いがみ合っていた二人の巫女がエロ双六を通じて強制的に仲良くさせられる話 作:ハヤ0313
『十分間ベロチューしよう! 開始まで十分以上かかったらペナルティだよ!』
ピシリ、と時間が止まった。否、体と思考が停止した。
ベロチュー、という言葉が分からないほど初心ではない。無論二人とも知っている。どういう行為なのかを勿論知っている。知っているが、知っているからこそ、硬直した。ヤバ過ぎる、と。
もはやこの儀式がヘンテコである事は重々承知している。この儀式で妙にエロ的な事をさせられるのも重々承知している。この儀式で二人の距離を強制的に縮めさせられているのも重々承知している。
その上で、今この、全裸でのハグで、ちょっと変な気分になった状態での、ベロチュー。
マズイ事この上無かった。
「え、っと」
「その」
ギギギギ、と音が聞こえるかのように首を曲げる。
そこには先程まで至近距離にあった顔。忌み嫌ってはいるものの、互いに美少女だと認める顔。先程は触れるほど近くにあった、その唇。
「…………」
「…………」
視線が、唇に吸い寄せられたまま、動かせない。
思考が、唇を吸い合う事から、動かせない。
思考が、舌を絡ませ合う事から、動かせない。
ヤバイだのマズイだの、言っている場合ではない。
究極に、このままでは、いけない。何がいけないのか分からないが、とにかくいけない。
だが、それが、課題なのである。
この大儀式を遂行するのに必要な事なのである。
脳内に使命感が溢れ、警鐘が鳴り響く。
「…………」
「…………」
沈黙が、長く続いた。両者ともに何も言う事が出来ない。何か言ってしまったら、致命的な何かが始まってしまう。
だが、始めなければ、またあのペナルティが、今されたらあまり良くないと思われるあのペナルティが始まってしまう。何で
カウントダウンが止まらない。
ドクドクと心臓が早鐘を打つのが止まらない。
沈黙が止まらない。
だから、二人は何も言わず、その目で実行の意思だけ伝えた。
やるぞ、と。
躊躇っている時間は無いぞ、と。
嫌だと言ってる場合ではないぞ、と。
そして、
「んっ……」
「ん……」
唇を重ね合わせた。
軽く触れ合うだけの、柔らかなものを感じ取るだけの軽いキス。
だが、カウントダウンは止まらない。
「っ⁉」
「ん、ちゅ……」
由乃が、境の唇に軽く吸い付いた。
何度も、軽く吸うだけの、挨拶するような軽いキス。
だが、カウントダウンは止まらない。
「ちゅ、む……っは、ん」
「っ!」
境が、お返しとでも言うように由乃の唇に吸い付いた。
何度も、強く吸い付くような、予兆を感じるようなキス。
だが、カウントダウンは止まらない。
「ん、ちゅ、んぅ……っ!」
「ふ、ん、んむぅ……っ!」
カウントダウンが
最初は互いを目を見て無言の意思を伝えあっていたものの、その瞳は閉ざされ、この行為を遂行する事に意識が割かれていく。
「ちゅ、っぷぁ! は、んんっ……!」
「んん、はぁっ! ぁ……んぅ……!」
互いの肩に手が置かれ、時折きゅっと力が篭る。
何度も何度も唇が交差し、その度に舌と舌が絡み合う。
時に舌先だけで遊ぶようにして触れ合い、時に交互に舌を吸い合い、時に歯列をなぞるように探り合い、時に、深く絡み合う。
「っは! はぁ、はぁ……! んっ!」
「っぁ! ふ、ん……! ちゅぅっ!」
必死だった。
最初は、ペナルティが始まる前にとっとと終わらせる。その一心だった筈。
なのに、今二人を突き動かしているのはそんな使命感などではなかった。
気持ちいい。
ただただ気持ちいい。忌み嫌っていた、ただの協力者であった筈の相手なのに、唇を合わせているだけで、今こうして
呼吸が続かなくて唇を離しても、また欲しくなってしまって、息が整うや否や、また距離がゼロになる。いやゼロどころではない。互いに侵食し合って、距離がマイナスにさえなっている。
「ちゅ、む……んぁ、はぁ、んっ!」
「んぅ、は……はっ、ん、んぅっ!」
カウントダウンは進む。
ガラス盤の数字が減る毎に、二人の呼吸は荒くなっていく。
ちゅ、ぢゅ、と唾液が絡み合う音と吐息だけが鳴り響く。
最初は使命感だった、焦燥感だった。
だが、時折目蓋を開けて相手を見やるその瞳は蕩けきっていて、求めていて、どうしようもなくその行為に夢中になっていた。
