「オールマイトすら恐れるヒーロー……。聞いた事ない名前だけど、凄い人に違いない!」
雄英高校近くの駅から新幹線で45分。それから歩いて10分くらいで、僕はこれから職場体験を受けさせてもらう事務所──オールマイトの師匠であるヒーロー、グラントリノの事務所にたどり着いた。
「すごい人に違い……ない……」
頂いた住所にあったのは、かなりボロい3階建てのビル。一見すると廃墟と見間違えてしまうほどだ。
ドアをノックして声をかけても反応が無い。これ、勝手にお邪魔しちゃっていいやつか……!?
「雄英高校から来ました、緑谷出久です……。よろしくお願いしま──あああ死んでる!!」
恐る恐る扉を開けた僕の目に飛び込んできたのは、赤い血溜まりの中でうつ伏せに倒れている小柄なおじいさん。
とりあえず応急処置して救急車を──
「生きとる!!」
「生きてる!!」
勢いよく顔を上げたおじいさんは、近くにあった杖を手に取り起き上がった。い、生きてて良かった……!
「いやぁ、切ってないソーセージにケチャップぶっかけたやつを運んでたらコケてなァ〜! ……誰だ君は!?」
「あ、雄英から来た緑谷出久です!」
「何て!?」
「緑谷出久です!」
「誰だ君は!!」
オールマイトの先生なんだ。相当なお歳だと思っていたけどこれは──あ、いや、もしかして……。
「……デクです!」
「──ほう。存外理解が早えな」
ニヤリとした笑みを浮かべたグラントリノ。どうやら汲み取った意図は合っていたらしい……。
「体育祭の録画、見させてもらったぜ。ワン・フォー・オールはもうそこそこ扱えるみてぇだな」
「は、はい! 一応10%くらいの出力ならある程度は維持し続けられます!」
「継承してすぐでそれだけ出来りゃ上々よ。……俊典の奴、教育に関しちゃ向いてねぇと思ってたんだがな。どうやら俺の思い違いだったらしい」
グラントリノは僕のヒーローコスチュームが入ったケースを開けながらそう言った。
後でオールマイトに連絡しておこう。指名が来たのを知らせてくれた時めっちゃビビってたし……。
「良いコスだな。よし、コレ着て撃ってこい」
「……いくらオールマイトの師匠と言えども、流石に……」
「なんだ、一丁前に俺の心配してんのか?」
次の瞬間、グラントリノの拳が僕の顔に飛んで来た。
体勢を崩しながらもギリギリ避けて、追撃に備えてフルカウルを発動し体勢を立て直す……!
「どうだ、着る気になったか?」
……今のでグラントリノの実力が痛いほど分かった。というか、考えれば当たり前だ。この人はあのオールマイトの師匠。歳を取っても、僕の何倍も、何十倍も強い……!
「よろしく、お願いします……!」
僕の返事を受けて、グラントリノはニヤリと笑った。
―――◆―――
「正直、君のことは好きじゃない」
「は?」
「……好きじゃなかった、というのが正しいか」
「何が言いてえ」
東京都。職場体験先であるベストジーニスト事務所にやって来た俺は、No.4ヒーローであるベストジーニストのよく分からない問答に付き合わされていた。
「最近は『良い子』な志望者ばかりで、久々にグッと来た君を指名したんだが……目を見るに、君は既に“矯正”されてしまったらしい」
髪を整えながらそう言ったベストジーニストに、思わず眉間にシワがよる。俺が矯正されただと?
「
期待外れだと言わんばかりの言葉と態度に、ドンドンイライラが募ってくる。
そもそも指名したのお前じゃねぇか……!
「余計なお世話だ! ヒーローとしてのノウハウだけ寄越しやがれジーパン野郎が!!」
「……どうやら本質は変わってないらしいな。まぁ、そっちの方が私もやり甲斐があるというものだ」
―――◇―――
「ここが
本土から約200キロの太平洋上に位置する三日月型のリゾートアイランド──奥渡島。船に揺られること4時間ちょっと、ウチはその島に足を踏み入れた。
「マジでリゾートだなぁ」
大きなお土産コーナーに、いくつもある顔ハメパネルの横を通って港の出口に向かう。──うわ、あれギャングオルカのパネルじゃん……!
