魔力ゼロの呪詛錬成・出涸らしエルフは性悪女冒険者パーティに復讐する 作:ケロリビドー
「20まで回復したわ。やっぱり手を握るよりも濃密な触れ合いのほうが効果があるのね」
「いろんなことをしすぎてどれが功を奏したのかわからなくなってしまったがな……」
「んふ……すごかった……♡」
二人が目を覚ますともう夕方に差し掛かっていた。ライルフェンとの睦み合いで精神的に充足したエリエットは覗いていたルーペをしまうと、柔らかな美しさをその表情にたたえ、ライルフェンの頬にちゅっとキスをしてくる。
(心が満たされた女というのはこういう顔になるのか。そう言えばあの女たちはこんな表情を俺には見せなかったな。奪っても奪っても足りないという顔をしていた……)
ベッドから降りて脱いでいた服を着こむと、エリエットはとてもきちんとして見えた。今の彼女を見ても誰も性欲の壊れた淫乱女だとは思わないだろう。
「わたし、ちょっとダンジョンでの拾得物を換金してくるから、この宿にいて。一階の食堂で食べ物が帰るから少しお金を置いておくわね」
テーブルに小銭を数枚置くと彼女はどこかへ出かけて行った。ライルフェンはそれを一枚拾い上げ、掌の上で物憂げに弄ぶ。
(……女を満足させてやって、小遣いをもらって、俺も落ちぶれたものだ……。人間の言葉ではヒモとか言うのだったか……。海辺の街で人魚に紐を結び付けて漁をするとかなんとか……)
守護石に注ぐ以外の魔力を使うべからずという戒律は、その旅の続行が断たれた今もう意味がない。ならばダンジョンで金を稼ぎ、自分の食い扶持を自分で稼ぐために使いたいとも思うがその魔力がそもそも奪われてしまってない。それがしたいなら己も冒険者として地道に泥臭く働く必要があるだろう。
(魔力がなくても戦うことはできるが、難易度はあがる。確かに、他人から奪ってでも魔力をふんだんに使い楽に攻略したいと思うあの女たちの考えもわかる。しかし考えてみればあいつらは俺を戦力として働かせておきながら銅貨一枚の報酬も寄越さなかったな。飯は残飯だったし水分補給も後回しだった……)
性奴隷同然で引っ張り回されたこと以外にも自分がどれほど粗末に扱われてきたのかとここに来て改めて自覚し、ライルフェンの胸の奥にどろどろとした怨嗟が沸き立つ。銅貨を握りしめた掌が熱くなり、閉じた瞼の裏に炎がめらりとひらめいた。
「……熱い?」
体温で温めた以上の熱さを握りしめた硬貨に感じ、ライルフェンはいぶかしみながら掌を開いた。その上に乗っている硬貨は握りしめる前は何の変哲もないコインだったのに、まるでドブにしばらくつけてでもいたのかというようにどす黒く変色していた。
「まさか、これがエリエットの言っていた呪詛錬成とかいうやつなのか?」
自分のしたことが実感できずに、ライルフェンはとりあえずその硬貨をテーブルの上に戻す。よく見ると硬貨の周りの景色が陽炎のように揺らめいて見えるようだった。これがなんなのかわかるまで触れるべきではないと思い、エリエットが戻るまでそれはテーブルの上に置きっぱなしにされた。
「それで……これがあなたが初めて呪詛を付与した呪いのアイテムというわけね」
「ああ。どんなものになってしまったか、知りたい」
「鑑定するわ。ん……文字が小さい……」
外から帰ってくるなり呪詛錬成をしてしまったとライルフェンに報告されたエリエットは、その対象に直接手で触れないよう革手袋をはめ、ルーペを覗く。
「確かに、この硬貨には呪いが付与されているわね。呪いの名は『
「わかりづらいな」
「使ってみればいいんじゃない? これを使ったことで人が死んだりはしないようだし。とりあえずこれで何か買ってみましょ。下の食堂でいいから。お腹すいたでしょう」
「そうするか……」
二人は宿の階段を降り、併設の食堂へ向かった。白髪のエルフが珍しいのかテーブルについている冒険者たちがライルフェンをじろじろと見る。
