『──今回の体育祭両者トップクラスの成績! まさしく両雄並び立ち今! 緑谷
プレゼントマイクの実況を受けても、俺たちは睨み合ったまま動かなかった。理由は単純。この戦いは先に動いた方が不利だからだ。
俺が震界を打とうにも、溜めの段階でしばかれる。
逆に緑谷が突っ込んできても、俺はそれにカウンターを差し込める。
「……さっき、麗日さんと話してきた」
心臓がドクンと跳ねる。
緑谷お前、この舞台で何を言い出すつもりだ……!?
「最後のアレ、真堂くんの技から着想を得たらしいよ。ありがとうって、言ってた」
「……そうか」
そうとだけ言って、緑谷は緑色のスパークを身にまとう。
──ホッと息を吐いた次の瞬間。俺の顔面に緑谷の拳がぶち込まれた。
―――◆―――
「クソ、次コイツらかよ。先生! コイツら殺してくれ!」
「それはいつか自分でやるんだよ。弔」
AFOが所有する拠点の一つ。パソコンの前で首を掻きむしる男──死柄木弔は、自分の後ろに立っているAFOに向かって愚痴る。
「いずれ君の障壁になるんだ。よく見て備えなさい」
「糞みたいな話だぜ……」
グチグチと言いながらも、死柄木弔はパソコンの前から離れなかった。
「おお! 行け緑谷! ザマァミロちんこ野郎!」
「……なるほど、君が──」
死柄木の肩越しに試合の様子を見ていたAFOは、自分の勘違いに気付き、そして正しい
―――◇―――
『緑谷の突撃! 真堂吹っ飛び場外──になることは無く戦線復帰だ! 相変わらずイカれたスピードだな緑谷!』
カウンターの為に右拳を振動させていたのだが、間に合わなかった。動揺していたとはいえ、それを抜きにしても対処できていたかは怪しいところだ。
「痛ってぇ。今何%くらいよ」
「……6ってとこかな。いや、7くらいかも」
「聞いといてアレだが、分かんねえや」
そもそもの基準が分からないから、7%と言われてもよく分からない。それでも、とんでもなく早くて、とんでもなくパワーがあることは分かる。
──来る。
「──構えときゃ何とかなるな」
「っ!」
今度は蹴り。勢いのままのドロップキックを最小限の動きで交わし、半球状の振動エネルギーを纏った状態の手で、緑谷の顔を鷲掴みにする。
「ッらァ!」
「まず──」
緑谷のパワーと慣性に負けそうになりながらも、踏ん張り、全力で地面に叩きつける。
緑谷諸共地面がズンッと沈み、コンクリにクモの巣状のヒビが入る。
──カハッと唾を吐く緑谷を無視して、振動を解放した。
「ぐぁあああァっ!」
「多少防御力も上がってんだろ」
圧縮された振動エネルギーをモロに食らった緑谷の絶叫がスタジアム中に響く。頭蓋骨が折れたりはしてねぇだろう。
増強系はある程度遠慮なく殴れるのが助かる。他の個性だったらそうは行かねぇからな。
『猛烈なカウンターが決まったァああ! あれ直撃は流石にヤバいんじゃないか緑谷! 死んでねえよな!?』
『縁起でもないこと言うな。アホ』
白目を向いて口から血を吐いた緑谷を放り投げて、地面に手を当てる。これだけじゃ緑谷は倒れない。
相澤先生も同じ考えなのだろう。実際、緑谷はボロボロになりながらも、受身を取ってその場で呼吸を整えている。
「長期戦になったら俺の負けだ。だから、ここで終わらせる」
「──っ!」
俺の個性はキャパに上限がある。
