※この作品はR-18です。

俺の個性は『振動』。全身バイブ人間だ   作:dogman

32 / 33
第31話 これから

 

 

 

「クソ、ヒーローじゃねぇか──」

 

 振動させた拳が異形型(ヴィラン)の腹に突き刺さった。口から唾を散らし、白目を剥いた(ヴィラン)がその場に崩れ落ちる。(ヴィラン)の体を支えてゆっくりと地面に下ろし、俺は息を吐いた。

 

「うおおおお! “震界(シンカイ)”鬼つえぇぇぇ!!」

「……タメなのにすげぇや」

「さ、サインください!」

 

 職場体験7日目──つまり最終日。俺のヒーロー名である『震界』は、少しだけ世間に知られるようになっていた。

 

 だが、サインを求められたのは初めてである。

 野次馬してた中学生くらいの少女から渡された色紙に、なんて書こうかと迷っていると、少し後ろで様子を窺っていたミルコがやってきた。

 

「そう悩むもんじゃねぇ。活動初期の曖昧なサインもファンからしたら嬉しいもんだ」

「そんなもんか……」

 

 少女に名前を聞いて、色紙に少女の名前とサイン──“震界”と書くだけ──を書いた。

 

「あ、ありがとうございます……!」

 

 まるで宝物を抱えるかのように色紙を抱えた少女は、キラキラとした目で俺を見つめていた。

 ……こういうきらめく目を見せられると、なんだか“ヒーロー”をしていると強く実感する。職場体験だけど。

 

「──次の(ヴィラン)を見つけた、行くぞ!」

 

 大きなうさ耳をピクつかせたミルコがそう言う。

 この一週間、ミルコが見つけた(ヴィラン)を俺がシバくというサイクルで、俺たちは大量の(ヴィラン)を退治した。

 

 ……あれから、同じ部屋に泊まることはなかった。当然セックスもしていない。まぁ、当たり前だな。

 

 響香以外とのセックスはもうしない。というか、出来ない。他の女を孕ませた俺を許してくれるかどうかは分からないが、許してくれないなら、それは仕方ない。

 

 大人しく雄英を去り、ヒーローも諦めよう。

 

「心ここに在らず、って顔だな」

「……しゃーないでしょ」

「三日目の“ヒーロー殺し”狩りたかったよな。私も同じ意見だ」

「それじゃねぇよ!」

 

 確かに、緑谷や轟、飯田が巻き込まれたというヒーロー殺しが保須市で起こした事件は気になる。三人共そこまで()()()()()()らしいが、怪我を負ったらしい。

 

 緑谷がSOSを送ってくれた時は、俺たちも別の(ヴィラン)と戦っていた。通知に気づいたのは、その日の夜だった。

 まぁ場所的に駆けつけても間に合わなかったんだがそれでも──って、そうじゃない。

 

「……彼女に、なんて言おうかなって」

「あぁ? んなもん黙っときゃいいだろ。私とお前の秘密だよ秘密」

「……そういう訳にゃいかんでしょ」

 

 ミルコは結構ドライだ。あれから、俺に対して「私と結婚しろ」とか、そういうことは一切言ってこなかった。

 

「あぁ!? んでこんな所にヒーローが──」

「よし真堂、“戦闘許可”だ。ヤれ!」

「……うす」

 

 本当に一人で産んで、そのまま育てるつもりなんだと思う。……それを、心の底ではありがたいと思っている自分に、強い嫌悪感が湧いた。

 

 

 

―――◆───

 

 

 

「一週間ぶりの本土……!」

「お疲れ様、響香」

「司もね! でも、わざわざ出迎え来なくてよかったのに」

 

 東京都某所のフェリー乗り場。ミルコに頼んで東京で職場体験を終えた俺は、そこで響香と再会した。

 メッセージや電話でやり取りはしていても、現実で会うのは1週間ぶりだ。少しの懐かしさすら覚えた。

 

