※この作品はR-18です。

軍用義体を取り上げられてセクサロイドに脳殻移植されたTS重サイボーグ傭兵(元40代おっさん)が少年の性癖をバキバキに折る話   作:ぱふぇ

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[3] 瀕死のムコを前に、72時間不眠不休の修理に挑む。

 

 どうにかこうにかムコを施術台に引きずり上げて、オーバーヘッドライトを真上にかざす。スイッチを入れた瞬間、冷たい白色光が影という影を消し飛ばし、ボディの損傷を一切合切さらけ出した。

 

 酷い有様だった。

 

 左腕は綺麗サッパリ消失。クロダの反動(キック)で肩の関節部が粉砕されて、付け根からまるっと千切れて飛んでった。断面からケーブルがぶらんぶらん垂れ下がってる。

 真っ白でスベスベだった人工皮膚(リアルスキン)は完全にお釈迦だ。5.7ミリ弾の着弾痕はざっと数えて17ヶ所。ところどころ帯状に裂けて皮一枚で繋がってる感じだ。しかも最後のマイクロランチャーのせいで、胸から腹にかけて炭化してやがる。

 その裂け目から覗くチタン・セラミック複合材のフレームには、徹甲弾がブチ抜いた箇所箇所を中心に放射状のクラックが走ってる。もう一発あれを食らってたらバキバキに砕け散ってたな。

 

 これでも目視できる範囲の話だ。

 診断コンソールに接続してフルスキャンを走らせると、エラーログが2分近くスクロールし続けた。

 

 俺はしばらくそこに突っ立って、施術台の上の惨状をただ見つめて、考えた。

 ――これ、直せんのか?

 

 もしこれが、その辺の傭兵が持ち込んでくるフツーの軍用義体だったら? 客には「悪いけど新しいのに乗り換えてくれ」って頭下げる。使えるパーツだけ抜いて残りはスクラップ行きだ。

 でもこいつは「フツー」じゃない。最高級セクサロイド・クグツメで、その中に人間の脳殻が入ってる。で、その脳は――このボディから出られない。

 あの悪趣味極まりない強制換装は片道切符だった。ムコの脳殻は今やこのボディにハードコードされてる。ポンと取り出して別のものにスロットインなんてのは不可能。

 

 つまり選択肢なんてないってことだ。

 やるしかねえ。

 

 表に「臨時休業」の札を引っ掛けて、仕事に取り掛かった。

 

 

 真っ先に脳殻だ。ここが逝ってたら他が全部無事でも意味がない。俺はただの死体を引きずり回してることになる。

 

 頭蓋パネルのロックを解除する。

 開いていく隙間から、ヒシガミ製旧式軍用グレード脳殻(ブレインシェル)の銀色の曲面が露わになる。

 

 最悪のシナリオが勝手に頭の中を駆け巡る。

 もしシェルにダメージがあったら……冷却液が漏れてたら、衝撃吸収ゲルが破裂してたら、格納部に、ほんの髪の毛一本分でもヒビが入ってたら……もうお手上げだ。下層の町工場の技師(テッキー)がどうにかできるレベルを完全に超えてる。メガコーポの専門施設に持ち込むしかない案件で、そんなことしたら即座にムコは「回収」される。

 

 頼む、マジで頼む。どうかここだけは無事でいてくれ……。

 

 ――そして、ずっと止めてた息が一気に漏れ出た。

 完璧な銀色の鏡面がそこにある。

 マジで助かったことに、脳殻は無傷だった。

 

 ヒシガミ様々だ、企業戦争でクソほど儲けて天下取っただけのことはある。このシェルは中の灰白質をスクランブルエッグに変えちまうような熱と衝撃に晒されても、びくともしなかった。

 でも物理的に無事ってのと、中身が正常に動いてるってのは別問題だ。

 

 診断ログに目を通すと、状況は思ったより深刻だった。

 もう存在しない神経経路に信号を送り続けて、クラッシュしたサブシステムを再起動しようとして、何度も何度も失敗を繰り返してる。

 俺が手を打たなかったら、たぶんあと数時間でシステム全体がクラッシュする。

 で、そうなったら強制再起動するしかないが、損傷してる脳殻にリブートかますなんて、コインを投げて天に任せるのと変わらない。表が出ればセーフ、クリーンに立ち上がる。裏が出たら、ムコに残ってたわずかな記憶がさらにぶっ壊れて、人格データが修復不可能なレベルで破損して、最悪、二度と目覚めない。