唇を合わせる、唇を吸う、舌を伸ばす、舌を吸う、絡める。口先という極一部の場所なのに、そこから脳に送られる快楽の量が半端なものではない。
「ん、ふぁ……あ、ん……!」
「っぷぁ、はぁ、んっ……!」
全身が紅潮していく、全身が汗ばんでいく。でも唇が、舌が、止まらない、止められない。
残り時間がどれほど残っているのかなんて分からない。只々この行為が止められない。
再度、今度は口付ける角度を変えて、
「っ⁉ ふんっ! ぐぁっ!」
「っ⁉ ふっ! くぅぅっ!」
目にガラス盤の文字が見えた瞬間、互いに頭突きをかました。
「はぁっ……はぁ……っ!」
「ふぅっ……ふぅ……っ!」
カウントダウンは、とうに終わっていた。
終わっていた事に、気付いていなかった。
「はっ、ははっ。よ、余裕ねこんなもん!」
「ふ、ふふふふ。な、何ともないですね!」
なおその内心は揃って、
『やべぇ』
その一心であった。
無言で開始してしまったのもそうだが、夢中になってしまっていたという事実に耐え切れなかった。それ故の頭突きであった。照れ隠しが大げさ過ぎる。
「……由乃」
「……なんです、境さん」
床に手をついて、項垂れながら声を掛ける境。
「あたし、この儀式やり遂げる自信無い……」
「奇遇ですね。私もです……」
やり遂げる事自体は恐らく出来ると二人は思っていた。だが自信が無いとはそういう事ではない。
コイツと、忌み嫌っていた筈のコイツと、なんやかんやでイくところまでイくのではないか、それを恐れていた。
何せあれだけいがみ合っていた筈なのに、今では意気投合してしまっているのである。それは意見の面でもそうであるし、行為の中で、その、互いに求め合ってしまっている事実に気付いてしまったからである。
「……あんさ」
「……なんです」
疲れ果てた様子を見せながら、互いに見詰め合う。
「…………由乃、キスがっつき過ぎ」
「なぁっ⁉ いや境さんこそ必死だったじゃないですか!」
「はぁっ⁉ 人の事言えるぅ⁉」
「言-えーまーすー。栂峰さんちの境さんはいやらし魔人でしたー」
だから、茶化した。そうでもしなければもっと大変な事になってしまうと確信していたから。
「あんだけちゅっちゅちゅっちゅしておいてぇ?」
「それこそ人の事言えないじゃないですか!」
「ぐぬぬぬぬぬ」
「ぐぬぬぬぬぬ」
顔を突き合わせて威嚇し合う二人。
だが、
「っ!」
「っ!」
その距離が近過ぎて、先程の行為を思いだしてしまって、即座に距離を離した。
その後は無言。髪を弄りながらチラチラと互いを盗み見て、時折目線が絡み合って思わず目を逸らして、傍から見ればなんと初々しい二人組なのだという雰囲気を醸し出していた。
「……次、どっちだっけ」
「……私ですよ」
だから、気を紛らわせるかのように次を促した。
「今度はまともなの……いやこの際アレなのでも良いからどうか軽めのをお願い……」
「アレな時点で嫌ですよ……っと、六。とっとと終わらせましょう……」
ずず、と駒が進む。
六マス動いて、その移動が終わった。
そしてガラス盤に文字が浮かび上がる。
『十分間おっぱいを弄り合おう! 乳首もだよ!』
二人は項垂れた。
「どーぉすんのよ由乃ぉ……」
「知りませんよもう……」
どうするとは。知らないとは。
それはもう耐え切れそうにないという事。
「もうヤバいじゃん……ヤバヤバのヤバじゃん……」
「頭の悪い事言わないでくださいよ……」
認めていた。二人はもう既に認めてしまっていた。
即ち、
「たぶんもう完全にスイッチ入っちゃうんだけどぉ……」
「言わないでくださいってば……」
正確には、スイッチは既に入っている。
二人はそれが決定的なものになってしまう事をこそ恐れていた。この身体の火照りが、行き着く場所まで行ってしまう事を恐れていた。互いへのなけなしの反骨心が、無くなってしまう事を恐れていた。
「しかも乳首もだなんてぇ……」
「乳首言わんでくださいよ……」
境の弱点は自分からカミングアウトした通りに乳首である。
先程のベロチューは全裸でのハグから流れるようにして、無言の会話でやってのけたため、勢いで何とかする事が出来た。出来てしまった。
だが、今度はそうもいかない。会話をしてしまった。火照りは鎮みきっていないものの、一呼吸しっかりと置いてしまった。故に、正気に戻ってしまった。
その状態で、境の弱い乳首が、責められる。
