「はぁ…はぁ……!」
息を大きく荒げながら、僕は手に持っていた四角形の物体を見つめていた。
緊張感から思わず両手に力が籠ってしまいそうになるが、それの
(これが…これが最後なんだ…絶対に無駄に出来ない…!)
汗が頬を伝い、自然と口に溜まった唾を飲み込む。
頼む…頼むからこれで当たってくれ…そうしないと僕は……!
覚悟も決めた。願いも込こめた。
―――――もう、後戻りはできない。
「……ふんっ!」
僕は意を決して、手元のそれの封を開け、中から1枚の札を取り出した。
その札に描かれていたものは―――――
『フレイムヒーロー エンデヴァー』
「―――――また、オールマイトじゃなかった…けどそれはそれとしてエンデヴァーは嬉しい…!!」
これでダブりは3枚目だけれども…!
喜びと落胆。全く正反対に位置する2つの感情を同時に感じながら、僕は袋に入ったウエハースを見つめた。
おまけ付きウエハース。
コストの面からお手軽に作れるウエハースとシールやカードを抱き合わせた食玩の一種だ。
コンビニやスーパーの食玩コーナーに売っているそのお菓子の歴史は意外と長く、数十年前のビックリマンチョコを皮切りに今でも類似の商品がいくつも販売されている大ヒット商品である。
『まぁ、人気なのはおまけのカードとかであってウエハース自体にはそんなに人気はないがの。ちなみに朕は神羅万象チョコ推しじゃな。性癖が狂うエチエチお姉さんのカード多いからね』
「……こんな時にまで意味不明な事言わないでよ」もそもそ…
僕はマーラ様に苦言を言いながらウエハースを口にする。
チョコの甘みとウエハース特有のサクサク感が口いっぱいに広がるが、あまり高揚感は感じない。もうこれで3個目のウエハースだ。流石に飽きてきたよ…
『そう言いつつ捨てるとかの選択肢を選ばずちゃんと食べるのは普通に好感が持てるぞ出久。…しっかし今回は運がなかったのぉ……』
マーラ様にそう言われ、僕は膝の上に束ねたカードに視線を向ける。
これは本日発売の『ヒーローカード ウエハース』という商品だ。
僕の一番好きなヒーローであるオールマイトはもちろん、現在も活躍する様々なヒーローのブロマイドカードがおまけで付いてくる食玩で、発売前からテレビ等でかなり話題になっていた。
かく言う僕も先程コンビニで1時間ほど並び、厳しい購入制限の中ようやく3個ほど手に入れる事が出来たのである。
そしてたった今、コンビニ近くの公園にて全ての開封が終わった所、なのだが…
『まさか、3枚全部ムキムキマッチョの燃えてるおっさんのカードが当たるとは…流石の朕もドン引きじゃい』
そう、3枚すべて同じヒーローカードが当たってしまったのだ。
『いやね、朕も出久がこのウエハース買った時なんて言おうか色々考えてたよ?ドスケベヒーローのカードが当たったら「良いオカズを手に入れたな!」とか「オールマイトが当たらずに残念だったのぉ。この悔しさは勝妃にぶっかけ…もといぶつけようではないか」とか色々セリフ用意してたよ?だが、この爆死具合を見てしまっては流石にかける言葉が見つからんわ』
マーラ様から哀れみの視線を感じる(目があるかは分からないけど)。
確かに、このカード付きウエハースに収録されているヒーローの種類は20種類以上。いくらお目当てのカードが当たらなかったとしても、その時に当たったカードに一喜一憂し、次の開封では誰が出るかなどのワクワク感を楽しむのもこう言ったランダム性の高い食玩を買う楽しみであろう。
だが、いくらランダム性を楽しむと言っても限度がある。20種類以上の、それも別に対戦ゲームのものじゃないカードの中から「どんなカードが出るかな~?」とか「意外なカードが当たったけど、改めて見たらこれもカッコイイな~!」とか青少年たちの臨機応変なの楽しみ方も、流石に3枚連続ダブりでは地餅が落ち込んでしまうのが普通である。
「おっ!最初はこれが当たったかぁ~!」が「あっ、ダブった。まぁこんな事もあるか…」になり、最終的には「えぇ…」と言葉も出ない程に萎えてしまうだろう。
そんな反応になってしまうのが普通だ。それを見越してマーラ様も僕に同情的になってくれていたのかもしれない。
「まぁ、確かにオールマイトが当たらなかったのは残念だけど……これはこれでいいかなって」
―――――しかし、僕自身はあまり開封の結果を気にしてはいなかった。
『……うん、出久がそんな反応だから朕も「ガチャ操作しとるだろッ!配信元訴えて詫び石もらえッ!!」とか言えなかったけど……ええのん?』
「うん!だって、エンデヴァーもカッコイイヒーローだからね!!」
マーラ様の言葉に、僕は自信満々に返答した。
フレイムヒーロー《エンデヴァ―》
個性:ヘルフレイムという炎系最強の能力を持ったヒーローで、その実力はオールマイトに次ぐ実力派だ。
