『な、なんじゃこりゃァァァア!?』
プレゼントマイクの叫びが氷越しに聞こえてくる。氷のせいでくぐもっているが、言葉は聞き取れた。
大抵の人間──火力が低い人間はこの大雑把な氷攻撃だけで為す術なく敗北するだろう。
『きゃ、客席まで届く大氷結! 実況席も非常に冷えております!』
だが、
──ピシッ
氷に小さなヒビが入った。
──ミシミシ……
ヒビがどんどんと大きくなっていく。
『真堂戦闘不能か──』
『オイ、よく見ろ』
──バキンッ!
「綺麗……」
「若い子はすげぇな」
『美しいィ! まるで芸術! しかし、一体どうやって氷をぶっ壊しやがった真堂!?』
『……あいつの個性は“振動”だ。氷の周波数を探り、それに共振させて崩したんだろう。精密な操作がいるだろうに、この土壇場でよくやるよ』
相澤先生の解説に「流石だな」と呟く。俺は冷えた空気を肺に取り込んで、まぁそうだろうな、という表情をした轟と顔を合わせる。
「振動は凍らねえか。やっぱ」
「この間やったばっかだろ? お前の狙いはコレで俺を仕留めることじゃなくて──」
「──あぁ。吹っ飛んでくれ」
轟の左腕に炎が宿る。エンデヴァーが観客席で何やら叫んでいるが、俺も、そして実況席にいるプレゼントマイクも相澤先生も、それに反応する余裕は無かった。
……アレ、やるか。
最初からこんな賭けをするつもりはなかったが仕方ない。
熱波が襲ってくる数瞬前、その熱を全身に感じながら、俺は自分の前に振動の
―――◆―――
『な、何だこの爆風はァ!? どれだけの高熱だよ! 煙でなんも見えねぇ! オイこれ勝負はどうなって──』
「司、大丈夫かなぁ」
「……いくら司でもこれは無理じゃねぇか? 震界を打てたら相殺できたかもしれねぇけど、轟が一枚上手だったな」
心配をしている様子の芦戸三奈と、流石にこれは負けただろと言う砂藤力道。
轟の熱波と爆風はA組の待機席にも届いた。そしてそれは、轟の勝ちを想像させるに十分な説得力を持っていた。
他のA組の面々も、
「……」
そのうちの一人は、耳郎響香。急いでA組の待機席に戻ってきた彼女は、この中で一番真堂との付き合いが長い。そして、ある種の憧憬の念を抱いていた。
どんな状況でも、負ける姿が想像できない。彼女の中の真堂司は、いつどんな時でも勝ってきた。
だから、今回も勝つ。耳郎響香は、そう確信していた。
「……まだだ」
「緑谷くん?」
そしてもう一人。
どちらかが次の試合相手ということもあり、自身の試合後に廊下を早歩きでここに戻ってきた男──緑谷出久は、真堂司という男がここで終わるはずが無いと思っていた。
フルカウルすら発動させて、二人の一挙手一投足を観察していた緑谷は、たしかに見た。真堂に熱波が迫る直前、彼の前に体を覆うサイズの半透明な膜が現れたことを。
アレがなんなのかは分からない。だけど、意味のないことをする男じゃない。
真堂に対して
「お前らちゃんと試合見ろや。……動くぞ」
そして最後の一人──爆豪勝己。
晴れかけた煙の中を真っ直ぐと見つめる彼の目には、一切の曇りが無かった。
「なんか落ち着いてんな爆豪」
珍しく冷静な爆豪の態度を疑問に思うものも居たが、爆豪はそれすら気にせず、集中して煙の中を見ていた。
そして──煙が晴れた。
―――◇―――
「──“膨冷熱波”。獲物無くても耐えるか。でも、無傷って訳じゃなさそうだな」
煙が晴れる。なんとか呼吸を整えて、個性の調子を確かめる。……問題はなさそうだ。服は色々と破れてしまったし少し火傷もしたが、致命的な傷はない。
危なかったぜ。熱波が迫る直前、震界を取得するに当たり手に入れた感覚……空気の面を捉える技術を応用し、前方の“空気の面”を振動させた。
“震膜”とでも名付けようか。
訓練で何回か試してみたが、一度も成功しなかったんだ。ここで決まってくれて良かったぜ。決まってなかったら、今頃は試合に負けていただろうし大怪我も負っていただろう。
「当たり前だろ。だが、流石に肝が冷えたぜ──」
「……おい。ちんこ出てんぞ」
……轟の顔は真剣そのもので、その目線は俺の顔じゃなくて少し下に向かっていた。騙し討ちをしようって男の顔じゃない。自分の体を見下ろす。
……窮地を切り抜けたことにより半勃起した俺の相棒が、世界に挨拶をしている。モロチンじゃない。ちょっと破けて、そこから半分くらいひょこっと出ている。