境は乱れてしまうだろう。由乃はそんな境を直視しながら致さなければならないが、感化されない筈がない。熱い吐息を吐きながら悩ましげな声をあげる美少女を見て、何も思わないほどに由乃は鋼鉄の精神は持ち合わせていない。
つまり、この課題は二人にとって絶望的であった。
「……あのさ」
「……なんです」
だが、
「……優しくしてよね」
「……善処、します」
しなければならないのだ。
この大儀式を完遂するために。否、このアホみたいな状況から抜け出すために。
「はぁ。そっちから触ってくださいよ」
「なんで……あぁうん、そうね……」
二人は諦め、課題をこなす事にした。
先手は境。比較的弱い彼女の胸は後に回された。
そんな思惑の中、由乃の控えめな胸に手が恐る恐る伸ばされる。
「わ、わ、やわらか……」
「……っ」
控えめであろうとも女性の胸部である。境の手には、ふにょん、とした感触が返ってきた。
「えっと、痛く、ない?」
「えぇ、大丈夫、です」
慣れ親しんだ自分のものと違い、勝手が分からない。都度確認を取りながら由乃の胸が優しく揉み込まれる。
「ち、乳首も、触んなきゃ、よね?」
「一思いに、どう、ぞ……」
「じゃ、じゃあ、いくわよ……!」
「……ぁっ」
なだらかな丘の頂上に位置する蕾が、二本指できゅっ、と摘まれた。
「へ、変な声出さないでよ!」
「さっきの境さんも似たようなものでしたよ!」
由乃のちょっとした声にたじろいでしまい、思わずその指が乳首から離れてしまう。それでも課題の事は頭の片隅に残っていたのか、胸から手が離される事は無かった。
だが、そこから動かない。思いがけない反応に、動く事が出来ない。
「……なに止まってるんですか」
「だ、だってぇ……」
「ええい面倒くさい。とっととやりますよ、覚悟してください!」
「え、ちょ、ま、ひぅっ⁉」
故に、由乃がキレた。
境の豊満な胸に、手が伸ばされる。
「ひぁ、あ、ぅぅ、ぅ……っ」
「なん、なんなんですかこのおっぱいは……!」
多少の恨みを乗せ、ぐにぐにと境の胸を揉みしだく由乃。
だが文句を言いつつも、戦慄していた。なんだこの破壊的な力を持つおっぱいは、と。
指が、手が沈む。それでいて弾力が、張りがある。触っているだけで気持ちいい。もっと揉んでいたい。もっと。もっと。
「揉み、んっ、過ぎぃ……!」
「はっ⁉ ……い、いやそっちこそちゃんと揉んでくださいよ!」
そう、課題はおっぱいを弄り合う事なのである。故に、互いに互いのものを弄り倒さなければならないのだ。
「うぅぅぅ、このぉっ!」
「ひぁっ!」
課題の事を思い出させられた境は復讐に走った。
「ほらほらほら、これ、気持ちいいんでしょっ!」
「んぁっ! ちょ、こら……!」
由乃の胸の中心に咲いているピンク色の乳首が、くりくりと二本指で捏ねられ、堪らず官能の声がこぼれ落ちる。
「んんんぅっ! そっちが、その気なら……!」
「は、ぁぁあっ……!」
境の豊満な胸の中心でちょこんと突き出ていた乳首が、きゅう、と軽く摘まれ、明確な嬌声がこぼれ落ちる。
「ふ、ふふん。この課題はこっちが有利ですよっ」
「んんんぅぅぅっ! こ、のぉ、ふぁぁ、んんんっ!」
境が感じながらも憎々しげに見上げれば、上気はしているものの余裕そうな由乃の顔。
「ほら、もっとちゃんと触ってくださいよ」
「ばかに、してぇ、あっ、んぃぃぃ……っ!」
どうにかしてコイツに勝ちたい、と思うものの、こねこねされている乳首が気持ち良過ぎて思考が定まらない。それだけではなく、乳首と一緒に胸を持ち上げるようにして触られているのが、堪らなく気持ちいい。
境はかろうじて由乃の胸に手を置いてはいるものの、ただ一方的に嬲られている状態であった。
「ふっ」
しかし、快感に流されている中、勝ち誇った由乃の笑みが見えた。
境はキレた。
「むっちゅぅぅぅぅぅぅっ!」
「んんぅぅぅぅっ⁉」
キレた境の動きは素早かった。
由乃の胸に置いていた手を背中まで回し、即座に距離を詰め、眼前に迫った小さな果実に吸い付いた。
「んんんっ! ちゅ、んぅぅぅぅっ!」
「ひぁっ! ちょ、ま、んっくぅぅぅっ!?」
必死だった。境は必死だった。
この胸の弄り合いにおいて、自分に勝ち目は無い。だから勝つためには何でもする。それが相手に奉仕するような形であっても構わない。とにかく由乃を感じさせてやらなければ気が済まない。
