魔力ゼロの呪詛錬成・出涸らしエルフは性悪女冒険者パーティに復讐する 作:ケロリビドー
「え、ヤバ……死んだ?」
「ま、まずい。セレーネさん、早く回復魔法を……」
「え、無理よお、わたくしまだ魔力補給してもらってないから回復魔法使えないっ……」
その時金色の薔薇が攻略していたダンジョンは冒険者の中でもとりわけ難易度が高いと言われていたルートだった。いつものようにディアンナに魔力精液を取るための逆レイプをされている最中ライルフェンの耳と鼻から鮮血が噴きだし、彼はそのまま激しく痙攣しながら倒れた。ステラが慌ててポーションを口から流し込もうとしたが硬く歯を食いしばっているライルフェンはもうそれを飲むことすらできず、やがてぴくりとも動かなくなった。血にまみれて地面に広がる彼の緑がかった美しい銀髪はストレスですっかり真っ白に変わってしまっていた。
「す、ステラのせいだからね、考えなしにデカい魔法どかんどかん撃つから……!」
「今は誰のせいだとかそう言う話している場合じゃないですよ。どうするんですか、これ」
「死んじゃった……これ、わたくしたちが殺したことになるのぉ……?」
ライルフェンは表向きは奴隷ではない仲間の冒険者ということになっていた。ダンジョン内で冒険者が殺し合うのはご法度であり、露見したらギルドから除籍されてしまう。ギルドの制度をつかって上級冒険者として成り上がろうとしているディアンナにとって、それは絶対に避けなければいけない結末だった。
「そんなことあるわけないし。こいつは勝手に死んだの。今この部屋には結界張ってあるし、誰も見てない、聞いてない、知らない」
「そうですね。ダンジョンの中で冒険者が死ぬこと自体は当たり前。死体を食べるモンスターが証拠を消してくれるようにすれば……」
「要するに……死体を、処分するのね……?」
それきり三人は口を閉ざし、小部屋には静寂が満ちた。ライルフェンの亡骸は膝を抱えるように姿勢を変えられ、着ていたマントでくるまれる。三人はここに来るまでに避けて通った
「ねえ……ディアンナちゃん。ステラちゃん。今からでも、蘇生させてあげなぁい……?」
「は? ありえないし」
「そうですよ。蘇生の魔石がいくらすると思ってるんですか」
「魔石は一個しかないの。私たち三人のうち誰かが死んだときにしか使えないのよセレーネ。なんで奴隷ごときに」
「うう……、ごめんねぇ……恨まないでねぇ……。さよならぁ」
包んできたマントをハンモックのようにしてライルフェンをぶら下げると、三人はせーので彼を穴に落とした。その後に彼が持っていた弓矢や剣をばらばらと捨てる。この後誰か別の冒険者が彼を見つけたとしてもおそらく原型はとどめていないだろう。そう思うことで彼女たちはやっと一息ついた。
「あいつはこの穴に勝手に落ちた。そうだよね? セレーネ」
「う、うん……そう、ね。勝手に落ちたんだよね」
「今回はもう戻りましょう。次の魔力タンクも探さなくてはいけません」
踵を返した金色の薔薇たちが立ち去る後ろで、ギチギチと大蟹が集まってくる音が聞こえ始めていた。穴の中を確認する気のある者は三人の中にはいなかった。
『ギチギチギチギチ……』
頭上から落ちてきた新鮮な肉を千切ろうと最初に近づいてきた大蟹のはさみがライルフェンの亡骸に迫る。哀れなエルフの腕を食べやすく切断するために開かれたはさみは、しかし虚空をバチンと掴むだけだった。
「……」
今までどこに隠れていたのか、あわやという瞬間ライルフェンの身体を引っ張りはさみから逃がしたのは小柄な体躯の女だった。彼女は他の大蟹が近づいてくる前に落ちていたマントの上にライルフェンをごろりと転がしながら載せ、獲物を横取りされた大蟹を剣で威嚇しながらソリのように引っ張った。どうやら補助魔法で腕力を増しているようで、その細腕からは信じられないような速さで引きずり、逃げた。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ……!!」