これからお世話になる人の顔を先に見てしまった。顔ハメパネルだから顔の部分はないんだけど……。
「さて、事務所の場所は……」
港から出て、スマホを見ながら道沿いに歩く。潮風に吹かれて、ふと、視線を海に向ける。
「わ……」
手前には白い砂浜があり、その先にはどこまでも続く澄んだ海があった。透明な海の底には、色とりどりの珊瑚礁も見える。遠くに見える地平線に、雲ひとつない青空も相まって、思わず見とれてしまう。
「綺麗……」
「そうだろ?」
無意識のうちに声が漏れる。それくらい綺麗だった。
……今誰か「そうだろ?」って言わなかった?
「だ、誰──って、ギャングオルカ!?」
パッと振り返ると、そこには白いスーツを着たシャチのような容姿を持つ2mを超える大男──ギャングオルカが立っていた。ま、間近で見るとめっちゃデカイし顔怖……!
「……事務所に着くまで、ヒーローではなく奥渡島水族館館長としてこの島について話そうか」
威圧的な赤い瞳がずっと薄くなり、ギャングオルカは笑みを浮かべた……ように見えた。
「よ、よろしくお願いします……?」
その後、ウチはどこか嬉しそうな様子のギャングオルカと話をしながら、一緒に事務所へ向かったのであった。
―――◆―――
「……はぁ、くそ……♡」
職場体験2日目。ホテルをチェックアウトしてから三十分が経った。特に激しい動きをした訳でもないのに肩で息をしているミルコ。明らかに様子がおかしい。
「ミルコ、大丈夫っスか?」
「…………」
チラと俺を見たミルコは、ぷいと顔を逸らした。
その仕草は可愛いが、無視はないだろ無視は。思い当たる節はないが、何か嫌われるようなことをしたのだろうか。
「……」
「あ、ちょっ……!」
ミルコは俺に目を合わせる事なくしゃがみ、そして建物の上に跳んだ。今日もまた追いかけっこか!?
昨日あんだけ震歩を使ったんだ。ある程度慣れている上に、寝たから体力も全快している。
精彩を欠いたミルコを追うことなど造作でもないぜ……!
「着いてくんな……!」
「あぶね! ちょ、そりゃないぜミルコ!」
瞬歩で空に跳び、そこからの震歩でミルコの後に続く。
地面──建物の屋上をそう呼ぶべきかはともかく──に着地した瞬間、俺の頭めがけて鋭い蹴りが繰り出された。
反射的にそれを避け、顔を伏せているミルコに文句を言う。避けてなかったら顔面直撃コースだったんだが!?
「……私に負けたら着いてくんな。それで、お前の職場体験はここで終わりだ」
「はぁ!?」
話が飛躍しすぎだろ──文句を言う間もなく、ミルコは蹴りの連撃を俺に放ってくる。ただの蹴りで発生したらおかしいだろ、という風切り音の連続。
一発でも当たったら、致命傷とまではいかなくても大ダメージを受けることは確実だ。
……だが、やはり今日のミルコは調子が悪いみたいだ。
動きが単純だし、何より蹴りのキレが悪い。
そして、反撃を入れられるタイミングもある。
左脚のハイキックを避けて、振動させた拳をミルコの腹に打ち込む──ミルコは右脚一本による驚異的なバックステップでそれを避けた。
「あんたがそんな態度だってんなら、こっちもそのノリで行くぞ」
「……ふん。それでいい」
なんの建物かも分からない屋上で突然ミルコとの戦いが始まってしまった。とりあえず距離をとることは出来たが、これからどう戦おうか。
こんな街中じゃ“界震”は使えない。
必然的に、“振拳”がこの戦いのメインウェポンになる。……いつもとあんまり変わんねぇな。後は、建物の屋上だから高出力の“瞬歩”は使えない、って縛りがあるくらい──
「……」
「……ッ!」
無言で突っ込んできたミルコ。空気と地面を伝わる振動から、直前ではあるが事前に察知はできていた。だが、スピードが速すぎて気づいた時にはもう目の前に居た。
振拳状態の右手で蹴りを受け止め、接触した瞬間に振動を流して衝撃を軽減する。……軽減したが、それでも蹴りを受けた部分がジンジンと痛む。
やっぱり、何もなしに受けるのは無しだな。最低限これで受けねぇと、本当の意味で骨が折れてしまう。
「……受けられんのか。今の」
「あんたが本気で蹴ってたら分からないけどな。今のくらいの蹴りじゃ誰でも受けれるさ」
「はん! 生意気め!」
