もはや人類最後の生存圏といわれている街『
『外敵』から身を守る為、人々は高い防壁で街を囲み、巨大な兵器を製作して守りを強固にしていた。
とある研究者が開発した人型兵器『Installation Armor』
『
「……っと、そんな高尚なものにキミがなるなんてねぇ」
卒業後の教室で男女が二人。卒業証書を入れた丸い筒を、まるで興味がないようにぞんざいに扱う銀髪の少女。
「……幼い頃からの夢だったんだ」
開いた窓から吹き込む風が、彼の黒髪を揺らす。
「そ、まぁキミらしいっちゃらしいけどさ」
「お前は政治家志望だったか」
なびく銀髪を耳にかけ、得意げに笑う彼女。
「そ。いいでしょ?最高にして絶世の美女が、『聖都』を最高の国にするんだから」
自信満々な彼女。言葉を借りるなら、『らしいっちゃらしい』
「自分で美女とかいうなよ」
「そ?硬いんだから」
「普通だろ」
二人だけの教室で、飽きる程紡いだ言葉を、最後だからと丁寧に紡ぐ。
「……じゃあね、『リアン』」
「あぁ、じゃあな『ローレン』」
見飽きた筈の教室が、唯一名残惜しいと感じる瞬間。遠ざかっていく彼……リアンの後ろ姿を見つめる。
窓から差し込む光と、遠ざかる背中。凛々しい彼の顔を次に見れるのはいつだろうか。
『____』
差し込む光と吹き込む風に溶かすように。
……彼に聞こえないように。
声を溶かして、誤魔化した。
《……それで?その幼馴染とはどうなったんだ?リアン》
無線から、小隊長の声が響く。
「いや、どうも何も、それっきりですよ。私はIAパイロットの
《勿体ねーな。政治家とのツテがあれば『聖戦部隊』でもすぐ成り上がれるだろうに』
「いや、私は別にそういう……」
《小隊長。彼は初陣なんです。緊張をほぐす為とはいえ、そういう話はコンプライアンス的にアウトになりますよ》
コックピットの無線から、強かな女性の声が聞こえる。
《ジェファーちゃんはお硬いなぁ。そんなだから許嫁に逃げられちゃうんだぞー?》
《………………………コロス……》
「お二人共!!私の無線で喧嘩しないでくれますか!?」
《お、突っ込める程度には緊張もほぐれたかリアン。それで良い》
出撃までのカウントダウンが表示される。いよいよなのだろう。
《お前は
コックピットのホルダーに腕を突っ込む。カチカチと、身体が機械と同化していくような不思議な感覚が肉体をめぐる。
『
聖都の研究者が開発したと言われている、パイロットの経験や知識を機体に取り込み、個別の性能を発揮できる人型兵器だ。
《さて、リアン。もうこれでそのIAはお前の物だ》
小隊長の無線が響いた後、コックピットに外部の景色が投影される。
《まぁ、楽に行けよ。俺たちもついてるからな》
《小隊長はともかく、私もいますので安心してください。リアン君》
「……リアン・グローリア。出撃します!!」
聖都を飛び出して、荒廃した外の世界へ飛んだ。
「……おぉ……」
目の前に広がるのは、どこまでも広がる大地。荒れ果てた建物。IAのパイロットになれなければ、決して見れないであろう光景。見たことない景色に感嘆としていたが、そこで気がつく。
「……『外敵』は……?」
《あぁ、ここは聖都に近いからな。お前は初出撃だし、初陣から戦闘行為をさせるべきじゃないからな~》
《下手に戦闘したら、補給とかIAの修繕費やらで議会が喧しいのもありますからね》
「…………」
《どうしたリアン?何か不満か?》
小隊長の言葉に、周囲を警戒しながら答える。
「いえ、不満はないですが……少し拍子抜けです」
《まぁ何、流石にこんな所まで攻めてはこないさ。肩の力抜けよ》
《リアン君。肩の力は抜いても良いですが、気は抜かないように。かつて『外敵』の半数をたった一人で殲滅した聖都最大の英雄『ジオ・フリート』でさえ、『外敵』との戦いで行方不明になっているんです。油断はできませんよ》
『ジオ・フリート』
聖都で生まれ育った男児ならば、誰もが一度は寝物語に聞かされる英雄。『聖都最大の英雄』と言われ、正教会からも守護神扱いされている。そんな彼も先ほど彼女が言った通り、『外敵』との戦いの果てに散っていったと言われている。
(正確には『行方不明』だけど、『戦いの果てに散った』という一文の方が格好がつくのだろうな)
心の中で冗談を言える程度には、肩の力も抜けたらしい。『外敵』との戦闘があるだろうと気を張っていたが、初陣で『外敵』に撃墜……なんて笑えない状況にはならなそうだ。
《……ん?》
空を飛ぶ感覚に浸っていたが、急に無線から小隊長の怪訝な声が響いた。
「どうかしましたか?」