フィクションの世界だったら、ズボンはどんな攻撃を受けても破れない。しかし、ここは現実だ。
他の布切れと同じように、ズボンもまた破ける。
当然といえば当然だ。
『こ、高校一年生とは思えないイチモツ! 規格外の個性を持つ男は、そこまで規格外なのか──!?』
『何実況してんだよ。オイ、カメラ止めろ』
「でかっ……じゃない! 試合中──」
「待ってくれミッドナイト! このままやらせてくれ!」
「……放送倫理に反します。というかあなた、全国に自分のペニス晒していいの?」
「ここで勝つ事の方が大事だ。それに、この会場の熱気を、俺たちの
「…………本人がそう言うなら、まぁいいのかしら……? でもさっさとケリつけなさい! いつまでも晒してちゃ警察のお世話になるわよ!」
どう考えても止めるべき場面だ。しかし、ミッドナイトは選択を誤った。会場の熱気と、青春というワード。かなり悩んでいたが、その二つに呑まれたな。
「気を取り直して、行くぞ轟……!」
「……ちんこは狙わねえ」
轟の膨冷熱波は空気を冷やしてからじゃないと使えない。今は灼熱地獄かと言うほどに空気が熱せられている。アレを打つには、また氷の大技を決めないと行けない。
あの熱波で轟の霜は取れている。打つのは時間の問題だろう。二発目の膨冷熱波を防げる確証は無い。
だから、その前にケリをつける──!
地面を一瞬振動させてその反動で高速移動する技──“瞬震歩”を応用して、自分の足元だけじゃなく、轟の足元を
「……!」
直ぐに立て直すだろう。だが、一瞬……と言うには少し長い数秒、轟は体勢を崩した。
次の瞬間。俺は轟の眼前に辿り着いて、勢いのままに膝蹴りを放った。目を見開いている轟の顔が少し面白い。
蹴りは鳩尾に入り、轟は「カハッ」と声を漏らしながらくの字に吹っ飛んだ。
『ハミチンファイター真堂の膝蹴りが直撃! しかし相手は轟! 氷の壁で場外アウトを防いだ──おおっと真堂! 謎の高速移動で追撃!? 容赦のないラッシュが轟を襲っていく! しかしどういう原理で瞬間移動したんだ!?』
試験の時の録画やらでプレゼントマイクは大体理解しているだろうに。観客に説明する為のマイクパフォーマンスってやつか、多分。
「……お前の拳ッ、何回食らっても慣れねぇな!」
拳を振動させてのボディアッパー。俺の体重──大体80kgと、見えないほどに素早い速度の打撃。それに振動を乗せてるんだから、普通なら一発KOでもおかしくない。
それでも多少フラつくだけで耐えるんだから、轟は大したもんだ。俺のスピードに目が慣れて来たのか、攻撃のタイミングに合わせて炎を放ってくるし。
『……お前は知ってるだろうに。簡単に言うと地面を振動させてその反動で移動してんだ。ミスったら怪我するらしいが、まぁ、そこは慣れだろうな』
「あぶねっ」
「はぁ、くぅ、ふー」
雑な大振りの氷攻撃を避ける。コイツ、俺を凍らせる目的じゃなくて物理で殴ろうとしてきたな。
正しい対処法だ。氷で俺を凍らせることは出来ないが、物理的にぶん殴ることは出来る。
「随分息上がってんな」
「……」
轟は完全に息が上がっている。俺の攻撃が効いたのもあるだろうが、一番は慣れない炎を多用していることだろう。
氷で熱が籠るデメリットは解消できても、消費する体力自体は回復しない。
あと二、三回ぶん殴ったら勝ちだな。これ。
──そう思考した所で聞こえてきたプレゼントマイクの実況に、俺は顔を顰めた。
『二種目目はパッとしなかった真堂! あの
『……オイ。お前なぁ……』
観客席はザワザワとし、相澤先生は呆れたような声を上げる。そして、轟の顔から表情が消えた。
「焦凍ォォォ! 赫灼を使えぇぇえええ!!!!!」
エンデヴァーの叫びが会場に響く。耳がピリピリすんだけど。どんだけ大声なんだよあのおっさん。
……赫灼、エンデヴァーの必殺技だ。同じ個性を持つと言うなら、使えない方が不自然ではある。
「……使えんの?」
俺の言葉に、轟は渋い顔をした。
「使えねぇ。発動に時間がかかるし、その後ぶっ倒れる」
……つまり、時間をかければ打てるってことだ。
ちょっと興奮してきたな。
ずっと気になってたんだ。
エンデヴァーのあの、異常な
「お前、何笑って──」
「待つから、やれ。俺の全力とお前の全力、どっちが強いか決めようぜ」
