『朝日の間』にはすでに、夜伽衆のほぼ全員が集まっていた。
俊介が足を一歩踏み入れると、談笑の声が止み、弾けるような笑みと、屈託のない挨拶が投げかけられた。
「おそようございます、若様」
濃紺の着物をまとった、銀髪の美女がくっくっくっと腹を抱えながら笑いだす。
「昨晩はさぞお楽しみだったのでしょうな。いや、毎晩のことでしたか。しかし、一人でお慰めになるとは寂しいではありませんか。次からはわたくしめも呼んでいただきたいものです」
と言うと、艶のある長い髪を耳もとにかけながら、もう片方の手でジェスチャーをはじめだす。
掌を丸めて筒状にすると、小刻みに振り始めたのだ。
「こがね様」
隣に座る羽夜が、たしなめるように小声でささやくが、まるで聞く耳を持たない。
動きがより激しさを増してゆく。フィナーレの合図なのだろう。指をわななかせると、驚いたように小さく口を開き、片目をつぶってみせた。
俊介が顔を赤らめ、視線をそらすと、朝食の並んだ座卓にしなだれかかったまま、こちらを見つめる少女と目があった。
「わーかー、おっそすぎー」
少女は恨めしそうに睨みつけると、両手を勢いよく、座卓に叩きつけた。いや、叩きつけたのは、二本の腕ばかりではない。
少女の下半身からのびる触手が、うねうねとうごめきながら、宿主の感情を代弁するかのように連打し始めている。
叩きつけるたびに、粘り気を帯びた水音のようなものが立つ。
触手の先端は、無数の吸盤が連なった楕円状となっていて、そのくぼみから粘液がとめどなく発生している影響らしい。
座卓の天板から触手が離れるたび、半透明な糸が尾を引いた。
「人化の術をかけておけと言っておいたのですが......」
羽夜がうつむく。
「堅苦しい席じゃないし、玲奈がくつろげる姿が一番だから」
と、俊介が答えた。夜伽衆ーー羽夜やこがねや玲奈たちーーは、本家の血筋を引く者を補佐し、護衛する役目を持つ。
みだりに生の姿を晒さないことが掟とされていた。
人化の術を使うことで、モンスター娘としての本性を隠し、主君に不快感や恐れを抱かさせないためだという。
触手や蜘蛛足、グロテスクな長い舌.....。
先祖たちは、彼女たちを異形のものとして、忌み嫌ったというが、俊介にとっては信じがたい話だった。
「慣れれば、こちらの姿の方が楽なのだが、玲奈殿はあいかわらずよの」
「まったく、若様は甘すぎます!」
羽夜が唇を尖らせるが、玲奈はどこ吹く風とばかりに余裕綽綽だ。
「ところで竜蛇は?」
「りゅうちゃん、お寝坊さんだから。まだまだ夢のなか」
俊介は、ほっと胸を撫でおろす。もしも竜蛇よりも遅く起きていたら、お仕置きを受けるところだった。
「はやくご飯にしようよ、わか。もうお腹ペコペコ」
駄々っ子のようにごねる少女の姿に、大人たちは仕方がないとばかりに首を振る。
「竜蛇様には申し訳ありませんが......。若様、よろしいですか?」
ああ、とうなづく俊介。どこに座ったものかと、きょろきょろすると、
「わかは、れいなの隣りだよ」
毎朝恒例、従者による席決めのジャンケンは、玲奈に軍配があがったらしい。
触手を器用にのばし、手招きをしている。羽夜がなにか物言いたげに、こちらを見つめてきた。
俊介もジャンケンに参加したいと訴えているのだが、男子禁制とのことだ。