「君! 優勝した真堂くんだよね!?」
休み明けの登校日。響香と共に雄英を目指して歩いていると、背後からそんな声がかけられる。振り向くと、そこに居たのは犬の散歩中のおっちゃんが居た。少年のように目をキラキラとさせ、鼻息を荒くしている。
「いやぁ! 生で見ると大きいなァ! 優勝おめでとう。来年も頑張れよ!」
「ありがとうございます……」
勢いよく捲し立てたおっちゃんは、ペットの大型犬に引きずられるようにして立ち去って行った。
「ウチは?」
どこか不服そうな響香の声は、ザアザアと降る雨に飲み込まれて消えた。
―――◆―――
「超声かけられたよ来る途中!!」
「私もジロジロ見られて何か恥ずかしかった!」
「俺も!」
どうやら声をかけられたのは俺だけじゃなかったらしい。まぁ、当たり前っちゃ当たり前か。雄英体育祭は凄まじい注目度がある。最終種目まで残ったとなると、そこらの無名ヒーローより知名度があってもおかしくない。
「たった一日で一気に注目の的になっちまったよ」
「やっぱ雄英すげえな……」
「おはよう」
チャイムの音と同時に相澤先生が教室に入ってきて、教室は先程までが嘘のように静まり返る。調教の賜物だな。
「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」
「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなもんより、今日の“ヒーロー情報学”ちょっと特別だぞ。『コードネーム』──ヒーロー名の考案だ」
「「「胸ふくらむヤツきたあああ!!」」」
相澤先生の言葉に教室がドッと沸いた。ヒーロー名、とうとうそれを決めるとこまで来たか……! 一応、候補は何個かある。これは俺だけじゃなく、ヒーローを目指して雄英に来たみんなも持っているだろう。
「というのも、先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積んで即戦力として判断される2、3年から。つまり、今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近いな。卒業までにその興味が削がれてキャンセル、なんてこともよくある」
「大人は勝手だ!」
峰田が叫びながら台パンした。
「頂いた指名がそのまんま自身へのハードルになるんすね!」
「そゆこと。んで、その指名の集計結果がこうだ」
相澤先生の言葉に反応して、黒板にグラフが現れた。
A組指名件数
真堂 4213
爆豪 3204
轟 2123
常闇 324
緑谷 250
上鳴 246
飯田 179
切島 149
麗日 103
八百万 74
耳郎 32
砂藤 17
芦戸 9
「例年はもうちょいバラけるんだが……今年は偏ったな」
「見る目ないよね。プロ☆」
「結構トナメの順位通りだな〜」
「チッ」
「4000票ってすげ〜」
各々が近くに居る人と話している。爆豪は舌打ちだけして、特に何も言わずにふんぞり返っている。
「これを踏まえ、指名の有無関係なく職場体験に行ってもらう。お前らは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」
「それでヒーロー名か!」
「俄然楽しみになってきたァ!」
「まぁ仮ではあるが適当なもんは……」
「──付けたら地獄を見ちゃうよ!」
相澤先生の言葉を遮って教室に入ってきたのは、ドスケベヒーローミッドナイト。
「この時の名が世に認知され、そのままプロ名になってる人多いからね!」
「ミッドナイト!」
「まぁ、そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。将来自分がどうなるのか、名を付けることでイメージが固まってそこに近づいていく。それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな」
Almight。たしかに、オールマイトにはピッタリの名前だ。逆に、これ以外だとしっくり来ないまである。それほどまでに、オールマイトは全能的で神がかっていた。
「──じゃ、そろそろ行きましょうかね。出来た人から発表してね!」
あれから15分が経った。ミッドナイトの言葉を受けて速攻で席を立ったのは金髪碧眼のハンサム──青山優雅だ。
