※この作品はR-18です。

背徳の教室、堕ちた聖女の放課後   作:@レーガン

1 / 9
第1話:氷の城が砕ける時

 廃工場の空気は、錆と埃、そして少女たちの脂汗と微かな血の匂いで澱んでいた。

 天井の割れた窓から差し込む月光が、無惨に破壊されたコンクリートの床を青白く照らし出している。その冷たい光の中に、一つの影が揺らめいていた。

「はぁ……はぁ……っ、くぅ……」

 苦悶の吐息が、静寂を震わせる。

 かつて人々から「氷の聖城」と謳われ、絶対的な美しさと強さを誇ったトレスマジアのリーダー、マジアアズール――水神小夜は今、泥にまみれた床に膝を屈していた。

 限界だった。

 肉体的な魔力の枯渇だけではない。彼女を支えていた精神の柱が、ミシミシと悲鳴を上げているのだ。

 変身維持の限界を告げるように、青と白の基調とした聖なるドレスは、無数の斬撃と衝撃によってボロボロに引き裂かれていた。

 特に、彼女の代名詞とも言える豊満なバストを包む胸当ては、鋭利な刃物で切り裂かれたかのように大きく破れ、その豊かな膨らみが零れ落ちそうに揺れている。動くたびに白い肌が露わになり、冷たい夜気が汗ばんだ谷間を撫でる。

 普段なら羞恥で顔を覆うような惨状だが、今の彼女には、それを隠す腕の力さえ残っていなかった。

(立て……立たなきゃ……)

 小夜は震える腕で床を押し、身体を起こそうとする。

 私はリーダーだ。マゼンタとサルファの手本となり、街の人々の希望とならなければならない。

 清廉潔白で、強く、気高く。

 弱音なんて吐いてはいけない。負けることなど許されない。

 ――でも、どうして?

 ――どうして私の体は、こんなに重いの?

 その「重さ」は、彼女自身の肉体的な豊満さであり、同時に「正義の味方」という十字架の重量そのものだった。

 幼い頃から優等生として生きてきた。期待に応え続けてきた。

 けれど、その張り詰めた糸は、今にも切れそうだった。いや、本当はずっと前に切れたがっていたのかもしれない。

「あらあら……。どうしたの、アズール? もうおしまい?」

 頭上から降ってくる、甘く、粘り気のある声。

 小夜はビクリと肩を震わせ、ゆっくりと視線を上げた。

 逆光の中に立つ、小柄なシルエット。

 悪の組織エノルミータの女幹部、マジアベーゼ。

 黒いボンテージに身を包み、夜闇よりも深い漆黒の瞳でこちらを見下ろしている。その口元には、嗜虐と愉悦が入り混じった三日月形の笑みが浮かんでいた。

「くっ……! まだ……私は……!」

 小夜は反射的に氷の杖を構えようとする。だが、指先に力が入らない。カラン、と乾いた音を立てて、杖が遠くへ転がっていった。

「あはっ。杖も握れないなんて、無様ねぇ」

 ベーゼがコツ、コツ、とヒールを鳴らして歩み寄ってくる。

 その足音一つ一つが、小夜の心臓を直接踏みつけるように響く。

「ねえ、アズール。貴方、本当は気づいているんじゃない?」

 ベーゼが小夜の目の前でしゃがみ込む。

 至近距離。悪の華の甘い香りが鼻孔をくすぐる。

 ベーゼは、泥と血で汚れた小夜の頬に、冷たい革手袋の指先を這わせた。

「貴方のその立派な正義(おっぱい)も、強大な魔力も、守るべき純潔も……もう、貴方一人で支えきれないほど重くなっているってことに」

「っ……!」

 図星だった。

 その言葉は、鋭利な刃となって小夜の核心を貫いた。

「皆の期待に応えるために、貴方はずっと自分を殺してきた。氷のように冷たく、硬く、完璧な『マジアアズール』を演じてきた。……でもね」

 ベーゼの指が、頬から首筋へ、そして大きく波打つ胸の谷間へと這い降りる。

 破れたドレスの隙間から、無防備な素肌をなぞられる。

 ゾクリ、と背筋を這い上がる戦慄。それは恐怖なのか、それとも――。

「氷はね、砕ける時が一番美しいのよ」

 耳元で囁かれた瞬間。

 小夜の胸の奥で、パキリ、と乾いた音がした。

 それは、彼女が必死に守り続けてきた「理想の自分」という名の氷像に、決定的な亀裂が入る音だった。

(あぁ……だめ。壊れちゃう)

