「──皆! 準備は出来てるか!? もうじき入場だ!」
雄英体育祭当日。1年A組に与えられた控え室に、我がクラスの委員長──飯田天哉の声が響き渡った。
「コスチューム着たかったな〜」
「公平を期すため着用不可なんだよ」
……響き渡っても、それを気にする者はいなかった。いつもこんな感じだからな、むしろ落ち着くまである。
「司は自信ある?」
「あたり前よ。響香だってあんだろ」
俺の言葉に、響香はふふんと薄い胸を張って頷いた。あれから何回か響香ともトレーニングした。
俺の贔屓目を抜きにしても響香はかなり強い。このクラスのほとんどの奴らもシバけるんじゃないだろうか。
「緑谷」
「轟くん……なに?」
そんなことを考えている時、轟が緑谷に声をかけた。その声は妙に冷たくて、控え室中の視線が2人に集まる。
「客観的に見ても、実力は俺の方が上だと思う」
「へ!? う、うん……」
「おまえ、オールマイトに目ぇかけられてるよな」
「!!」
「別にそこ詮索するつもりはねぇが……お前には勝つぞ」
なんか野心メラメラだな。良いことである。
「おお!? クラス最強が宣戦布告!?」
「急に喧嘩腰でどうした!? 直前にやめろって……」
切島が立ち上がり轟の肩を掴む。轟はそれを払い除けて、言葉を続けた。
「仲良しごっこじゃねぇんだ。何言ったっていいだろ」
「……轟くんが何を思って僕に勝つって言ってんのかは……分かんないけど……そりゃ、君の方が上だよ……客観的に見ても……」
「緑谷もそうネガティブなこと言わねぇ方が──」
「でも……!! 皆、他の科の人も本気でトップを狙ってるんだ。僕だって、遅れを取るわけにはいかないんだ。僕も本気で、獲りに行く」
緑谷は覚悟を決めた男の顔をして言い放った。聞いていた皆は何も言わない。でも、確かに皆のボルテージが上がった。それを、俺は肌で感じた。
「んで、真堂」
「俺にもくんのかよこれ」
振り返って声をかけてきた轟。思わず口から漏れた言葉を無視して、轟は言葉を続ける。
「お前は、
「……そうだな」
「でも、両方使ったら……多分、俺の方が強い」
轟は一切の邪な感情を持たず、まるで当たり前のことを言うかようにそう言った。……随分と、舐められたもんだ。
「それで?」
「……それを証明したい。俺が、お前に勝てるのかどうかを」
……思っていたより優しい宣戦布告だな。もっとこう、全力でボコすから覚悟しとけよ〜的な感じかと思っていた。こんな宣戦布告なら大歓迎だぜ。
「例えお前が全力だろうと、俺が勝つ」
『1年ステージ、生徒の入場だ!!』
―――◇―――
『雄英体育祭!! ヒーローの卵たちが我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!! どうせてめーらアレだろ!?
プレゼントマイクの熱いマイクパフォーマンスを聞きながら、俺たちは会場へと足を進める。……凄いな、耳が痛くなるほどに、歓声がデカい。
画面越しに、この熱狂は知っていた。知っていたが、自分が参加する側……熱狂を当てられる側になると、当たり前だけどまた違った感覚だ。ワクワクする。
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか……! これもまた、ヒーローとしての素養を身につける一環なんだな」
飯田が振り返って観客席を見てそう言った。落ち着いてるな、ヒーロー
──プス
そんなことを考えていたら、響香のプラグが俺の前腕に刺さった。
「どうした?」
「……平常心だね。しばらく聴いてて良い?」
「構わん。バレないようにな」
「うん」
響香は緊張しているらしい。表情を固くしながらも、俺の心音を聴きながら深呼吸をしている。これで落ち着いてくれたら良いんだが……。