「奥渡島はどうだった?」

「めっちゃ綺麗だったよ! ……まぁ、観光できたのは本当に少しだけで、ずっとビシバシ鍛えられてたけど……」

「ギャングオルカだもんなぁ。めっちゃ厳しそうなイメージだわ」

「マッジで厳しかった。でも、優しい人だったよ」

「お〜、そうなんだ」

 

 あまり想像できないが、響香が言うならそうなんだろう。色々と話をしながら、俺たちは近場の駅に向かったのであった。

 

 

 

 

 

「──そういえば、話って何?」

 

 東京から静岡に向かう新幹線の中。それぞれの職場体験の話をした後、響香がそう言った。

 ……昨日の夜、話があると伝えていたんだ。気分はまるでギロチンの下にいる死刑囚である。

 

「……まずは、本当にごめん」

「なにそれ。……めっちゃ顔色悪いけど」

 

 怪訝そうな顔をしていた響香は、俺の顔を見て大事な話があることを察したらしい。椅子に座り直し、小声で話せるようにと俺の方へ身を寄せた。

 

「──ミルコを、妊娠させてしまった」

「……えぇ?」

 

 響香の顔を見ることができない。沈黙が場を支配したり

 イヤホンジャックが俺の首を抱えるように伸び、顔を自分の方へ向けようとする。

 

 それに抗うことなく顔を向けると、いつもより三割増しのジト目をした響香と目が合った。

 

「……」

「……すまん」

「……どうすんの? するの、結婚」

「……いや、ミルコは一人で育てるって」

 

 俺の言葉に、響香は呆れたようにため息を吐いた。

 それから家に帰るまで会話がなかったのは、言うまでもないだろう。

 

 

 

―――◇―――

 

 

 

「……憂鬱だ」

 

 一週間ぶりということもあり実家に帰ってきた俺は、心ここに在らずのまま、ベッドに転がり天井を見上げていた。

 結局、これと言った会話をせずに帰ってきてしまった。

 完全に、芋引いて話しかけれなかった俺のせいだ。

 

「どうしてこうなった……」

 

 何が間違っていたんだろうか。……ミルコの元に職場体験に行った所から、今になって考えれば間違いだったな。

 折角ホークスやクラストといったヒーローからも指名が来ていたんだし、そっちを選べば良かった。

 

「そうじゃないな」

 

 そもそも、俺がミルコに手を出さなかったら良かった話である。先に手を出されたが、あそこでしっかりと断っとけばこんなことにはなっていない。

 

 誰の元に行くとか、そういう話じゃない。

 これは、俺という人間の問題である。

 

「ちゃんと腹割って話そう。明日」

「今話そ」

「それが一番いいが──」

 

 響香の言葉にそう返す。ん?

 ……声がした方──部屋の扉──へ視線を向けると、そこにはラフな格好をした響香が立っていた。

 理解が追いつかない。いつの間に家に来たんだ──と言おうとして、俺の上に跨ってきた響香に言葉を止められた。

 

「……どうしたんだ、こんな夜遅くに」

「言うほど遅くないでしょ。……結局あの後何も話せてなかったから、このままギクシャクしたくないなって思って」

 

 響香はそう言いながら、体を倒して俺の胸に耳を当てた。

 

「……」

 

 時計の針の音だけが部屋に響く。さっきまでは腹を割って話そうと思っていたのに、実際にその時が来たら、言葉が出ない。何かを切り出そうと口を開いては、そのまま閉じる。

 

 静寂を破ったのは、響香の声だった。

 

「……そもそも、ほかの(ひと)とのセックスを許可してる時点で、こんな時が来るんじゃないかって思ってた」

「……悪い」

「司が謝ることじゃないでしょ。高校生に手を出したミルコが悪いじゃん」

 

 響香はそう言うと顔を上げ、俺の頬を両手で掴み、顔を少し上に向けさせた。

 黒曜石のような瞳と見つめ合う。前までなら見つめ続けられていたのに、今は逸らしたくてたまらなかった。

 

