

「っ⁉︎ 起動しない⁉︎」

 

 部屋の中に設置しておいた術具が、結界が反応しない。

 

「阿毘羅……!」

「あー無駄無駄。うへへ」

 

 当然のごとく再起動しようとした温海であったが、怪異はさも楽しそうに一蹴した。

 

「お嬢ちゃんが気持ちよさそーにしてる間に解除しちゃった、てへ」

「そんな……⁉︎」

 

 有り得ない。そう言いたかった温海であったが、実際に術が発動しない。それどころか確かに術式の気配が霧散している事に遅れて気付く。

 

「やー、私クラスになるとこんなのよゆーでして?」

「くっ……!」

 

 飄々とした口振りだがその力量は確かなものだと、温海は内心冷や汗を流す。

 体を身動ぎさせる程度にしか動かせず、どうやってこの場を切り抜けるかを必死に考える。

 

「鮫ごときがここまで力をつけていたとは……!」

「おー鮫とか久しぶりに言われた。でも力をつけたっていうか、私は元々こんなだよー?」

 

 住人達から快楽というエネルギーを喰らい、それで力をつけてしまったのだと思う温海であったが、その考えは鮫自身から否定される。

 

「……じゃあ、何で、最初から全力でいかなかった」

「何でって……あ、何で色々小出しにしてエスカレートさせてったかって事?」

「……そうだ」

 

 何故最初から全力で襲い掛かりに行かず、最初はオナニーしている最中に、今は発情している際に、と段階を踏んでいったのかと問い正す。

 

「だってその方が、えっちじゃん?」

 

 鮫が言うには、最初は軽く始めて、だんだんと行為を激しくしていき、それに身体が慣れた頃、今度はえっちな気分になるハードルをどんどん下げていき、終いには常に発情しているような状態にする予定だった、とのこと。

 

「まーお嬢ちゃんっていう邪魔が入っちゃったんだけど」

 

 ここからが良い所だったのに、とこぼす鮫。

 

「どうしてここを根城にした」

「え、なんとなく? 強いて言うなら、ここの子達よくオナニーしてるから都合が良かったから? やらしい匂いいっぱいするんだよねここ」

 

 とんでもない理由に目付きが険しくなる温海であったが、同時にその理由に納得する。快楽を餌にする種類の鮫ならば、確かにそれは好条件であったに違いない。

 

「でも本格的に結界張られたら流石に手間取るんだよねー……」

 

 空中に浮かびながら顎に手をやりうんうんと悩む鮫。

 その隙になんとかして金縛りを解こうとする温海であったが、元々の力と住人達から得た力による術はあまりにも強固で、術式にヒビを入れる事さえ出来なかった。

 

「という訳で、お嬢ちゃんで憂さ晴らしするね?」

「何を……っ⁉︎」

 

 憂さ晴らし。その言葉を意味を一瞬理解出来なかったものの、快楽を餌とする鮫が何を望んでいるのか、その答えに辿り着くのは容易な事であった。

 

「さーさーとろとろおまんこ触っちゃお、って痛ぁっ⁉︎」

 

 故に、鮫は温海の陰部へと手をゆっくりと伸ばした。

 

 しかし、そこに触れようとした瞬間、バチン、という音と共にその手が弾かれる。

 

「え、なに……あ、もしかして何か変なの着てる⁉︎」

「ふ、ふん! お前のようなモノが現れると分かっていたから対処するのは当たり前でしょ!」

 

 温海は金縛りによって未だほとんど動けない状態であったが、纏っている物に施した術式が正常に作動した事に内心安堵する。

 

「こなくそー! ……ってあれ? この服は触れるんだ」

 

 悔しさに溢れながら温海へ手を伸ばす鮫。だが再度弾かれると若干身構えていたものの、巫女服には問題なく触る事が出来、逆に困惑する。

 

「……なるほど。下着の方か」

「性的快感を餌にしてるんでしょう? だったら、そこに触れなければ何も出来ないに等しい。さぁ、大人しく祓われろ!」

 

 キッと鮫を睨みつけ、戦意を顕にする温海。

 それとは対照的に、鮫は思案気な表情を見せる。

 

「んー……とりあえず脱がすかぁ」

「ふん。無駄に終わると思うけど」

 

 ドヤ顔の温海をよそに、鮫は巫女服に手を掛ける。

 その類の衣服に慣れていないのか、探り探りとなって、まずは袴が脱がされ、そして上の、白衣に手が掛けられた。

 

「めんどくさい服……だけどコレが最後の一枚かにゃー? さーて上も紺色のブラかなー、って何でやねん⁉︎」

 

 そうして、巫女服が全て剥ぎ取られた。

 現れたのは下と同じ紺色ではあったものの、下着ではなく、上下一体型の、

 

「スク水⁉︎」

「競泳水着って言え!」

 

 温海がサークルで使用している競泳水着そのものであった。

 

「えぇぇぇ……? 服の下にこれぇ……? えぇぇ無いわー……そこはえっちな下着であるべきでしょー……」

 

 予想していた光景とは全く異なるものに鮫は落胆する。

 

「……痛っ。あーなるほど、これで身体を守ってんだ」

 

 再び温海の身体へと手が伸ばされるが、弾けるような音と共にやはり接触を拒否される。

 

「ふふん。念入りに術式を組んだ水着、流石に触れないでしょ」

 

 その言葉の通り、現れる怪異が鮫と予想できた段階でこの水着に術式を、怪異悪霊の類が触れたら痛みと共に接触を弾く術式を施していた。

 

「ふぅん?」

 

 だが、鮫は怯む事なく、寧ろ面白そうに笑みを浮かべる。

 

 

 

「よく見たらその水着。ちょーえっちじゃん?」

 

 そう言って鮫は温海の身体を舐め回すように見た。

 

 

 

「…………え、どこが」

 

 が、温海にはその言葉の意味が分からなかった。

 

 

 

「身体にぴっちり張り付いた生地。水辺という訳でもないのに着ているという非日常感。身体を覆っているのに手脚が剥き出しになっているという落差。そして何より」

「キモい」

 

 急に語り出した鮫に対して温海は抑えきれない感情をそのまま口にした。

 

「そして何より!」

「……なに」

「そのハイレグカット! 何それエロい! 何でそんなキレ上がってんの! 鼠径部まる出しじゃん! 大事な場所は隠してるけどお股のとこ見えちゃってんじゃん! お毛々どうしてんの⁉︎」

「キモい」

「お毛々どうしてんの⁉︎」

「キモい」

「お毛々どうしてんの⁉︎」

「そ、剃った」

「かーっ! エロい!」

「エロくないっ! 競泳水着を変な目で見んなっ!」

 

 由緒正しい、速く泳ぐための水着なのである。

 