燃え盛る轟炎でヴィランを討つ豪快なヒーローで、事件解決数だけを見ればオールマイトをも超える史上最多というすごい実績を持つ。この国ではNo2ヒーローとして幅広く知られていた。
『うむ、確かにホモ受けしそうな身体の持ち主で朕としても結構好感持てる方じゃが…人気は活躍の割にあまりないんじゃなかったかの?』
そんな僕の言葉にマーラ様が続けた。
……前半のセリフは無視するとして、マーラ様の言う通り確かにエンデヴァーは実績や立ち位置の割に人気は伸び悩んでいる様子もある。
その風貌から近寄りがたい空気感を醸し出していたり、戦闘スタイルが荒々しすぎる等の理由からオールマイトと比べると確かに霞んでしまう部分もあるだろう。
「でも、エンデヴァーもかっこいいよ」
確かに僕の一番好きなヒーローはオールマイトだ。
でも、エンデヴァーもまた好きな部類に入るヒーローである。だから、たとえカードが3枚ダブってしまったとしても、それはそれでいいと思っているのであった。観賞用、保存用、予備用で持って置けるからね。
『その年でヲタクグッズを揃える最低ラインの認識あるとか……今代はやべぇのぉ、色々な意味で』
うるさいなぁ…いいだろ別に。
というか、僕は基本的にヒーローは皆推してるんだけどね。だからこのカードも最初からおこづかいに余裕があれば全員のカードを最低3枚は欲しかったから丁度いいと言えば丁度いいのだ。
『うぅむ、朕的にはこの執着をどうにか女漁りに回せたら御の字なんじゃが…しっかし、本当にこのえんでばー?という男は良い身体しとるのぉ……むっ?この男、どこかで―――――』
「―――――ねぇ」
マーラ様が言い終わる前に、突如僕の後ろから高い声が響いた。
いきなりの事だったので僕は少しドキリとする。
うわっ、びっくりした!最近マーラ様と会話してる時は基本的に独り言みたいになっちゃうから周りに人がいないかどうかで結構敏感なんだよなぁ…
「……あ」
独り言を聞かれて変な奴と思われてたら嫌だなと思いつつ声の方へと振り向いた僕であったが、次の瞬間時が止まったかのように固まってしまった。
何故なら、声を掛けてきた人物―――――少女に見惚れてしまったからだ。
顔立ちは端正で、幼いながらもまるでモデルの様に美しかった。
長く伸ばした髪の色は右が雪の様な白色、左が炎の様な赤色の左右非対称で少し冒険しすぎている様な気もするが、それでもよく手入れされているのが一目でわかり、とても綺麗だと感じた。
正直、僕の幼馴染は女の子としての魅力が高い。だからこそ、僕自身女性の好みが肥えているという自覚もある。それを踏まえて言おう。―――――とても可愛い女の子だと。
『うっ…ほおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!な、なんじゃこのおなご!?この辺の芋っぽい童共とは比べ物にならぬ輝きを放っておる、勝妃レベルのゲロマブ女じゃい!?ち、朕には分かるぞ……この女児はダイヤの原石!!将来、絶対にドスケベな女に育つぞ!!あ゛――!!この辺にまだこのような将来有望の雌ガキが眠っていたなんて、何故気付かんかった!!朕のバカ!!出久、この雌に今の内から唾つけとけ!!絶対この童をハーレムに加えるぞっ!!』
そして当然の如く騒ぎ出すマーラ様。
……めっちゃ五月蠅い!!
ちょ、五月蠅すぎて頭痛くなってきたんだけど!?頭痛に耐えるためになんも反応できなかったじゃんかぁ!!
クッソぉ!こいつのお陰でどんどん僕のコミュニケーション能力に支障が出てる気がする……本当、最悪な個性だよ!!
『そんなこと言って出久~。見惚れてたのも事実であろう~? くすっ♡自分がスケベなん、人のせいにしたらあかんよ(詠唱)』
……確かに見惚れて何も言えなかったのも原因の一つだけど!!2割くらい!!
「……? 聞いてる?」
「ッ、ご、ごめん!な、何か用、かな…?」
訝し気な目をしながら再び声を掛けて来る少女に対し、僕は何とか言葉を紡いだ。
うぅ…絶対変な奴って思われてるよこれぇ……
『いやいやこの状況、朕は逆ナンと見たね!溢れんばかりの雄のフェロモンがこの幼子の鼻腔にドストライクに響いたに違いない!そうでなけりゃこんな人気のない公園で一人カード開封なんてしてる陰キャに声なぞかけんって!!と言うわけでお持ち帰りじゃあぁぁ!!』
マーラ様うるさいっ!!あと酷い!?カード開封してただけでそこまで言わなくてもいいじゃん!!
ってか声かけられる理由がエロ漫画の世界観すぎるんだけど!?流石に出会って2秒で即惚れ&お持ち帰りは現実ではありえな…
「―――――好き、なの」
「………ゑ?」
少女の言葉に、僕の思考は一瞬止まった。
……えっ、今なんて言ったのこの子!?も、もしかして…す、すすすすす好きって言った今!?