 

 俺は深く息を吸った。吐いた。

 OK、落ち着け。焦んな。一個ずつ順番に片付けていく。まずは優先順位の整理だ。

 非必須システムから片っ端に電力供給を落とし始めた。センサー群も、運動系も、生命維持に直結してない機能は全部殺す。解放したリソースは全部、脳殻の安定化にリルートする。

 

 それから掃除だ。

 ターミナルを立ち上げて、アクティブメモリをパンパンに詰まらせてる何千ものクラッシュレポートを手作業でクリアしていく。

 エラーコードを読んで、失敗した経路を特定して、バイパスルート組んで、ログをクリア。次のエラー。次。また次。さらに次……。

 柄杓で沈没船から水を掬い出してるような気分だ。でも少しずつ、本当に少しずつだが、水位が下がってくる。溺れかけてたシステムが息を吹き返す。

 ソフトウェアが自殺しないレベルにまで安定させるのに、丸々5時間費やした。

 やっとハードの修理に入れる。

 

 フレームの状態は最悪の一言に尽きた。

 あの徹甲弾が亀裂を入れたのもクソだが、さらにマイクロランチャーの着弾の衝撃で破片が内部機構の奥深くまで押し込まれてる。アクチュエータの駆動部とか、神経束の周りとか、泣きたくなるような場所にだ。

 工房の隅に追いやってたマイクロマニピュレーターをガラガラ引っ張り出した。2メートルの多関節アームの先端に、精密な小さな爪がついてる。これが俺の指の延長になる。

 慎重に、これ以上ないってくらい慎重に、破片を一個ずつつまみ上げて、金属トレイにカチンカチンと落としていった。深く食い込みすぎてるのもあって、そういうのは周りのアクチュエータを部分的にバラさないと取り出せない。

 亀裂そのものは液状複合材(リキッド・コンポジット)で補強する。これめッちゃくちゃ高いんだよな……。1本2000クレジット。結局8本も使っちまった。背に腹は代えられない。

 流し込んで、超音波振動でクラックの奥の奥まで浸透させて、誘導加熱器で硬化する。構造整合性をテスト。まだダメ。もう一回注入。加熱。テスト。良くなった。次に進む。

 

 完全に死んでるパーツもゴロゴロ出てきた。

 肩のアクチュエータは粉々、ジャイロスコープは熱でひん曲がってて使い物にならない、直撃食らった胴体のセンサーノードも死んでる……全部交換だ。

 代替パーツは全部、俺のジャンクコレクションから引っ張ってきた。「いつか本気でカスタムテック作る時のために」って何年もヘソクリしてたガラクタの山。その「いつか」がこんな切羽詰まった形で来るとは思わなかったけどな。

 当たり前だけど、クグツメの純正部品なんて下層地区の店先に転がってるわけない。しかもカグラザカ・ニンギョウは独自規格で固めてて、完全に閉じた自社エコシステムだ。

 合わないなら無理やり合わせるしかない。

 スクラップにしたヒシガミ製の拡張義肢(サイバネティクス)からアクチュエータを引っこ抜いて、旋盤にセット。マウントポイントの形状が一致するまで削り出す。それからクグツメのボディに仮取り付けして、診断ツール繋いで、応答曲線を延々と手調整。ボディが「これは自分の一部だ」って認識するまで較正を繰り返す。

 これを色んなパーツで30回以上やった。

 

 で、ここからが本当の地獄。神経インターフェースの再接続だ。

 脳殻とボディを繋ぐ神経束(ニューラルバンドル)。人間の髪の毛より細い、何千本の光ファイバー。こいつらを一本残らず、0.05ミリの誤差も許されない精度で整列させて、温度管理しながら融着していく。

 

 6時間ぶっ通しでやってたら、手が言うこと聞かなくなってきた。

 俺の両腕は肘から先が拡張義肢(サイバネティクス)に換装されてる。精密作業用に特化した技師用モデルで、生身の腕以上の精度で動かせる……はずなんだが。余計な信号を拾ってるのか、それとも制御系がオーバーヒートしてるのか、指先にピクッピクッて細かい痙攣が走って、作業にならない。一旦手を下ろして、ブンブン振る。指を開いたり閉じたりする。生身だったら血流を戻すところだが、こいつは冷却液の循環を促すためだ。よし、続き――って、またすぐ震えてくる。

 緊急用の医療キットを漁って、興奮剤(スティム)パッチを見つけた。たぶん心臓に良くないけど、んなもん知るか。首に貼り付けた。30秒くらいで突然視界がバキッと鮮明になって、手の震えが嘘みたいに止まった。