「いやそれにしてもハイレグ過ぎるでしょ!」

「う、うちのサークルはコレなの!」

「鼠径部!」

「やかましい!」

「だってほら!」

「ひゃんっ⁉︎」

 

 ぎゃーぎゃーと喚いていた二人であったが、鮫がその鼠径部に手を這わせると温海は思わず変な声を出した。

 

「こうやって、触れちゃうじゃん?」

「くぅ……っ! 触んな!」

 

 至近距離から温海の目を覗き込み、剥き出しの鼠径部をつぅーっ、と指先でなぞる鮫。

 肌に触れるか触れないか、その境界の絶妙な力加減で敏感な場所の近くであるソコを急に刺激され、温海は思わずゾクゾクとした感覚を覚える。

 

「んんー匂いがちょっと濃くなったかなー? もしかしてー、気持ちいい?」

「なわけあるかバカっ! というか嗅ぐなっ!」

 

 股の部分から腰にかけて、下から上へ、一定方向にだけ指をなぞらせる鮫。

 一撫で毎に妙な感覚が、肌が粟立つ妙な感覚が立ち昇るのを温海は感じた。

 

「えーでもさー? こういうやさしーく撫でるの、好きなんでしょ?」

「っ⁉︎」

「さっきのオナニー。ゆーっくりだったのにちょー気持ちよさそうだったもんねー?」

「うるっ、さい……んっ……」

 

 その言葉に先程までの秘め事がフラッシュバックしてしまい、妙な感覚が、快感なのだと、脳が急速に誤認していく。

 

「ほれほれー」

「ひぅ……やめ、ん、くっ……」

 

 ハイレグカットの水着の股部分。その境界線ギリギリを指が掠め、拒絶の言葉が封じられた。

 温海がほとんど動けない事を良い事に、ぴくん、と僅かに反応するのを面白がるように鮫は眺める。

 

「はっ……ひゃっ、ん、んんっ!」

 

 何度も際どい場所を這う指に思わず反応してしまい、誤魔化すように咳払いをする温海であったが、そんなものを鮫が許す筈もなかった。

 

「ぅ……は、ぁぁぁぁ……っ」

「お、良い声出たねー」

 

 下から上へ、一方通行だったものを反転させ、腰から股へかけての鼠径部が撫で下ろされた。

 その途端、ゾクゾクしているだけだったものが、思わず身体がひくん、と反応してしまうような刺激へと変わる。

 

「くっ……! ぁ、ぁぁ……やめっ、んん、んんん……っ」

「やめなーい」

 

 一旦こぼれ落ちてしまったものはもう止められなかった。

 鼠径部を上下に優しく撫でられるだけで、温海の身体はだんだんと昂ぶる準備をしていってしまう。だから、勝手に声が漏れていってしまう。

 

「や、んんんっ……ぁ、はぁぅ、ん……っ」

 

 一本の指で鼠径部をなぞられているだけ。しかし淡い感触を好みとする温海には絶大な効果だった。

 吐息に湿度が混ざり始め、ひくん、と思わず反応してしまい、身体の奥にあった残り火が再燃する。

 競泳水着という泳ぐためだけの衣服が、怪異の手によって猥(みだ)りがわしいものへと変貌していく。

 

「や……そこ、やめ……んんんんぅ……っ⁉︎」

 

 無論止める事など無い。

 それどころか、空いていたもう片方の手によって肩や腕をなぞり始めた。

 

「敏感だねぇ、こことかどう?」

「はぅ……ん、ぁ……くぅ……っ」

 

 つつー、と剥き出しの肌がフェザータッチで擽られる。

 肩から肘にかけて、肘から指先にかけて、かと思えば太ももを、肌という肌が鮫の手によって優しく、あくまでも優しく触れられていく。

 

「ふふーん。耳とかー」

「だ、めぇ……っ」

 

 輪郭をなぞるようにして指先でなぶられる。聴覚を司る器官であるその場所は、今までは触覚だけだったものが、明確な音となって温海に新しい感覚をもたらした。

 

「ぁ、ぁんん……ふぁ、ぁ……っ」

 

 その感覚で、温海は一気に蕩けだした。

 今まで誰にも触られる筈もなかった場所。自分でも滅多に触る事のない場所。

 そんな場所であるのに、経験した事のない感覚なのに、相手は忌むべき怪異であるのに、温海は背筋が粟立つような、明確な快感を得ていた。

 

「……ちゅ」

「ひあぁっ⁉︎」

 

 無論、鮫はそれを見逃さなかった。

 故に、温海自身も知らなかったその弱点に、キスを落とした。

 

「ちゅぅ、じゅるっ、れぇろ、じゅ、ちゅぅぅ!」

「んぅぅぁっ! あ、ぁぁ……はぁぅんっ……!」

 

 否、それだけでは済まなかった。

 軽いキスを落とした後、間髪入れずに鮫は温海の耳を激しく舐め回し始める。

 

「ちゅ、ぷ……! ねぇ、きもち、いい……?」

「はぁぅっ……! そ、そんなこと、ない……」

「じゃあ、もう一回、ね」

「んんんんぅっ! ふぁっ、ん、んっ……!」

 

 それを認めない温海に対し、分からせるようにして再度耳が犯され始める。

 その間も腕や鼠径部は撫でられているままで、淡い感覚と激しい感覚に襲われ続け、温海の脳は沸き上がり始めていた。

 

「じゅるぅっ、れろぉ、ちゅっ、ちゅぷっ!」

「んんぅっ……! はぁ、んっ、あぁ……!」

 

 もはや抗議や拒絶の声は出て来ない。出て来るのはより湿度の高まった吐息だけ。

 鮫の手が腋という擽ったさを感じるところに伸びても、ゾクゾクとした感覚に襲われるだけで、嫌という感情すら浮かんで来なくなる。

 それどころか、快感を抑え切れないと言うように動ける範囲で身体をくなくなと揺り動かしている。

 

「ふふ、乳首、勃起してるねぇ」

「ぁ……んんんっ……!」

 

 鮫の言う通り、温海の胸には水着を押し上げるほどのポッチが浮き上がっていた。

 

「クリトリスもぉ、勃起、してるんじゃない?」

「はぁぅ……! んぅぅっ……!」

 

 鮫の言う通り、温海の陰核は水着の中で存在感を増していた。

 

「でもお嬢ちゃんはぁ、すりすりするの大好きだもんねー?」

「ぅぁあっ……! はっ、あぅぅっ……!」

 

 だが、それらは触れられる事が無い。

 必死にここを触って欲しいのだと肉体が主張しても、温海の施した術式によってその秘めたる願望が満たされる事は無い。

 

「だからもーっと、煮詰めてあ、げ、る」

 

 もっと、と言いつつも指先に力が篭もる事は無い。

 耳は激しく犯されたままに、あくまでもゆっくり、軽く、執拗に、肌という肌が触れるか触れないかの絶妙な具合で撫で回される。

 

