フォルティッシモ・パラフィリア -ピアニストの狂咲き- 作:宇多川志木
(映像切り替わり:警察署へ移送される車の映像)
「逮捕されたのは、ピアニストの
(映像切り替わり:有村瑠衣の宣材写真、演奏中の資料映像)
「有村容疑者は、国内外のコンクールで入賞するなど、将来を嘱望されるピアニストの一人でした。 警察の調べに対し、有村容疑者は『身に覚えがない』などと容疑を否認しています。 警察は入手ルートなどについて詳しく調べる方針です。」
囚われのピアニスト
◆午前六時◆
夢を見ていた。長い黒髪をなびかせ、喝采の鳴り止まないステージでお辞儀をしていた頃の夢だ。しかし、覚醒の瞬間、世界は反転する。
目を開ける前に、まずは頭皮が残酷な現実を告げた。かつてそこにあった重みと温かさは消え失せ、代わりにざらついた冷たさが脳天を直接撫でている。有村瑠衣は、鉛のように重いまぶたを持ち上げた。
薄暗い牢の中、彼女はゆっくりと身を起こす。畳など敷かれていない、ささくれ立った板張りの床。
動くたびに、わずかな布擦れの音が響く。彼女が身に纏っているのは、囚人服ですらない。黒い紐だけのビキニ。豊満な乳房が、重力に引かれてたぷりと揺れ、細い紐が白い肉に深く食い込む。
これは衣服ではない。
彼女が「白い粉」を隠していないか常に監視するための、最低限の拘束具だ。
瑠衣は震える手で、自身の頭を撫でた。ジョリ、という乾いた音が鼓膜を打つ。薬物検査の障害になるという理由で剃り上げられた頭部は、青白く、まるで尼僧のようだが、その首から下はあまりに肉感的で、無防備な肉塊としての惨めさを晒している。
「……っ」
冷え切った空気が、露出した肌を容赦なく舐める。鳥肌が立ち、乳首が硬く尖って薄い布を押し上げる。彼女は両腕で自身の体を抱きしめ、自分の無力さに震えた。
その動作によって、脇の下が露わになる。手入れを許されず、黒々と生えそろった腋毛が、白い肌の窪みに影を落としていた。かつては完璧に処理していた部位だ。今はその一本一本が、彼女が「高貴なピアニスト」から「管理されるべき動物」へと堕とされた事実を突きつけてくる。
身に覚えのない薬物所持の疑いで逮捕されて、何日が経過したのだろうか。なぜ容疑というだけで、ここまでの仕打ちを受けなければならないのか。そんな思考が頭を巡るが、もはや彼女に抵抗するだけの気力はなく、放心状態で眼前の鉄格子を眺めるのだった。
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◆午前八時◆
鉄格子の向こうで、重い足音が止まる。
「食事だ。……さっさと食って、出せよ」
無機質な声とともに、床に木の盆が滑り込ませられた。中身は消化の良い薄い粥と、わずかな水分のみ。排泄を促すためのメニューだ。
瑠衣は這いつくばるようにしてそれに近づく。立ち上がっては、天井の低さに頭をぶつけてしまうからではない。逆らえばさらに酷い「検査」が待っているかもしれないという恐怖が、彼女を四つん這いにさせていた。
盆に手を伸ばすと、前傾姿勢になったことで、豊かな乳房が垂れ下がる。黒い三角形の布から、溢れんばかりの白肉がこぼれ落ちそうだ。
そして、その姿勢はもう一つの恥部を晒すことになる。
へその下。引き締まったウエストから、なだらかに膨らむ下腹部にかけて、黒い体毛が筋のように伸びている。ビキニのボトムは際どいローライズで、その陰毛のラインを隠しきれていない。
背後からの視線を感じる。監視役の男たちの目は、彼女の身体を「性的な人形(フィギュア)」でも見るかのように、腹の膨らみや尻の肉付きを値踏みしていた。