というか、全ての個性がそうだ。身体機能である以上、使いすぎたら筋肉痛的な反応が起こる。だが、緑谷の個性にはソレがないんじゃないかと俺は睨んでいる。
根拠がある訳じゃない。しかし、緑谷と緑谷の個性『超パワー』には、少し不可解な点が多すぎる。
去年発現したっていうのがまず変だ。
個性は大体5歳になるまでに発現する。
例外は、第二次性徴と共に眠っていた個性因子が覚醒して発現する場合くらいだ。そうじゃないパターンで発現した例を俺は知らない。
それに、緑谷の性格も気になる。
何年か前にデヴィット・シールドという科学者が、個性因子の肉体への影響を解き明かした。
炎熱系の因子を持つ人間は情熱的になりやすく、植物系の因子を持つ人間は穏やかに、増強系の因子を持つ人間は逞しくなる。
あくまでそういう傾向があるってだけだ。因子だけで、個性だけでその人の性格まで測ることはできない。だが、妙に引っかかる。
増強系の個性だってのにこんなにナヨナヨしいことがありえるのか? 遅めの発現といえども、個性因子自体は、緑谷の肉体にずっと宿っていたんだから。
もし、個性因子が最初はなかったとしたら──いや、思考が逸れてきたな。戦いに集中しよう。
何が言いたいかっていうと、緑谷のキャパが分からない以上、速攻で決めるのが得策だろうってことだ。
「はぁ、はぁ……」
フラつきながら呼吸を整えている緑谷。ソナーを終えた俺は、程よい出力で地面を“振動”させた。
「──”震伝動地”」
地面が、大きく揺れた。
『本日二度目の大地震! が、さっき程じゃねえな! どうする緑谷!』
ステージ全体にヒビが入って、それから崩壊した。
兄貴の必殺技を勝手に使わせてもらったが、まぁ許してくれるだろう。なんなら大舞台で使ったことを褒められるかもしれない。
「!」
緑谷は地面の崩壊に巻き込まれまいと空に跳んだ。まるでオールマイトのようであるが、その行動こそが俺の狙いだ。
『跳躍ならぬ超躍! しっかし、凄まじい機動力だな。決め手を避けられた真堂、さぁここからどうする!?』
『……悪手だな』
ブォンと低い音を鳴らしながら球状のエネルギーを拳に纏う。空中での機動力がない緑谷に、この一撃が凌げるのか?
「あっ──」
「しまった」とでも言いたげな緑谷と目が合う。まぁ、時すでに遅しってやつだ。空間が歪むほどに圧縮された振動のエネルギーを、捉えた空気の面に叩きつける。
──バギャ……ッバギッ!
位相が大きくズレることにより発生したヒビ割れは、次の瞬間には暴力的な……という言葉すら生ぬるいほどの衝撃波となり、緑谷に襲いかかった。
『本日何度目かのグラグラパンチ! さぁ緑谷場外のラインはとっくに超えている! 地面に足着きゃその時点で敗退が決定だ! とうする緑谷!?』
『……』
凄まじい速度で吹っ飛んだ緑谷は、高度を下げながら落下している。もう、ステージよりも観客席の方が近い。足場があればここに戻ってこれるだろうが、そんなものはない。
『腕を構えた緑谷……そのまま地面に着地! ということは──』
「……腕ぶっ壊してでも戻ってくると思ったんだが、流石に体育祭ですることじゃねえか」
麗日や飯田から聞いた話によると、超パワーを100%解放した緑谷はそれはもう凄まじい身体能力を発揮するらしい。
ひとっ飛びでビルを越え、拳の一振で0P敵をぶっ飛ばしたそうだ。そのパワーを使えば反動でここまで戻って来れそうだったが、観客席が近いことで躊躇ったか?
