野良犬転生~犬に転生して人間の女の子をお嫁さんにし、被差別種族を救ってしまう男の話~ 作:XX(旧山川海のすけ)
「それは素晴らしいな。……だが、我々がそれを信じていい根拠は一体何かな?」
スプリスの声には笑いが含まれていた。
まさかただの口約束、トラストミーとかそういうもんじゃあるまいな?
そう言いたげな笑みだった。
ケノは
「……あなた方の2000年の実績がありますよね? 自分たちの楽園を、2000年も維持してきた実績が」
それを真似するだけです。それがそんなに信じられませんか?
ケノの返答。
スプリスは……
肩を震わせて笑っている。
そして
「いや、本当に君は素晴らしいな。そんな根拠を挙げられたら、我々は否定できんよ……よろしい。信じるとする。で……」
スプリスが続けた言葉。
それは……
「君たちが外に国をこさえて、無事に安定した社会を構築した後。その後に我々に報復行為をしてこない保障はあるのかな?」
……極めて当たり前の、最優先で訊くべき事柄だ。
グレーターヒューマンにとってはね。
ケノはそれに対し
「……あなた方が、その気になれば私たちを皆殺しにすることは決して不可能では無いのに、そうしない理由は何ですか?」
そう、質問に質問を返したんだ。
本来は褒められたことじゃないけど、これには意味がある。
スプリスが答える。
「コストに見合わない。受ける被害が大きすぎる。だからここに出向いたんだ」
「でしょう? 私たちも同じですよ」
スプリスの返答に、ケノはそれを自分の回答……不戦の根拠としたんだ。
「あなたたちに私たちが受けた仕打ちは筆舌に尽くしがたいですが……そのために多数の仲間……私の家族を危機に晒すことはできません」
じっと、スプリスの目を見つめながら。
「なので、あなたたちを私たちは恨んでいますが、報復には出ません。私たちのための平和な社会が手に入るならそれで良いんです」
ケノは言い切った。
その言葉を聞き。
「いや……良く分かった。気に入った。陛下にも奏上するよ……素晴らしいな、君は。ええとケノさんだったか?」
「はい」
ケノは目は笑っていなかったが、口だけで微笑む。
ケノとしても、出したい結論では無いんだろうな。
仕方ないからそうしているだけで。
「私が議会を説得に回ろう。……やはり見立て通り、君らの殲滅は我々の悲惨な代償が伴う。ここは彼らに協力し、外の世界に出て行ってもらうのが上策である、と」
スプリスは何故か、すごく楽しそうだった。
彼はやっぱり、頭の良い女が好きなんだろうな。
大体そうだ。
頭が切れる男は、自分と同じくらい切れる女を求めるもんだ。
まぁ、俺の前世での経験談だがな。
そしてこの和平交渉が、あらかた円満に終わろうとしたそのときだった。
「待ってください!」
……声が上がった。
一斉に、皆の視線が向く。
チィちゃんが声を発したんだ。
追い詰められた表情で。