俺の言葉に轟はキョトンとした顔を浮かべた。
『オイオイオイ! アツすぎるだろお前!』
『……合理性に欠けるね。本当に』
プレゼントマイクは興奮した様子で、相澤先生は呆れている。どこまでも対称的な2人だが、これでめっちゃ仲良いんだから面白いよな。
「……俺は──」
「まだ親父どうこう気にしてんのか? お前は」
「……」
轟はバツの悪そうな顔をして黙り込む。くそ、あんな加齢臭に縛られ続ける必要はないだろうに……。
「エンデヴァーの『ヘルフレイム』とお前の『半冷半燃』は違う。半分は受け継いでいたとしても、お前の個性はお前の個性だ」
「それは分かってる! でも──」
「でももだってもねぇだろ。
轟はキョトンとした顔を浮かべた。そして、口角を上げて笑う。
「……勃起させながら言う言葉じゃねえだろ」
轟に言われて、空いた穴からギンギンの息子が出ていることに気がついた。最初は半分くらいしか出てなかったのに今じゃモロチンだ。
流石に止められるか……? と思ってミッドナイトをチラッと見ると、「青春……」と言いながらムチをしならせていた。大丈夫そうだ。
「俺も
「……あぁ。──ありがとう」
左半身から超高音の炎を滾らせた轟。
その顔には、一切の曇りがなかった。
―――◆―――
『放送は中止されてっからこの戦いの結末を見届けれるのは会場のおめぇらだけだ! 全身全霊で楽しめよォォォ!』
「これ……大丈夫かな……」
「どうしたんですの? 耳郎さん」
「いや、あんま聞こえなかったけど、アイツ全力でやるって言ってた気がして……」
耳郎の呟きを拾った八百万百は、頬を赤くしながら口を開いた。
「心配ありませんわ。いくら全力と言えど雄英の設備を壊すほどの威力はないでしょうし……。そ、それに、せ、性器を露出した状態で全力を出せるとは思えません」
「おちんぽだろぉ──あぶっ」
「ケロ。でも少し心配ね。2人とも大きな怪我をしないといいけど……」
クラスメイト達の言葉を受けても、耳郎の胸のモヤモヤは晴れなかった。
ソレの原因が2人が怪我をするかもしれないからなのか、彼氏の性器が世界に晒されたなのかは、分からなかった。
「これは──」
「──そういうことか、個性を……汗を溜めて、威力を上げる……ッ」
スタジアムの上。奇しくもスタート地点と同じ場所に立った真堂と轟は、それぞれの最強最高の一撃を放たんと、究極の集中状態の中にいた。
真堂は右の拳に青白い球状のエネルギーを発生させ、左手でそれを抑えるように立っている。
球状の周りには陽炎のようなモノが発生しており、見ている者に根源的な……腹の底に来る恐怖を抱かせる──モノだが、それを正しく認識している観客は一人も居ない。
ソレを正しく理解しているのは、一定の戦闘能力と個性の練度を持つ者──熱気に呑まれていない教師陣と、緑谷と爆豪だけであった。
「どっちが、勝つんだ」
対する轟は自身に宿る炎、その熱を極限まで上げていた。赫灼熱拳とは、炎熱エネルギーを溜めて圧縮し、点で放出する技術。
当然、その熱を溜めている間は本人の体温も上昇し、いくら炎熱耐性を持つ轟の肉体と言えど、その負担は凄まじい。
自身の肉が焼ける感覚で朦朧とする意識を保っていた轟は、拳を構える。
そして、燃え盛る全ての炎を、左の拳に圧縮した。
『ま、まるで小さな太陽! 見てるだけで目が悪くなりそうだぜ! というか、これは流石に──』
「ミッドナイト──」
「試合中止──」
その“熱”を直視してあ、これはまずいと冷静に戻った教師達の静止の声。それは、二人には届かなかった。
「……待たせたな、真堂……」
「いいや、俺も今準備できた。行くぞ」
真堂も轟も、その場から動かなかった。ただ、真堂は右の拳を、轟は左の拳を前に突き出し、その留めていたエネルギーを、前方に放出した。
──そして、
太陽…?太陽(断言)!
鉄哲と戦ってる時めっちゃ太陽みたいだったよねって。今アニメその辺見てます。
モロチンファイター…バトルでも興奮する男。キャットファイトで抜くこともある。観客席にいた男がヒロチューブで勝手に生放送をしていてちんぽが全国に晒された
轟…太陽(太陽ではない)! 赫灼の片鱗を掴んでる。つおい。
緑谷…次どっちかと戦うのマ?どうやって勝とうかな
爆豪…クラスターの構想を閃いた
耳郎ちゃんとエッチしたいよ