 米粒サイズのマウントに髪の毛みたいなケーブルを通す作業に戻る。

 

 8時間あたりで背中がマジでヤバくなってきた。一度伸びをしたら、背骨が古いプラスチックを踏み潰したみたいな聞きたくない音を立てた。

 

 12時間経過。右手の滑り止め(グリッパー)からピンセットがすり抜けて、床にカラン、カランって転がっていった。自分の手を見下ろす。指関節が完全に硬直してやがる。無理やり一本ずつこじ開けて、グーパーグーパー動かして接続を安定させる。

 

 いつの間にか作業台に突っ伏して寝てた。首が変な角度に曲がって激痛。自分のヨダレで作ったちっちゃい水たまりに頬がくっついてた。最悪。

 体を剥がして起き上がる。1時間くらい意識が飛んでたらしい。

 作業台の端に転がってる栄養バーの空き袋を見る。最後の一本をいつ食った? 覚えてない。

 

 マジで休憩取るべきだよな。椅子じゃない場所で数時間ぶっ倒れるとか、まともな飯を食うとか――そう思うたびに、視界の端にムコが映る。

 そしたら思い出すんだ。

 ブッチャーの重義体が、白い体を押さえつけてたのを。あの手がムコの胸に食い込んでたのを。

 歪んだボコーダー声が、耳の奥で反響する。

 『また取りに来る』って。

 

 そんなことさせてたまるかよ。

 

 俺は銃も撃てない。カタナも振れない。でも工具なら使える。義体なら直せる。これが俺の戦い方だ。ムコを守る方法が、これしかないなら……。

 意地だけで手を動かし続けた。

 朝も夜も関係ない。

 

 施術台のライトが白い円を作り出して、その向こうは闇。

 それ以外の世界は存在しない。

 ただ俺がいて、工具があって、バラバラに開いたムコのボディがある。

 

 ほとんど食わなかった。たぶん合計4時間くらいしか寝てない。時間感覚を失った。診断して、修理して、テストして、また診断……機械的にループを回す。

 最後には視界が二重にブレて、15分ごとに瞬きすることを思い出させるアラームをセットしないといけなかった。

 

 診断をかけるたびに、エラーログの行数が減っていく。

 ダメージ評価のステータスが変わっていく。真っ赤な致命的(CRITICAL)が、オレンジの重度(SEVERE)になって、黄色の中度(MODERATE)になって、緑の許容範囲(ACCEPTABLE)へ。

 

 3日目の朝。

 最後のアクセスパネルを閉じて、最終診断を走らせた。

 プログレスバーが0%から始まって、1%……2%……3%……俺をからかってるみたいにジリジリ進んでいくのを見守った。

 結果は……ほぼ全項目正常(グリーン)

 いくつかのサブシステムに黄色い警告が出てるが、赤はゼロ。

 

 一歩後ろに下がって、施術台の上を見た。

 自分がやった仕事を、全体を、じっくり眺めた。 

 

 ムコの胸が、ゆっくりと上下してる。

 セクサロイドの疑似呼吸システムが作り出す、穏やかなリズム。まるで眠ってるみたいだ。

 人工皮膚(リアルスキン)はまだ手付かず、美容修復する時間も気力もなかった。左腕も欠損してる。見た目はボロボロだ。

 でもシステムは安定してる。バイタルも問題ない。生きてる。

 

 やった。

 マジでやり遂げた。

 

 その瞬間、糸が切れた。

 白い人工血液まみれの作業着のまま、その椅子で気絶した。

 

 

 半日寝てたらしい。飛び起きた。

 慌てて施術台を確認すると、ムコはまだそこにいた。

 すぐに診断モニターを確認する。

 脳殻の活動は安定してる。意識レベルも徐々に上がってきてる。グラフが右肩上がりだ。

 あと数時間か、もしかしたら丸一日かかるかもしれないが、準備が整えば目を覚ますはずだ。

 

 ……よし。ムコは大丈夫だ。

 ってことは、俺もそろそろ人間に戻ってもいい頃だろう。

 

 よろよろと階段を上がって、居住区画のシャワーブースに転がり込んだ。

 温度設定を最高まで上げて、熱湯を頭から浴びる。3日分の垢と、汗と、こびりついた他人の血が、剥がれ落ちて排水溝に吸い込まれていく。その渦をボーっと眺めてた。何も考えられない。