青山は教壇に立つと、フリップをこちら側に向ける。
「輝きヒーロー“
「短文!?」
「そこはIを取ってCan'tに省略した方が呼びやすい」
「それねマドモアゼル☆」
青山のヒーロー名が無事決まり、入れ替わるように芦戸が前に出た。
「じゃあ次アタシね! エイリアンクイーン!!」
「2!! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!!」
「ちぇ〜」
渋々席に戻った三奈。誰が次に続くか、という空気が流れたがすぐに梅雨ちゃんが手を挙げた。
それから切島、響香、障子と続き、どんどんと皆が発表していく。途中で爆豪が咎められたりしながらもすぐに残り三人まで来た。
「思ったよりずっとスムーズ! 残ってるのは再考の爆豪くんと、飯田くんに真堂くん、緑谷くんね」
「んじゃ俺行っていいスか?」
「来なさい!」
そもそもずっと決まってた。皆の感じが気になり様子を見ていただけなのだ。教壇に立った俺はフリップを皆の方に向けて、ヒーロ名を口にする。
「振動ヒーロー“
「いいじゃない! 海外ウケも良さそうだし」
再考にならなくて良かったぜ。少しホッとしながら、俺は席に戻る。俺の後は飯田が“テンヤ”を、緑谷が“
「職場体験は1週間。肝心の職場だが、指名があった者は個別リストから渡すから、その中から自分で選択しろ。指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件、この中からえらんでもらう。それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なるから、よく考えて選べよ」
「俺ァ都市部での対凶悪犯罪!」
「私は水難に係わる所がいいわ」
「今週末までに提出しろよ」
「あと二日しかねーの!?」
騒々しい皆を気にせず、俺は何十枚と渡された紙の中から目当ての名前を探す。チャート順にしといてくれれば分かりやすかったのだが、五十音順なのでま行を見つけるところからだ。
「2人ともめっちゃ枚数あんじゃん。すご」
「こんだけ指名してくれても行けるのは1箇所だけだけどな」
「有象無象からの指名なんぞ何の意味もねーわ」
響香が振り向いて俺の書類をペラペラと捲っていく。爆豪の言葉に同意する訳じゃないが、間違ったことは言っていないと思う。実際、名前も知らない事務所から来てる指名も沢山ある。向こうも、本当に俺や爆豪が来るとは思ってないだろう。いわば記念指名だ。ワンチャン雄英生が来てくれたら良いなくらいのやつ。
「──しゃあっ」
「急にどうしたの……って、あぁ、なるほど」
みから始まるヒーロー事務所からの指名。その中程にあった、“ミルコヒーロー事務所”の文字。
クラストや、エッジショットからも指名が来ていたが、流石にミルコだな。一応最後まで見るが、それでもほぼ確定だ。ミルコから指名を貰うために体育祭で優勝したと言っても過言じゃないし。
「わぁ、凄い笑顔!」
「気色悪いわ!」
どうやら俺は凄い笑顔らしい。葉隠は好意的に見てくれているが、爆豪からは不評だ。いや、ただのツンデレかもな。爆豪はデレが0でただのツンツンだが。
「爆豪はどうすんの?」
「なんでお前に言わなきゃ行けねぇんだよ死ね」
「いいじゃん。俺らの仲だろ」
「アァ゛!?」
どうやらそこまで仲良くないらしい。爆豪は目をエグい角度で吊り上げて吠えた。はぁ。全く嫌になる。よし、緑谷にも聞いてみるか。
「──ベストジーニスト」
「おぉ」
席を立とうとした俺を止めたのは、爆豪の声だった。想定外の言葉で、思わず気の抜けた返事をしてしまう。
「チッ! 聞いといて間の抜けた返事してんじゃねぇぞ!」
「悪い悪い。答えてくれるとは思わなくてよ」
「じゃあなんで聞いてきてんだクソが!」
爆豪と少し仲良くなれた気がして、俺は少し嬉しくなり声を出して笑った。爆豪の機嫌が更に悪くなったのは言うまでもないだろう。
―――◇―――
「さて、この辺だったよな……」
放課後。俺はすっかり忘れていた振天の修繕依頼と、進化した『振動』に適応したコスチュームに改良して貰うためにサポート科の工房を探して廊下を歩いていた。
「絶対ここだろ」
明らかにおかしい鉄の扉を見つけた。“Development studio”と付けられたその部屋の扉をノックする──
──BOMB!
