※この作品はR-18です。

千賀家の淫らな日常   作:ユキユキコ

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6話

 「は、羽夜がいけないんだ。さっきから気持ちよすぎて、ぼく我慢してたのに……」

 

 

 羽夜の上半身に馬乗りになった俊介が息巻く。口調こそ熱をおびていたが、声は涙まじりで、どこか怯えたような響きを孕んでいた。

 

 

 もしも拒絶されてしまったら。もしも軽蔑されてしまったら……。

 

 

 羽夜に嫌われる未来。考えたくもないイメージが頭をよぎり、離れない。

 

 

 夜伽衆の仕事には、警護のほかにもうひとつ、大切な役割があった。それは従者としてではなく、ひとりの女として閨をともにすること。

 

 主君が成人して、やがてモンスター娘のなかから伴侶を選ぶ。子作りをおこなう際、支障が生じないようにするべく、性教育をほどこす。

 

 

 睦み言を交わすかどうかは、当人たちの意思に任されていた。玲奈のように熱烈なアピールを欠かさぬ者もいれば、一線を置く者もいる。羽夜だ。

 

 

 母親同士が知り合いだったこともあり、俊介とは赤ん坊の頃から共に生まれ育った仲だ。肉親にむける愛情と、異性へむける性愛では、大きくかたちが異なるのだろう。

 

 

 俊介がおそるおそる羽夜の顔色をうかがう。感情はようとしてつかみ取ることはできなかった。

 

 

 なだらかな起伏をえがいた乳房が、呼吸にあわせて、浮き沈みしているだけだ。

 

 

 沈黙を破ったのは、羽夜のほうだった。

 

 

「若様」

 

 

 右手をそっとのばすと、主の頬に指をはわせた。

 

 

 「羽夜も夜伽衆のはしくれ。覚悟はとうにできております」

 

 

 迷いのない瞳だった。切れ長のまなじりがふっと和らぐ。

 

 

 「……若様さえよろしければ、いつでもお相手いたしますよ」

 

 

 ――誓います。白桃のように薄い唇がふるえ、言葉を紡いだ。しなやかな指が、主の顔の輪郭をなぞりながらゆっくりと、頬から耳へとうつってゆく。

 

 

 「羽夜。ぼくは……ひゃああっっっん」

 

 

 言葉のさきが、嬌声でかき消える。耳たぶの表面を爪がかすめたのだ。絹糸でくすぐられるような、もどかしい快感がほとばしり、皮膚や耳粘膜を侵す。

 

 

 愛撫とさえいえない、ささいなボディータッチだというのに、俊介の身体は情けなく反応してしまう。産毛が逆立ち、耳が火照り、膝が笑いだす。

 

 

 肉竿から先走り汁がドロリと垂れ落ちた。

 

 

 (……な、なんで!?からだが変だよぉ)

 

 

 もう爪や指は触れていないのに、快感がこびりついたまま離れない。

 

 

 下腹部を襲う、あの暴力的な疼きとは異なる快感だった。無数の指が同時にわななき、耳の窪みや凹凸の一つ一つを撫でまわしているような――こそばゆい感覚だ。

 

 

 (ひぐうっっ、ひぎゅうっっ)

 

 

 快楽刺激が、聞き分けの悪い子供をしつけるように、俊介の耳をいたぶる。肉棒がビクビクと跳ねあがり、尿道口から湧き出た透明な肉汁が、浴衣の白布を黒く染めあげ、肌を汚す。

 

 

 快楽刺激が、教えを説く。耳は性器。耳は性器。耳は性器。快楽刺激を受け止めるための外性器なのだ。ペニスと同じ、男の弱点なのだ――。

 

 

 快感にたえきれず、俊介は畳に両肘をついた。膝がけいれんしているせいで、支えがないと倒れてしまいそうなのだ。四つん這いの格好で、犬のようにみじめにうめく。

 

 

 股間の疼きと耳朶のかゆみは膨れ上がる一方だ。淫棒はもはや病的なまでに熱をおびていた。

 

 

 涙が頬をつたう。畳に爪を立て、奥歯を嚙みしめ、こらえようとするものの、オスの本能には抗えない。腰が自然とつきあがり、みっともなくヘコヘコと前後にふってしまう。

 

 

 我慢汁が、飛び散る。着物を一枚へだてた奥先には、最愛の女性の柔肌が待っているというのに、けだもののように喘ぐことしかできない。

 

 

 羽夜が右腕を主人の後頭部にまわした。髪をすき、頭を撫でる。泣きわめく幼い弟をなだめるような、優しい触り方だ。

 

 

「これはお返しです」

 

 

鼻先に甘い吐息が吹きかかる。顔をぐいっと近づけると、俊介の耳元にささやきかけた。

 

 

「昔と変わらず、ここは弱いままですね」

 

 

「ひゅがう、ひゅがうのぉ……」

 

二度叫び、二度首を振る。違う、と言いたいのだろう。呂律のまわらぬ舌で、必死に声を発そうとしているが、意味をなしていない。人の言葉というよりは、仔犬の鳴き声であり、小鳥のさえずりだ。

 

 

顔面は涙やよだれで下品なまでに濡れている。だらしのない弛緩しきった表情は、名家の跡取りのものではない。むしろ陰核や尿道口、乳首やヴァギナといった性感帯をしゃぶられて、むせび泣く生娘のものだ。

 

百年の恋も冷めるような痴態だが、羽夜は愛おしそうに見つめていた。

 

 

(おがじい、おがじい、おがじいよぉ)

 

 

――耳がやたら敏感でおかしい。

 

 俊介は知るよしもなかったが、玲奈の触手のせいだった。さきほどまでペニスに執拗にねりこんでいた粘液が、亀頭や包皮の粘膜にしみわたり、全身の感度の目盛りを引き上げていたのだ。耳や皮膚、乳首やへそ孔、身体のあらゆる器官が、いまや性感帯となりつつあった。

 

 羽夜が指を一本一本、畳から引きはがしてゆく。指を交差させると、恋人のように重ねあわせた。爪が、手の甲をチクリと刺した。刺されたところに、円状の不思議な紋様が浮かび上がった。

 

 

 火がともったような頬を見られたくないのか、羽夜は顔をそむけてしまった。

 

 支えを失った俊介は、崩れ落ちるように、こぶりな胸の谷間へ顔を埋めた。横乳に鼻先をぐいぐいと押しつけると、ゆたかな弾力が跳ね返ってきた。

 

 

 甘酸っぱい蜜柑のような香りが、鼻腔をくすぐる。

 

 

 羽夜の匂いだ。

 

 

 小さな乳房に鼻をこすりつけ、匂いをかいでいると、全身を這いまわる快感がすこしずつおさまっていくのがわかった。

 

 

 立ち上がろうとする。しかし、足が麻痺したように動かない。爪先の感覚すらない。骨を抜き取られでもしたかのように、力が入らないのだ。

 

 

 肉棒だけが狂ったように震え、ひくついていた。

 

 

 「......昔のことを思い出します。覚えておいでですか?若様が夜泣きするたび、こうして寄り添って寝かしつけたものです」

 

 

 羽夜のまなざしは、どこか遠くをさしていた。

 

 

「妖狐の術をかけました。解毒作用があります。眠りからさめれば、身体も元通りになっているはずです」

 

 

「ひゃやゃ」

 

 

――羽夜。俊介が名を呼ぶ。

 

 

「……まだです。若様さまが成人の儀を迎えたあかつきには必ず」

 

 

睡魔が襲う。最後の言葉は、俊介の耳にはとどかなかった。

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