「良い匂い……もっと嗅がせて……?」

「ひぅっ……! んはぁ、あっ、ぁぁぁ……!」

 

 耳が、耳の中が、耳朶が、鮫の舌で犯される。

 首筋が、肩が、腕が、肘が、手の甲が、指先が、鮫の左手で甘やかされる。

 鼠径部が、腿が、膝が、脚が、足が、足先が、鮫の右手で甘やかされる。

 水着に包まれていない肌という肌が、念入りに撫で摩られる。

 

「でもやっぱり、ここが一番気持ちいいのかにゃー?」

「んんんっ……! ぁっ、ぅんっ……!」

 

 問い掛けと共に鼠径部が撫でられると、偶然か無意識か、温海の口から肯定とも取れる吐息が、漏れた。

 

「ふーん。じゃあ、こんなのはぁ、どう?」

「ぁっ、ぁぁぁぁぁぁぁ……!」

 

 その言葉と共に、それまで触られていなかった内腿が、つぅー、っと撫でられる。

 

「こうやってぇ……ここから」

「はっぁぁぁぁ……!」

 

 膝の位置から、上へ上へとゆっくり登り、

 

「こうやっていくの、どう?」

「ぅあぁぁぁぁ……!」

 

 水着に守られている股間を避け、鼠径部を心なしか強めに刺激する。

 温海の口から感想を聞くまでもなく、身体と吐息はそれが気持ちいいのだと主張していた。

 

「もっかい。ほぉら、つつーっ」

「んんんぅぅぅ……! はぁ、ぁぁぁ……!」

 

 それが、何度も、何度も繰り返される。

 一番敏感な場所に向かうと見せかけて、そ(・)こ(・)を避け、際どいところへと通り過ぎる。

 執拗に、絶対にそ(・)こ(・)には触らないとでも言うように。

 

「やぁ、ぁぁあ……! ぅんんんん……!」

 

 いつしか、股間に食い込んでいた水着の一部が暗い色へと変化していた。

 肝心な場所には一切触れていないというのに、温海の身体はこれ以上無いほどに煮詰まっている。もう受け入れる準備は出来ている。

 だが、それは黙殺される。

 

「ほら、もう一回、つつーっ」

「んんんんんっ……! もうっ、ぁぁぁっ……!」

 

 部屋の中には発情しきった女の香りが充満している。

 そんな香りの中、今まで以上にゆぅっくりと、内腿から鼠径部が一本の指で撫で上げられた。

 

「ふぁぁっ……! もうっ、やぁ……っ!」

「嫌? こんなに良い匂いしてるのに? 好きでしょー?」

「こんなのっ、あたま、おかしくなる……!」

 

 温海の身体は、一撫で毎にびくびくと痙攣するほど高まっていた。

 だが肝心な場所には一切触れられず、いや触れられないようにしているからこそ、生殺しの状態がいつまでも続く。

 

「仕方ないにゃー。じゃあ一回だけしてあげる」

「はぁっ……はっ、は……ぇ?」

 

 鮫の言葉と共に愛撫が一旦止められた。

 温海の身体はまだ撫でられているような感覚が残ったままに、その言葉の意味が分からず疑問の声をあげる。

 

「痛いけど我慢してー……それっ!」

 

 何が痛いのか。痛くされてしまうのか。この生殺しのような刺激ではなく、もっと強い刺激をくれるのか。

 思考が混線している中、懇願にも似た感情を抱く温海。

 

 そして、バチン、という音と共に、温海のクリトリスが、カリッと、掻かれた。

 

「ひぁああああああああっ⁉︎」

 

 激烈な衝撃に、一瞬で温海の脳内は白く染まった。

 あまり動く事の出来ない身体を、ピン、と伸ばして何が起こったのかは分からないものの、いきなり訪れた一瞬の快感を全力で貪ろうとする。

 

「はぁっ……! はぁっ……! はぁっ……!」

 

 だが、あくまでもそれは一瞬。

 快感が去ってしまった後、そこにはジンジンと余熱を残したクリトリスだけが残った。

 

「いたた……やっぱりキツいなぁ。何度も出来ないや」

「ぁ……」

 

 顔を顰める鮫。

 

「ん? なぁに? もっとして欲しい?」

「ぁ、や、ぅ……」

 

 それに対し、どこか残念そうな顔をする温海。

 

「でも流石に無理だからー、またすりすりしてあげるねー」

「ぁっ、はぁ、ぁぁぁぁぁ……!」

 

 一度明確な快楽を得てしまった後はもうダメだった。

 

「あぁ……! あっ、んっ、あぁぅ……!」

 

 先程まではなんとか抑えようとしていた吐息が、全く隠せなくなっている。いや、嬌声混じりの吐息となってしまっている。

 

「ぁぁぁぁぁ……! ぁっ、はぅぅぅ……!」

 

 しかも摩られているのは一番反応の良かった内腿から鼠径部。

 今までは指一本だけだったものが、今では五指を使って撫でられてしまっている。

 

「んんんんんっ……! ぁ……ぅぅぅぅ」

 

 普段刺激を受ける事の無い内腿。だからこそ敏感であるそこをすぅーっと撫でられ、温海の熱量が上がっていく。

 その先は、最も秘すべき場所。最も快楽を得られる場所。

 だがその直前、指先は脚と胴体の境界線へと進路を変える。

 

「ぅぅあぁぁぁあ……!」

 

 また内腿が撫でられては歓喜の吐息が漏れ、

 

「ぁあ……! ……ぅぅ、ぅぅぅぅ!」

 

 また鼠径部を撫でられては快感と共に寂寥感に襲われる。

 

「仕方ないよねー」

「んぅぅぅぅ……!」

 

 太ももをすりすりと撫でながら鮫は残念そうに話し始める。

 

「水着のとこ、触れないもんねー」

「はぁ、ぁぁぁぁ……!」

 

 だからそれ以外を触るしかないのだと。

 

「こうやって撫で撫でしか出来ないもんねー」

「はぁっ……! ぅぅぅぅぅ!」

 

 だから気持ちいい場所に触れる事は出来ないのだと。

 

「お嬢ちゃんは動けないもんねー」

「んっぅぅぅぅ……!」

 

 だが温海に許されているのは身動ぎだけ。

 

「今ここに触ったら絶対気持ちいいのになー」

「んぁあっ、ぁぁあっ……!」

 

 だから自身で慰める事も出来ない。

 

「あーあー。コレが無ければ触ってあげられるのになー」

「それ、は……あぅぅっ……!」

 

 しかしソレさえ無ければ。

 

「術式が無ければなー。触れるのになー」

「で、でも……んんんんんっ……!」

 

 だからソレさえ無ければ。

 

「クリトリスもー、乳首もー、おまんこもー。いーっぱい触ってあげられるのになー」

「そんなの……はぁぅっ……!」

 