『B組に続いて、普通科C・D・E組……! サポート科F・G・Hも来たぞー! そして経営科……』
「俺らって完全に引き立て役だよなー」
「だるいよねー」
普通科の生徒の気怠げな声は誰の耳に入ることもなく、観客たちの熱狂に掻き消された。
―――◆―――
「選手宣誓!」
ピシャンと鞭を打ち、壇上に立ったドスケベヒーローミッドナイトはそう叫んだ。
「18禁なのに高校にいてもいいものか」
「いい」
常闇の言葉に峰田が即答して、ミッドナイトが再び鞭を打つ。
「静かにしなさい! 選手代表!! 1のA、真堂司!」
「チッ」
「おー、司やるんだ。がんばれ」
爆豪が舌打ちして、響香は両腕をグッとして応援してくれた。台までゆっくりと歩いていく。基本は好意的な視線だ。でも、たまに敵意がある目も紛れている。
「……ッ」
不満を持ってそうな普通科のロング女子と目が合って、すぐ逸らされた。ガン飛ばす位の根性を持てよと思わんでもないが、まぁ、仕方ないか。
お立ち台の上に立つ。整列した生徒たちの姿や、スタジアムの一階席二階席三階席に居る沢山の観客たち。良い眺めだ。
というか、選手宣誓とか全然考えてなかった。言うことは適当でいいとして、なんか、面白いことしたいよな。……よし、決めた。
お立ち台の上にあったマイクを手に取る。
そして、それを
「ちょ、真堂くん……!?」
会場がザワつく。ミッドナイトの戸惑った声が後ろから聞こえるが、振り返る訳には行かない。どんな声をしているのかが気になるが、今は宣誓をすることが優先だ。
「すぅ……!」
個性を
鼓膜を刺すような「キィィィンッ!」という高周波の駆動音がスタジアムに響き渡り、会場は静まり返った。
「──宣誓」
普段より三割増しで低い、腹の底を震わせるような声がスタジアム中に鳴り響いた。
声とは、空気の振動である。振動を操る俺の個性を使えば、マイクという媒介を介さずとも、この広いスタジアムの隅々までに声を届けることなど容易いのだ。
昔やったヒーローごっこで開発した「バカでかい声」を出す一発芸がこんなところで使えるとは、人生、何が役に立つか分かったもんじゃないぜ。
「我々生徒一同は、この日のために個性を磨き、互いに高め合ってきました」
静まり返っていた会場が、再びザワザワとしてくる。面食らっていた生徒たちも、状況を飲み込んだのか、口をぽかんと開きながらも俺の言葉に耳を傾ける。
「今日、この場所でぶつかり合うのは、ただの勝敗のためではありません」
完全に状況を飲み込んだ観客のボルテージは、俺たちが入場した時を超える。流石に奥の方は分からんが、手前の方の客の顔は分かる。驚いていたり叫んでいたり興奮していたり、色々な客が居て面白いな。
「いつか誰かを救う最高のヒーローになるため、己の限界を超えてみせる。全力で、正々堂々と戦い抜くことを誓います! ──さらに向こうへ、Plus Ultra!!」
「「「っ! うおおおぉぉぉおおおおおっ!!!」」」
勢いのまま最後まで言い切ると、まるで爆発したかのような歓声がステージに降り注いだ。
雄英高校の校訓は有名だ。何年生の部かは覚えていないが、去年、どっかのステージの宣誓もPlus Ultraで締めていた。覚えてて良かったぜ。
「真堂くん、最初はどうなることかと思ったけど良い宣誓だったわ。後は私に任せて」
「──まだっすよ。ミッドナイト」
終わったのは、
二週間前に宣戦布告してきた紫髪の奴と目が合った。
「──ぶっちゃけ俺は、ヒーロー科も普通科も関係ないと思ってる」
―――◇―――
雄英体育祭。それは、ヒーロー科に落ちた俺にとって、他の生徒たちとは違った意味を持っていた。
体育祭で活躍した生徒は、望めばヒーロー科への編入も検討される。そのことを知ってから、俺はずっと鍛えてきた。
ひとえに、ヒーローになるために。
(真堂司。個性は『爆音』とかか?
