野良犬転生~犬に転生して人間の女の子をお嫁さんにし、被差別種族を救ってしまう男の話~ 作:XX(旧山川海のすけ)
「いいか? 狙撃は究極、感覚だ」
休めの姿勢で整列して立っている男たちを前にして。
アサは声を張り上げていた。
アサがレッサーヒューマンの兵士たちに銃の指導をしてくれているのだ。
軍服を脱ぎ捨てて。
軍服は無用に元グレーターヒューマンを意識させて、反感を買うだけだからな。
俺が脱げと言ったんだ。
代わりに、レッサーヒューマン女性の一般衣装のワンピースを着させている。
それにさ……
敵の軍服を着せて兵士を敵と戦わせるのは絶対にしてはいけない行為だから、予防の意味でも軍服は駄目だ。
もし敵の軍服を着ることが常態化し、敵との戦闘時にもそれをやると、後に引けなくなる。
この世界にも戦時国際法があるとは思えないけど、あまりにも卑劣な行為は可能な限りしない方が良い。
どうしてもしなければならないのなら、一切バレないのが前提条件だ。
「教官殿、発言よろしいでしょうか?」
アサの話を休めの姿勢で聞いていた兵士が、手を上げて質問をする。
「言ってみろ」
許可を出すアサ。
兵士は腹筋の効いた声で発言した。
「感覚とはどういうことですか?」
「感覚は感覚だ。身に付かないヤツはどれだけやっても身に付かない。銃を隅々まで自分の一部にしたような感覚とでも言えば良いか……」
アサは自分の思いの言語化で苦労しているようだ。
でも、何とか伝わったらしい。
兵士たちの顔に、理解の色が出ていたから。
「狙撃の基礎は何度も教えたが、それが身に着いても狙撃の感覚が身に付かないと狙撃はモノにならん。だから、諦めるのも肝心ではある」
アサは手加減無しで、本気で教えてくれている……
正式に側室としてアサを迎え入れた後、アサは側室になれて嬉しいと俺たちに言ったんだ。
最初は、俺の神技の効果でそう思っているのかと思ったんだけど……
「私は神技のせいで普通の女の幸せが望めなかったんだ」
そういえば……
神技のせいで嫁の道が無くなったとか言ってたな。
俺はあのとき、彼女のその発言を気に留めて聞かなかったけど……
彼女の神技は「クローン」
自分と同じ遺伝子の子供を出産する神技だ。
それはつまり……
彼女と結婚した男は、実質的に断種されるのと同じということになる。
……なるほど。
グレーターヒューマンの社会の結婚事情はよく分かってないけど。
神技の内容を相手に知られて、その度に破局したり、破談になったり。
辛かったんだろうな。
それぐらい、俺でも分かった。
だけど
「ここでエイト様の側室になったことで、私は……はじめて自分の神技の内容に感謝したんだ」
その言葉には。
俺は、軽く扱えない重みがあると思ったよ。