 シャワーから出て、ようやく猛烈に腹が減ってることに気づいた。

 インスタント炒飯をカリカリになるまで温める。工房のカウンターに立ってフライパンから直接食いながら、部屋の向こうの診断モニターからは目を離さない。ムコのバイタルが順調に刻まれていくのを確認する。もう2人前作って、それも全部食った。72時間放置されてた胃袋が大騒ぎして、失われたカロリーを全部取り返そうとしてやがる。

 

 匙を動かしながら、モニターを見る。

 時々、脳波の波形がピクッと跳ね上がる。何かを処理してるのか……もしかしたら夢でも見てるのかもしれない。

 

 腹が落ち着いたところで、次の仕事に取り掛かることにした。ずっと後回しにしてた人工皮膚(リアルスキン)の美容修復だ。

 うちに来る客のほとんどは重サイボーグ、クロームとカーボンファイバーの塊みたいな連中だ。だから俺はこの手の作業の専門家ってわけじゃない。でもまあ......見られる程度には。

 色合わせした培養パッチを慎重に貼り付けていく。継ぎ目が目立たないように境界を馴染ませる。完璧じゃないが、遠目にはわからないくらいにはなった。

 

 それから、吹っ飛んだ左腕の問題。

 現場に戻って回収するって選択肢も一瞬考えた。でもあの荷降ろし場(ローディング・ドック)、今頃オムニゲンの企業警備が封鎖して、あの腕も証拠品として押収してるだろう。

 諦めるしかない。新しいのを作る。

 右腕のスキャンデータを取って、ミラー反転させて左腕用のフレームをプリントし始めた。プリンタが唸りを上げて、少しずつチタン・セラミック複合材を積層していく。

 その時だった。

 

 診断モニターのアラートが鳴った。バイタルサインが急激に変化してる。

 俺は反射的に立ち上がって、バランス崩してスツールから転げ落ちそうになった。なんとか持ちこたえて、施術台に駆け寄る。

 

 ムコの目が開いた。

 光学システムが再起動してる。人工の虹彩がカチ、カチ、カチ、と急速に拡大・収縮して、焦点を合わせる。眼球が動く。天井のライトを追う。

 それから、上体を起こした。

 右手を持ち上げて、指を一本ずつ曲げて確認する。手首を回転させて、関節の可動域を試してる。

 

「ムコ……?」

 

 俺が声をかけると、その顔がゆっくりこっちに向いた。

 視線が合う。

 

「おい、ムコ! 聞こえてるか!? どうだ、気分は? 痛みは? どっかしびれてないか? あ、全身較正(キャリブレーション)するまでは無理に動かすなよ、まだ安定してないから――」

 

 言葉が堰を切ったみたいに溢れ出る。安堵と興奮でごちゃごちゃだ。

 ムコは黙って俺を見てた。

 数秒の沈黙。

 そして口を開いた。

 

「ちゃんと戦いたい」

 

 ……。

 

 ……は?

 

 急停止してムコをただ見つめる。

 

 今、なんつった?

 

 「助けてくれてありがとう」じゃない。「ブッチャーはどうなった?」でもない。「ここは安全なのか?」ですらない。

 目覚めて最初の一言が――「戦いたい」。

 

「……マジで言ってる?」

 

 俺の声が若干引きつってる。

 

「お前な、死にかけてたんだぞ? あと一発マトモに食らってたらスクラップだった。俺が3日間、寝ずに食わずで必死こいてお前を組み直したから、今そうやって喋れてんだよ! で、目覚めて最初に言うことが『ちゃんと戦いたい』? お前、正気か!?」

「ああ」

 

 即答。一ミリの迷いもない。あの低い声に、フラットな確信だけが乗ってる。

 長い脚が施術台の縁を超えて、床に降りた。素足がコンクリートにヒタッと着地する。スムーズだ。72時間前にボロボロの瀕死状態だったことなんて嘘みたいに。

 

「あの交戦中に感じた。このボディにはポテンシャルがある。反応速度、センサー精度、出力……想像以上だった」

 

 ムコが右手を持ち上げる。武器の感触を確かめるように、拳を握る。開く。

 それから視線を左肩に落とす。

 そこには何もない。千切れ飛んだ左腕の痛々しい欠損。断面を覆う応急カバーだけが、虚しく光を反射してる。

 

「だが同時に、限界も見えた。今のままでは不十分だ。次があるならその時は……100%で臨みたい」

 

 ムコが顔を上げて、真っ直ぐ俺を見る。

 

「ブラッド。お前ならこの義体(ボディ)の性能を引き出せる。手を貸してほしい」

 

 俺は言葉を失った。

 

 こいつ……死ぬ寸前までボコボコにされて、3日間も意識失ってたのに、目覚めた瞬間もう「次」のこと考えてる?

