──ちゅんちゅん
小鳥のさえずりで目が覚める。……少し、爽やかな気持ちだ。膣内射精をしてしまったし、人生のプランも変わってしまったが、まぁ、些細な問題である。覚悟は寝る前に決めた。
「おはよ」
どうやら先に起きていたらしい。視線を横に流す。響香は普段と変わらない表情を浮かべていた。「おはよう」と返して、しばしの静寂が訪れる。
「とりあえずピル買いに行こうと思うんだけど、一緒に行く?」
静寂を破ったその言葉に、俺は天啓を受けたかのような衝撃を受けた。
そうか、ピルがあった。だが、ピルは副作用が強いと聞く。例年通り雄英体育祭が開催されるとしたら開催まで一ヶ月もないが、コンディション的に大丈夫なのだろうか。
「もちろん行く。体調は、大丈夫なのか?」
「大丈夫。ミッドナイト先生に聞いたんだけど、今のピルって副作用とか無いらしいよ」
「マジ? 技術の進歩ってすげえ」
個性の進化と共に科学技術も進化していると、ネットかテレビかで見たことがある。その恩恵は、避妊薬の改良にも及んでいるらしい。
そんなことをボーッと考えていると、響香は「あ、そういえば」と、何かを思い出したかのような言葉をあげた。
「今日、司のお母さんここ来るらしいよ」
「……マジ? 俺の方には連絡来てないけど」
「負担かけたくないから、司には言わないで〜って言ってた」
そういや、母さん達にはどんな感じで連絡いってたんだろう。保健室ですんでたから、そこまで大事な感じで連絡されてないといいが。
「そうなんだ。何時とか聞いてるか?」
「13時過ぎだって。だから、その前に用事すませよ」
「……ごめんな。響香」
謝罪の言葉が口から溢れ出た。今考えても、俺はかなり最低な男である。浮気をして、それがバレて、彼女に、響香に中出しをした。
中出しは向こうからの要求とはいえ、あれは断るべきだった。くそ、頭がクラクラする。
「んー、そこまで気にしないでいいよ。昔から、司の性欲が強いのは知ってたし」
「別にそこまで……」
「じゃあ、今までのウチとのセックスで満足したことある?」
当然ある。とは、即答出来なかった。言われてみれば、俺は満足したことがない。響香が疲れて眠ったあと、息子を勃起させながら天井を見つめる時間もあった。
が、しかし、それは三奈……芦戸とのセックスでも同じだ。満足出来ないことが浮気を正当化する理由にはならない。
「多分、信じられないくらい性欲が強いんだよ。あと、ちんちんもデカイ。だから、いいの。最後はウチを選んでくれたら、それで」
どういう理屈かは分からない。しかし、まぁ、本人が良いと言うなら、いいのかなあ。……ダメだろ。
「なんか悩んでる? いいんだよ、そのままで。色んな女の子とエッチして、それより凄いことをウチとする、めっちゃロックじゃん」
そうか? そうかも。うん、そうだな。
「ね、芦戸とはどんなエッチしたの?」
「……トレーニングルーム借りた時あったろ。響香が帰ったあと轟が帰って、2人きりになったんだ。んで、ちょっと誘われちゃって、乗った」
響香は「へぇ」と呟き、続きを言えと視線で語る。心臓がバクバクしてきた。昨日の今日でこんなに負担をかけてしまい心臓には申し訳ないぜ。
「シャワー室で素股して、流石に続きは出来ないってなって、ここでセックスした」
「ここで寝たんだ」
「……あぁ」
断罪を待つ罪人はこんな気持ちだったのだろうか。自分が悪いことをしたから、罰を受ける覚悟はできている。できているが、怖いものは怖い。
「何回射精したの?」
「……素股で1回と、ここで4回……だった気がする」
「最高回数はウチの勝ちだね」
