魔力ゼロの呪詛錬成・出涸らしエルフは性悪女冒険者パーティに復讐する 作:ケロリビドー
次の朝、裸の背中にエリエットの頬を擦りつけられたまま、ライルフェンは積み上げられた呪いアイテムに新たな呪いを付与していた。冒険者たちから下取りした物の中で、復讐に使えそうなものだけ夜の間にエリエットがピックアップしておいてくれたのだ。
「ん……♡」
すりすりともたれかかるエリエットを好きなようにさせていたライルフェンだったが、柔らかい頬の感触を背中に感じるとなぜかじんわりとした安心を感じてしまうため少し能力が鈍り、さっきから「おならが止まらなくなる呪い」だとか「体臭がきつくなる呪い」だとか、カスのような呪いのアイテムばかり産み出してしまう。
「エリエット、少し離れてくれ。恨みが練れなくて手元が狂う」
「わかったわ……でももう一回キスして」
「うむ」
ライルフェンの手で絶頂を迎えるたびにエリエットの態度は甘えを増していく。外から見た他者が二人を恋人同士だと思うのも無理はなかった。
(俺は他者と恋人関係を結んだことがないからこれがどういう状態なのかわからない……。唇と唇を触れさせただけでどうしてこんな変な気持ちになるのだろうな?)
ちゅ……と音を立てて名残惜しそうに顔を離すと、エリエットは身支度を済ませ、階下に水をもらいに出て行った。扉を出ていく小ぶりな尻は魅力的に見えた。しかし勃起はしない。
(あのおまんこにチンポをねじ込んで射精してみたらこの気持ちがなんなのかわかるのだろうか……。くっ、おまんこ? チンポ? 下品な。エルフの魔術師である俺におかしな言葉を教えやがって、女どもめ……!!)
三人娘の膣には何度も挿入し射精したライルフェンだが、彼女らに愛着などは特に湧いていない。それどころか恨みばかりがべっとりと内臓にまとわりつくのを感じる。人間の男としては別に不思議ではない下衆な感覚を覚えさせられ、その上で男性能力を奪った金色の薔薇に対する怒りがめらりと立ちのぼる。そんなことは喜ばしいことではないのだが、いいぞ、とライルフェンは思った。手にしたアクセサリーの透き通った石が濁りを含んだ血赤に変わる。何らかの呪いがこもったようだ。ライルフェンにはそれがなんなのかわからないが、この呪いは濃そうだった。
「ふうっ……!!」
ライルフェンが我に帰ると、目の前には瘴気漂う物品が山積みになっていた。もともと呪いがついていた物にさらに呪いを付与したそれらは周りの空気を禍々しくゆらりと揺らす。
「すごい集中力だったわね。お疲れ様。水でも飲んで」
いつの間にか戻ってきていたエリエットがコップに入った水を差しだしてきたので、ライルフェンはそれを受け取って一気に飲み干した。
「ふーっ、ありがとう。こんなに付与したか……。この瘴気の揺らめき、君にも見えるか? エリエット」
「ルーペを覗けば見えるけど、普通には見えないわね。おそらくあなたがエルフだから見えるのでしょう。種族特徴よ」
「そうか。なら見た目で呪いがバレることはないわけだ」
「検分していくわよ。あなたは休んでいて」
「そうさせてもらう……」
腰掛けていたベッドにもう一度仰向けになりライルフェンは目を閉じる。ルーペを覗いて本質を確認しているエリエットが「わ、すごい」「これは使えるかも」「こっちも悪くないわね……考えなきゃ」などと独り言を言っているのを遠くに効きながら、彼は眠りに落ちて行った。
「あー! 疲れた! もっと前の方に中継地点を作ればいいのに!」
数日後、ライルフェンたちに遅れてダンジョン入りした金色の薔薇たちも空洞街にやってきていた。
「途中で行きも帰りもできなくなった冒険者が作った街なのですから、行きも帰りもできないような所にできたんですよ」
「はん! 雑魚雑魚! 雑魚の街!! も~今日はお酒飲んで寝ちゃお! ねーセレーネお酒買って来てよ! あとなんかお肉と甘いお菓子!! ルークス荷物持ちに連れてっていいから!!」
「ん……はぁい……。行ってきまぁす……」
三人の中で一番立場の低いセレーネはよくこうやって使いっぱしりにされていた。それでもルークスがそばにいる今はディアンナとステラから離れて街に出られる時間は彼女にとって嬉しい時間だった。ふわふわの髪をツインテールに結い上げた可愛いルークスは、少し浮足立ったセレーネとは対照的に虚ろな目で俯いている。
「ねえ……ルークスは何が食べたい? ディアンナちゃんたちに内緒で何かうきうきするもの買い食いしちゃいましょぉ?」
