※この作品はR-18です。

野良犬転生~犬に転生して人間の女の子をお嫁さんにし、被差別種族を救ってしまう男の話~   作:XX(旧山川海のすけ)

17 / 105
第16話 憎悪の矛先

「……イズミ。ちょっといいかしら?」

 

 いつもはイズミちゃん、と呼ぶフセが。

 イズミを呼び捨てした。

 

 そしてその声は底冷えしていた。

 

 

 

 フセに言われて、イズミは天幕中央の毛皮の敷物の上で正座をさせられている。

 その前に、フセはシノを抱きながら見下ろす。

 

 氷のように冷たい目で。

 

「フセ様、私には家事が……」

 

 イズミは目に見えて動揺し、震えている。

 真っ青だった。

 

 フセは怒っていた。

 

 俺は怒らないでやってくれと言ったのに。

 

 でも、抑えられないのか

 

「何故お前は五十音表を捨てたの?」

 

 ハッキリと、そう言ったんだ。

 言われた瞬間、イズミはビクリと震えた。

 

 そしてガタガタ震え始める。

 

 だがフセは矛を緩めない。

 

「答えなさい!」

 

 有無を言わせない。

 惚けることもできないだろう。

 

 彼女は理解している。

 自分がやったことが全部バレていて、もはや言い逃れできないことは。

 

 何を言おうと聞き入れてもらえず、ただ断罪されるのみ……

 

 だから覚悟を決めたらしい……

 

「……兄の後釜に即座に収まった、その犬が憎かったからです……」

 

 そう言って俺に……

 

 イズミは悔しそうな、憎しみの籠った視線を向けて来たんだ。

 

 ……なんとなく予想はしていたから。

 俺は悲しかった。

 

 

「私の兄が死んですぐに、即座にフセ様の夫の地位に収まった犬! 許せない! こんな畜生が兄の地位に収まるなんて!」

 

 告白して吹っ切れたのか。

 俺への憎悪を一気に吐き出す。

 

「ふざけないで!」

 

 フセの怒声。

 彼女は続けた。

 

「ヨースケを失った悲しみを、一瞬で過去のものにして下さったのは夫! どのみち私は、ヨースケを失った翌日には別の男性の妻になることが決まっていたんだ! その運命への痛みを、私の夫は和らげてくれたんだッ!」

 

 ……俺は勇気は要ったけど、全部フセには話している。

 お前の俺への深い愛情の根源は、そもそもが神技(シンギ)の効果で、その結果であると。

 このことを伝えたとき、少しだけ寂しそうな顔をしたんだけど、彼女は

 

「どのみち、神技持ちの男女が結ばれることが最高の形である以上、そこに至るまでの過程を短縮しただけです。感謝こそすれ、嘆く理由はありません」

 

 そう言って俺に微笑み掛けて、キスしてくれたんだ。

 

 ……フセは自分を抑えられて、他の利益のために動ける人間だ。

 そんな彼女がここまで怒るなんて……

 

「イズミ! お前のやったことは私は許せないッ! タダで済むと思わないでッ!」

 

 ……フセは神技の効果で、岩を素手で砕けるような恐ろしい身体能力を持っている。

 そんなフセが、怒りのままに襲ってくる。

 

 ……命の危険すらあるし。

 仮に殺してしまっても、フセは一切罰せられることは無い。

 

 フセは神技持ちで、レッサーヒューマンの希望。

 正当性のある暴力で、他者を殺めても誰も彼女を非難することはできないんだ。

 

 そんなの、誰でも理解できる。

 

 イズミは真っ青になり、顔を引き攣らせた。

 かつてのように、また目の前に死が突きつけられた気分なんだろう。

 

 俺は彼女の心を思った……

 

 あの日、目の前で兄を殺されて。

 1人殺して満足したグレーターヒューマンの少年2人に見逃してもらい、助かった彼女。

 

 兄への申し訳なさと、兄への深い感謝の気持ちがあったに違いない。

 なのに、兄の妻だったフセが瞬く間に兄を忘れて、今度は犬の妻になった。

 

 フセの行動は、レッサーヒューマンとしては正当で歓迎するべきものだけど。

 彼女の気持ちはそうじゃなかったんだ。当たり前だけど。

 

 ……俺に憎悪が湧くのも当然だろ。

 そしてそれは……

 

 全て彼女の、自分の兄弟への愛情の裏返しだ。

 

 俺だって、兄貴が居た。

 同じことが俺に起こったら、同じように恨むかもしれない。

 

 だから

 

 やめろ、という意味合いで俺はフセの着ている浴衣のような衣服の裾を噛んで引っ張った。

 

 怒りの目を俺に向けてくるフセ。

 

「あなた! でも!」

 

 フセの怒りはそのまま俺への愛情。

 それは嬉しい。

 

 でも

 

 俺は頭を左右に振った。

 

 その瞬間、フセは辛そうな、悔しそうな顔をして

 

 イズミを睨みつけた。

 

「イズミ! 夫がお前を許せと言っている! 心から感謝するのよ! 次やったら許さないからねッ!」

 

 また同じことをしたら、今度は生きたまま引き裂いてやるからね!

 そうフセは激しい怒りを口にして、自分の怒りを収めてくれた。

 

 イズミは土下座した。

 

「フセ様、ありがとうございます……それに……」

 

 そしてそのまま、イズミは俺に視線を向けて。

 

「え、エイト様……! 庇って下さってありがとうございました……!」

 

 そしてイズミは俺に地面に額を擦り付けて、俺にそう言ったんだ。

 涙声で。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。