 亀裂は一瞬で広がる。

 「みんなの期待に応えなきゃ」「負けてはいけない」「清廉でなければならない」――そんな強迫観念たちが、ヒビの隙間からドロリと溢れ出す黒い感情に飲み込まれていく。

 苦しい。辛い。もう嫌だ。

 誰か、私を楽にして。

 この重い荷物を、誰か下ろさせて。

 小夜の瞳から、正義の輝き(ハイライト)が消え失せていく。

 代わりに宿るのは、暗く、湿った、依存の色。

「……あぁ」

 その瞳を見た瞬間、ベーゼがうっとりと吐息を漏らした。

 目の前で膝を屈し、涙と涎で顔を濡らし、絶望に染まる氷の魔法少女。

 その姿があまりにも――**「嗜虐的で美しかった」**からだ。

「綺麗よ、アズール。今の貴方は、どんな宝石よりも淫らで輝いているわ」

 ベーゼの言葉は、本来なら最大の侮辱だ。

 けれど、今の小夜にとって、それは初めて自分の「弱さ」を肯定してくれる福音のように響いた。

 誰も「頑張れ」と言わなかった。「そのままでいい」「壊れていい」と言ってくれたのは、この悪魔だけだった。

「楽になりたい? 正義とか、リーダーとか、全部忘れて……ただ愛されるだけの『玩具』になりたい?」

 悪魔の契約(ドグマ)。

 小夜の理性が、音を立てて崩壊する。ガラガラと崩れ落ちた瓦礫の下から、押し殺していた本当の欲望が顔を出す。

「……なり、たい」

 小夜の唇から、掠れた声が漏れた。

「私を……壊して……ベーゼ……様……」

 その言葉を聞いた瞬間、ベーゼの瞳が怪しく輝いた。

 彼女はゆっくりと立ち上がると、無慈悲にもその泥で汚れた黒い厚底ブーツのつま先を、小夜の顔の前に突き出した。

「なら、誓いなさい」

 ベーゼの声には、絶対的な王の威厳と、ねっとりとした欲情が含まれていた。

「その唇で、私の靴に恭順の証を刻んで。プライドも、恥じらいも、全部捨てて。貴方がただの『雌』であることを証明してみせて」

 通常なら、屈辱に震えて拒絶する場面だ。

 国民的ヒロインが、悪の組織の足元に平伏し、その靴を舐めるなどあってはならない。

 だが。

「……はい」

 小夜は震える手で、ベーゼの足首を掴んだ。

 かつては敵として睨みつけていたその足を、今は救世主の御手のように恭しく引き寄せる。

 黒い革の匂い。工場の油と泥の臭い。

 それらが混じり合った悪臭が、今の彼女にはどんな香水よりも芳しく感じられた。

 彼女は、熱く潤んだ唇をゆっくりと開き、躊躇うことなくその汚れたブーツのつま先に押し付けた。

「んっ……ちゅ、れろ……」

 湿った音が、静寂な廃工場に響く。

 小夜の舌が、革の表面を這い、こびりついた泥を舐め取る。

 苦い。ざらざらする。

 ――けれど、甘い。

 これは「敗北」の味だ。「責任からの解放」の味だ。

 もう戦わなくていい。リーダーとして気張らなくていい。

 ただ、この圧倒的な支配者の前で、無様な雌犬として尻尾を振っていればいい。

 その安堵感が、脳髄を痺れさせるような快楽へと変わっていく。

「あぁ……ベーゼ様……」

 小夜は靴から口を離すと、恍惚とした表情でベーゼを見上げた。

 そして、自らの手で、破れかけたドレスの胸当てをさらに引き裂くように広げた。

 ビリィッ! という音と共に、白く豊かな双丘が完全に露わになる。

 冷たい夜気に晒され、その先端は甘く尖り、羞恥と興奮で桜色に染まっていた。

 彼女はそれを隠そうともせず、むしろ見せつけるように突き出した。

「差し上げます……」

 小夜の声は、熱に浮かされていた。

「私の体も、魔力も……今まで誰にも触れさせなかった、この……初めての場所も。全部、全部……ベーゼ様、貴女のものです」

 それは完全なる降伏。

 誰よりも清廉であった少女が、自らの意思で「処女」を捧げた瞬間だった。

「私のことを……貴女色に汚してください……ッ!」

 小夜は、露わになった胸をベーゼのブーツの側面に押し付けた。

 むにゅぅ、と音を立てて、聖女の誇り(バスト)が悪の靴に押し潰され、その形を変える。

 柔らかい脂肪の感触と、硬い革の感触。

 そのコントラストに、小夜は背筋がゾクゾクするほどの悦びを感じていた。

「んふっ……♡ あははっ、最高よアズール!」

 ベーゼが歓喜に打ち震え、高笑いを上げた。

 彼女にとっても、これは予想以上の光景だった。

 あの高潔なアズールが、自分の靴を舐め、その豊満な肢体を擦りつけて求愛している。

 その背徳的な絵面は、ベーゼのサディズムとマゾヒズムの両方を極限まで刺激した。

「いいわ。合格よ、私の可愛いアズール」

 ベーゼはしゃがみ込むと、アズールの頭を鷲掴みにした。

 そして、まるで所有物に焼印を押すように、その額に深い口付けを落とした。

「今日から貴方はトレスマジアのリーダーじゃない。――エノルミータの、私の愛玩動物(ペット)よ」

「……はい、ご主人様(マイスター)……♡」

 小夜はうっとりと瞳を閉じ、頬を染めて答えた。

 その顔は、今までのどんな勝利の瞬間よりも、とろけるように幸せそうだった。

 暗転する意識の中、小夜は最後に感じた。

 ベーゼの手が、自分の最も柔らかい場所を優しく、そして所有するように愛撫する感触を。

(あぁ……ここはなんて、暖かくて暗いんだろう)

 氷の城は崩れ去り、そこには甘い泥沼だけが残った。

 水神小夜の、そしてマジアアズールの「魔法少女」としての人生は終わりを告げた。

 そして、背徳と快楽に満ちた「家畜」としての第二の生が、今まさに幕を開けたのだった。

「さあ、お家に帰りましょうか。……たっぷりと可愛がってあげるから」

 ベーゼの言葉に引かれるように、小夜の意識は深い闇へと落ちていった。

(第1話 完)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。