魔力ゼロの呪詛錬成・出涸らしエルフは性悪女冒険者パーティに復讐する 作:ケロリビドー
「気安く触るんじゃないわよ雑魚が!!」
ごぉっと火球の魔法の炸裂する音が響き、夜の喧騒に湧いていた酒場がにわかに静まり返った。酒場の下働きの男が倒れた床からはしゅうしゅうと魔法の残滓が湧き上がり、男は白目を剥いてぴくぴくと痙攣していた。魔法を繰り出したらしい赤毛の女は倒れた男をフンと鼻で笑う。そこへ酒場の店主が慌てて駆けてくる。
「さ。さすが新進気鋭の上級パーティ『
「何よ! あたしの剣を勝手に触ろうとしたほうがいけないんでしょ!」
「いや、それは本当に申し訳ない! 本当に申し訳ないのですが……武器は入り口で預からせていただく決まりがありまして~」
「あらそう? ならあたしたちに限りその決まりは除外なさい。苦労して手に入れた魔剣だから手放したくないのよ」
「その通りです。その剣のために私たちがどれだけ大変な戦いを強いられたか……。これは料理の一つくらいはサービスしてもらわないと治まらないでしょうね」
「そんな……」
言葉を選びつつ注意しようとしている店主に対し、居丈高な要求をし始める赤毛の女に、黒髪に眼鏡の女も加勢する。さらにもう一人、紫の髪のタレ目の女も参加してきた。
「ごめんなさぁい、わたくしたち、男の人に急に触られたり大きな声出されると怖くってえ、つい手が出ちゃうときもあるのぉ。でもわたくしたちが強いばっかりに怪我させちゃうこともあるから……。ね? それに客の物に勝手に触る店員がいるって噂が流れたら、店主さんも困っちゃうんじゃなあいぃ……?」
「……」
紫の女はすぐそばで虚ろな目で立ちすくんでいる緑髪のツインテール少女の肩を抱き寄せたまま店主にしなを作る。
結局店主は女たちに店内でこれ以上の暴力行為を起こさないようにということを、料理をサービスすることと引き換えに納得させて、瀕死の下働きを引きずって奥へと引っ込んだ。
(金色の薔薇、最近やべーな。魔剣を手にして余計調子に乗ってるぜ……)
(聞いたか? あいつら、自分ら以外のパーティは顔も名前も覚えないらしいぜ。全部「雑魚」で覚えてるってよ)
(いやしかし、あいつらが実力パーティなのは事実だからな……)
女たちは、陰口ですらも自分たちを讃える音楽であるかのように無視して再びテーブルについた。なぜかツインテールの少女だけが椅子に座らせてもらえずに、首元から伸びたリードを紫髪の女に掴まれたまま床に座った。
金色の薔薇。それは赤毛の魔剣士ディアンナをリーダーに置いた女だけの冒険者パーティの名前だった。
「ねー、今回のダンジョン攻略の話だけど。やっぱりそのエルフの魔力じゃちょっと足りないわね! さっさと売ってもっと魔力の高そうなのを買いたいんだけど! そう思わない? ステラ」
「まあ、前回のエルフはそれなりに時間をかけて魔力を溜めていたようでしたから。けどまあ、まだ買ったばかりですしセレーネさんがその子をいたく気に入っているので次のを買うまでは仕方ないでしょうね」
「んん~、そんなこと言わないでぇ、ディアンナちゃん、ステラちゃん。ルークスだってちゃんと伸びしろがあるのよ? ねぇ?」
「はい……頑張ります……」
ルークスと呼ばれた少女……いや、少女と見まごうほどに華奢で優美なだけで、よく見るとその肩や肘、手首は男性の物だった。そしてツインテールに垂らした髪に隠れた耳は長く尖ったナイフ耳。彼は女装したエルフの男性だった。
「ほら、ルークスも食べなさい? 食べて、わたくしたちにいっぱい魔力を提供するのよぉ?」