 だから。

 

「今触っちゃったらぜーったい気持ちいいのにねー」

「ぁぁ……ぁぁぁ……」

 

 だから。

 

「ギンッギンの乳首、コリコリコリーって」

「うぅ、ぁ……」

 

 だから。

 

「カッチカチのクリ、くにゅくにゅくにゅーって」

「ぁ……ぁ……」

 

 だから。

 

「どろどろのおまんこも、ぐちゅぐちゅぐちゅーって」

「ぅ……」

 

 だから。

 

「あーあ、仕方ないなー」

「…………」

 

 だから。

 

「ねー?」

「…………」

 

 だから。

 

「ね?」

「…………っ」

 

 だから。

 

 

 

「んっああああぁぁぁあっ!」

 

 だから温海は術式を解いた。

 

 

 

「ああぁっ! んんぃぃぃっ!」

 

 最初に手を出されたのは両乳首。

 水着越しに浮き上がっていたポッチがそれぞれ二本の指で捏ねくり回されると、部屋中に嬌声が響き渡った。

 

「あぁぁぁっ! そこっ、んぁっ!」

 

 普段、自分ではやらないやり方。やったとしても下着越しにカリカリと軽く擦るだけ。

 それが今、確かな圧力で、乳首の形が変わるほどの力できゅぅぅ、と摘まれ、そのままコリコリと左右に捻られている。

 

「わ、すっごいコリッコリだね」

「んっんっんっんっあっああっ!」

 

 水着越しでも尚分かる硬さ。

 ピンッと弾いても一瞬で元の位置に戻るほどの硬度。無論一度や二度で済む筈がなく、何度も何度も弾かれ、その度に温海は短い嬌声をあげる。

 

「ね、ね。乳首だけでイける?」

「んんぅぁああっ! わかん、ないぃっ!」

 

 散々煮詰まったところに乳首への強烈な刺激。

 気持ち的にはイけそうな程に快感を得ている温海であったが、実際にはそれに至るまでには及ばない。

 

「じゃあどうすればいい?」

「ぁああっ! したもっ、したもぉっ!」

 

 だから彼女は懇願した。忌むべき、調伏すべき相手に懇願した。早くそこを触って欲しいと懇願した。

 

「下かー……えいっ」

「ひゃぅぅぅぅぅっ⁉︎」

 

 下。具体的には何を指しているのかは分からない。

 だから鮫は、股間を覆っている水着をぎゅっと引き上げ、淫部にその生地を食い込ませた。

 

「ほーら下だよー?」

「あぁあっ! ちがっ、あんんんんっ!」

 

 媚肉から挟まれるようにして水着は温海のおまんこに食い込んでおり、それに巻き込まれてクリトリスが圧せられる。

 

「んー? 何が違うのー?」

「そうじゃっ、あぅぅっ、ぅんんん!」

 

 水着をおまんこに食い込ませたままに、左右にくいくいっと動かす鮫。

 それにより限界までしこり上がったクリトリスも左右に擦られる事となり、そうじゃないと言いつつも確かに快感を得る温海。

 

「えー? これでも気持ちいいでしょー?」

「そうだけどっ、ああっ! んっんんんんっ!」

 

 身を捩らせて快感に打ち震える温海。

 だが違うのだと。一番気持ちいい絶頂のトリガーはそうじゃないのだと。だからそうして欲しいのだと願う。

 

「そっかー。クリちゃんカリってしないと上手にイけないんだもんねー」

「はぁぅぅっ! ぅんっ、うんっ!」

 

 希望が通じた。

 だから温海は必死に頷く。

 

「でもダメー」

「ああぁあっ! やだっ! これやだぁっ!」

 

 だが希望は打ち砕かれる。

 水着をおまんこに食い込ませたままに、左右にぶるぶると震えさせられ、新たな快感に翻弄される。

 

「嫌?気持ちいいでしょ?」

「やぁっ! んぁぁああっ! んっんぅぅぅっ!」

 

 確かに温海の脳内は気持ちいいという感情が溢れていた。

 だが元々彼女は強い刺激に慣れていない。そんな、いつもとは違い過ぎる快感を処理する事が出来ず、只々知らない領域の気持ちよさに翻弄される事しか出来ない。

 

「ほーらきゅっきゅっきゅー」

「んあっ! ああっ! はぁうっ!」

 

 振動が止んだと思ったら次は何度も水着を上へ引っ張られ、その度におまんこに水着が食い込み、その度にクリトリスが水着に圧せられる。

 いつもは同じやり方を延々と続けるだけ。だからこのように手を変え品を変えといったやり方を温海は知らない。

 

「ぐりぐりもしちゃうぞー」

「ああぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

 今度は円を描くように食い込ませられる。もちろんクリトリスは蹂躙された。

 くりくりと撫でる事は何度もして来た。だがクリトリスをこんなにも強烈に擦られる事は無く、強過ぎる快感にやはり絶頂する事が出来ない。

 

「ここでまたぶるぶるぶるー」

「ぁぁぁぁああっ! イかせてっ! イかせてよぉっ!」

 

 だから温海はとうとうハッキリと懇願した。

 

「んんー?どうやってー?」

「クリっ! カリって! あぁっ! カリってしてぇっ!」

 

 あの硬質な爪の先で、ほんのちょっとだけ掻いてくれれば絶頂出来る。

 だから必死になって懇願する。

 

「よーし分かった」

「あんっ!」

 

 そして、とうとう股間を守っていた水着が、横にずらされる。

 

「あっは、すっごい匂い。くらくらしそう」

 

 その瞬間、むわっ、と中に封じ込められていた淫臭が一気に部屋中に撒き散らされた。

 

 現れたのはどろどろになったおまんこ。

 膣口から愛液をお尻まで垂れ流し、その源は何かを求めるようにしてひくひくと開閉している。

 その上部にはそそり立ったクリトリス。限界以上に勃起して真っ赤になりながら、ココに触って欲しいとばかりに主張している。

 

「はや、く……! はやく……!」

 

 そんなおまんこを、温海は食い入るように見詰めている。

 そこなのだと。それなのだと。そこを、少しでもいいから、爪で、してほしいのだと。

 

「んー……やっぱりダメ。とりゃ」

「ああぅっ⁉︎」

 

 だがその希望はまたしても打ち砕かれる。

 代わりにもたらされたのは膣内への挿入、鮫の指が。温海のおまんこへと入り込んでいた。

 

「わーおぐちゅぐちゅー」

「あぁっ! ちがっ、ちがぅぅぅっ!」

 

 もはや涙を浮かべながらそうじゃないのだと叫ぶ温海。

 どうして、どうしてクリトリスしてくれないの、そんな気持ちでいっぱいになる。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。こっちも気持ちいいから、ほーらぐちゅぐちゅぐちゅー」

