魔力ゼロの呪詛錬成・出涸らしエルフは性悪女冒険者パーティに復讐する 作:ケロリビドー
空洞街は長く広いダンジョンの中でにっちもさっちもいかなくなった冒険者同士がそこで生活する腹を決めて作ったコミュニティが元になっているという。それはダンジョンの中継地点として機能し、しだいに規模を大きくしていった。発生当初はスラム状態の治安の悪い町だったが、今では冒険者ギルドや商業ギルドの手が入って、冒険者でない一般の人間がほとんどいない以外は地上の街とあまり変わらない。
「わたしは鑑定士エリスとしてこの街で店を出すことを許可されているの。だからしばらくはここに滞在して呪物を集めるわ」
エリエットは空洞街にたどり着いて宿を決めると、すぐに商業区域に赴き鑑定屋の看板を掲げた。ライルフェンはテキパキとことを進めてしまう彼女に連れられ、唯々諾々とその場に用心棒として座り込む。本当に商売になるほど客が来るのかと思っていたライルフェンだったが、想像以上にすぐ客が来始める。
「エリスさん、待ってたんだよ。どうしたらいいかわからないアイテムがあってさ」
「あ~、ごめんなさいね。しばらく忙しくしてたものだから……」
顔が売れているらしいエリエットに無体を働くような狼藉物はおらず、ライルフェンはただぼんやりと彼女の客あしらいを眺めていた。
(呪いのアイテムを集めると言っていたな。それに俺がさらに呪いを注いで変質させるというわけだ……)
ライルフェンの能力が明らかになった後、二人で色々と実験をしてみた。いろいろと試した結果、エリエットによると呪いには大きさがあるのだという。
「ざっくり言うと呪いには大・中・小の規模があるのよ。そして物に入れられる呪いの総量には限界がある。例えば大きい呪いが入っているアイテムに、中か小の呪いを後から入れることはできるけど、さらに大きい呪いを入れると器が耐え切れずに壊れてしまう」
ライルフェンが呪いを付与したアイテムがぱきんと破裂してしまうことが何度かあって、その度にエリエットが鑑定をした結果わかったことである。他にも、ライルフェンは狙った呪いを付与することはできないが、その呪いの大きさはある程度思い通りにできることがわかった。そして、もともと呪いの入っていたところにさらにライルフェンが呪いを付与したものをエリエット以外の鑑定士に見せたところ、あとから付与した呪いしか鑑定することができなかった。それにより、エリエットのように本質が見える特殊能力などがない限り、ただの鑑定では先に入っていた呪いは感知できないということもわかったのだった。
「始めはあなたの呪いをなんでもないアイテムに付与してセレーネに持たすことを考えたのだけど、鑑定能力のある彼女に悪い呪いをただ渡すのはちょっと難しそうよね」
「そうだな。だが、良い方の呪いで蓋をすればそっちを感知してしまって隠れた呪いには気づかれないわけだ」
良い呪い。ライルフェンが一番最初に呪いを付与したコインのように、誰かにとっては良くない結果をもたらすが、もう一方の誰かにとっては得になるタイプの呪いがある。エリエットも、ライルフェンを助けた時にその手の呪いアイテムで身体能力を底上げしていたし、ゴブリンの後遺症もいくつかは同じ方法で抑えているらしい。閑話休題。とにかくそういった類の呪いで蓋をしてしまえば、それはもう表向きには「良いアイテム」にほかならないのだ。
「これ、あんまり知ってる人いないかも。凄いこと知っちゃったわ。うふふ、どうしましょ。『
「君はなんだかあれだな……その、なんにでもちょっとカッコいい名前を付けるのが好きだな……」
むずむずする気持ちを抑えてライルフェンがそう言うと褒められたと思ったエリエットは嬉しそうにふふんと笑った。その顔を見た時ライルフェンは少しだけ他の女の前では今まで感じたことのない気持ちになったが、その気持ちがなんなのかよくわからなかったので一旦忘れることにした。
「うわ……こんな気持ち悪い呪いを持っててよく大丈夫だったわね。おじさん平気? 角とか生えてきてない?」
「や、やめてくれよエリスさん。でも、これどうしような?」
考え事をやめて顔を上げたライルフェンの向こうでエリエットは次々と鑑定を続けている。
「ちょっとわけあって呪いのアイテムを集めているから、いらないなら下取りするわ。このくらいでどう?」
「手放せるだけでも嬉しいのに、ありがたいね。じゃあ後は頼むよ」
「また何か見つけたら見せてね」
エリエットは嫌な内容の大きな呪いのついたアイテムを見つけてはそれをいくばくかの代金で下取りした。ライルフェンの目の前に置いておいた木箱にそれはどんどん積みあがって行く。重い荷物を持ったまま地上に帰りたくなかったり、一旦手放してまたダンジョンの奥に挑みたい冒険者はたくさんいるのだった。
「なるべく素手で触らないようにしてね」
「心得た」
箱の中の呪物を拾い上げ、ライルフェンは金色の薔薇が自分に行った非道な行為や投げかけた侮辱的な言葉を思い出す。腹の奥からどろどろとした熱さがこみ上げ、それが両腕を通って指先に集まり、手に取ったアイテムに流れ込んでいくのを感じた。彼はそれが入りすぎないように調節し、もうこれ以上入らないと判断したものを革袋に移し替えて行った。
地下は太陽の光が射さないので時間がわかりにくい。空洞街には時間を知らせる係の人間がいて、定期的に鐘を鳴らすことになっている。エリエットは夕方の鐘の音に気付き、ライルフェンに声をかけた。
「そろそろ宿に引き上げましょう、ライルフェン。それ全部もうやっちゃったの? すごく深い恨みなのね……いいわよ」
ライルフェンが呪いを嵩増したアイテムの詰まった袋は、少し勘のいい人間が見たら吐き気を催しそうな瘴気がにじみ出ていた。
「いろいろ思い出していたら胸がむかむかしてきて……少しやりすぎてしまったかもしれない」
「それでも一個も壊れてないようじゃない。力を使いこなしてるのね。すごいわ。わたしにもその能力が備わってたらすっごい呪物を産み出せてたかも……」
「君の能力はそれでいい。恨みを呪いに変えるなんて碌なものじゃないさ」
自嘲するライルフェンの腕にエリエットが抱き着き、さりげなく股間を擦りつけてくる。
「あの……あのね、ライルフェン。わたしそろそろまた疼いてきたかも……。一杯頑張ったからご褒美欲しい……♡」
「先にこれを鑑定しなくていいのか?」
「んん……、あと、あとにしよ? 終わったら全部見るから……」
「わかったよ、宿に戻ろう」
「ふーっ♡ ふーっ♡」
顔を上気させ興奮しているエリエットを座らせておき、ライルフェンはその場を片付けた。もう何か持ったりするのも難しそうな彼女の荷物を全部持ってやり、二人寄り添いながら帰路につく。
「あらまー、エリスちゃんたら彼氏にべったりくっついちゃって。ラブラブなのねえ」
「彼氏……?」
「んん、おかみさん、はずかしい……♡」
元冒険者だという屈強な中年女性の切り盛りする宿が今の彼らの根城だ。最初の日にもうエリエットの喜悦の啼き声は聞かれてしまっているので、二人が性的な関りを持つ仲だということは知られてしまっている。
「他の店子がムラムラしてしょうがないから、ほどほどにするんだよ」
「……努力する」
ばつの悪そうな顔で返事をするライルフェン。しかし彼がドアを閉じて一息つく間もなく、エリエットが絶頂を迎える甘い叫びが安普請の宿の廊下に漏れてしまうのだった。