「っは! あぅぅぅっ! んんんんんっ!」
「ぁんっ! 舐めない、でくださいっ! はぁっ!」
喘ぎながら、先程のキスで培った技術を惜しみなく投入する、
乳首に吸い付き、離し、吸い付き、舐め転がし、弾き、舐め、甘噛み、舐めしゃぶる。
次々と繰り出される舌技に、由乃も次第に翻弄され始める。
「んっ、んぅぅっ! はぁっ、あぅんんっ!」
「ひっうぅっ! んんっ! ぁあ、あんっ!」
だが由乃も負けてはいられなかった。感度が良過ぎるというデメリットを持っている境に負けるわけにはいかなかった。
境から胸を吸われている関係上触りにくくなってしまったが、腕を下へ伸ばし、豊満な胸を荒く揉みしだきながら乳首を責め転がす。
「ちゅむっ! ぁあっ! あぁんんっ! んんっ!」
「んんんんっ! っく、ふぁっ! あああぅっっ!」
互いに必死だった。課題の事など半ば忘れていた。
今二人の頭にあるのは、如何にして目の前の女を感じさせてやるかだけ。気持ちよくも無いことも無いという事だけ。
「むぅぅぅっ! あっ、あっあっ! ぅぅんんっ!」
境は抱き着いている事など気にしていられなかった。胸から送られてくるぴりぴりとした快感に流されかけていた。
「あぁぁぁっ! んんんんっ! この、んぃぃっ!」
由乃は境の事を赤子のようだと煽る事も出来なかった。胸から送られてくるねっとりとした快感に流されかけていた。
互いに互いを全力で責めていた。
こなさなければならない時間の事など忘れたように、ただただ相手を屈服させるためだけに胸を、乳首を責め立てていた。
今は相手の事しか、目に入って、
「あ、ちょ、境! 境さんっ! んぁっ!」
「ちゅぅぅぅぅっ!」
「時間っ! 終わりましたからっ!」
眼前に胸しか入っていなかった境と違い、由乃はギリギリそれに気付く事が出来た。
『合格。サイコロを振ってください』
ガラス盤の文字が変わっていた。なんなら終わった事を主張するかのように輝度が上がっている。
「ちゅぅぅ……?」
由乃の乳首を咥えたまま首を捻る境。ニヤニヤしているあたり、色々分かってやっていた。
「ぁっ、この、離れなさい……!」
「あぅっ……ふふん」
「こんの……」
それに気付いたからこそ、由乃は境の頭をむんずと掴んで引き剥がす。
「ずーいぶん喘いでいたじゃない?」
「よわよわ乳首がなーに言ってるんですかー?」
境は乳首をギンギンにさせながら、由乃は乳首をテラテラと輝かせながら、またマウントを取り合う。
……が、これは元々嫌いあっていたから、という理由も無くは無いが、共通する想いがあったからこそであった。
即ち、
『このままでは、マズい』
マウントでも取っておかないと、そういう大義名分がないと、色々危ういと悟っていたからである。
「……ふんっ。次、いくわよ」
「……えぇ、上手にサイコロを振ってくださいね」
「バカにしてんでしょ⁉」
「してますが何かっ⁉」
噛み付き合う二人であったが、内心ホッとしていた。まだ大丈夫、まだイケる、まだ正気を保っていられる、と。
「ふん。っていうか残りマス幾つよ。けっこう来たんじゃない?」
「一、二……残り十ですね」
この頭のおかしい大儀式……もはや大儀式と呼ぶのも憚られるが……ももうすぐ終わり。早ければあと二回でゴールというところまで来ていた。
「……頼みますよ」
「……任せなさい。とりゃっ」
二人は気付かないフリをしていた。一蓮托生であるから、という理由だけではない信頼感が芽生え始めていたという事から、目を背けていた。
だって、そんな事を直視してしまったら、まるで、コイツに。
出目は二。
「境さん!」
「ごめんて!」
信頼感などそんなもの無かった。灰塵に帰した。
「い、良いマスだと思うから!」
「絶対それフリですよね⁉」
ぎゃーぎゃーと騒いでいても駒は進む。
そして、課題が示された。
『十五分間クリトリスを弄り合おう!』
「…………」
「……良いマスが、何でしたっけ?」
ギギギと、ガラス盤から境へ視線を動かす由乃。
ギギギと、境の首は明後日の方角を向いた。
「しかも時間増えてるじゃないですかっ!」
「ごめんて! でも仕方ないでしょー!」
「仕方なくありませんよ! しかも二とか!」
「あぁもう! だったら私に振らせないでよ!」
「任せなさいとか言ってたじゃないですか!」
「だからごめんって言ったじゃん!」