「やぁあああっ! あああぁぁぁぁっ!」

 

 宣言通り、温海のおまんこが激しくかき回され始めた。

 

「ねー? 気持ちいいでしょー?」

「んんぁあああっ! でもっ! でもぉっ、ああっ!」

 

 もう既に限界まで溜め込まれていた愛液が撹拌され、まるで潮を吹くかのように飛び散る。

 でもそれではない。

 しかしそう言いながらも温海の身体は快感をこれでもかという程に感じており、膣内に入った指をぎゅぅぅ、と全力で締め付ける。

 

「きっつきつ……ね、おまんこ気持ちいいね?」

「はぁんぁあああっ! やぁだぁっ! んぁああっ!」

 

 気持ちいい。確かに気持ちいい。

 だがそんな事知らない。そんな場所知らない。

 温海にとって初めてだらけの中で更に知らない快感。

 だから、幾ら気持ちよくても、イけない。

 

「ここがGスポットだよー」

「ひぁあああああああっ⁉︎」

 

 更に知らない快感。

 自身で触った事すら無い場所が鮫の手によって膣内で撫で回されると、温海の視界がパチパチと煌めくほどの快楽が生じた。

 

「おまんこで、いっちばん気持ちいい場所だよー」

「ぅああああっ! はぁぅぅぅぅっ! んぅぁああっ!」

 

 にちにちにちっ、とそこだけが執拗に抉られる。

 金縛りに遭いつつも温海のお腹がひくひくと痙攣し、腰がガクガクと揺れ動く。

 

「ねー? 気持ちいいよねー?」

「あぁぁぁあイかせてぇっ! もうイかせてよぉっ!」

 

 質問に答える事なく、ただ自分の願望を口にする温海。

 

「仕方ないなぁ」

「んんぅぅぁあっ! おねがいっ! おねがいぃっ!」

 

 仕方ない。

 その言葉に歓喜の感情を見せる。

 

「じゃあ乳首とおまんこ同時にしてあげるよー」

「はぁあっ! ああああっちがっ! ちがぅぅぅっ!」

 

 だがやはり希望は打ち砕かれる。

 おまんこの撹拌は止まらないままに、いつの間にか止まっていた乳首への刺激が再開される。

 

「乳首こねこねーおまんこぐちゅぐちゅー」

「あああぁぁっ! ひぅぅぅっ! んぁあああっ!」

 

 妙な調子の歌を唄いながらクリトリスだけを避けた愛撫が行われる。

 散々煮詰められて、経験した事のない快感を教え込まれ、温海の脳は限界だった。

 

「どう? ねぇどう? クリちゃん以外で気持ちよくなっちゃうの、どう?」

「ああっ! ぁぁぁあああっ! んんぁぁあっ!」

 

 もはや拒絶する事も、鮫の質問に答える余力も無い。

 だが絶頂する事だけが出来ない。

 あまりの激しさに、絶頂なんてとっくに過ぎている。

 

「……これはこれでつまんないなぁ」

「あんっ!」

 

 ぼやきと共に、温海のおまんこからちゅぽっ、と指が引き抜かれる。

 

「ねーお嬢ちゃん。どうされたい?」

「はぁっ……! はぁ……! ふ、あ……!」

 

 刺激の一切が止み、一時の凪が訪れる。

 

「答えないならまたおまんこねー」

「あああっっ⁉︎ もうだめっ! だめだめだめイかせてくださいっ! んぁああぁっ!」

 

 呼吸を整えていた温海を待つ筈がなく、その指は再度おまんこへと挿入された。

 だが幾ばくか正気を取り戻した温海が必死になって絶頂を懇願する。

 

「どうやってー?」

「やぁああっ! くりっ、ぅああっ! くりとりすっ! いじってくださ、ああああぁっ!」

 

 快感の暴風になんとか抵抗しながら、ずっと抱いていた願望を口にする。

 だがどうせまた聞き入れられない。

 そんな絶望を同時に抱く温海であったが、

 

「いいよ」

「……ぇ? ぁっ、んんぅ……いい、の……?」

 

 それが聞き入れられた。

 同時におまんこと乳首に対する愛撫が弱まり、軽く喘ぎながらも信じられないという目で鮫を見詰める。

 

「うん。クリトリス、触ってあげる」

「ぁ……ぁ……ぁ……!」

 

 そして、乳首を摘んでいた指をそのままに、おまんこを穿っていた指をそのままに、おまんこを弄っていた手の、親指が、温海のクリトリスに近付き、

 

 

 

「ああああああああぁぁあああっ‼」

 

 温海は絶頂した。

 

 クリトリスに指が触れた瞬間、腰を突き出しながら今まで体験した事の無い高みに昇った。

 嬌声と共に全身がびくんびくんと痙攣し、膣内に収められた指をぎゅぅぅと力強く締め付ける。

 空を打つ腰は戻ってくる事なく、おまんこと指の隙間から濃い愛液がとぷとぷと溢れていった。

 

「あっ……! あぁっ……!」

 

 何度も何度も望まぬ快楽を叩きつけられ、それを耐え切った後の絶頂。温海の脳は何も考えられないほど真っ白に染まる。

 あるのは気持ちいいという感覚と、ようやくイく事が出来たという悦びだけ。

 

 

 

「なーに浸ってんのー」

「ふぁああああああっ⁉︎」

 

 だが突然、頂から引き摺り下ろされた。

 

「クリちゃん苛めるのはここからじゃん?」

「あぁぁあああっ! イった! イったからぁっ!」

 

 否、許容値を遥かに越える快感がまた叩きつけられた。

 驚いた温海が下へ目線を戻すと、膣内に指が収まったままクリトリスがぎゅぅぅ、と押さえつけられている光景が目に飛び込んできた。

 

「ほぉら、欲しがってたクリちゃんですよー」

「んんんぅああああっ! だめっ、もうだめぇっ! あああっ!」

 

 拒絶の声など聞こえないように、鮫は親指で器用にクリトリスを転がし回す。

 

「くりくりー。クリちゃんをーくりくりー」

「やあぁぁあっ! んぃぃっ! もっ、もうむりぃっ!」

 

 大人しいオナニーを好む温海にとって、絶頂後も続けるというのも未体験の事であった。

 だから怖かった。これ以上気持ちよくなってしまったらどうなってしまうのか。

 

「怖くないよー。気持ちいいだけだからねー」

「んっあぁああっ! あああだめっ! やだぁぁあっ!」

 

 そんな温海の内心を読んだかのように諭す鮫。

 だからといって手付きが優しくなるわけでもなく、指の中心で捉えたクリトリスを激しく捏ねくり回し続ける。

 

「だからもーっと気持ちよくなろうねー」

「ああああっ⁉︎ だめぇっ! だっめぇぇぇえええっ!」

 