ミルコは嬉しそうに口角を上げて唇を舐めた。ようやく昨日の調子に戻ってきたな。まだ一日しか共に過ごしていないが、こっちが本調子だってことくらいは分かる。
「オラッ!」
ミルコが本調子になって、俺もテンションが上がってきた。ミルコは、格闘能力だけを見たらプロヒーローの中で一番だろう。当然オールマイトは除く。
そんな彼女と殴り合えるんだ。こんな貴重な機会があるか? 考えれば考えるほど胸の奥が熱くなっていく。
「“
研ぎ澄まされた振動感知により、ミルコの動きが手に取るように分かった。
不規則な蹴りの連打。だが、それが事前に何処へどれくらいの威力で来るかが分かってしまえば、逆位相の振動をぶつける事で相殺することが出来る。
「あ──?」
──そして、針の穴より小さな隙を見つけて、腹にカウンターを打ち込むことだって出来る。
一切の加減をしていない“振拳”。それが、ミルコの鳩尾に突き刺さった。……やべ。
「大丈夫っスか、ミルコ──」
腹を抑えて前屈みになったミルコに駆け寄り──強烈な膝蹴りが、今度は俺の腹にクリーンヒットした。
勢いのままぶっ飛ばされ、外に落ちるギリギリで体勢を立て直す。クソ、急所は外れたが、それでも死ぬほど痛え……。
「兎のタフさ舐めんじゃねぇよ。だが、さっきのは良い一撃だった!」
「……あざっす」
俺はまだ立ち上がることも出来ないっていうのに、ミルコは平然な様子……では無いか、ちょっとフラついてるし。
それでも、ミルコはその場に立っていた。これから追撃する余裕すらありそうだ。……俺の完敗だな。
「……ミルコ、短い間でしたが、クソお世話に──」
「ほら、さっさと立て! 早く
ミルコは戦いの前の事など覚えていない様子でそう言った。どうやら俺の職場体験はまだ続くらしい。
本当に朝のあれはなんだったよと言いたいが、まぁ、続くならそれでいい……のか?
―――◇―――
あれから
「……部屋がなィ?」
今日は本当に充実した一日だったが、流石にもうクタクタだ。今にも眠りたい。……が、そんな時に限ってトラブルは起きるモノだ。
ホテルのロビーでアメニティを取っていた俺は、受付をしていたミルコの声でトラブルの予感を察知した。
1セットのアメニティを手にミルコの元に向かう。受付の男性の顔が真っ青になっている。
一体何があったって言うんだ。
「……あの、こちらの手違いで1部屋しか用意できてなくて……」
「こういうことだ。……どうする、どっか他のホテル探すか?」
呆れたようにそう言ったミルコ。今から他のホテル探しかぁ……。俺の顔を見たミルコは、溜め息を吐いて男性の方を向いた。
「そっちの方がダルいわな。……ベッドは二つあんのか?」
「は、はい! それはもちろん!」
「……俺は全然。今すぐ寝たいです」
「…………はぁ、しゃーないな。おい、私の分のアメニティも取ってこい」
「うす」
ミルコと同室なんてラッキー、という気持ちよりも純粋な睡眠欲が勝っている。それに、俺は職場体験中の学生。
そんな事にときめいている暇などないのだ……!
「……♡」
これから職場体験が終わるまでミルコとヤり続けることになることを、この時の俺は想像もしていなかった。
緑谷出久:原作のこの時期より個性の扱いが上手く、それに伴いヒーローとしての精神も育っているのですぐヒーロー名のことかと勘づいた。
爆豪勝己:今のままじゃ勝てないならどうすべきか、そう、プロに教えを乞へばいいんだよね……! 原作よりマイルドなかっちゃん。
耳郎響香:ギャングオルカの事務所で格闘技術や音響や音波のあれこれを学んでくる。ハネムーンは奥渡島にしようかとガチで考えてる。
ギャングオルカ:本当は丑三ッ時水族館の館長にしようとも思ったけどちょっと話が変わりそうだから辞めた。体育祭で見てええやんこの子……!となり衝動的に指名。
真堂司:ミルコの元でグングン実力を伸ばしている。ホテルの部屋に入った後は先にシャワー浴びさせてもらって直ぐに寝た。セックスより体動かして戦う方が楽しいかもしれん……!と思っている。
ミルコ:発情期が鳩尾パンチによって収まり、お、これ行けるやんと思い職場体験を続行。ハプニングがあり同室で泊まることになった。発情期がそんなもんで収まるはずがなかった。