ぎゃーぎゃーと騒いでいてもガラス盤の表示は変わらない。
いや、毎度の如くわざと騒いでいた。
おっぱいどころではない。女性の一番感じる場所なのだ。
そこを、十五分間。無理である。もう何かと無理である事を悟っている。だから逃げるようにして騒いでいるのである。
「えぇぇ、マジでぇ……?」
「マジでしょうねぇ……」
そして、現実を受け入れた。受け入れていないが受け入れた。
「え、マジで? マジであそこ触んの?」
「あそこに、触らなければならないんでしょうね」
全然受け入れきれてなかった。
「え、だって、え?」
「……はぁぁぁぁ」
動転する境。絶望する由乃。
しかし全然受け入れてはいないものの、立ち直りが早かったのは由乃であった。
「……境さん」
「な、なによ」
「やりますよ」
「えぇぇぇぇぇ⁉」
由乃の目は据わっており、覚悟完了というよりは自棄になっているようだった。そりゃまぁ、そうなる。
「ほら、立ってください」
「立ちながらスるの⁉」
「……あ、いえ座りながらでも良いんですけど」
境のツッコミに少し目の色が戻って顎に手をやり、少し考え込む由乃。
境はそれを戦々恐々と見守る。
「……そうですね、座りながらしましょうか」
「ち、ちなみにその心は?」
「身長差が面倒くさいな、と」
「何でそんなに冷静なのよ……ふふ」
合理的な理由ではあった。だがこのような状況下での判断に何かおかしくなってしまい、思いがけず笑みがこぼれた。
「む……」
「なによ」
そんな境を見て由乃はポカンとしてしまう。
驚いたような由乃の表情を見て、こんな状況下でなければ胸がすく思いが出来ただろうにと思う境。だが何に対して驚いたのかは理解していなかった。
「いえ、笑顔が可愛いな、と」
「なぁっ⁉」
境は赤面した。これ以上ないほど赤面した。それは屈辱であり、悔しさであり、恥ずかしさであり、
「なななな何言ってんのよ! ほら! やるわよ!」
「えぇ、そうしましょうか」
「何でそんな落ち着いていられるのよぉ……!」
誤魔化すように儀式に向き合おうとする境であったが、由乃が何故か無敵モードに入っている。
「いやもう、どうでもいいかなーと」
「何言ってんの⁉」
自暴自棄なだけであった。
「ちゃ、ちゃんとしなさい由乃!」
「いやそうは言いましても」
「これクリアしなきゃ出られないのよ⁉」
「そうですね。だからとっととやりましょう」
「どうでもいいってそういう事⁉」
そしてその意思は境にしかと伝わってしまった。
「そうじゃないでしょ! もっとこう! あるでしょ! こんな儀式なんだから!」
「えー」
「えーじゃない!」
境は宿敵であり、何かよく分からない感情を抱きかけている由乃がこういう有様なのを許せなかった。
嘘である。
自分ばっかり諦めて楽になろうとしているのをズルいと思ったのである。
「私だけ恥ずかしがってて何か負けた気になるでしょ!」
「私だって恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」
そして逆ギレした。案外まともな意識はまだ残っていたらしい。
「だってこんな事続けてたら頭おかしくなるじゃないですか!」
「頭おかしくなってるわよもう!」
「だから逃避したっていいじゃないですか!」
「良い訳ないわよバカ!」
そしてギャーギャー騒ぎ始めた。
「だいたいいきなり可愛いとか何よ!」
「可愛いものを可愛いと言って何が悪いんですか!」
「わっ……悪いわよ! 由乃だって可愛いわよ!」
「なっ……私は可愛いってキャラじゃないです!」
「知らないわよ! あー由乃可愛い可愛い可愛い!」
「はぁー⁉ 境さん可愛い可愛い笑顔が可愛い!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ!」
犬も食わないのである。
「はんっ! じゃあ勝負するわよ!」
「望むところです!」
そうして、何かよく分からないテンションのまま両者は近付き、足を交差させた。
「…………」
「…………」
正気に戻るのが早過ぎるのである。
「えっと、じゃあ、その……」
「……先にイった方が負けという事で」
「イくとか言うな」
一瞬前のドタバタした空気は霧散していた。
「…………」
「…………」
二人の目線が、互いの秘部に注がれる。
「……人の、初めて見た」