 頭おかしいんじゃねえのか!?

 いや……

 

 その瞬間、全部腑に落ちた。

 

 ムコは単なる戦闘のプロじゃない。訓練がどうとか、スキルがどうとか、そんな次元じゃなかったんだ。

 こいつは40年以上、全身義体(フルボーグ)として戦場を渡り歩いてきた。

 自分の(ボディ)は武器。その認識が、神経レベルまで、意識の根幹まで、自我の奥底まで染み込んでる。

 

 ブッチャーが言ってたことを思い出す。

 

『変わらねえな、その太刀筋は――見りゃわかる。ファックトイに閉じ込められても、お前の本質は何一つ変わっちゃいねえ』

 

 ムコの本質は、振るわれたがってる刃そのもの。

 

 軍用義体を奪われて、セクサロイドボディに閉じ込められて、それからどれくらい経ったかわからないが、ムコはブッチャーとの戦いで久しぶりに「本物」を味わった。

 (タマ)()り合い。ギリギリのエッジ。あのヒリつく感覚。

 そして今、もっと欲しいと言ってる。

 

 俺は怒るべきなんだろうな。

 3日間命削って直してやったのに、礼の一つもなしかよって。でも怒れなかった。疲れすぎてて、怒るエネルギーすら残ってない。

 

 それどころか……

 正直、こう思った。

 

 ……いいじゃん、面白そう。やってやろうぜ。

 

 胸の奥で何かが点火するのを感じた。

 

「……俺に改造させたいって?」

「ああ」

 

 作業台に背中を預けて、腕を組む。

 

「わかった。そこまで言うならやってやるよ。イチから作り変えてやる」

 

 ムコの顔が上がる。あの無表情な目に、わずかに感情が宿った気がした。

 

「やってくれるのか?」

「その前に一つ確認させろ。お前、今自分が何を頼んでるか、ちゃんと理解してる?」

 

 俺は作業台から離れて、一歩前に出た。

 

「お前が俺に託そうとしてるのは、軍用グレードの、しかもカグラザカ製のハイエンドフレームだ。それを好きに改造していいって言ってる。俺が何をしていいか悪いか誰も指図しない。やりたい放題、フルカスタムの許可をくれるってことだ」

 

 普段やってる仕事には制約がクソほどある。

 クライアントが「これは欲しいけどあれは要らない」とか細かく注文つけてくる。予算がタイトで、本当に使いたいパーツが買えない。「保証が切れるからこのシステムには触るな」って釘を刺される。メーカー仕様を守らないと保険が適用されない。

 そういうのが全部取っ払われたら?

 

 口の端が勝手に上がってくる。もう隠せない。

 

「それって……マジで全技師(テッキー)の夢なんだけど」

 

 だって考えてみろよ。

 戦闘用義体をいじってるテックオタクなら、誰だって一度は妄想するだろ?

 「もし何の制約もなかったら、どんなクレイジーなもんが作れるだろう」って。

 ハイエンドのハードウェアを手に入れて、イカれたカスタムをブチかます。ただ純粋に、自分の美学と浪漫だけで義体を組み上げる。そういう夢。

 

 しかも今回のベース素体は、カグラザカ・ニンギョウの傀儡女(クグツメ)だ。

 最高峰セクサロイドメーカーのフラグシップモデル。最先端マテリアルで組まれたフレーム、軍用義体を超える超高密度センサー、予知じみた反応速度……それが初期搭載。

 そして何より、乗り手がいる。

 その性能をフルに引き出せる、百戦錬磨の戦闘狂が、目の前に。

 

 これで何ができる?

 想像しただけで興奮する。

 とんでもないものが作れる。

 

 クソエロくて、クソ強くて、クソカッコいい――究極の殺戮人形(キリング・ドール)

 

 ……そんなもん、作れるもんなら作ってみてえに決まってんだろ!!

 

 その夜、俺はまた寝なかった。でも今回は理由が違う。興奮で眠れなかったんだ。

 設計ソフトを立ち上げて、スケッチを始めた。アイデアを次々と画面に落とし込んでいく。気がついたら朝になってて、改造プランが完成してた。

 

 

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