瑠衣の太ももや腕には、光に透かせばわかる程度の産毛がうっすらと生えていた。以前なら恥じて剃り落としていたそれらも、今は隠す術がない。
咀嚼するたびに、顎が動き、首筋の筋肉が躍る。彼女は屈辱に顔を歪めながらも、生きるために動物のように粥を啜った。
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◆午前十一時◆
格子窓から射し込む光が、床に縞模様を描いている。
瑠衣は壁に背を預け、膝を抱えた。体育座りのような姿勢になると、腹部の肉がわずかにたわみ、へその下の毛がより強調される。
彼女は自分の体を、まるで汚れた他人のもののように見下ろした。
時間の感覚は曖昧になりつつあるが、肉体の変化だけが残酷な時計代わりだった。
(伸びてきた……)
彼女は震える指先で、太ももの内側をなぞった。きめ細かい肌の上に、柔らかい産毛が密生し始めている。ビキニの黒と、肌の白、そして体毛の黒。そのコントラストが生々しい。
脇を開き、じっと観察する。汗ばんだ腋窩に、湿った毛が絡みついている。そこから漂う、自分自身の獣のような匂いに吐き気を催す。
羞恥心はまだ死んでいない。だからこそ、辛い。
彼女はビキニの紐を指で弾いた。パチン、と乾いた音が独房に響く。
この粗末な布切れ一枚が、彼女と「全裸」を隔てる唯一の境界線だ。だが、この水着は彼女を守るためではなく、彼女の肉体的な特徴――豊かな胸や腰のくびれ、そして手入れされていない体毛――を、より強調し、辱めるために着せられているようだった。
瑠衣は唇を噛み、涙を堪えた。泣けば鼻水が垂れ、さらに惨めになるだけだ。
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◆午後一時◆
「身体検査だ。脱げ」
鉄扉が開き、二人の看守が入ってくる。拒絶は許されない。
瑠衣は震える指でビキニを解き、全裸となる。
若い看守が瑠衣の後ろに回り、両手を束ねて拘束する。ゴム手袋をはめた初老の看守の指が、まずは口内、その後脇の下の剛毛を無遠慮にかき分ける。
「すっかりボーボーだな。何か隠せそうなくらい深いジャングルだ」
嘲笑と共に、敏感な脇腹をつつかれる。瑠衣は反応するまいと唇を噛み締め、声を殺した。
そして検査は核心へ。
「後ろを向け。もっと腰を落として、尻を突き出せ」
懐中電灯の光が股間を照らし出し、恥部が白日の下に晒される。
潤滑剤もなしに、乾いたゴム手袋の指が肛門へとねじ込まれる。粘膜を探り、腸壁をこじ開けられる異物感と激痛。
「……ん、力むな。怪しいもん挟んでねえだろうな」
「はいっ、入って……ない、です……っ!」
悲鳴混じりの声で訴えるが、指はさらに奥へと進み、グリグリと内側を掻き回した。
人間として扱われていない。ただの「穴」としての検査。
「次は前だ」
肛門から引き抜かれた指が、休む間もなく膣口へと向かう。
あるはずもないコカインを探すという名目のもと、身体の最も奥深い聖域が土足で踏み荒らされる。
精神的な拒絶とは裏腹に、度重なる緊張と刺激によって、彼女の膣内はわずかに湿り気を帯びていた。
それが看守の嗜虐心をさらに煽る。
「おいおい、濡れてるじゃねえか。感じてるのか? この淫乱が」
「ちが、違い、ます……ッ!」
必死の否定の言葉は、チュプ、という水音にかき消された。
長い長い時間の果てに、ようやく指が引き抜かれた。
体液で汚れた手袋が、ぬちゃりと音を立てて離れる。
「よし、検査終了だ。服を着ろ」
やはり何も発見されない。これは何のための検査なのか。検査という名目で若い女性の身体を弄びたいだけではないのか。
瑠衣は俯き、ジンジンと痛む恥部に手を当てて立ち尽くす。