「……私も、です」
「……綺麗なもんじゃん」
「……境さんのも」
とりあえず、見た印象をそのまま伝えてみる二人。
どちらも普段からそこの手入れはしているらしく、綺麗に整えられた茂みがそこにあった。その下にはぴたりと閉じている陰唇。
「……由乃」
「言いたい事は分かりますから言わないでください。境さんもですからね」
「むぐ」
ハグから一連の流れで多少……多少なのである……興奮した証として、その下部にはてろてろと光る何かがあった。
そんなものを見てしまったからこそ、これからの行為に対して想像が否応無く膨らんでいく。
あれしきの事でこうなってしまうのならば、クリトリスを触ってしまったら、どうなってしまうのか、と。
「……出来るだけ優しく触るって事で」
「……軽い感じでいきましょう」
勝負の事などあっさりと忘れ、こくり、と何故か溜まっていた何かを飲み干し、二人はそっと手を伸ばした。
「んぅ……」
「んっ……」
ぴとり、と指がそこに触れた瞬間、同時に微かな吐息が漏れる。
儀式が始まった当初ならば鬼の首を取ったかのように囃し立てていただろうが、今となってはこっそりと目を合わせる事しか出来ない。
「じゃあ、いくわよ……ふぁ、ぁ……」
「ん……んっ……」
境の一声で、ゆるゆると指先が同時に動き出す。
打ち合わせ通りに、皮の上から、そっと触れ、くに、くに、と出来るだけ弱い刺激を送り込む。
「は……はっ……ん……」
「んぅ……ん……ん……」
共に声が出てしまわないよう、ゆっくりとした弄り合い。
境は熱い吐息だけを吐き出すように努め、由乃は吐息すらこぼすまいとして口元を押さえる。
「ふ、ぁ……はぁ、ん……っ」
「んんっ……んっ……んぅっ」
力加減を間違えぬよう、互いの秘部に視線を注ぎ、しかし時折目線を絡め合わせる。
無言のやり取りに、これで良い?合ってる?と確認の意思を乗せ、くにくにとクリトリスを刺激し合う。
「はぁ、ぁ……んぁっ……ん、っく……っ」
「んんんぅっ……ふーっ……ふーっ……!」
指先から伝わる感触が、だんだんと大きく、硬くなっていく。
それに従い、互いに漏れ出る吐息の量もだんだんと多く、深くなっていく。
……なっていっていたのだが、由乃の吐き出す量が、異様に多い。
「はっ……んっ……由乃……?」
「ふぅーっ……んんんんんぅ……ふぅーっ!」
境が問いかけても、荒い呼吸しか返ってこない。
どこか調子が悪いのかと心配しかける境であったが、くにくにと由乃のものを弄るたびにぴくん、ぴくんと身体が跳ねているのを見て……ニヤァ、と邪悪な笑みを浮かべた。
「んんんんんんんんんんっ⁉」
由乃の篭った声が部屋中に響いた。
そんな声を出した本人は目を白黒させながら境を見る。
「ちょっと由乃ぉー? ちょぉーっと触ってるだけで感じ過ぎじゃなーい?」
「んんんんんっ! んーんーっ⁉」
そんな事態を引き起こした境は勝ち誇った顔をしている。
境は、由乃のクリトリスに当てていた指の圧力を強め、ぶるぶると、まるでペナルティの時のように震わせたのであった。
由乃は口を押さえたまま、抗議するかのように唸り声をあげる。
「なーに言ってるかサッパリ分からないわねー、ぁっ」
「んんん境さっ、んぁぁっ! やめっ、ひぅぅぅっ!」
ついに口を開いて抗議しようとした由乃であったが、言葉をうまく紡げずに嬌声ばかり出てきてしまう。
「んっ、さてはクリオナばっかしてたでしょー?」
「ばかっ! ばかぁぁあっ! んんんっぃぃぃぃっ!」
由乃の叫びには、予定と違う、違う事をするな、今すぐやめろ、図星、色んな意味が含まれていた。
しかしクリトリスから昇ってくる快感に思考が邪魔されてしまい、只々罵る事しか出来なかった。
「ぁんっ! それともぉ、さっきまでので発情しちゃってたぁ?」
「ばかばかばかっ! ああぁぁぁっ! こ、のぉ!」
「ひぁぁぁぁぁああっ!?」
完全に上から目線で責め立てていた境であったが、当然のように反撃を受ける。由乃の指先が激しく円を描き始めた。
「あぁぁぁダメ! その動きヤバいって! あぁっ!」
「んんぅぅぅうっ! ぶるぶる、やめて、はぁぅっ!」
最初の打ち合わせなんて既に意味を成していなかった。もはや泥沼である。いや、忘れ去っていた勝負が再燃してしまった。
境は指を横に振動させ、由乃は指で円を描く。攻め手は違えど、それが相手にもたらす結果は一緒であった。