最高回数は7回である。あの時は夏休みで、酷い猛暑だった。勉強会という名目で響香の部屋に集まり、結局ずっとセックスしてたんだよな。
「懐かしいな。あの時はどうかしてたぜ」
「あの後熱中症みたいになってぶっ倒れたじゃん? そのせいでしょ、性欲強くなったの」
「関係あるか? 小3の時にはもうエロいこと考えてたぞ」
「生粋の変態だね」
それに反論する言葉は無い。だがしかし、響香もまた変態だと思う。忘れもしない。俺の個性をエロいことに使うことを思いついたのは、何を隠そう響香なのだから。
「よし。そろそろ行くか」
「ん、そうしよっか。ね、何食べる?」
今日の予定を話ながら、俺たちは外出の準備に取り掛かった。昼は最近見つけた、近所にある美味いラーメンを食べることにした。
―――◆―――
「くぁ〜、眠い」
「遅くまで桃鉄するんじゃ無かった……」
翌日。休校明けの登校というのはどうしてこうもダルいのだろうか。夜中の三時くらいまで響香と桃鉄してたのがダルい原因のほとんどを占めている気がする。
「あ、響香ちゃんに真堂くんやん。おはよ〜」
「おはよ〜」
「おはよう、麗日」
麗日お茶子。俺たちのクラスメイトで、なかなかに大きなおっぱいを持つ茶髪ボブの美少女が、駅の方から歩いてきた。体のラインがよく分かるあのヒーロースーツを着た麗日の姿は俺の脳裏に焼き付いている。
「てか真堂くん元気そうだね。結構心配してたんよ私」
「もうピンピンよ。あれくらいでダウンするヒーローじゃないぜ」
「……結構グロかったけど、無事に治って良かった!」
「そんなグロかったのか?」
「かなりね」
たしかに骨飛び出てるのはグロめではある。骨折もしてたのに普通に治るのすごいよな。まだ全回復では無いが、リカバリーガールの治癒さまさまだぜ。
てかそうだ、リカバリーガールに朝イチで治して貰うんだった。HRの前に間に合うかな……。
―――◇―――
「皆ー! 朝のHRが始まる! 席につけー!!」
A組の教室の中から聞こえる飯田の声が廊下に響く。ギリギリセーフ──って、あれ相澤先生じゃね? 包帯ぐるぐる巻きでミイラみたいだな。
「真堂、ギリ遅刻だぞ」
「すんません相澤先生。……体、大丈夫スか?」
顔は包帯でほとんど見えないし、腕にはギプスをしているし、どう見ても大丈夫じゃない。そんな俺の心配をよそに、相澤先生はため息をついた。
「大丈夫だ。ほら、先入れ」
「……うす」
絶対大丈夫じゃないけどなぁ……。
そんなことを考えながら扉を開くと、教卓の手前で張り切っている飯田と目が合った。
「おぉ! 真堂くん、もう復帰か! めでたいな! しかし、あと少しで遅刻だ! 席につきたまえ!」
ブレねえなコイツ。クラスメイトたちに挨拶をしながら自分の席に向かう。左隣の爆豪は俺のことを完全に無視し、後ろに座る瀬呂と右隣の上鳴は復帰を祝ってくれた。
まぁ、復帰と行っても休んでもないのだが。
「お早う」
俺が席に着くと、相澤先生が教室に入ってきた。俺が座るまで待ってたのか? 合理性重視の相澤先生らしくないな。
「相澤先生復帰はええ!!」
「先生無事だったんですね!」
「無事、無事言うかなアレ……」
パッと見ミイラだからな。アレが無事判定かどうかは議論の余地があるだろう。
「俺の安否はどうでもいい。なにより、まだ戦いは終わってねぇ」
「戦い?」
「まさか……」
「また
「雄英体育祭が迫ってる!」
「クソ学校っぽいの来たああああ!」
「──そして、日本に於いて今『かつてのオリンピック』に代わるのが、雄英体育祭だ!」
「当然、全国のトップヒーローも見ますのよ。スカウト目的でね」