「今日は特別に残飯でなく一皿あげましょう。ちょうど一品分のお金が浮いたので。感謝して食べなさい」
「あたしたち、やっさし~! 頑張ればあいつみたいに捨てないでいてあげるから! ん~、あいつ……名前なんだっけ?」
わすれちゃった! と甲高い声で笑い、金色の薔薇たちは酒杯を打ち合わせる。ルークスは表情の消えた口元をかすかに屈辱に歪め、床に置かれた皿から料理を手づかみで食べ始めた。
「見ていられないわね……。もう出ましょう、こんな店」
酒場の片隅で彼女たちの乱痴気騒ぎを見ていた冒険者が二人、そっと席を立った。一人はフードを被った小柄な女。もう一人は長身の男で、彼は食事の場であると言うのに武骨な兜を被ったままだった。青年の体躯をしているというのに兜に入りきらずこぼれた髪は老人のように真っ白。そんな彼の拳は血の気が引くほど強く握りしめられている。その手に女がそっと触れ、優しい声で語り掛けた。
「悔しいのね。苦しいのね。わかるわ。だけど、その恨みはまだ溜めておいて。あなたの復讐はこれから始まるのだから……」
この大陸にはいくつものダンジョンが存在する。豪放で勇敢な人間たちは冒険者となって、それらを攻略することで日々の糧や名誉を得ていた。一度入ったら長期間の滞在を強いられるダンジョンにおいて有利なのは、魔法を使える者、特に多くの魔力を蓄えておけるキャパシティのある者で、成功して成りあがって行けるかどうかは自らがそれであるか、そう言った仲間を確保できるかどうかが大きい。
「あのエルフの子、取り返しがつかなくなる前に助けられたらいいけど……」
「ルークス」
「え?」
「あの子の名前はルークスだ。絶対に助ける。エルフを助けるのが俺の使命だ」
「……そうね。絶対に助けましょう。もうすぐ宿に着くわ。兜を外して休みましょう、ライルフェン」
こじんまりした宿の階段を上り、ドアを閉めると同時に男は兜を外す。その中にはあの酒場で虐げられていたルークスと同じく、尖ったナイフ耳が収められていた。エルフを救うことを使命としている男……ライルフェンもまた、エルフであったのだ。その顔は妖精族特有の美しさを持ってはいたが、その目元は疲れ果て病的にくすんでいた。
「外で食べようなんて言って悪かったわ。あなたが少し元気になったから大丈夫だと思ったのだけれど、まさかあいつらと鉢合わせるだなんて……」
「君は悪くない、エリエット。同じ町に暮らしているのだ。出くわすこともあるだろう。逆に感謝してもいいくらいだ。これでまたさらに恨みを溜めることができる……」
ぱさり。ライルフェンが床を見つめながら呟いていると、女ものの衣服がそこに脱ぎ捨てられるのが見えた。
「もう寝ましょう。ゆっくり休んで回復するのよ。あなたも脱いで。今夜もわたしが温めてあげる……」
生まれたままの姿になった男女は、重なり合いながら寝台に横たわる。フードを脱いだ女……エリエットの身体はまだとても若く、瑞々しい。ライルフェンは自分から彼女の身体に触れることはなかったが、彼女によって冷えた体を撫でられると心地よさそうに息をついた。彼の足の間についている妖精の陰茎は人間の男の物と比べてかなり長さがある。しかし、短く切られた金髪が美しいエリエットに全裸で愛撫されても、その肉竿は持ちあがることがなかった。
ライルフェンの男性機能は魔力と共に失われてしまっていた。そう、金色の薔薇と呼ばれる女たちによって全て奪われてしまったのだ……。
「……」
反応しない自身を口に含まれながら、ライルフェンは目を閉じる。瞼の裏に浮かぶのはあの屈辱と凌辱の日々だった。