──拳が扉に触れる瞬間、俺は何かの爆発に巻き込まれて吹っ飛んだ。
何者かが俺の上に乗っていて、たわわとして柔らかさを顔に感じる。これは──おっぱい?
「フフフいててて……」
「ゲホッゲホッ、お前なァ……。これで何回目の爆発だよ」
「まだ両手の指で数えれるほどですよ!」
おっぱいが喋っている。ぷるんぷるんと揺れるそれを前にして、呼吸を深くしてしまうのは不可抗力と言うやつだろう。彼女の匂いが鼻いっぱいに広がる。汗と体臭の匂いが混ざりあった独特な香りが股間にガツンと来る。
「スンスンと鼻を鳴らすあなたはいつぞやの優勝者じゃないですか!」
「──待て、語弊がある」
特徴的なピンク色の髪を持つ爆乳美少女──発目明を抱えて立ち上がり、彼女を地面に下ろす。いつまでもああしてたら勃起しちまうからな。軽く髪と服を整えた俺は、咳払いをしてから本題を切り出した。
「俺は真堂司だ。ヒーロー科の。コスチュームの改良と修繕の件でパワーローダー先生に相談が──」
「コスチューム改良!? 興味あります!」
俺が言葉を言い切る前に、発目がグッと顔を寄せてそう言った。タンクトップという防御力の低い服のせいで──否、おかげで、深い谷間がよく見える。おっぱいデカすぎだろ発目。
「発目……。次爆発させたら出禁にするぞ……。くけけ……。んで、真堂くん、イレイザーヘッドから聞いてるよ。サポートアイテムである武器の修繕と、個性の進化によるコス変更の件だろ。入りな」
「出禁は嫌です!」と叫んでる発目を無視して、俺は工房の中に足を踏み入れた。
「おー、すっごい」
中はまさに工房と言った感じで、至る所に開発に使うであろう機材が置かれている。ほとんどが見慣れないものだが、実家が解体屋ということもあってインパクトやディスクグラインダーといった見慣れた物もある。
「じゃ、コスチュームの仕様書見せて。俺
「ありがとうございます!」
「おー、結構ポッキリ折れてますね」
仕様書を取り出そうとケースを開けた瞬間、猫のような身のこなしをした発目が俺のコスチュームと振天をひったくった。鞘から抜かれたのは、刀身が半ばから折れてしまった細身の刀。
「結構しっかり折れてんじゃん。もっと早く持ってきてくれりゃ良かったのに。……ここまでのやつはデザイン事務所に依頼しねぇと無理だな。3日くらいかかるが大丈夫か?」
「大丈夫っス。すんません」
「いや、お前も色々大変だったってのは聞いてる。責めたつもりは無いよ」
「これ、面白いですね」
仕様書とコスチューム、それと振天の鞘をいじくりながらそう言った発目。一体何が面白いのか──と思った次の瞬間、発目が俺の手を握った。
「……なにしてんだ?」
「振動させてください」
「いやしかしここでは……」
「イイよ。オレが許可する」
まぁ、先生がいいと言うならいいか。低周波の『振動』を低い出力で発動する。スマホのバイブ機能位の振動を受けて、発目は「おぉ」と声を漏らした。
「なるほど。モノを振動させることも?」
「出来る。……で、なにしてんだこれ」
「それを使って
「なんか面白いとこあるか?」
「──これ、振動させてみてください」
乱雑にモノが入れられた箱の中をガサゴソと漁り、発目はピンポンサイズのボールを取り出してそう言った。どうやら俺の話を聞く気はないらしい。仕方ない。ちょっと付き合うか。
「これがどうなる──お、おおぉ?」
「どうです! 私のドッ可愛いベイビー12号!」
振動させているのに球は一切揺れない。まるで、振動が吸われているかのようだ。これ、一体どこまで行けるんだ。
「簡単に言うと振動エネルギーを安定した状態で保持する球体です! エネルギーを解放するにはそのボタンを押せば──」
どこまでも吸われていく振動。少し面白い、出力を少し増す。
次の瞬間。ピピピピという警戒音が流れた。
あ、やべ──
──BOMB!