「はっぁんんんんっ! んっ、んんんんっ!」
「んぁぁああっ! んんんっ! んぃぃっ!」
快感を感じている事を吐露しそうになり口をつむぐ境。それに気付かず必死の思いで声を押し殺そうとして失敗している由乃。
共に真一文字に口を閉じ、時折それが崩壊する。その間も目線だけは相手から逸らさず、負けるものかと相手を責め立てる。
「あっ、ちょ、ま、んぁぁぁぁああっ⁉」
「あっ、こっ、の、はぁぁぁぁああっ⁉」
どうにかして相手を負けさせたいと、取った手段は一緒で、タイミングも一緒だった。
陰唇から零れ落ちている愛液を掬い取り、それをクリトリスへと塗りこんだ。
「んやぁぁあっ! ちょ、由乃っ⁉」
「んんんぃぃぃっ! 境、さんっ⁉」
今までの刺激と異なるにゅるにゅるとした感覚。その新たな感覚は絶大な効果を発揮し、クリトリスの快感が一段階上がる。
今まではやんわりと甘い感覚であったのに、今では腰が蕩けて勝手に浮き上がってしまうような感覚に襲われていた。
だが勿論、彼女達がその行為を止めるわけがない。
何故ならば、
「あぁぁっ! とっとと、イっちゃいなさい!」
「んんんっ! そっち、こそっ!」
お互いに負けたくないからである。
もはや見られている恥ずかしさや、同性の性器を触っている気恥ずかしさなど微塵も無かった。そこにあるのは意地だけである。
「あぁっ! んんんんぅっ! ひぁああっ!」
「んんんっ! んぁあっ! んんんぃぃっ!」
互いの目ばかり見ている二人は気付いていない。
手を伸ばしている先にある相手の腰が、自らの腰が、ゆらゆらと揺らめいて、くいくいっと微かに前に突き出されている事に。
お互いをとにかく気持ちよくしてやろうという気持ちばかり先走って、自分達がどれだけ気持ちよくなっているかに気付いていない。
「んっくぅぅぅぅっ‼」
「はっんんんんんっ‼」
だから、唐突に打ち上げられて、これ以上ないほどに動転した。
今、イった、イってしまった。ヤバい。バレて、ない。良かった。ヤバい。このままじゃ。また。だったら。先に。相手を。
身体をびくつかせながら、思った事はまたもや一緒。
「ひぁああああああああっ⁉」
「んぁああああああああっ⁉」
愛液をふんだんに纏わせた指先で、ぬるぬるの指先を使って、クリトリスを執拗にカリカリし始めた。
「ぁあああっ! ばかっ! ばかぁぁああっ!」
「んぅぁあああっ! そっち、こそぉぉおっ!」
今までの柔らかなもので捏ねくり回されていた感覚から、硬質なものがクリトリスを蹂躙する感覚に一気に変わり、著しい快楽が二人の脳を灼く。
豊満な胸が、控えめな胸が、くねる身体に合わせぷるぷると震える。それでも尚、目線は相手の目に固定されたままで、指先だけが自動的に激しく動いている。
「イっちゃえ! はぁっああああっ! イっちゃえ!」
「イって! んんんんぅぅっ! イきなさいってば!」
もう既に絶頂したというのに、相手より先にイってなるものかと意地を張る。だがしかし、イけ、という事は、自分はもう限界だといっているようなもの。
その限界が近付いてくるにつれ、指先の動きはより激しさを増していく。
故に、すぐだった。
「あああぁぁあああっ! ああっ! やぁぅぅぅっ! んんっ! んんんぁぁあぁああああっ‼」
「んんんぃぃぃっ! ひぅっ! んんんんっ! んぁぁぁぁぁあっ! あぁっぁあああああっ‼」
びくん、びくん、ともはや言い逃れ出来ないほどに身体が跳ねる。
境は顎を反らし、由乃は俯き、暴走する熱をなんとか逃がそうと努める。
あれだけ激しく動いていた指先は今は静かになっており、人知れずくぱくぱと開いていた膣口からはとろり、と愛液が流れ出ていた。
「ひっ、く……ん、ぁ……」
「ぅ、んっ……は、ぅ……」
荒ぶる身体を、荒ぶる呼吸を整え相手を見やると、自分と同じような状況にあるのが見て取れた。
「ふっ……はぁ?」
「ふん……はぁ?」
だから、同時に嘲笑し、同時にキレた。先にイったのはそっちだろう、と。
「ちょっと、由乃が先にイったでしょ」
「いいえ、境さんが先にイきました」
同時である。
「はぁぁぁぁ? あんなにびっくんびっくんしてたのにぃ?」
「境さんこそあれだけアンアン言いまくってましたよねぇ?」
お互い様である。
「はーこれだから由乃は!」
「これだから境さんは!」