「言ったこと、覚えてる?」

「……“それ以上のことを、響香とする”、だったよな」

 

 頷いた響香は、俺の首元に顔を埋めた。

 それ以上のこと──妊娠以上のことと言われても、ピンと来ないのが本音である。俺は何をすればいいんだ。流石に学生の身分で妊娠する訳にも行かないし──

 

「──うん。だからさ、これからは全部生でえっちしよ♡ ウチとも、ウチ以外とも♡」

 

 響香の言葉に、思わず面食らってしまう。

 

「……それは流石に破滅的すぎ──」

 

 ──首に響香の両手が添えられて、反射的に出た否定の言葉が止まる。

 

「……なんかさ、ずっと変なの。司が他の女とえっちするの、本当は嫌なはずなんだよ。想像するだけで苦しいはずなのに、それよりもっと──気持ちよくなっちゃう♡」

 

 常夜灯もついていない暗い部屋だ。表情はよく見えない。

 それでも微かに覗いた響香の瞳には、どこか狂気じみた色が浮かんでいた。

 

 

 

―――◆―――

 

 

 

「……妊娠したらどうすんだ」

「ピル飲めばいいじゃん。ウチは飲まないけど」

「飲まないのか?」

「うん。今日はね♡」

 

 (響香が)妊娠したらどうすんだ、という意味だったのだが、それに対する言葉はなかった。

 ……まぁ、三奈との浮気がバレた時に答えは出ているか。

 デキたら、俺の夢はそこまでである。そん時は腹括って働くとしよう。

 

「……あぁ、でも、これからは響香以外とはそういうこと──」

「それはダメ」

 

 もう浮気はしないと誓おうと思ったのに、俺の言葉を遮って返ってきた言葉は、予想とかなり違っていた。想像もしていなかった言葉に戸惑っていると、響香が言葉を続ける。

 

「どうせ我慢して辛くなっちゃうくらいならさ、もう全員抱くくらいの勢いで行っちゃおうよ♡ そっちの方がロックじゃない?」

「……うーん?」

 

 ある意味でいえばロックなのかもしれないが……。

 響香はそれでいいのだろうか。

 

「……それに、変に束縛して司に嫌われたくないし」

 

 ボソッと呟くように漏れた言葉。響香の本心は、こっちだろう。女心に疎い俺でも、それは分かった。

 

「嫌うわけないだろ。むしろ、俺の方こそ愛想つかされるんじゃないかってビビってたのに」

「そうなんだ。……かわい♡」

 

 そう言って、響香は俺の首筋に唇を落とした。

 

「本当に、もういいんだ。そもそも、彼女(響香)が居るのに他の女に手を出すってのがおかしい。普通に浮気だし。本当にごめん」

「ん〜……」

 

 どうやら俺の謝罪は刺さっていないようである。まだ俺を好いてくれているらしいのにこの反応。ここから何を言えばいいのか、俺には分からなかった。

 

「これからは、普通のカップルみたいに──」

「司が他の女とえっちしないなら、ウチが他の男とヤるけどそれでもいいの?」

「全然よくない」

「なら、他の女とえっちしないとじゃん♡」

 

 ……響香がどんな気持ちで、どんな表情でそう言ったのかは分からない。俺はまるで泥沼にはまり込んだような気分で、ただ部屋の天井を見上げていた。

 

 




真堂司:職場体験では無心で(ヴィラン)退治に励んでいた。ミルコの聴覚で捉え現場に速攻。7日間で17件、28人の(ヴィラン)を刑務所に送った。

耳郎響香:普通に脳破壊されてる。気がついたらNTRもの以外でイけなくなっていた。本当に他の男に抱かれる気はあんまない。もっとも、ここで司が引いたらその限りではないが。

ミルコ:強い雄の子供を孕んでかなり満足している。寝る前に子供たちの名前を考えてるらしい。


響香ちゃんが孕むまでのチキンレース始まったな…!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。