「お、おい。コイツ刀持ってるぞ」
「ひ、ヒーロー志望が人を斬るってことはないよな!?」
腰の刀を見て焦り始める
刀──振天を使うまでも無い。というより、俺は、コイツらの腕を落とす覚悟がまだ出来ていなかった。
「ぐあっ……!」
「オエッ」
「き、気持ちわりぃ」
瞬歩で距離を詰めて、“振動”を乗せた拳を叩き込む。ただ、それを繰り返した。
三十秒も経たないうちに、周囲のチンピラどもは全員地面に転がっていた。
さて、最後は明らかにヤバい奴を──
「あー、クソが。邪魔だよ、お前」
相澤先生と戦っていた手マンは、苛立たしげに髪を掻きむしる。そして、ぞっとするような笑みを浮かべながら口を開いた。
「脳無、あのガキぶっ殺せ」
──次の瞬間。
俺の視界は、巨大な黒い拳で完全に塗り潰された。
―――◆―――
「──真堂!!」
「ハハハ! アイツ死んだぜ!? ざまぁねえなイレイザーヘッド! 逃がしとけばこんなことにゃならなかったのによ〜」
真堂が凄まじい速度で吹き飛ばされた。……感傷に浸る暇は無い。今は、コイツらをどうにかしなければならん。あのスピードにパワー、俺の見立てが間違っていなければ、確実にオールマイト級。
まずはコイツを処理する……!
「コイツは、対平和の象徴、改人“脳無”。オールマイトを殺す、俺たちの秘密兵器さ」
『抹消』で個性を消して捕縛布で拘束──
「個性を消せる。素敵だけどなんてことはないね、圧倒的な力の前ではつまりただの無個性だもの」
「ぐぁ……!」
いつの間にか、組み伏せられていた。ついでと言わんばかりに、腕も折られた。
俺の抹消は体の一部でも見たら消せる。つまり、コイツは素の力でこれ……! マジでオールマイト級じゃねえか……!
コレの一撃を食らった真堂は──いや、考えるな。今はこの状況をどう切り抜けるかを考えろ。冷静になれ相澤消太。
「はは、このまま死ね──」
「死柄木弔」
「おー黒霧。13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして……。一名、逃げられました」
13号がやられたか。
……くそ。彼女は直接戦闘向きじゃない。
だが、一人、生徒が逃げた。
おそらく飯田だろう。俺がアッチに居たら、まず飯田を逃がす。
あいつなら、この状況を外へ伝えられる。応援を呼べる。
――あとは、俺がどこまで持つかだ。
「黒霧。お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ。さすがに、何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ、あーあ。……帰ろっか」
「けどもその前に、平和の象徴の矜恃を少しでも──へし折って帰ろう!」
そう呟いて、死柄木弔と呼ばれた男は、水難ゾーンと広場の境界で様子を見ていた蛙水達のところに走り出す。
蛙水の顔に触れる寸前、俺は悲鳴を上げる肉体を無視して無理やり頭を上げて、『抹消』を発動した。
―――◇―――
「本っ当、かっこいいぜ。イレイザーヘッド」
反応する間も無かった。気がついたら、手が沢山ある敵は蛙水さん……梅雨ちゃんの顔に触れていた。でも、梅雨ちゃんの顔が崩れることはなかった。
相澤先生が、個性を消したから。
(ヤバイヤバイヤバイ……!)
さっきの敵たちとは動きが明らかに違う……!
なんとかしようと、
「手っ……放せ!」
「脳無──」
SMASH、と叫びながら殴るが、僕の拳は男には当たらなかった。間に、ナニカが入ってきたからだ。
煙が晴れる。僕の拳を受けたのは、真堂くんを殺したあの黒いヤツだった。
胸の奥から、抑えきれない怒りが込み上げてくる。
僕の友達を、殺しやがった……! 怒りのままに個性を発動させ……ようとして、違和感に気づく。
「良い動きをするなぁ……スマッシュって──」
「よぉ、久しぶり」
「あ──ガハッ……!」
梅雨ちゃんを掴んでいた敵。
ソイツの腹に、拳が突き刺った。
──ビギィィィ!!!
その一点を起点にして、
まるでガラスが割れるような音が響いて、地面が大きく揺れる。敵は口から血を吐いて、のたうち回りながら吹き飛ばされる。こ、これは……!