そう言って佇まいを正し、顔を背ける二人。ただしその顔は互いに真っ赤であった。
そんな中、なんとか相手を出し抜こうと視線を彷徨わせていると、ガラス盤にこれまた同時に視線が辿り着いた。
「え゛」
「うそ」
『残り四分』
絶妙な時間が残っていた。
時間いっぱい使い切ったと思っていた。そうではなかった。
残り半分くらいならばリベンジマッチなだれ込む事も出来た。だがそうではなかった。
四分。実に中途半端である。
「…………」
「…………」
故に二人は困った。どうしようコレ、と。
「……由乃さんや」
「……なんでしょう境さん」
ギギギ、と何度目になるか分からない動きをしながら向き直った。
「……さっきのはあたしが悪かったです」
「……ホント境さんって変なとこで素直ですよね」
「うっさい」
今回の元凶は間違いなく境である。だから境は素直に謝ったのだが、そんな姿に由乃は怒る気力が削がれてしまった。
「……だから」
「だから?」
「……ゆっくり触りっこ、しよ?」
由乃はちょっとクラっときた。
そしてそういうことになった。
「んっ……」
「んぅ……」
先程と同じ体勢、足を交差し合い、手を互いの陰部に当て、そのままゆるゆると触り始める。
先程とは違う、いきなり暴走したりしない、優しく、とにかく優しい柔らかい触り方。
「は……ねぇ由乃」
「ん……なんです?」
そんな中、境が由乃へ静かに語りかける。
「由乃ってそんなにオナニーしてるの?」
「なぁっ⁉」
静かな時は一瞬だけだった。
「いやだって、ぁっ、超感じてたから」
「感じてっ! んっ……ましたけどそれは境さんがっ!」
「いやその前。めっちゃふーふー言ってたから」
「んぐ」
再度静かな時が訪れた。
「……ね、ね、どうなの?」
「……黙秘します」
互いの秘部を捏ねながら、オナニーよりもずっと恥ずかしい事をしながら秘め事を聞き出そうとする境。
「あたしはねー、んっ、週五回」
「んぁっ……多い、ですね」
「おかげで乳首が敏感さんになっちゃってねー、ぁ、はっ」
自分はここを日頃から弄っているのだと主張するように、境の胸が揺らされる。
「だから、はっ、ん……ね?」
「……っ……んぅ……」
促されても由乃は口をつぐむ。
「もー、ぁっ、強情だなー」
「はっ……ん……ぁっ……」
境が言ったのだから、自分も言わなければならない。そうでなければ卑怯者の誹りを受けてしまう。
だが由乃は沈黙を続ける。
「ほーらー。あたしも、んっ、言ったんだからー」
「ふぅーっ……! んんんぅ……!」
口を開く事が出来ないからこそ、秘部に与えられる快感を大きく感じる。
このままではマズい、と由乃はガラス盤を見やり、
「あ、時間ですね」
「嘘でしょこの流れで普通逃げる⁉」
浮き上がっていた時間表示が切り替わると同時、スルッと体を離して逃げる由乃。
が、境がそれを逃がす筈がない。
「ねー、ねーってば由乃ー」
「う、うるさいですねどうだって良いじゃないですか!」
「よくないー」
腕に抱きついてくる境に狼狽える由乃。
その狼狽は、腕に押し付けられた柔らかさに対してであり、追求されている事に対してであり、いつの間にか距離感が縮まっている事に対してであった。
「あたしが言ったんだからそっちも言うのが筋ってもんでしょー?」
「なっ! 卑怯ですよ⁉」
「ふふん」
懐いているような仕草は決して逃がさない為の仕草であった。ちょっとでも仲良くなったと思ってしまった由乃は激しく後悔した。
「雁戸の家はそんな卑怯者なのかなー?」
「くっ……!」
「さーさーほらほらー言うまでサイコロは渡さないわよー?」
「どっちが卑怯者ですか⁉」
次にサイコロを振るのは由乃である。しかしそれは境の手中にある。奪う事は可能であるが、それをしたら負けたような気がする。かと言って境が諦めて自分で振るなんて事する筈がない。
由乃の葛藤は長くは続かなかった。
「……です」
「んんー?聞こえないなー?」
「毎日っ! ですっ! 毎日オナニーしてますっ!」
このまま長々と絡まれるよりは恥ずかしい思いをする方を選んだ。どうせ恥ずかしい事をしまくったのだから、と。
「よく出来ました。毎日とかえっちよねー」
「ぐぬ……」
「ぷふ、はいサイコロ」
「憶えていてくださいね……!」
「もう忘れたわよー……いや忘れない、かな?」
「このっ……あぁもう振りますよ!」
そして賽は投げられた。