峰田は八百万からの言葉に「知ってるってば」と呟いて居心地を悪そうにした。不安になる気持ちもわかるが、例年の五倍の警備があれば何とかなるだろ。知らんけど。
「資格取得後はプロ事務所にサイドキック入りが定石だもんな」
「上鳴は引く手あまただろうな。電気系だし」
「へっへっへ、まぁな?」
「でも、独立しそびれて万年サイドキック……みたいな感じになりそう。アホだし」
「くっ!!」
実際、上鳴はどこにでも行けるだろう。顔もいいし、個性も強力。アホだが根本的な頭は悪くないし。
「当然、名のあるヒーロー事務所に入った方が経験値も話題性も高くなる。時は有限、プロに見込まれればその場で将来が拓ける訳だ。年に一回……計三回のチャンス。ヒーロー志すなら外せないイベントだ!」
―――◆―――
「なんだかんだテンション上がんなオイ!」
「活躍して目立ちゃプロへのどでけえ一歩を踏み出せる!」
四限目の現代文が終わっての昼休み。俺たちの話題の中心は当然体育祭だ。何するかわかんねえけど、タイマンなら負けない自信がある。
「みんなすごい、ノリノリだ……」
「なんだ、緑谷はちげえのか?」
「真堂くんの言う通りだ! ヒーローになるため在籍しているのだから燃えるのは当然だろう!?」
「今日も暑苦しいな……」
熱い男飯田は今日もフルスロットルだ。響香の言う通り少し暑苦しいが、個人的にはかなり好き。
「僕もそりゃそうだよ!? ……でもなんか──」
「デクくん飯田くん響香ちゃん真堂くん、頑張ろうね体育祭……!」
「顔がアレだよ麗日さん!?」
眉間に皺を寄せて険しい表情をしている麗日に緑谷がツッコむ。
「みんな!! 私! 頑張る!」
「おお──けどどうした、キャラがフワフワしてんぞ!」
クラスに向けてそう宣言した麗日。教室に残っていたみんなら戸惑いながらもおー、と腕を上げる。
切島の言う通りあまり麗らかな顔をしていない。しかし、可愛いことには変わらない。
「そういえば、みんなはどうしてヒーローに?」
流れのまま、俺たちは食堂へと向かっていた。その途中で、緑谷がそう尋ねてくる。飯田は過去に言っていたらしく、答えるつもりは無さそう。
響香は気恥しそうにして、麗日はどこか言いづらそうで、気まずい雰囲気が流れる。そんな恥ずかしがることじゃないよなぁと思いながら、俺は口を開いた。
「俺は昔13号に助けられたんだよ。10年前の山岳事故でさ。そっからヒーロー目指しての今だ」
「13号に……! だからあん時好きだ、とか叫んでたんだね。気持ち、分かるよ」
「あの叫び声は君だったか……」
「ウチまで恥ずかしかったやつね」
13号を好きということで肩を組んで来た麗日、呆れたような表情の飯田と響香。あの時の13号はまだデビューしたばかりで、コスチュームも今みたいな感じじゃなく、麗日に近いピッチリスーツだった。
想像してみてくれ。身長180cmなのに可愛い系の顔で、ぱつぱつのヒーロースーツを身にまとったヒーロー。
個性の制御が甘く少しコスチュームを破いてしまい、頬を染めた13号に抱っこされて救出されたんだ。今でもその感覚を鮮明に覚えている。
「てか、麗日はどうなんだよ。緑谷はこないだ聞いたし、飯田は多分家族のあれだろ?」
「おや、僕の家族のことを知ってるのかい?」
「インゲニウムの親戚だろ? 名前と個性でピンと来たぜ」
「ふふん、インゲニウムは僕の兄さ」
「マジ〜!? すっげ、甥っ子とかその辺だと思ってたわ。弟か〜!」
インゲニウムといえば東京に事務所を構える人気ヒーローだ。サイドキックは60人近く居たはず。
何を隠そう、過去に一度会ったことがある。あの爽やかな笑顔とファンサービス、そして足の速さに心を打ち抜かれたのは言うまでもないだろう。