「し、真堂くん!」
「お前、生きてたのかよォォ!!」
「ケロ、でも凄い怪我……」
「そろそろぶっ倒れるから、そしたら頼むわ」
そう言った真堂くんは、刀に振動を
凄まじい破壊音と同時に、再び世界が割れる。
僕の一撃で……OFAの一撃も効いて居なかったソイツは、顔の穴という穴から血を吐いて、その場に崩れ落ちた。
「す、凄い。よし、今のうちに……」
「死んだのかしら」
「白ひげじゃねぇか!!」
「いや、生きてる。オールマイト来るから、後頼んだ……」
そう言い残して、真堂くんは血と吐瀉物が混ざったモノを吐いて倒れた。全身が痛々しい程に損壊している。よく見ると、左足の骨が皮膚を突き破って
「クソがァ……! 脳無、殺せッ! おい黒霧ィ、逃げるぞ!」
地面に手を付きながら血を吐いた手だらけ敵は、そう叫んだ。脳無と呼ばれた黒い敵は、のそっと立ち上がる。すると、身体はまるで再生するかのように傷が塞がっていく。
「再生……!?」
倒れた真堂くんを蛙水さんに任せて、僕は相澤先生を抱える。どんな個性かとか、考える暇は無い。とにかく、二人を安全な場所に移動させないと──
空気を叩き潰すような、凄まじい衝撃音が響いた。
「もう大丈夫。──私が来た」
最強のヒーローが、僕たちを救けに来た。
―――◆―――
「……あぁ、生きてる」
知らない天井だ。いや、知ってるわ。
ベッドで寝たことは無かっだか、来たことはある。ここは、雄英高校の保健室だ。リカバリーガールは──
「ん、んん」
ゆっくりと身を起こす。それで気がついたが、上体をベッドにあずけるようにして響香が眠っていた。俺の気配に反応して、響香は目を擦りながら顔を上げた。
目が合う。安堵やら驚愕やら心配やら、コロコロと表情が変わり、最終的には目に涙が浮かんだ。
「泣くなよ」
「……う、う、無事で、良かった……!」
響香は昂った感情のままに抱きついてくる。
全身に走る激痛。思わず顔を歪めて、それに気がついた響香はパッと離れた。
「ご、ごめん。つい……」
「いや、大丈夫だ。それより、あれからどうなった? 俺以外で重症は?」
脳無に顔面をぶん殴られて吹っ飛ばされ後、俺は死地を彷徨った。
その影響で、個性『振動』は進化した。
言わばグラグラパンチ。振動を拳に纏わせ、空気をぶん殴る事で世界を破壊する。夢が広がるぜ。今は無理だが、元気になったら早く試したい。
「……司のお陰で、死柄木っていう敵も脳無っていう敵もだいぶボロボロになってたみたい。死柄木は黒霧って奴の個性で逃げて、脳無はオールマイトがボコボコにして終わったよ。怪我人は……」
響香は涙を拭きながら、カーテンで区切られた隣のベッドに視界をやった。カーテンをめくると、そこには気まずそうな顔をした緑谷が居た。
「あれ、個性の制御できてなかったか?」
「……あの後、ちょっと無茶しちゃって」
「凄かったよ、めっちゃオールマイトのサポートしてた」
話を聞くに、緑谷や力動、爆豪に轟や切島がオールマイトの戦いをサポートしていたらしい。見たかったし、参加したかったな。
「相澤先生は? めっちゃ怪我してたけど」
「セントラル病院に運ばれた。本当はアンタもそうだったんだけど、応急処置の、リカバリーガールの治癒が思ったより効いたらしくて、そのまま保健室で診ることになったんだって」
「ふーん。体力鍛えてて良かったぜ……」
個性のキャパオーバーや外傷はあっても、体力自体は残ってたみたいだ。本当に鍛えてて良かった。やっぱ日々の積み重ねって大事だな。
「……本当に、無事で良かった」
響香の、絞り出した声。めちゃくちゃ心配をさせてしまったみたいで、申し訳ない。声をかけようとして、保健室の扉がガラガラと開かれた。
「見舞いに来たよ──って、起きてる」
「お、司も緑谷も結構元気そうじゃねえか!」
「2人共骨折大丈夫だったの!?」
やって来たのは三奈と力動と葉隠。緑谷の奥に寝ていたガリガリ金髪の男の人に挨拶をしながら、三人は俺達の前にある椅子に座った。
「リカバリーガールの治癒すげえわ。ピンピンしてるぜ」
「骨飛び出てたからな。よく治ったぜ……!」
力動はしみじみとした様子で頷く。……骨飛び出てたってマジか。自分では全然気づかなかった。
リカバリーガールの治癒、凄いどころの騒ぎではないな。
「目も虚ろだったし、本当に死んじゃうかと思った」