看守たちが去った後も、体内を這い回った生々しい感触と、拭い去れない汚辱だけが、いつまでも身体に残っていた。
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◆午後四時◆
日が傾き始めると、牢内の気温は急速に下がる。
瑠衣は板の間を歩き回ることで、体温を上げようと試みた。
裸足の足裏が、冷たい木目を踏みしめる。ペタ、ペタ、という音が、静寂を破る。
歩くたびに、重たい乳房が揺れる。その反動が、肩に食い込んだ紐を通じて痛みを伝える。
やがて、朝の粥と水分が、下腹部に重い痛みを伴って降りてきた。
便意。ここではそれは、生理現象ではなく「取調べ」の始まりを意味する。
部屋の隅にある、むき出しの桶。
彼女は格子の向こうに誰もいないことを祈ったが、足音はすぐに近づいてきた。
「……出るのか? 体毛まみれのピアニストさんよ」
せせら笑う看守の声。証拠隠滅を防ぐという名目の視姦。
瑠衣は絶望に目の前が真っ暗になりながら、ビキニのボトムをわずかにずらした。
白い臀部が露わになる。冷気に晒された肌が粟立つ。
肛門がゆっくりと開き、そこから艷やかな便が顔を出して落下する。
―――ヌチャ、ボト……。
排泄の音さえも、この静まり返った空間では反響してしまう。
彼女は目を固く閉じ、歯を食いしばった。
滑稽な排泄音の響きに、看守の口がニヤリと歪んだ。
「流石ピアニストさん、そっちの音色も綺麗に響かせるねえ」
「…………ぅう」
看守の嘲りに、瑠衣の口から低い声が漏れる。
桶の中に出して終わりではない。出したばかりの糞尿は「体内隠匿(ボディパッキング)」の検査のため、看守に棒でつつき回される。
酪酸の刺激的な臭いを嗅ぎながらの検査は看守も辛いようで、時折顔を桶から逸らして咳き込む。
「……ゲホッゲホッ!あーーー気持ち悪い、こればっかりは本当に吐き気がする」
「ピアニストだったら無臭のウンチ出せねえのかよ、クソが」
「そんな汚ねえボーボー女だから臭えんだよ、勝手に毛だらけになりやがって」
眉を顰められ理不尽な悪態をつかれながら、自分が出した大便を目の前でこねくり回される屈辱的な時間。瑠衣は唇を噛んでただただ耐える。どうせ何も見つかりはしない。
検査が終わり、看守が桶を水洗いして去った後、瑠衣は隅で小さく丸まった。自分の吐く息が白いことに気づき、絶望が深まる。
「寒い、辛い、帰りたい……」
無意識に漏れた言葉は、誰にも届かない。彼女は自分の脇の下に手を挟み、わずかな体温を求めた。
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◆午後八時◆
完全な闇が訪れた。灯りなど与えられない。
瑠衣は横になり、目を閉じる。
視覚が遮断されると、他の感覚が鋭敏になる。
遠くで聞こえる看守の笑い声。風が建物をきしませる音。そして、恐怖で早鐘を打つ自分自身の心臓の音。
寒さと硬い床の痛みで、眠りは浅い。
彼女は夢想する。ここではないどこか。温かいベッド、清潔な衣服、そしてピアノに向かう自分。
だが、寝返りを打つたびに、現実は容赦なく引き戻す。
脇腹に触れる畳のささくれ。太ももに触れる自分の産毛。そして、頭部の冷たさ。
彼女は無意識に、股間の布の上から手を当てた。そこには、温かさと、ざらついた毛の感触がある。
女性としての尊厳を奪われ、モノのように扱われているこの場所で、皮肉にも彼女の肉体はかつてないほど「生物」としての機能を主張していた。
恐怖と寒さ、そして底知れぬ孤独の中で、瑠衣は膝を抱え、胎児のように丸まって夜明けを待つ。
明日もまた、同じような屈辱の一日が繰り返されるのだという絶望と共に、枕代わりの腕を涙が伝っていった。