「コスチューム持ったな? 本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!」
「伸ばすな。「はい」だ芦戸。くれぐれも失礼のないように。じゃ、行け」
職場体験当日。コスチュームが入ったバッグを持った俺たちは、雄英高校最寄りの駅で解散した。各々職場体験先が違うからな。こっからは各自お世話になる事務所に行き、そこで1週間の職場体験を行うという感じだ。
「そういえば、ミルコの事務所ってどこにあるの?」
「ミルコは事務所を持ってないからな。待ち合わせ場所……ここで合流だな」
大変珍しいことにミルコは事務所を持っていない。形式上の“ミルコ事務所”というモノは存在しているのだが、実際に寝泊まりする拠点やサイドキックは居ないらしい。
「ふーん。そうなんだ」
「そうそう。響香のとこはたしか奥渡島だったか?」
「うん。あー、今から緊張してきたな……」
響香の職場体験先は鯱ヒーロー“ギャングオルカ”の事務所だ。ギャングオルカは
「ゴリゴリしごかれそうだよな」
「怖いこと言わないで」
ツンツンとプラグの先で俺をつつきながらそう言った響香は、深く息を吐いて、自分の頬をパチンと叩いた。
「よし。……行ってくるわ」
「おう。頑張れよ」
覚悟を決めた様子の響香は、硬い動きで駅の改札に進んで行った。……殆どみんな行ったか。残ってるのはまだ電車の時間が来てないやつ──三奈と力動くらいである。
「三奈と力動はどこ行くんだっけ」
「私はウォッシュ事務所〜」
「俺はファットガムの所だな。──お、ボチボチ新幹線の時間だわ。またな!」
「おー、頑張れよ!」
「頑張って〜!」
力動が新幹線乗り場に駆け足で向かった。力動はタッパがあるから人混みに紛れても後頭部が見える。それに軽く手を振りながら、三奈の方に視線を戻した。
「ウォッシュ事務所ってなんか緩そうだよな」
「そう? ああいう子供人気高いヒーローは意外に熾烈な票取り合戦してるらしい、事務所内でもバチバチしてるかも……!」
「マジか。三奈も負けないようにしねぇとな」
「私はまだその段階じゃないでしょ〜。今は知名度上げないとね」
三奈は両手を頭の上で組んで体を伸ばす。たわわに実った双丘がふるんと揺れた。
「……」
入学早々にSEXして以来、三奈とはそういう事は一切していない。……していないが、人間の脳みそは一度見た物を忘れることは出来ない。こうしたトリガーがあると、どうしてもおっぱいの姿形や柔らかさ、そしてセックスした時のことを思いましてしまう。
「……♡ ねぇ──」
「お、そろそろ時間じゃないか?」
こんな真昼間から勃起する訳にはいかん。おっぱいから時計に視線を向けたら、三奈が乗る新幹線が来る時間に近づいていた。この時間なのでそこまで人はいないだろうが、そろそろ並んでいた方がいいだろう。
「……ホントだ。じゃ、またね」
「おう。頑張れよ〜!」
小さく手を振りながら乗り場に向かう三奈。雄英の女子の制服はスカートが短い。歩行に連動してフリフリと揺れるそれを見ながら、俺は三奈を見送った。
……時計に目をやる。待ち合わせの時間はとっくに過ぎていた。ヒーローは忙しいとはいえ、ちょっと遅い。
「……ミルコ遅え──」
「誰が遅いって?」
俺のつぶやきを拾った勝気な声。ギギギとぎこちない動きで振り返ると、白髪に赤眼、そしてピンと立った兎の耳を持ち、かなり際どいハイレグのようなヒーローコスチュームを着た褐色肌の女性──ラビットヒーローミルコが、そこに居た。
―――◇―――
「クソ、無茶苦茶すぎんだろ……!」
「生意気だなお前! 着替えて着いてこい!」とミルコに言われてから3時間が経った。この3時間、ミルコは突発的に現れた
俺はそれを追い続けている。もっとも、到着はミルコが事件を解決した後になる事がほとんどだが。
俺の主な移動方法は地面を一瞬振動させてその反動で高速移動する技──瞬歩である。
個性伸ばしにより傍から見たら瞬間移動と勘違いされる程の速度を出せるようになっても、その出力だと連発出来ないのでミルコに追いつけない。
出力を抑えた瞬歩を連発するにも、純粋に速度負けしてミルコに追いつけない。