 そして、おまんこに突き込まれていた指も、膣内で激しく動き始める。

 指先で弄んでいる都合上抜き差しはあまりされないものの、中の一番気持ちいい場所が狙い打ちにされ、両方から与えられる快感に温海はまた翻弄され始めた。

 

「おっと乳首忘れてた」

「ひぁっ! ああああそれだめぇっ! んっんっんっんぅああっ!」

 

 そして、放置されていた乳首が水着越しにピンピンピンピン、と高速で弾かれ始める。

 乳首、クリトリス、おまんこ。快感を一番感じやすい部分がそれぞれ苛め抜かれ、金縛りさえ無ければ温海は身体がのたうち回る程の快楽を感じていた。

 

「大丈夫大丈夫。そのうちちゃーんと快感が追いついてくるからー」

「あぁぁああっ! むりっ! むりむりむりぃっ! あっぅううううっ!」

 

 あまりの激感に、鮫の言う事が信じられない温海。

 こんなにも苦しいのに、こんなにも気持ちよすぎるのに、優しい愛撫とクリトリスへの一撃だけで済ませていた自分にこの快感を処理する事が出来る筈が無い。そんな思いを乗せて喘ぐ事しか出来ない。

 

「気持ちいいねー? おまんこも乳首も、全部気持ちいいねー?」

「んぅああああっ! やぁっ、ああぅぅうっ! ひあっ、ああああっ!」

 

 乳首からは弾ける快感が、おまんこからは滲むような快感が、クリトリスからは電撃のような快感が、全てが激流となって温海に襲い掛かる。

 

「動けないのにとーっても気持ちよくてぴくぴくしちゃうねー?」

「ああああぅっ! んぅぅああっ! 解いてっ! といてえぇええっ!」

 

 動く事が許されているのは極狭い範囲。痙攣するかのようにお腹をひくひくとさせ、腰を僅かに前後させられるだけ。

 快感を逃すには、その範囲はあまりにも狭すぎた。

 

「だめー。本当は動きを縛られてるのも気持ちいいんだよねー?」

「そんなことっ、ないぃぃっ! あぁぁああっ!」

 

 温海の叫びは本心であった。身体を動かせるのならば、この浮かんでいきそうな腰を思う存分突き上げる事が出来るし、頭を振り乱して快感をなんとか処理する事だって出来る。

 無論そんな温海の内心を鮫は分かっていた。だがそれと同時に快感を外へ逃す事が出来ないからこそ、とてつもなく気持ちよくなっているというのも分かっていた。

 

「やだ。そんな聞き覚えの無い子にはほーらクリちゃんごちゅごちゅー」

「んあああああっ! ああああぁぁだめぇぇぇえっ!」

 

 クリトリスを苛んでいる指に力が込められ、ぐりゅ、とクリトリスが潰される。そのまま器用に円を描くようにして転がされ、痛みにも似た快感に温海の意識が千切れそうになる。

 

「コリッコリのクリちゃん、必死に指に対抗しちゃってー。かわいいねー」

「やだぁっ! もうやだぁっ! ひっうぅぅうっ!」

 

 限界まで成長したクリトリス。その大きさは温海が見た事の無い程にまで大きくなっており、その硬さも見たことの無い程に硬くなっていた。

 それにより、なんとか指を押し退けようとしているが所詮は極小の器官。より快楽を感じるようにしかなっていない。

 

「どうしてー?気持ちいいんでしょー?」

「きもちっ! あああっ! よすぎるんんあああっ!」

 

 気持ち良過ぎるのが辛い。

 気持ち良過ぎてイけないのが辛い。

 オナニーではあんなに甘く切ない気持ちよさだったのに、こんなのは快感の暴力。

 

「そっかー、じゃあ仕方ないねー」

「はあっ! ……はっ……はっ……はっ……?」

 

 温海の必死の懇願に応えるようにして、陰部から鮫の手が離された。

 にゅぽ、と抜かれた指は愛液が膜のようになるほど絡みついており、今まで収められていたおまんこからは撹拌され続けて白濁し、濃密になったものがゆっくりと溢れ出て来た。

 

「わ、びっちょびちょ」

「んっ、く……ぁ……はっ、ふ、ぁ……?」

 

 温海は混乱していた。

 どうせ止めてくれないのだろう。もっとおかしくされてしまうのだろう。いつまでも気持ちよくさせられ続けてしまうのだろう。なのに何故。

 急に刺激がなくなってジンジンしているクリトリスとおまんこをどうする事も出来ず、呼吸を整えながら、もしかしてもう終わり、助かる、そんな期待を抱いた。

 

「はい、ただいまー」

「んんぁぁっ⁉︎」

 

 が、そんな期待などもはや当たり前のように打ち砕かれる。

 じゅぶ、と最初に指を入れられた時とは桁違いに粘着質な音と共に、指がおまんこの中に戻ってきた。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ、安心して?」

「なに、が……んぅ……」

 

 何が大丈夫なものか、とこれからまた訪れるであろう激流のような快感に身構える温海。

 

「今度はゆっくり、お嬢ちゃんの好きなゆぅーっくりでしてあげるから」

「ぅ……」

 

 しかし続く言葉に思わず押し黙ってしまう。気持ちよくされるのが当たり前過ぎて、止めてという考えが浮かんで来なかった。

 

「まずは奥まで失礼しまーす」

「ぁ……ぁぁぁぁ……っ」

 

 にゅぷぅ、と指がゆっくりとおまんこの中に沈んでいく。

 ゆっくりで。その言葉に偽りはなく、先程嫌というほど抉られた性感帯を避けて、ミリ単位の速さでどろどろの膣内が奥までかき分けられていった。

 

「はい終点ー」

「ぁんっ! ……は、ぅ……」

 

 とん、と奥を軽く突かれた瞬間、半ば驚いたような声が漏れ出る。

 温海にはGスポットという知識はあったのだが、奥の方、ポルチオという概念は無かった。それ故に、またしても知らない快感に頭が混乱し、これからそこを苛め抜かれるという恐怖に怯える。

 

「安心して?」

「ぁっ……ぁぁ、ぁぁぁぁあっ……!」

 

 その瞬間、温海のお腹の中からとてつもなく甘い快感が膨れ上がった。

 

「奥を撫で撫でするの、じんわり来て気持ちいいでしょ?」

「ぅん……っ! これぇ……すきぃ……!」

 

 おまんこの最奥に位置するポルチオ。度重なる快感により子宮は完全に降りてきており、そこを指でなぞりあげるのは容易な事であった。

 くちっ、くちっと膣口を小さく鳴らしながらポルチオ全体がゆっくり撫で回され、理想的な快感に温海の口から正直な思いが漏れる。

 

「ほら、あまーいのがどんどん増えてくでしょー」

「んんんんぅ……! はっぁ、ぁぁ、んんん……!」

 