「……まぁ、限界を超えたら爆発します」
「すまん」
「いえ、面白いデータが取れましたよ……!」
小規模な爆発を起こした球体。……振動させすぎたな。
俺の手のひらから残骸を回収した発目は、それを何やら凄そうな機械の上に置いて作業をし始めた。
「てか、なんでこんな発明品──」
「ベイビーです」
「……ベイビーを作ったんだ? 振動エネルギーの保持なんて、そうそう使う場面ないだろ」
「この子を作ったのは体育祭があったその日です。ほら、貴方が私の目の前から独特な歩法で居なくなった日。アレのせいで私の注目が少し下がってしまったのは非常にウザかったですが、それはそれとして貴方の個性にインスピレーションを受けたんですよ。気づいたら作ってました!」
「ほう」
発明家のことはよく分からない。というか、俺の個性でデータ取るだけとって自分の世界に入りやがったな。
「パワーローダー先生。コスチュームの改良の話なんですけど──」
「それも私がやります! ──はいこれ、許容量上げました。今度は壊さないように振動をチャージして解放してみてください!」
「……お前すげぇな」
「けひひ。こいつは俺が見てきた中で一番の天才だよ。ズレてる所も少し、いや、多々あるが……」
渡された球はさっきより小さかった。ゆっくりと振動させて──震えはしないが──エネルギーを溜めていく。
5秒もせずに、上部についた小さなライトが緑色になった。どうやら、MAXまで溜まったらしい。
「とんでもないスピードですね! さっきの5倍は許容量ありますこれ! 前のでも私がエネルギーを溜めるのに3時間はかかったというのに……!」
「まぁ、『振動』なしに溜めるのは大変だろうな。……解放のボタンないけど」
「必要ですか? 貴方の振動エネルギーでしょ!」
「……それもそうだな」
言われてみれば確かに。俺が生み出した振動のエネルギーを俺が操作できないという方がおかしな話だ。
手のひらの上にある球体。その中に貯蓄されているエネルギーに意識を向ける。そして、普段とは異なるイメージ──手に持った道具を使うような──で、個性を発動する。
──ブブブブブブ
「おぉ! やっぱり行けましたか!」
「半信半疑だったのか。……しかし、これ良いな。コスチュームのサポートアイテムとして使っていいか?」
「構いませんよ! その代わり、定期的に貴方の体を貸してください!」
「何言ってんだお前」
「莫大な振動エネルギーを生み出せる貴方は貴重な燃料であり資材になります!」
「個性目当てか……」
しかし、ここまであけすけだと全然嫌な気にならないから不思議である。
さて、そろそろコスチュームの改良の話をしよう。
その話を切り出そうとした時、発目が「そういえば……」と言い、俺の目を見つめて首を傾げた。
「貴方の名前、なんでしたっけ?」
「……真堂司だ。最初にも名乗った気がするんだが」
「そうですか、それは失礼! でも、これで覚えましたよ」
そう言ってにっこりと微笑む発目を見て、毒気が抜かれてしまう。軽く息を吐いた俺は、気を取り直して発目と先生にコスチュームの改良についての話をしたのであった。
発目明…振動エネルギーおもしろ!
主人公…良い感じのサポートアイテムを貰った。振天の鞘やコスチュームの素材を変更して戦闘能力が少し上がる。
発目明ってものすごくエッチ。主人公がサポート科だったら毎日エッチして一緒にベイビー作ってたと思う。