今回もまた、間に合わなかった。
「クソ、また──」
「ミルコありがと〜!」
「いいってことよ! またな!」
俺が到着した時には、ミルコは事件を解決していた。ミルコのサインが入った風船を大事そうに抱えて笑みを浮かべる少女に手を振り、ミルコは宙に跳んだ。
「このままじゃいつまで経っても追い付けん」
ミルコは建物の壁や少しの出っ張りを経由して、正に兎の如く身のこなしで街の中に消えていく。
驚異的な跳躍。こうもぴょんぴょんと飛ばれては、基本的に地上に縛られている俺では対応できない。
「お兄ちゃんは飛べないの?」
風船を持った少女の純粋無垢な疑問に、回答に困る。俺は空を飛べない。落下物やなんからの足場があればその限りじゃないが、対象を振動させた反動で移動する関係上、その辺の建物にポンポン使う訳にはいかない。
なら、どうすればミルコに追いつける──いや、そうか。
「……空を、足場にすればいい」
ぽつりと、思考がそのまま口から漏れた。首を傾げた少女は、俺に手を振ってからてくてくと歩いて行った。ありがとう名も知らぬ少女。君のおかげで新しいアイデアを思いついた。手を振り返してから、意識を『振動』に向ける。
どうやって空を飛ぶか。その為にどうやって空中で瞬歩を使うか。その取っ掛りは既に掴んでいる。
鍵になるのは“震界”を打つ為の感覚──空気の面を捉える感覚だ。震界は
空気を面として捉える以上、そこに瞬歩が打てない道理はない。
早速試そう。足の裏から超高周波振動を地面へ一瞬だけ流し、爆発的に増幅した反発力で宙に跳ぶ。
視界がグッと引っ張られて、地上から20mほどの高さに到達し──直ぐに自由落下を始める。
「瞬歩」
下方の空気の面を捉えて、そこで瞬歩を発動する──不発だ。勢いを殺して地面に着地する。何故出来なかったかの理由は明白、空気の面を捉えきれて無かったから地面を振動させることが出来なかったんだ。
「……シビアだな。これ」
逆に行けば、空気の面を捉えるきることができたら行ける。そんな確信があった。
そもそも空気の面を捉えるとは何なのか、改めて整理しよう。分かりやすく捉える、と言っているが、正しくは“空気に微弱な振動を送り一瞬だけ空気の面──振動面を形成する”と言うのが正しい。
慣れてきたので界震の時は大雑把に振動面を作っていたが、これはもう少し丁寧にしないと出来そうにないな。
再び飛び上がり、周囲の空気を振動させて落下速度を抑える。
「瞬歩──」
足の裏の空気に微弱な振動を送り、一瞬だけ形成される振動面を確実に捉える。それが消える前に、そこに強力な振動を送り込み瞬歩を発動する──
「ッ」
──視界がグッと絞られ、俺は建物の壁に激突した。
「痛てぇ」
受身を取って着地する。壁にぶつかった顔が痛い。めっちゃ痛いが、それより嬉しさが勝つ。
コレの練度を上げていけば、俺は空中戦も出来るようになる。なにより、機動力が段違いだ。
「……ボチボチミルコん所行くか」
あまり離れては追いつけなくなる。普通の瞬歩に、偶に空中での瞬歩を混ぜながら、ミルコがいるであろう騒ぎが起きている所に向かった。
―――◆―――
「──お、やっと間に合ったか」
「待たせましたね」
ミルコの横に着地した俺を見て、ミルコと対峙していた銀髪の
「クソッ! ミルコに体育祭優勝した奴じゃねぇかッ! なんて日だよ……!」
「よし。お前がヤれ」
「……それは、戦闘許可ですか?」
「あぁ!? 当たり前だろ!」
ミルコは不敵な笑みを浮かべて腕を組み、その場で仁王立ちをする。
琥珀色の瞳の虹彩に波紋のような同心円状の紋様が刻まれている独特な目をしている。発目のようなタイプだろうか。
「……優勝者とはいえ所詮はガキ。あんまり俺を舐めるんじゃあねぇぜ! 俺の個性『催眠』を甘く見てると──」
「──“振拳”」
「クハぁっ!?」
瞬歩で距離を詰め、拳を振動させた状態でのパンチ──振拳を腹に叩き込む。
クリティカルにヒットした拳に追加して内側からの衝撃を受けた
態々個性を使わせてやる必要もない。何を使ってくるかも分からねぇしな。
