――昨夜の記憶。それは水神小夜にとって、極上の悪夢であり、甘美な蜜の味だった。
瓦礫の山と化した夜の繁華街。
マジアアズール・オルタの振るう黒い魔剣によって、マジアマゼンタとマジアサルファは地に伏していた。
「くっ……つよ、い……」
「アズールの偽物が……こんな力なんて……!」
二人が悔しげに呻く。
アズールは冷徹な瞳でそれを見下ろし、止めを刺そうと剣を振り上げた――その時だった。
「待ちなさい、駄犬」
背後から、鎖を強く引かれた。
首輪が食い込む衝撃に、アズールは「あぅっ!」と声を上げて仰け反った。
振り返れば、鎖の端を握ったマジアベーゼが、嗜虐的な笑みを浮かべて立っていた。
「ベ、ベーゼ様……?」
「勝手に終わらせないでちょうだい。……せっかく観客がいるんだから、もっと面白いショーを見せてあげないと」
ベーゼは倒れているマゼンタたちを一瞥し、そしてアズールの豊満な胸元に視線を戻した。
「跪きなさい、アズール」
絶対命令。
アズールは反射的にその場に四つん這いになった。
かつての仲間の目の前で。
「いい子ね」
ベーゼはアズールの背中に、泥のついたブーツを乱暴に乗せた。
グリグリとヒールを食い込ませる。
「あぐっ……! は、はい……嬉しいです、ベーゼ様……ッ!」
アズールは痛みに顔を歪めながらも、頬を紅潮させて喘いだ。
その光景に、マゼンタとサルファが悲鳴を上げる。
「やめろ! 抵抗できない相手に何をするんだ!」
「その人を放して! 偽物でも、女の子をそんな風に踏みつけるなんて!」
二人の必死の叫び。
だが、ベーゼはそれを鼻で笑い、更に残酷な命令を下した。
「私の靴が汚れちゃったわ。……綺麗にしなさい、舌で」
アズールはゾクリと身を震わせた。
親友たちが見ている前で、悪の幹部の靴を舐める。
それは決定的な尊厳の破壊であり、同時に最高の「ご褒美」だった。
「……はい、ご主人様(マイスター)……♡」
アズールは這いつくばり、ベーゼのブーツに舌を伸ばした。
レロ、ジュル……。
卑猥な水音が響く。
泥と埃に塗れた革を、アズールは愛おしそうに、夢中で舐め回した。
「なっ……!?」
「うそ……やめて……見たくない……!」
マゼンタたちが絶句し、顔を背ける。
気高いアズール(の姿をした少女)が、自ら進んで悪に屈服し、喜んで靴を舐めている。
その冒涜的な光景は、彼女たちの正義感を粉々に粉砕した。
「ふふ、上手よアズール。……じゃあ次はこっち」
ベーゼはアズールの顎を蹴り上げ、今度は胸元のボンテージを指で弾いた。
パチンッ!
鋭い痛みが走り、アズールの豊かな胸が揺れる。
「皆に見せつけてあげなさい。貴女のそのだらしない乳房が、誰のものなのか」
「はいっ……! 見てください、マゼンタ、サルファ……!」
アズールは自らの手で胸を鷲掴みにし、谷間を見せつけるように突き出した。
「私はベーゼ様の雌犬です……っ! 靴を舐めて、踏まれて、弄ばれるのが……一番の幸せなんです……っ!」
恍惚の表情で叫ぶアズール。
ベーゼはその胸を揉みしだき、乳首をつねり上げ、アズールを悲鳴と嬌声で鳴かせた。
「あはは! 最高よ! 見て、この無様な姿! これが貴女たちの敵よ!」
高笑いと共に、ベーゼはアズールを引きずるようにして闇へと消えていった。
残されたのは、絶望と混乱に叩き落とされた二人の魔法少女だけだった。
◇
――そして、翌日。
学校の屋上。
小夜は、お弁当の卵焼きを咀嚼しながら、昨夜の興奮を反芻していた。
あの時、マゼンタたちの前で辱められた快感。
恐怖と嫌悪で見開かれた二人の瞳。
思い出してだけで、制服の下のローターが熱く感じる。
「それにしても、許せないな……昨日のあの偽物」
ふと、薫子が箸を止め、憎々しげに呟いた。
小夜は我に返り、きょとんとした顔を作った。
「え……? 偽物?」
今の小夜の「設定」は、「変身能力を失って逃げ帰ってきた被害者」。
つまり、自分の後に現れた「堕ちたアズール」のことは知らないという体(てい)だ。
「そうなんだよ! 小夜ちゃんが逃げた後にね、エノルミータが現れて……」
はるかが身を乗り出して、憤慨しながら説明を始めた。
「小夜ちゃんそっくりの、変な魔法少女が出てきたの! 多分、エノルミータが小夜ちゃんのデータを悪用して作ったコピーだと思うんだけど……」
「とんでもなく悪趣味な偽物だったぞ」
薫子が言葉を引き継ぐ。その表情には嫌悪感が滲んでいる。
「顔こそ小夜に似せていたが……格好も、振る舞いも酷かった。あんな……あんな露出狂みたいなボンテージ姿で、あろうことか敵の靴を舐めて喜んでいたんだぞ……!」
薫子の声が震える。思い出すのもおぞましいという風に。
「私たちが見ている前で、胸を晒して……『雌犬です』なんて叫んで……。あんな下品な奴、小夜ちゃんへの最大の冒涜だよ!」
「……えぇっ? そ、そんな……」
小夜は口元を手で覆い、ショックを受けた演技をした。
だが、その指の隙間から漏れ出る吐息は、熱を帯びていた。
(ふふ……あはは! 言ってる、言ってる……♡)
目の前にいるのに。
昨夜、貴女たちの目の前で靴を舐め、踏まれてイッていた本人が、ここにいるのに。
親友たちが必死に「偽物の卑猥さ」を説明すればするほど、小夜の股間は疼き、制服の下のローターが愛おしく感じられる。
「しかも、武器も氷の杖じゃなくて、禍々しい黒い剣を使ってきて……」
「乱暴で、野蛮で……あんなの、私たちの知ってる気高いアズールじゃないもん!」
二人は口々に、昨夜のアズール・オルタ――つまり目の前の小夜本人――を罵倒し、同時に擁護した。
「小夜ちゃんはもっと清楚で、優しくて……あんな雌犬みたいな顔しないもんね!」
(雌犬……♡)
その単語が、小夜の理性を甘く溶かす。
そうです、私は雌犬です。ご主人様の性処理係です。
貴女たちが崇めている「聖女」なんて、もうどこにもいないのよ。
「……怖かったよね、小夜ちゃん。そんなのが街を暴れまわってるなんて」
「う、うん……。知らなかった……そんなことになってたなんて……」
小夜は震える演技をしながら、チラリと屋上の入り口を見た。
そこには誰もいない。
本当なら今頃、うてなと一緒に誰もいない教室でお弁当を食べて、デザート代わりに指を舐めたり、足で踏まれたりしているはずだった。
(うてなちゃん……会いたい。ご主人様のエキスが足りない……)
親友たちの「正義」と「友情」が、今の小夜にはただのノイズでしかない。
彼女が求めているのは、温かい励ましではなく、冷たい命令と熱い支配なのだから。
「私たちが絶対にあいつを倒すから! 小夜ちゃんの名誉のためにも!」
燃えるような瞳で誓う二人を見て、小夜は暗い瞳で冷ややかに微笑んだ。
「ありがとう……。頼りにしてるね、二人とも」
(精々頑張って。……貴女たちが必死になればなるほど、私はご主人様に褒めてもらえるんだから)