三奈も真面目な顔でそう言う。表情こそ分からんが、葉隠もそんな雰囲気である。そこまで死にかけてたか、俺は。
「耳郎もものすごい取り乱してたしな。いやぁ、凄い気迫だったぜ」
「ちょ、言わなくていいって」
力動は重くなった空気を変えるように、軽い口調でおどけて見せた。こういうとこでふざけてくれるやつ、俺は好きである。
「あと、これ差し入れだ。ランチラッシュに頼んで作ってもらったカツ丼だ。リカバリーガールの治癒の為に体力いるだろ?」
「おー! ありがとう! ちょうど腹減ってたんだよ」
力動からカツ丼が入ったビニール袋を受け取る。テイクアウト容器に入っている。ランチラッシュの食堂ってこういうのもやってんだな。
「緑谷の分もあるぞ。はいカツ丼」
「あ、ありがとう砂藤くん!」
力動はもう一つ持っていたビニール袋を緑谷に渡した。本当に良い奴である。
「来てもらったとこ悪いが、そんな話すこと無いよな。俺ら無事だし」
「無事なことが分かっただけで良いんだよ。他の連中もお前らのこと心配してたぜ? 大勢で押し寄せちゃ行けないってことで俺らだけになったが、本当はみんな来たがってたし」
「峰田とか凄い来たがってたよ。真堂とONEPIECEの話するんだ〜って」
ONEPIECEって、アイツ、古い漫画読んでるんだな。かくいう俺も読んだんだが。
まぁ、話したがるのも無理はない。死柄木と脳無をぶん殴ったパンチ、あれもろに白ひげだったからな。まさか空間が割れるとは俺も思っていなかったけど。
「何はともあれ、お前らが無事で良かったよ。緑谷も、最後の方以外個性の制御できてたしな。13号先生も命に別状はないみたいだし──」
「え、13号先生怪我したのか?」
聞き捨てならん。誰だよ、俺の13号を傷つけたのは。響香の「それ言っちゃダメ……」という呟きに気付かなかった力動は、そのまま言葉を続ける。
「ワープゲートの奴いただろ? アイツの個性で、自分で自分を吸っちまったんだって。詳しいことは教えてくれなかったが、直ぐに復帰出来るらしいぜ」
「……そうか。ありがとう」
黒霧め。アイツは俺がぶちのめそう。というか、あそこでダウンさせてたら13号が怪我をする事も無かったんだよな。くそ、不甲斐ない。
「はいはい、そろそろ帰りなあんた達。怪我人に無茶させるんじゃないよ」
そんなことを考えていたら、リカバリーガールが帰ってきた。俺と緑谷は大丈夫でも、ここにはもう一人怪我人がいる。たしかに、騒がしくし続けるのは迷惑か。
「それもそうすね。またな、お前ら」
「……また連絡するね。司」
「緑谷も
「二人ともバイバイ! 早く元気になってね!」
「おう。またな」
「みんな、またね」
肝が冷えるとはこのことである。三奈が「司」と言った瞬間、響香は三奈の方を一瞬見た。怪我人の肝を冷やさないでくれ、頼むから。
「というか、ここ飲食良いんすか?」
「構わないよ。ハリボーも食べるかい?」
「後でいただきます。うし、カツ丼食おうぜ緑谷」
「うん! オー……いただきます!」
オー、なんだ? 緑谷は隣で眠る金髪ガリガリの男を見て、何かを言おうとした。……そんな疑問は、カツ丼の匂いで吹き飛んだ。
割り箸でカツを一切れ掴む。口に入れる。最初に感じるのは熱さだ。食堂で食べる時と変わらない熱さ、はふはふしながら噛むと、サクじゅわと言うのに相応しい感触が襲ってくる。味は言わずもがな、最高だ。
「うめ〜。やっぱ、ランチラッシュのカツ丼が一番美味えや」
「本当に美味しいよね。そもそもカツ丼自体好きだから、より美味しいや」
「お、緑谷もカツ丼好きなのか? 俺も好きだぜ」
「本当!? 真堂くんは卵がとろとろしてる方が好き?」
「いや、俺はガッツリ火が入ってる方がいいな。でも、ランチラッシュが作る卵トロのカツ丼は最高に美味いと思う。今度一緒に頼もうぜ」
「うん! 実は僕もガッツリタイプなんだよね! この卵感、好きなんだよなあ」
何やら羨むようにコチラをチラチラ見る金髪ガリガリ男性を放置しながら、俺と緑谷は雑談しながらカツ丼を食べた。緑谷と仲良くなれた気がする。
これってタグ付けた方がいいんだろうか。一応つけるかって思って付けました
追記:本当にすみません。8話書いてて、塩崎とエッチする“大義”が無かったので最後のところ消します。すません!!