「おぉ! 良い一撃じゃねぇか。よし! 後で私に打ってみろ」
「……マジすか」
「マジだ!」
ミルコはイメージ通り戦闘狂らしい。出力にもよるが、振拳は大抵の
ミルコはどれくらい耐えるのだろうか。
「気絶させた奴を拘束しとくのもヒーローの大事な仕事だ。起きて暴れるかもしれねぇからな」
「──はっはー! まだ終わっちゃねぇよ! 喰らえ、『催眠』!」
「あぁ?」
どうやら
「死ね!」
「ブへぇっ!」
まぁ、不意打ちと言えどもただの
「……?」
「どうかしましたか? ミルコ」
「あぁ、いや、なんでもない……」
ミルコは近くの手すりに捕まって、呼吸を整えながらそう言った。前傾姿勢になることにより鍛えに鍛え抜かれた臀が俺の方に突き出される。
性欲より、尊敬が勝った。どれ程の鍛錬を積んだらこれ程までに美しい筋肉がつくのだろうか。
「すぅ、はぁ♡ ……悪い。もう大丈夫だ。行くぞ」
完全な本調子……という訳では無さそうだ。呼吸を整えたことにより少し赤く染った頬と、汗により額に張り付く前髪が俺の息子を刺激する。
「はい!」
──だが、今は職場体験中。
お世話になっているヒーローに欲情するなど言語道断。ホテルとかで一発抜く位はするが、それはそれだ。
今はただ、ラビットヒーロー“ミルコ”の動きを目に焼き付けて、更なる成長を遂げたい。
心の底から、そう思った。
―――◇―――
職場体験一日目、夜。
「……」
ミルコは事務所を持たない。拠点となる家は地元と東京に一つずつあるらしいが、ここは静岡。必然的に、職場体験中はホテルに泊まることになった。
勿論部屋は別である。
「さて、ミルコで抜くか──」
シャワーを浴びる前に一発抜きたい。
スマホに手を伸ばした時、通知音がなった。
「これは……ッ!」
送られてきたのは一枚の写真だった。場所は更衣室の鏡の前だろうか、ヒーローコスチュームを途中まで脱いだ三奈が、大きな二つのおっぱいを片手で抑えている。
片手だと言うのに器用に乳首まで隠す──まて、左の乳輪が隠れていないじゃないか……! 肌も乳輪もピンク色だからな。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね……。
『そっちはどんな感じ?』
追加でメッセージが飛んできた。これは、職場体験についてではないだろう。俺の息子の状態についてだ。
実を言うと既に痛いほどに勃起している。ミルコのことをそういう目で見ないようにと意識していても、無意識の中で俺はミルコをエロい目で見ていたらしい。ホテルの廊下で別れた時から俺は半勃起していた。
そこに追加で三奈からエロい写メが送られてきたんだ。こうなってしまうのも仕方がないことだろう。
しかし、ここでそのまま「フル勃起です!」と返すのは流石に悪手だ。蛙化現象を起こした三奈に今までのあれこれをバラされて高校生活が終了するところまで読めた。
『めっちゃ勃起してる。今ホテルか?』
「……しまった」
考えるより先に指が動いていた。送った瞬間に着いた既読のマーク。嫌な汗が額から落ちる。
『ね、通話しよ♡』
数秒程の間の後に、そんなメッセージが送られてきた。
真堂司:空中機動力を手に入れた。対覚醒死柄木用。良くも悪くも考えるより先に体が動くタイプ。
ミルコ:ヒーロー活動中に偶然雄英体育祭の配信を見て指名した。
芦戸三奈:真堂が手を出して来ないのでずっとムラムラしていた。これからこれからは自分から誘うことにしたらしい。職場体験先はウォッシュ。行く先々で子供に囲まれウォッシュの人気を実感している。
催眠
個性は『催眠』で、自身の瞳を見た相手に催眠をかけることができる。催眠の強さは瞳を見た時間に比例し、認識、記憶、感覚等を操作できる優れた個性。
強力な個性を持ちながらも大きな悪事は働いて居らず、認識を操作して万引きしたり堂々とセクハラをする程度。直接的な戦闘力も低い。
女性ヒーローへのセクハラも行うことから、とある界隈では神のように崇められていたらしい。
転がり込んでいた女の家の近くにあるラーメン屋に行こうと外に出た所をミルコに遭遇してしまった。不運。
最後の抵抗としてミルコにとある催眠をかけた。
元々