カサカサと横ばいで追いかけてくる追手に積載物を奪われないように気を配りながら、女は大蟹の生息地を抜けるために走る。革のブーツの上から填めたアンクレットについた石が光っていた。どうやら脚力も底上げしているようだ。彼女は走りながら目の前に横穴があるのに気が付くと、さらに走る速度を増してその穴に勢いよく滑り込む。引っ張られたライルフェンを挟もうとした大蟹のはさみが穴まで入ってきたが、甲羅まで抜けられずに入り口でガキンと止まった。
「はあ……はあ……はあ……はあ……!!」
横穴は隣の区画に繋がっていた。それを確認すると女はへなへなと崩れ落ち、息を整える。そして背負っていたカバンから小さなランタンを取り外し、明かりをつけた。
「どこも、どこもなくなってない? あ、腕の骨が折れてる……だけど、大丈夫、五体満足だわ……」
ライルフェンの身体を調べ終わった女は服の中から首にかかっていた赤い宝石の嵌ったアミュレットを取り出し、彼の止まった心臓の上に乗せた。そしてその上に両手をさらに乗せる。
「どうか、どうか生き返って……。
女がその言葉を唱えると、重ねた手の下で石がまぶしい光を放つ。彼女の掌には熱い衝撃と、ドクン! と一つ大きな脈動が伝わった。ライルフェンの手足が突っ張るように痙攣し、閉じていた目が大きく見開かれ、開いた口から溜まっていた血液がごぱっと吐き出された。
「げはぁ! ごぶっ、ごほっ……けほっ……はっ……あ……っ」
「……よかった、間に合った……」
喉の奥の血液をせき込み吐き出し終えると、ライルフェンの目の焦点がようやく戻ってくる。とても狭い場所で、知らない女に覗き込まれている状況を彼が理解できるまで少し時間がかかった。
「……あ……う……」
「大丈夫かしら。耳は聞こえる? あなた、死んだの。覚えてる?」
「……うう、あ?」
誰だかわからない女の返事に、彼は呻きながら自分の顔や体をぺたぺたと触る。左腕に痛みが走って、自分が骨折していることに気が付いた。
「あ……う……。ああ……いたい……うう」
「とりあえず、その腕をなんとかしましょう。それから安全なところへ移動して、話はそれから。それでいい?」
「ああ、う、だ、だれ……」
「そうね。わたしの名前はエリエット。商人で、冒険者よ」
「エリ……エッ……ト……」
一度機能を停止した脳で言葉を紡ぐのがまだ難しいらしく、ライルフェンはたどたどしく彼女の名前を口にした。金色の薔薇やオスカー以外の相手と口を利くのはずいぶんと久しぶりだった。
「さ、さむい」
「そうよね、裸だもの。服を着せずに投げ捨てるだなんて酷い奴ら。ごめんなさい。あなたが着ていた服はこのマントしか回収してこれなくて……」
ライルフェンが震えているのは寒さだけのせいではなかった。どんなにひどい扱いを受けても心の底で燃えていた何かがすっかりと失われているのを感じた。
「ま、魔力が。俺の魔力が……ない」
「なんですって、ちょっと見せて」
自らの肩を抱きしめ震えるライルフェンをエリエットはポケットから出したルーペで覗き込む。それによって彼女には何かがわかるようだった。
「確かに、あなた魔力がゼロになっているわ。あいつらに全部奪われたのね。それで死んだの。かわいそうに」
「魔力、俺の、エルフのための、俺の魔力……! ううっ……! うおおおお……」
いつか金色の薔薇たちから逃げおおせれば魔力を守護石に注ぎ込む旅が再開できると信じて我慢していたライルフェンにその事実は耐えがたいものだった。すぐそばでエリエットが見ているのにも構わず、彼は声をあげて泣いた。