「セレーネ様のお好きなものを……。ボクは従うだけですので……」
「ねえ……わたくしと二人きりの時はもっと楽にしていいから……ルークス……」
「いえ……」
ちょっとデートみたい、と躍り出したセレーネの心はルークスの覇気のない返事で現実に引き戻される。ルークスにとってセレーネは魅力的な異性ではなくエルフの自由民であった自分を無理やり隷属させている人間だ。
(……どうして、わたくしディアンナちゃんに会う前にルークスに出会えなかったのかしらぁ……)
ディアンナに頼まれた食品を買う帰り道だけでもいつもと違うことをしようと装飾品の露店が出ている市場の一角を通りがかったセレーネ。その時金髪の売り子が声をかけてきた。
「ねえお姉さん。不思議なアクセサリーいっぱいあるわよ。見ていってよ」
髪を短く切りそろえた売り子は冒険者にしては高貴な顔立ちをしており、隣には用心棒らしい男を控えさせている。武骨な兜から長い白髪をこぼれさせている長身の男は愛想がなく、挨拶すらしてこなかった。 露店の売り子はエリエット、隣の用心棒はライルフェンに他ならないが、セレーネとエリエットは面識がなく、ライルフェンは死んだことになっている。セレーネはライルフェンを見ていると何か思い出しそうな気がして怖くなり、適当にあしらって立ち去ろうとした。しかしその後のエリエットの言葉を聞いて、足が止まる。
「お姉さん何か悩んでる感じじゃない? もしかして人間関係の悩み? もしかして恋だったりして……。恋を成就させるアイテムだったらとっておきのがあるよ……」
「えっ……どうしてわかるのぉ……?」
人はだいたい何かしらの悩みを抱えており、その内容は人によって金に困っていたり進退に迷っていたりいろいろだが、なんだったとしても関わる人間がいる以上それはほぼ人間関係に収束される。そして若く美しい女であった場合良くも悪くも恋愛が高確率で絡んでくるのだ。人の本質を覗けるようになったエリエットはそれをうまく利用している。したたかだな、と横で聞いているライルフェンは思った。
「女の勘でさ。これ、ね。お姉さんに必要そうだと思うから特別に出すんだけど……。この耳飾り、意中の相手に魅了を施す呪いがかかってるの」
「なんですってぇ……?」
それは特別感を醸し出す小箱に入れられ、エリエットの手にあった。呪いと聞いて聖女としての忌避感を感じたセレーネの眉がきゅっと寄る。しかし、意中の相手に魅了を施すといううたい文句には今のセレーネにとってはつい惹かれてしまう引力がある。
「インチキじゃないでしょうねぇ……わたくし、これでも聖女の端くれなのよぉ……ちょっと鑑定させてもらうわぁ……。もし嘘だったら商業ギルドに通報させてもらうからぁ……」
「どうぞどうぞ。納得してお求めいただきたいのでぇ……」
セレーネが耳飾りを鑑定している間、ぼんやりと立っているルークスにライルフェンは近づいていた。
「ルークス。俺がわかるだろうか。生きていてくれて嬉しい」
「……? あ、えっ!? ……そ、そのお声は、ラッ……!!」
「静かに。小声で話せ」
「……ライルフェン様……生きて……ううっ……」
「ルークス。俺は必ずお前を助けてやる。今は辛いだろうが気をしっかり持て。お前は未来あるウッドエルフの生き残りだ。誇りを忘れるな。もし今後奴らの前から逃げ出せることがあったら俺はこの街にいるから、ここを目指すんだぞ」
「はい……はい……!」
ライルフェンの言葉を聞いて、光を失っていたルークスの瞳にみるみるうちに光が戻って行く。それはまるで魔法のようだった。
「確かに、あなたの言う通りの呪いがかかっているわぁ……。嘘みたい。これ、買わせていただくわ……!」
「まいどありがとうございますっ」
エリエットの方も首尾よく思い通りに行っているようだった。セレーネの鑑定の結果、耳飾りからは恋の呪いが検出されたようだ。やや興奮気味に耳飾りを購入したセレーネと、その後をついていくルークスを見送るとエリエットははーっと大きな息をつき天を仰ぐ。
「こんなに思い通りに行くなんて! やったわライルフェン。とりあえず第一歩よ」
「うむ。本当に、奥に隠していた隠れ呪いは見えなくなっていたようだな。俺が知らないだけでああいうものはいくつもあるかもしれないのか。恐ろしいな」
「ふふ、あとはあの耳飾りがうまいことやってくれることを祈りましょ。あなたがあれに付与した隠れ呪い、『