「俺は今後顔を隠した方がよさそうだな。俺が生きていると金色の薔薇にバレたらよくなさそうだ」
「あとで兜でも調達してくるわ」
そんな話をしながらライルフェンは昨日食べたのと同じ大麦の入ったスープを買い求める。その支払いの中に先ほど作った呪いの銅貨をさりげなく忍ばせた。
「エリエットちゃん、それは彼氏? 一緒に住むならその人のぶんも店賃をもらうよ」
「そうね、しばらく一緒に住むわ。食事が済んだら払いに行く」
「頼むよ。しかし兄さん顔色が悪いねえ。ちゃんと食べられてるのかい。卵をおまけしてあげるから元気になりな」
宿のおかみさんがそう言ってライルフェンのスープに煮た卵を二つぽとりと落とした。食事の料金表を確認すると、卵二個はちょうど銅貨一枚分の値段が設定されていた。
「これは……呪いの効能なのだろうか。ただの偶然なのだろうか」
「あの硬貨を使ったことでおかみさんの運が銅貨一枚分こぼれたと思えば確かにそういう呪いなのでしょう」
「似たような呪いの硬貨をいくつも作ればそれだけ得ができるということか?」
「それはわからないわね。今回はあなたが得をすることでおかみさんが損をしたけど、場合によってはあなたとは無関係なところで銅貨一枚分の損をすることも考えられるわ」
「俺はあれを作りたくて作ったわけじゃないしな……。狙ったものを作れたらいいんだが、例えば使ったら死ぬ武器とかをあいつらに渡せれば使って死ぬかもしれん」
「案外子供みたいなこと言うわね……。でも逆にこのくらいでいいんじゃない? 金色の薔薇では聖女のセレーネだけが鑑定を使えるみたい。見るからに怪しい武器なんかあったら真っ先に鑑定するでしょう。でもお金だったらどうかしらね?」
「なるほどな……」
エリエットの考えを聞いたライルフェンは、ならばあの三人の中で一番最初に排除しないといけないのはセレーネだと思った。あの中では一番ライルフェンに対する態度は優しかったが、だからといって自分を助けてくれるわけでも逃がしてくれるわけでもなく、他の二人と同じく魔力を奪った女だ。
「何か思いついたみたいな顔。まあとにかく食べて、寝て、体力を回復させて。出歩けるくらい元気になったらあなたもあらためて冒険者登録したらいいわ」
「冒険者の登録なら以前にしたが……」
「あなたは事故死したことになってるはず。事故死の申請が出ている死体は捜索されないから、隠ぺいするためにさっさと手続きされてると思った方が自然よ。そういうところ、ディアンナは抜け目なさそう」
「そうか。わかった。なら別人として登録しなおせばいいわけだな」
「そうそう。ねえ、卵半分ちょうだい」
「いいぞ、ほら」
「ふふ」
それから数日、ライルフェンは宿で身体を休ませることに集中してすごした。夜になると発情したエリエットがすり寄ってくるのでその分体力を消耗したが、魔力はじわじわと回復しているようだった。まだ勃起はしなかったが、エリエットに口淫を施されると少しだけ陰茎に芯が通る日もあった。
(勃起持続時間15秒とか言ってたが、15秒も勃たないな……)
勃ち具合を気にするライルフェンだったが、エリエットは指や舌での愛撫でも今の所満足しているようだった。キャンキャンと仔犬のように啼きながら絶頂して気絶した朝は上機嫌で出かけ、ライルフェンに新しい装備や情報を持ってきてくれる。
「金色の薔薇が新しい奴隷を買ったって情報を得たわ。隠しているけど、やっぱりエルフみたい」
「エルフだと……。確かに、俺と一緒に捕まったウッドエルフが何人かいる。そのうちの一人か……」
ライルフェンは自分を慕ってくれた若きルークスのことを思い出した。自分と同じ屈辱と凌辱をあのいたいけな若者が受けていないでくれることを彼は精霊に祈ったが……、それもむなしく、彼の不安は的中してしまっていたのだった。