野良犬転生~犬に転生して人間の女の子をお嫁さんにし、被差別種族を救ってしまう男の話~ 作:XX(旧山川海のすけ)
さて、何も無いな。
人間には近づかない方が良いだろう。
ろくなことにならない気がする。
遠くに見える建物。
ボロボロだ。
木製の建物がいくつか。
あとはほとんど、テントみたいな感じだ。
どんだけ貧しいんだよ。
人間のクズって奴は。
ああ、元飼い主は「レッサーヒューマン」とも言ってたな。
多分正式名称はレッサーヒューマンで、俗称が「人間のクズ」なんだな。
レッサーヒューマン……直訳で下位人類、か?
俺は草むらに入って、虫を食べていた。
バッタが結構ウマイ。
犬だから、味覚が人間と違ってるからね。
虫がこれほどウマくなるとは。
ビタミンも要るだろうから、雑草も食べる。
これはどうなんだろうなぁ?
ヨモギみたいなのにした方がいいのだろうか?
モグモグしながら周囲を見回すと、トカゲが居た。
おお、イイじゃーん。
前足で尻尾を押さえた。
すると
トカゲは尻尾を自切して逃げていく。
……あ、そっか。
トカゲにはそれがあるんだったな。
悔しさがあったので、くぅーんという鳴き声が洩れる。
ビクンビクン動く尻尾を取り敢えず食べて、次を探す。
……何か他に食べられるもの……
そのときだった。
バサッと。
網が飛んで来たんだ。
うぉ! 何だ!?
暴れるが、上手くいかない。
逃げられない。
そこに
「見ろ、立派な犬じゃ無いか」
「狼犬って奴か? 猟犬に使えないかな?」
「食べないのか?」
「まずは調教してみようぜ」
近場の岩に数人の男たちが隠れていた。
柄の無い衣服を身に着けた男たちで。
全員、だいぶ痩せていた。
そして……
右手の手首に輪のような刺青を入れていた。
彼らが……人間のクズ……レッサーヒューマンなのか。
逃げられないと判断した俺は、猟犬として使えないかという言葉を聞いていたのもあって、男たちに捕まって、そのまま彼らの集落に連れていかれた。
猟犬になれば、食べることに苦労はしないだろ。
……そう、思っていたんだけど。
「おいクソイヌ! 鹿が逃げたぞ! 追え!」
動物を狩るときに連れていかれて
命じられたから追いかけた。
追いかけたけど……
どう追えば良いんだ?
分からん。
俺、元飼い犬だぞ?
……なので
「また失敗しやがって!」
……棒で殴られた。
「この役立たずが!」
蹴りも飛んでくる。
命じられた仕事を何一つ達成できず、ボコボコに殴られる。
……さすがに悔しかった。
俺は教えられてないんだよ。
狩りの仕方って奴を。
飼い犬だったからな。
なのに
それを勝手に期待して、期待通りじゃ無いからと、成長の機会も与えないで暴力を振るうのか。
クソがッ……!
だけど。
今の俺は、犬だ。
しかも元野良の犬。
発言権なんてあるわけが無いし。
それどころか物理的に喋れない。
転生したけど、結局このまま死んでいくのか。
そこに思い至り。
俺は……
せめてひと噛み、こいつらの誰かに喰らわせて。
そしてそのまま、この2度目の人生? を終えようと思った。
そのときだった。
「動物虐待は止めなさい」
女の声がしたんだ。
凛とした声。
男たちの俺を殴る手が止まった。
俺もそちらに視線を投げた。
……そして思わず、見惚れてしまった。
それは美しい少女だった。
銀色のロングストレートヘアとタレ目。
高貴さを感じる顔つき。
服装は他の人間のクズたちと同じく、柄の無い服だったが……
痩せ気味の他のメンツと違い、栄養状態が目に見えて良かった。
太ってるわけではないんだ。
みすぼらしさを感じないというか。
そして肉付きも良かったけど
背が高いんだよ。
男と同等の背があった。
……多分、他の人間のクズたちより、良いものを食べているんだろう。
本当に人間のクズなのか? と疑いたくなるけど。
彼女の右手首にも、刺青はあったんだ。
だから彼女も、間違いなく人間のクズ。
「フセ様」
男たちは彼女の登場に、動揺した声を返す。
……フセ。
これが、俺の後に妻となる女性との出会いだったんだ。