第一種目1位、第二種目1位ときで最終種目二回戦敗退は少しイメージダウンだが、まぁ相手がこの俺なのでそこまで印象が悪くなることはないだろう。
「緑谷くん場外! 真堂くん三回戦進出よ!」
その言葉を受けて、なんとかその場に立っていた緑谷は地面に崩れ落ちた。
一発目のアレが今になって効いて来たのか、精神的なショックで気絶したのか。救助ロボに運ばれている緑谷を横目に、俺はステージから降りた。
―――◆―――
『──二回戦第二試合! B組からの刺か……否! B組の聖女
「聖女、というのも少し引っかかりますね……」
「刺客よりはマシじゃねえか?」
もう試合が始まるってのに祈りの所作を崩さない女──塩崎茨に注意を払ったまま、チラリと観客席一部──A組の待機席に目を向ける。
「……」
先程まで試合をしていた友の姿を確認して、俺は視線を戻した。ここを突破したら、相手はアイツだ。ここを勝ち抜けることが前提となるが、どうしても想像してしまう。
『START!』
プレゼントマイクの実況を耳が捉えた瞬間。俺は個性『シュガードープ』を発動した。
『砂藤の全身がパンプアップ──した瞬間! 塩崎の目の前に移動!! 塩崎それを茨でいなす! オイオイ、砂藤が踏み込んだ地面にヒビが入っているぞ!?』
『……塩崎、よくいなしてるな。今ので終わったかと思ったが』
「……よく反応出来たな」
「生まれつき目が良いんです」
掴もうと伸ばした手は茨に弾かれた。そのまま俺を拘束しようとしてくる茨はバックステップで避ける。
全開の半分と言えども、俺の今の“身体能力”──筋力や耐久力、瞬発力──は元の2.5倍に強化されてんだ。
自慢じゃないが100m走は5秒を切る。それくらいのスピードに、塩崎は対応して、反撃まで入れてきた。
──強いな。
「私はあの人に教えを説かねばならないのです。どうか、降参してください」
「そりゃ無理だ。俺も、アイツとやり合いたいんでな──」
様子見は終わりだ。
俺は追加で糖分を5g消費して、シュガードープの出力を全開にした。
―――◇―――
「やっぱ強えな。アイツ」
「強いね〜」
「しかし、塩崎も強いな」
「あのスピードについてく自信ないや」
緑谷との戦いを終えた俺は、A組の席に戻って塩崎vs力動を観戦していた。左は響香、右は帰ってきた轟。前には葉隠が座っている。
試合は力動有利で進んでいる。最初は抑えていた出力を上げてからは、圧倒的と言ってもいいかもしれない。
塩崎は力動の連撃になんとか食らいついて茨を使い弾いているが、それもどんどん間に合わなくなってきている。あ、腕掴まれた──
『防戦一方だった塩崎! とうとう砂藤に腕を捕まれ──ぶっ飛ばされた!?』
『手加減はしてる。受け身とりゃ大きな怪我はしねぇよ』
塩崎の腕を掴んだ力動は、そのまま塩崎を横にぶん投げた。塩崎は凄まじいスピードで場外へと飛ばされていく。
「砂藤容赦ないな……」
「容赦してりゃ力動が負ける。殴っときゃ終わってそうだが……咄嗟の力加減はまだ出来ないみてぇだな」
「……よく見てんね」
響香とたわいない話をしながら観戦していると、吹っ飛んだ塩崎は茨を地面に突き刺して場外アウトを防いだ。
セメントスのコンクリを茨一本で、だ。やろうと思えば人も突き刺せる気がする。恐ろしい個性だぜ。
『塩崎なんとか踏ん張る! ……おっと、これは……?』
茨を支えにしたまま空中に浮かんだ塩崎は、体勢を整えて力動を見下ろす。
塩崎の髪が蠢き、ドンドンと何かをかたどっていく。
『……こりゃ、人か?』
『巨人、か。凄まじい練度だな』
「……規模感すげえな」
「あんたが言う?」
言うなれば、それは緑の巨人だ。
大きさは10mくらいだろうか、巨人の上半身を形どったそれが、ステージの半分を侵略しながら顕現した。
塩崎はその頭部に位置している。彼女が右腕を振ると、それに連動して巨人の腕が振り下ろされた。
そして、力動が潰された。
個人的に、ストーリーの合間にエッチする作品が好きだからそうしようと思ってるんですけど、エッチしない回が続くとドンドンエッチしたくなる。先人達はこのムラムラとどう向き合ってたんだろうか