あの時貰ったサインは今でも俺の宝物だ。
「お金……!? お金が欲しいからヒーローに!?」
俺がインゲニウムのことを考えている間に話は進んでいたらしい。麗日は恥ずかしそうに、頭の後ろで腕を高速移動させている。
「端的に言えば……。なんかごめんね不純で……! みんな立派な動機なのに私はずかしい」
両手をほっぺに当てて「あー」と恥ずかしがっている麗日。何を恥ずかしがることがあるんだ。
「何故!? 生活の為に目標を掲げることのどこが立派じゃないんだ?」
「そーそー」
「うん……でも……意外だね……」
飯田天哉、いい男である。響香の軽い同調に俺も乗りながら、麗日の話を聞く。
「ウチ、建設会社やってるんだけど……全っ然仕事なくってスカンピンなの。こういうのあんま人に言わん方がいいんだど……」
「建設……」
「麗日さんの個性なら、許可取ればコストかかんないね」
「でしょ!? それ昔父に言ったんよ! でも……」
言葉が途切れる。キリッとした表情を浮かべた麗日は、堂々とした態度で口を開いた。
「私は絶対ヒーローになってお金稼いで、父ちゃん母ちゃんに楽させたげるんだ」
その言葉には、確かな覚悟が宿っていた。
「麗日くん……! ブラボー!!」
「俺もうかうかしてらんねぇわ」
「ロックだね、麗日」
心の底からそう思う。親に楽をさせるとか、正直、考えたことなかった。
「おお! 緑谷少年が居た! ご飯……一緒に食べよ?」
「乙女や!!」
突如として現れたオールマイト。その手には可愛らしいナプキンに包まれたお弁当がある。おいおいおい、緑谷とオールマイトどんな関係なんだよ……!
興奮している俺を置いて、俺たちに断りを入れた緑谷はオールマイト共に歩いて行った。残された俺と響香、飯田と麗日は、食堂への歩みを再開した。
「デクくん何だろうね」
「オールマイトが襲われた際飛び出したと聞いたぞ。その関係じゃないか?」
「あー、ありそ。アイツ、なんか怖いくらいサポートしてたし」
「蛙水くんが言っていたように、超絶パワーも似ているし、オールマイトに気にいられているのかもな」
食堂に着いた俺たちの話題は先程の出来事についてである。であるが、俺は気絶していた間のことなのでイマイチ話に乗れない。ぴえん。
そばの気分だから並んでくるわと言ってその列に並んでいると背後から声がかけられた。
「あら? 司さんじゃありませんか」
「お、塩崎じゃん! 入学してからは何気にはじめましてか?」
「えぇ。なかなかタイミングが合いませんでしたもんね。……もし良ければ、私たちもご一緒しても?」
「全然いいぞ。……たちってのは?」
全然いいぞって言ってから、私たちと言っていたことに気がついた。数が多すぎたら机に入り切らんかもしれん。何人だろう。
「私含めて3人です。大丈夫でしょうか……」
「なら全然行けるわ。多分」
ホッと声に出して安堵の表情を浮かべる塩崎。……いやはやしかし、制服の塩崎もまた素晴らしいな。
たわわに実った果実は当然のこと、ミニスカから見える太ももが大変すばらしい。
「お、なんだ、真堂の彼女か?」
「かの……彼女!?」
そばを持って前から歩いてきた轟が真顔で言った言葉に、塩崎は顔を真っ赤にして固まった。からかうなよ、と言おうとして、轟がきょとんとしているのに気がついた。
「違ったか。悪い」
「天然かよ……」
力のないツッコミは、食堂の喧騒にかき消された。
ヒロアカ世界、副作用の無い緊急避妊薬開発されてそう。
リアルでも制限はあっても市販で買えるようになりましたね。……なったよな?
望まない妊娠が減ることを祈るばかりですな