 それは腰が蕩けてしまうような快感。

 先程まで暴れ回ろうとしていた身体はひくん、ひくん、と快感を受け止め、先程までガクガクしていた腰はくなくなと揺れ動いていた。

 

「んふ、金縛りも解いてあげるねー」

「あっ……ん……! きもち、い……もっと……!」

「おや、かわいい」

 

 ついに身体の自由を得た温海であったが、最初の行動は今自分のおまんこを蕩けさせているその腕をひしっ、と掴む事であった。

 

「うんうん。もぉーっと、してあげるね」

「ふぁぁぁぁっ……! いい、よぉ……!」

 

 懇願され、その希望に沿うようにしてゆっくりとポルチオがかき回される。

 今まで中途半端にしか開かれていなかった両脚が、力が抜けるようにして大股開きになり、快感を全て受け入れる体勢へと変わっていく。

 

「こーこ。ポルチオって言うんだよー」

「ぽる……ちお……? はっ、ぁぅぅぅ……!」

 

 素直に復唱する様子に可愛さを覚えたのか、空いている手を温海が好む強さで肌に這わせていく。

 

「女の子がー、いっちばん蕩けちゃう場所」

「んぅぅっ……! ぽるちお、すきぃ……!」

 

 身体の外や内側が撫で回される度に身体中に快感がじんわりと浸透していき、温海の昂り過ぎた身体が熱を保ったままに快楽に最適化されていく。

 

「気持ちいいよね?溶けちゃうね?」

「ぅんっ……! いぃ……きもち、いい……!」

 

 望まぬ快楽に濡れていた瞳が、望んだ快楽で潤んでいく。

 膣内が、もっとそれをして欲しいとばかりにきゅぅぅ、と指を締め付ける。

 全身がくなくなと揺れるのに合わせて、徐々に、徐々に腰が浮き上がり始めた。

 

「これならイける?イっちゃう?」

「イくっ……! イくのっ……ぁぁ、ぁぁぁあ……!」

 

 ベッドの縁にもたれ掛かっていたその身体はとうに床にずり落ちていて、腰だけがゆっくりと天へ昇っていく。

 腕を掴んでいた手はいつの間にか離され、床に敷かれていたカーペットをきゅっ、と掴んでいた。

 大口を開けて嬌声を垂れ流していた桜唇からは、今や安心しきったように快感に浸った吐息をこぼしている。

 秘部に指を受け入れたままに胸を優しく撫で回され、脳が多幸感に満ち溢れていく。

 

 競泳水着を快感の汗で濡らしながら、温海は緩やかに高みに上り詰めた。

 

「ぁぁっ……! すごいの、くる……っ! ふぁ、あぁぁぁ……! んんんっ! んんぅぅぅっ……! いい、よぉ……! ぁっ、ぁぁあっ……! いっ……く……! いくっ……‼」

 

 その瞬間、温海の動きは停止した。

 奥を撫で回され、胸を撫で回され、優しく甘い快感に包まれながら、至るに至れなかったその場所に辿り着く。

 その絶頂はあまりにも深く、重く、腰が宙から降りて来ない。

 どろぉ、と膣口から粘度の高い愛液が溢れ、ぽと、ぽと、とカーペットに染みを作っていく。

 遅れてひくひくひく、と身体が痙攣し、とさり、と床へ腰が戻ってくるも、その身体の震えは治まらず、只々快楽に溺れていた。

 

「ふふ、かわいいなぁ」

「ぁんっ! ……ぁ……ぅ……ぅぁ……」 

 

 ちゅぽん、と指が引き抜かれ、胸を撫で回していた手で温海の頭が撫でられる。

 その感覚が愛おしいのか、まるで気持ちよくしてくれてありがとう、とでも言うように目を細めて為すがままになる温海。

 

「いいよー。このまま寝ても」

「ぅ、ん……」

 

 すりすりと、髪を撫でるその手に頭を寄せながら、温海は意識を落とした。

 くたぁ、と身体を横たえる温海と、傍に寄り添う鮫。

 静かになった室内にはいやらしい匂いだけが漂う。

 

 

 

「いや、やっぱりごめん!」

 

 

 

「ひぁああああああああっ⁉︎」

 

 だが、安息の時は唐突に終わりを告げた。

 

「ごめんねっ!ごめんねっ!」

「あああああああっ⁉︎ んんぁああああああっ!」

 

 目を見開き、何が何だか分からない中で自分に起きた異変を確認しようとする温海。

 

「最後だからっ! これで最後だからっ!」

「なにっ、ああああっ! やめっ、はぁああぅっ!」

 

 五指を揃えた状態で、その広い面積を使って温海のクリトリスが円を描くようにして捏ね回されていた。

 先程までの甘い感覚とは全く異なる、先程までの激しい快感。

 その激流の中に温海は再度叩き落とされる。

 

「お嬢ちゃんがかわい過ぎるのがいけないんだって!」

「しらなっ、やああクリだめえええぇぇえっ!」

 

 くにゅくにゅくにゅくにゅ、と優しい手付きで激しく快楽が叩き込まれる。

 再び与えられた激感におまんこがきゅぅぅぅ、と閉まり、中で溢れ返っていた愛液がだらだらと川を作るようにして流れ落ちていく。

 

「いっぱい弄ってあげるから! 気持ちいいの、いっぱいあげるから!」

「あああぁぁああっ! もうっ、だっめぇぇええっ!」

 

 その懇願が再び受け入れられる事は無かった。

 寧ろ激化する。

 

「ひんっ⁉︎ あっ、だめ、そんなの、そんなの……!」

 

 一番敏感な、一番快楽を感じてしまうそこが、そこを守っていた最後の砦が、剥かれた。

 

「もっと気持ちいいからっ! ねっ⁉︎ ねっ⁉︎」

「ああああああああっ! んんぁああぅううっ!」

 

 空気に触れるだけで快感が走ってしまうほどに硬く大きく育ち切ったクリトリス。

 そんな場所が、そんな局部が、五指を揃えられたままに、ピチピチピチピチ、と高速で横になぶられ始めた。

 

「イこっ⁉︎ イこっ! ねっ⁉︎ ねっ⁉︎」

「んあああぁぁぁあっ! ああっ! あああああっ!」

 

 イける筈が無い。

 こんな絶大な快楽でイける筈が無い。

 だがポルチオでイった直後の、絶頂とまだ近い距離を保っていた身体は、急速にその域まで近付いていってしまう。

 

「ごめんねっ! ねっ⁉︎ だからイこっ⁉︎」

「んんぃぃぃいいっ! むりいいいっ! ああああっ!」

 

 クリトリスが右に何度も弾かれて、左に何度も弾かれて、それが何度も、一瞬のうちに何度も繰り返される。

 元から真っ赤であった温海のクリトリスはその刺激によって更に赤く腫れ上がり、何もしなくてもジンジンとした快感を発するだろうに、何度も何度も断続的にビチビチビチと圧し潰しながらなぶられる。