「あー、派手な個性で良いなぁ……」
「観客もこんなんで盛り上がりやがって。しょーもな……」
お立ち台に立った男の宣誓により、スタジアムのボルテージは凄まじい程に上がっている。
……まぁ、俺たち生徒はその限りじゃないが。
特に、普通科は。
……ここで腐すやつがヒーロー科に入れる訳が無い。思わずため息をつこうとして、男──真堂司と目が合った。
「──ぶっちゃけ俺は、ヒーロー科も普通科も関係ないと思ってる」
「……は?」
科が、関係ない? 一体どういう意味だ。というか、宣誓はアレで終わりじゃないのか? 俺が脳内に浮かぶ疑問を処理しようとしている間にも、真堂は言葉を続ける。
「あの試験じゃ、対人性能の強さは分からねえ。個性の相性が悪くて落ちたヤツも居るだろうしな」
「……っ」
その言葉を聞いて、心臓がドクンと跳ねた。俺の実技試験の様子を知っている訳じゃない。真堂は、俺と同じ会場じゃない。こんな奴はいなかった。
でも、それは、その例は、完全に俺に当てはまっていた。
「だから、もし俺と戦うことがあったら、お前の
「……ふは」
個性を……『洗脳』を? 思わず、乾いた笑いが込み上げてきた。見せるも何も無い。コイツを『洗脳』したらその時点で俺の勝ちだ。
勝負が終わったあとは糾弾されるだろうが、それは仕方ない。
『洗脳』は、そういう個性だから。
「お前と一緒に
鼓膜を直に刺激する重低音が、俺の耳に刺さる。
「……やってやろうじゃねぇか」
周りのざわめきも、スタジアムの熱狂も俺の耳には入ってこなかった。
ただ、こちらに背を向けてお立ち台から降りる男の背中を、脳裏に焼き付けた。
―――◆―――
「どうだった? 俺の宣誓」
「良いんじゃない? みんなこんだけ熱くなってるし……」
「──おいおい真堂よお! お前アチィ男じゃねぇか! あんときゃ悪かったな! 正々堂々戦おうぜェ!」
観客たちの歓声を背中に受けながらお立ち台を降りて、A組の元に帰って響香に話しかけたら、隣からすごい勢いで銀髪の男──この間教室の前で騒いでいた奴が走ってきた。
「おぉ……お前、なんでここに居んだ……」
「そこ! 元の場所に帰りなさい!」
「ウス! すんません!」
ミッドナイトに注意され、男は再び走ってB組の元に帰っていった。
拳藤が恥ずかしそうにこちらに頭を下げたので、軽く手を上げて返す。まぁ、それだけ俺の宣誓が良かったということだろう。誇らしいぜ。
A組のみんなも、声はかけてこないが顔つきはかなり変わった。最初は緊張が強かったが、今はすっかりやる気に満ち溢れた顔だ。上手くいって良かったぜ……!
「さ! みんな注目! その熱を持ったまま第一種目行きましょう! いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者が涙を飲むわ! さて、運命の第一種目、今年は──」
ミッドナイトによるくじの結果は……
「コレ!!!」
“障害物競走”、であった。……見た記憶が無いな。少なくとも、去年と一昨年は無かった。今年から新しく追加された種目だろうか、ワクワクするぜ。
「計11クラスの総当りレースよ! コースはこのスタジアムの外周約4km! 我が校は自由が売り文句! コースさえ守れば
ミッドナイトの言葉に反応して、俺たちの後方に位置する壁が開き、スタートゲートが現れる。
生徒たちは線を超えないように気をつけながらも良い位置を取ろうと前に走り出す。A組のみんなも同じく。
「……で、お前は前行かないのか? 緑谷」
そんな中でただ1人。緑谷は、俺と同じくその場に立ち止まっていた。
「真堂くんこそ。同じ理由だよ、多分」
緑谷は少しの緊張を顔に浮かべながらも、確かな自信を持ってそう言った。……同じ理由、か。
俺が前に出なかった理由は2つ。1つは、純粋にあんだけ人が集まってる所だと個性が使いづらいからだ。
そして、2つ目は……
「世界に自分の存在を誇示するため、か」
「……うん」
緑谷は小さく頷いた。そんなに野心があるようには見えなかったが、どうやら俺の勘違いだったみたいだ。
「ふっ、ふふふ」と思わず笑い声が漏れる。緑谷は戸惑った様子で俺に視線を向けて、口を開いた。
「そ、そんなに変、かな」
「いや悪い、まさか、緑谷も
「み、ミルコ!? なんで急に──」
「みなまで言うな。誰にもバラさねぇから」
ラビットヒーローミルコ。孤高の一匹狼ならぬ一匹兎である彼女は、サイドキックすら持たない。
そんな彼女に目をつけられる為には、何か面白いこと……それこそ、最下位からの一位、とかをしないと行けないだろう。
2年生から始まるインターン。その仕込みは、1年の時から始まっているのだ……!
「ライバルといえども、友達なことには変わりねぇ。お互い頑張ろうぜ」
「……うん!」
何やら複雑そうな顔をしながらも、緑谷は俺が出した拳に自分の拳を合わせた。
『スターーーート!』
そして、雄英体育祭第一種目──障害物競走が始まった。
ミルコとエッチしたい