どこか遠くで一番鶏が鳴いた。もう夜が明けてしまったのだろう。
障子からさしこむ朝日に顔をくすぐられ、まどろみから覚めた少年が、布団のなかで身じろぎをした。
――今日こそはひとりで起きないといけない。またお仕置きされてしまう。
布団から這い出ようともがいたものの、意思に反して身体の反応は鈍かった。あたかも皮膚が寝具に貼りつきでもしたかのように、ぴくりとも動かないのだ。
――明日だ。明日こそは。
少年は大きなあくびを一つつくと、頭まで深々と布団をかぶり、二度寝を決め込もうとした。
「失礼します」
部屋のそとから若い女の声が聞こえて、少年が身を固くする。慌てて起き上がろうとしたせいだろう。布団に足をとられた少年は、畳のうえにもんどり打ってひっくり返ってしまった。
音もなくふすまが開き、一対の黒い瞳が彼をまじまじと見下ろした。
「若、朝餉あさげの支度はとうにできておりますよ」
「今、起きようとしていたところさ。羽夜ハヤ」
仰向けのまま、若と呼ばれた少年、千賀俊介が答えた。
「皆さま、すでにお待ちかねです」
眉をひそめ、冷ややかな眼差しをむける従者のすがたに、少年は柔らかな笑みを浮かべる。憮然とした表情で顔をしかめていても、その華奢な身体と美貌があいまって、迫力にかけるのだ。
羽夜の背は低い。身長は150センチに届くかどうかといったところだろう。
しかし、発育途上の少女のような肉体とは対照的に、顔つきは成熟した女性のそれだ。
鼻はすらりと高くのびていて、切れ長の黒い瞳が、大人の色香を漂わせている。
桜色の唇は、花びらのように薄い。肌の白さとあいまって、ともすれば氷細工のような繊細さを醸し出していたが、瞳の輝きがそれを打ち消していた。まなざしはあくまでも力強く、彼女の内に秘めた芯の強さをうかがわせた。
羽夜がまなじりをつり上げ、小言を並べ立ててゆく。
「今日という今日こそは許しません」とばかりに、まくしたてるが、暖簾に腕押しと感じたのだろう。
首を横に振ると、頬をふくらませた。耳元で切りそろえられた黒髪が、左右に揺れた。
「笑ってごまかそうとしても無駄ですよ。本家の跡取りともあろう方が、このようなことでは困ります。もっと自覚を持っていただきませんと」
と、腰に手をあてたまま、鼻を鳴らす。
「約束するよ。明日こそは、明日こそは、必ずひとりで起きるから」
立ちあがろうとした俊介に、羽夜が手をさしのべた。
「あまり反省の色が伺えないようでしたら、竜蛇様にお願いして、若にはお仕置きを受けてもらいますから」
俊介の顔が青ざめる。竜蛇のねちっこい耳舐めや、淫らな言葉責めの数々を思い出したのだ。
きびすを返し、すたすたと部屋を去ろうとする羽夜のあとを慌てて追いかけようとしたが、ふすまのへりにつまづいて、俊介はまたしても転んでしまった。