《いや……先発した『外敵』討伐専門のアルフ隊からの連絡がない……》
《『外敵』と接敵しているのでは?》
《いや、あのアルフだぞ?議会と正教会から推薦されたあのだぞ?戦闘中でも余裕で通信繋げて談笑するような奴だ》
先ほどまでのリラックスした空気が、嫌なものに支配されていく感覚を覚える。
「……あの、一応聖戦部隊に連絡を入れた方が……」
っと言った瞬間。猛々しく警告音がなる。投影された外の景色を埋め尽くすように、警告を伝えるレッドウィンドウが表示される。
《何だ!?何が起きてる!?》
《『外敵』?いえ、小隊長、直ちに周囲の警戒をっ………》
その言葉の後に、隣を飛行していたジェファーさんのIAが両断された。
縦にズレた機体、横目で捉えた、捉えてしまった。
外部を投影するスクリーンに、わざわざ高画質で映り込んだ。
両断されたジェファーが、一瞬、ほんの一瞬。だが、鮮明に映ってしまった。
そのままジェファーさんを乗せたIAは、二つのガラクタになりながら、荒廃した地面へ墜落していった。
遠く遠く、爆発音が響く。
腕を入れているホルダーの温度が、一気に下がった。そんな幻覚に襲われる。
《ジェファーッッッ!!!、クソっ!!どこだ!?どこにいやがる!?》
小隊長の怒鳴るような声で我に帰り、周囲を警戒する。支給装備である実弾銃とIA用のブレードを引き抜く。
だが、それを嘲笑うように。
隣で周囲を警戒していた筈の小隊長のIA、その胸中にブレードが突き刺さっていた。
《ガッ!?》
「しょ、小隊長!」
《……リ、リアン……》
絞り出すような声で、命を吐き出すように言葉を紡ぐ。
《に、げ……ろ……》
その言葉を最後に、小隊長のIAは真っ二つに切断された。
「小隊長!!!」
白濁とする思考を、何とか回そうとする。
「……ハッ!?」
視界の端に何かが映る。反射的にブレードを構えると、その何かがぶつかる。ようやく視界に捉えたそれは……
「……黒い……IAだと……!?」
画面に映し出される『外敵』と思しきそれは、死神のような出立ちのIAだった。
すぐさま回線を開いて通信を試みる。
「誰だ!なぜこんな事をする!?」
《…………》
返答は無い。
黒いIAはリアンの機体を弾き飛ばし、長身のブレードを引き抜く。ゆったりとした動作で構えた途端、視界から消えた。
「消え……?」
次の瞬間、右端に微かに映る黒い影を捉え精一杯の防御を取る。
しかし、出力の差か機体性能の差か。
リアンのIAは、片腕が吹っ飛ばされ、墜落する。
墜落の衝撃でコックピットは揺れ、IAも破損した箇所を淡々とモニターに表示してくる。細かい事は見てられないが、悟った。
(……死ぬのか……ここで?)
目の前に、黒いIAが降り立つ。何とか立とうにも、片腕が大破した影響でバランスが取れないのか上手く立ち上がれない。目の前の死神は、処刑人のようにブレードを振りかぶる。モニターの先に、死の宣告が映し出されていた。
そして……
ドンッッ!!と、何かが黒いIAにぶつかる。連続で爆発するそれは、恐らくライフル系の武器。黒い『外敵』は鬱陶しそうに弾の飛んできた方角を眺めると、飛び立っていった。
「……助かっ……た?」
未だ実感の無い、ふわついた気分に浸されている。だが、回線から届いてきた声で現実に戻された。
《無事か!?新入り!》
「……アルフ小隊長……?」
《あぁ、そうだ!今そっちに行く!》
数秒後、目の前にアルフ小隊長のIAが現れたが、すでに片腕と片足が吹っ飛んでいた。
《……生き残ったのは、お前だけか?》
「アルフ小隊長……それ……」
《あぁ、俺の小隊もあの黒い奴の襲撃を受けてな。俺以外、部隊は全滅だ……》
「私の隊も小隊長と、ジェファーさんが……犠牲に……」
《大丈夫だ、喋らなくて良い。一度『聖都』に戻るぞ。立てるか?》
「あ、ありがとう……ございま……す……」
アルフの機体に持ち上げられた途端、ガクンとリアンのIAが傾く。
「……気を失ったか。だが、IAが倒れてないって事は、直前に自動操縦に切り替えたか」
アルフは自分の右目を撫でる。ボタボタとした赤い液体が手に滲み、その上から下へと雫は落ちる。右側の視界がよく映ってないのは、きっとそういう事だろう。
「……俺ですらこうだ。よく生き残った。新人」
『聖都』への帰路、自動操縦のリアン機を気遣いながらアルフは思考に浸かる。
(あの黒いやつは一体何者だ……?『外敵』とはまた違う……まるで俺たちのIAのような……)
息を吐いて、一度思考を止める。
(何やら、分水嶺に立った気分だな)
何か不穏な気配を感じつつ、生き残った二人は聖都へと帰還するのだった。