まさか、本当にエロ漫画展開なのこれ…!?
「な…に、が……?」
そんなわけがない。そう思いつつも少し期待してしまうのをやめられない。そんな思いも込めて、僕は震える声で念のため確認の言葉を紡いだ。
そしてそんな僕の言葉に、彼女の口が開かれる―――
「だから、好きなの? エンデヴァーが」
「……はい?」
彼女は僕の手に持っていたエンデヴァーのカードを指さしながらそう言った。
「いや、さっきエンデヴァーについてすっごい熱心に独り言語ってたから……」
すんっ、と僕の中で熱が急激に冷めていくのを感じた。
あー、はいはい!エンデヴァーの事ね!!うん、そうだよね!普通に考えたらそうだよね!!
……べ、別に期待と化してないからね!最初からそんな事だろうと思ってたし!!
『言い訳が童貞染みてて草。読者の皆さん、信じられないかもしれませんがこの少年が幼馴染を毎晩のようにベッドで“アへアへ♡”イかせてるヤリチン野郎なのですよ』
……やめろマジで。なんかすっごい恥ずかしいから。
あと読者ってなんだよ…
「………? あのっ」
「あっ、ごめんごめんボーっとしてて!えっと、エンデヴァーだよね?もちろん好きなヒーローだよ!どんなヴィラン相手でもいつでもどっしりと構えててかっこいいし、他のヒーローたちより格上感あるよね!中でも必殺技の赫灼熱拳が……」
これ以上変な奴だと思われたくない。その一心で僕は捲し立てるように喋り続ける。
だが、言っている事自体は本心から来るものだ。いくら焦っているとはいえ、自分の好きな事には嘘はつきたくないからね。
『かと言ってヲタク丸出しの早口は減点じゃな。普通の女子はドン引きもんじゃき』
うっるさいなぁ!いちいち嫌な事言わないでよ!!……それはそれとして直そうとは思ってるんだけどねぇ…
「―――――っていう感じかな!」
そうして語る事数分。ようやくエンデヴァーの魅力を語り終え、一息つく。
……あれっ、夢中で語ったけど、よくよく考えなくても数分って相当長くない?……しまった、また変な奴ゲージを自分から上げる行動をしてしまった…!
自らの行動を後悔する僕。しかし、いくら後悔しようが時間は戻る事はない。
流石に引いてやしないかと、僕はおそるおそる彼女の顔色を伺う。
「……そう、嬉しい」
しかし、僕の心配とは裏腹に、目の前の女の子は嬉しそうに微笑を浮かべていた。
あ、あれ?引かれてない…?
「う、嬉しい?」
「うん。私の周りの子たち、パ…エンデヴァーの事『怖い』って、あんまり好きになってくれる子がいないの。……だから、私と同い年くらいの子にエンデヴァーの事が好きな子がいて、嬉しい」
そう言うと彼女は満面の笑みを浮かべた。
…………あっ、やべっ、また見惚れてしまっていた。
『まぁ、年齢の割にめっちゃ顔整ってるから仕方ないと思うぞ。……良かったな、この場に勝妃が居なくて』
それは…うん、多分今の顔をかっちゃんに見られたら開口一番「ブッ殺すッ!」って言われて爆破ルートだよ……
「そ、そう言えば君、この辺じゃ見ない子だね!もしかして旅行か何かで立ち寄ったのかな?」
彼女に見惚れてしまっていたのとかっちゃんへの恐怖を誤魔化す為にそんな事を目の前の少女に聞いてみた。
何気なく振った話題。だが、そんな大したことなさそうな話に、少女は急に顔を曇らせた。
……えっ!?なんで急に、僕なんか悪いこと言ったかな…!?
「あっ、ごめん。急に馴れ馴れしかったよね?何か他の話題を「……たの」…うん?」
話を無理矢理繰り上げようとする僕であったが、そんな考えは彼女の言葉ですっかり消える事となった。
「……私、家出してきたの」
……どうやら僕は、また変な事件に巻き込まれたようです。
『また?…はて、一回目はどんな事件だったかのぉ?』
お前じゃい!!
拙者正直エンデヴァーの事を性的に見てる侍、そろそろ侍ネタが出て来ないのでとりあえず性癖を暴露してみるで候。
炎司さんはゲンジロちゃん味あるのよね…金カムみたいに登場人物全員に性的に見られてたらかなり性癖にあうの……
ちなみにウエハース系の商品を買いすぎた場合、他のお菓子にリメイクするのがおすすめ。調べれば結構レシピとか出てくるから是非お試しあれ。学校や職場の人間関係が良好なら配るのもありだと思います。
そして最後に登場した家出少女…一体何ロキ君の女体化なんだぁ!?
衝撃の正体は次回、きっと判明するさ…きっとな(モチベ次第)
ここまでご拝読ありがとうございました