 

「無理じゃないよねっ! ほらっ! 腰浮いてきてるもんっ!」

「あああああちがっ! んんんあああぁぁぁぁっ!」

 

 温海の口応えに返されたのは更なる速度での蹂躙。

 だが鮫の言う通り、温海の尻は床を離れ、高々と腰を宙に突き出しており、指の動きに合わせて愛液をそこら中に撒き散らしていた。

 

「ほらっ! イきたいよねっ! ねっ!」

「んやぁぁあああっ! やだっああっ! んぃぃいっ!」

 

 イきたい、けどイきたくない。温海の脳内は二つの感情が入り混ざっていた。

 こんな絶大な快感を基に絶頂してしまったら、おまんこが、腰が、身体が、脳が無くなってしまうのではないか。

 そうした恐怖が、いつ絶頂してもおかしくない状態で温海を留まらせていた。

 

「大丈夫っ! 私っ、ず(・)っ(・)と(・)一(・)緒(・)だから!」

「はぁああぅっ! ほん、とっ⁉︎ あああぁああっ!」

 

 だが、そのストッパーが、外された。

 一人でどこもいったりしない。彼女が抱き止めてくれる。そんな感情が、枷を打ち壊した。

 

「ほんとっ! ねっ⁉︎ だからイこっ! 今イったら絶対気持ちいいよっ!」

「ぅんっ! うんっ! あああぁっ! ふぁあああっ!」

 

 だから、快楽以外で緊張していた身体と心が、完全に快楽を受け入れた。

 

「かわいいよっ! ずっと一緒だよっ!」

「ああああぁぁぁっ! いくっ! いくいくいくぅっ!」

 

 だから、最速で、一直線に温海は今まで体験した事のない先へと至った。

 

「んんぁああああっ! きもちいいっ! いいのっ! ああああっ! こん、なのぉっ! はぁああぅぅぅっ! いくっ! いっ、くぅぅっ! あああっ! んんんんぁあああああぁぁぁぁあぁぁああっ‼」

 

 びぐん、と身体が波打った。

 温海の表情は快楽に溶け、身体中から汗が噴き出る。

 頭を撫でられながら絶頂し、快楽と多幸感で全てがどうでもよくなる。

 おまんこごとクリトリスが掻き混ぜられ、ぐちゅぐちゅぐちゅ、と鈍く重い音が部屋中に響く。

 だから彼女の腰は地に戻って来ない。高々と空に突き出しながらぶるぶると打ち震える事しか出来ない。

 よく鍛えられた太ももに愛液が川を作るほど溢れ、それでも尚ぽた、ぽた、膣口から直接溢れ落ちる。

 握りしめていたカーペットは歪み、むせ返る程の淫臭が立ち込める。

 

 遅れてびくびくびくっと水着に包まれたその身体が痙攣し、どすん、と尻が床に落下した。

 

「ああっ……! あっ……! ぅ、ぁ……!」

 

 絶頂の余韻は激しい。

 地に戻ってきた腰は尚も、何度も空を打ち、脚が、腕が、お腹が、跳ね回る。

 

「かわいかったよ……!」

「んっ……! ぁ……ぅん……」

 

 最後に、落ち着かなかった身体をぎゅぅ、と抱きしめられ、安心感に包まれながら、今度は叩き起こされる事なく温海は意識を落とした。

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ありがとう! 出なかったよ!」

「それは、まぁその、何よりです」

 

 キャンパス内の主要施設から離れた学食。

 そこで温海は金山から感謝されていた。

 

「あのままじゃ彼氏も呼べなかったし、その、一人で、その、ちゃんと、出来たし……と、とにかく! ホント助かったよ!」

「そんな、あの、頭上げてください」

 

 温海による除霊の翌日。

 最近部屋に帰ると反射で欲情してしまっていた金山は久しぶりに一人でご満足出来たらしく、何度も何度も頭を下げた。

 

「でもプロって凄いね。まさか本当に除……出来るなんて……あ、この間つき返されたお金、ちゃんと貰ってよね!」

「あーその……んっ……はい、頂きます」

 

 唐突にぴくん、と身体を跳ねさせる温海であったが、差し出された茶封筒を恭しく受け取った。

 

「あっ! ごめん彼氏から呼ばれた! じゃあねっ! ホント、ありがとねっ!」

「はい、またサークルで」

 

 そうして慌ただしく金山は去り、温海だけが学食に残された。

 

「……外ではしないって約束でしょ」

 

 だが、誰もいない筈の学食に温海の声が小さく響く。

 

「いやー急に温海ちゃんのお尻揉みたくなって?」

 

 そして、温海にしか聞こえない飄々とした声が響いた。

 

「せっかく憑いた記念で? つい?」

「……つい、じゃないから」

 

 そう。金山達の住むアパートから鮫を引き離す事は出来たのだが、結局除霊は出来ず、それどころか温海に引っ付いて来るようになってしまっていた。

 

「まーまー、これからもっと仲良くしていこーよ」

「……いつかぶち祓ってやる」

 

 宙に浮きながら妖しい笑みを浮かべる鮫に対し、温海はジト目を送る。

 

「えーそんな事言っちゃってー」

「……んっ⁉︎」

 

 だが、するり、と鮫は温海に近付き、衣服をすり抜けて陰部に指を突き入れた。

 

「お尻撫でられただけでこーんなに濡れちゃってるのに?」

「ちがっ……は、ぁ……っ」

 

 くちっ、くちっ、と下着の中で淫猥な音が鳴り出す。

 顔を真っ赤に染めてぎゅう、と股間を押さえる温海であったが、その狼藉を止める事は出来ない。

 

「ふははー。都合の良い時だけ完全霊体化の術ー」

「ふざけ、ぁんっ!」

 

 温海の弱点をピンッと弾かれ、食堂内に独り言にしては色っぽ過ぎる声が一瞬響いた。

 

「まぁ今はここまでにしとくよー」

「は……く……こ、のぉ……!」

 

 今しがた温海を苛めた指先をぺろりと舐め、意味ありげな視線を温海に流す鮫。

 

「帰ったら、凄いの、またしてあげるっ」

「要らないっ……!」

「お尻とか」

「お尻っ⁉︎」

「やさしーく気持ちよくしてあげるからー」

「し、しなくていいっ!」

「お? やらしい匂いがするぞぅー?」

「い、いちいち嗅ぐな!」

「えーだってこんなにえっちな……」

「う、うるさいっ!」

「温海ちゃんの方がうるさいですー。ほら、厨房の人こっち見てるよー?」

「……っ! こ、の……!」

 

 

 

 そうして、金山達のアパートから嬌声が鳴り響く事は無くなり、温海の住むアパートから、特定一部の部屋から嬌声が鳴り響くようになった。

 

 

 


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