※この作品はR-18です。

個性:落とし物   作:Rオウ

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第1話 個性:落とし物

 子どもの頃にお医者さんから僕の個性が「落とし物」と告げられた時、僕と両親はそれはもう困惑した。

 

 でも小学校に上がった頃に、僕は自分の個性の使い方がようやく分かってきた。

 個性は公共の場ではみだりに使ってはいけないと学校で教えられもしたけど、個人的に少し使う分には捕まったりはしないとも聞いた。

 

 個性とはその人と密接に結びついているので、使用を厳密に禁止したらそれはそれで問題が生じるので、法律の運用自体は割と緩いらしかった。

 

 

「……落としたよ?」

 

 下級生の女の子が僕の元に走ってきて僕にハンカチを渡してくれた。

 

「ありがとう!」

 

 僕はその女の子に丁寧にお礼を言ってハンカチを受け取った。

 これが僕の個性だ。

 

 僕は僕が身に付けているもの、簡単に言えば僕のものを落としてしまった時、それを拾った人は僕に必ず届けてくれるのだ。それが僕の個性なのだ。

 

 両親は小学校に上がる頃、僕の個性がどのようなものか分かってくると喜んでくれた。

 派手でもなく攻撃的でもなく、ものすごく地味ではあるけどこの個性なら財布を落としたり鞄を無くしたりする失敗とは無縁の人生を送れるのだ。

 

 何よりヒーローにもヴィランにもなり得ない優しい個性であることが両親にとって大事だったようだ。

 

 攻撃的な個性とか便利すぎる個性だと子供はヒーローになる夢を見てしまう。

 だけどヒーローは過酷な職業なのだ。

 一部の上澄みを除き、ヒーローを辞める人はものすごく多い。ヴィランと戦って重傷を負ったり死んだりする人も多い。

 

 一方で凶悪な個性だとヴィランになってしまうこともよくあるらしい。

 自分の個性に性格や行動が引っ張られるのだ。

 子どもの時は真面目で優しかったのに、成長するにつれて乱暴者になって、大人になる前にヴィランとして大暴れして逮捕されてしまう人も多い。そのヴィランの両親の気持ちは大変なものだろう。

 

 だから僕もそういう両親の気持ちはよく分かった。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 でも中学校に上がった頃、僕は自分の個性が「落としたものを届けてくれる個性」というだけではないことに気づいた。

 

 

「ねえ、これ落としたよ?」

 

「ありがとう!」

 

 僕はものすごく落とし物をしやすい体質だったのだ。

 注意していても必ず何かを僕は落としてしまう。

 

 もちろん個性のおかげで全て返ってくるんだけど、個性のせいで必ず落とし物をしてしまうという大きなデメリットもあるのだ。

 

 その度に僕はお礼を言う。

 繰り返される落とし物と返却時のお礼が段々と僕にとってストレスになってきた。

 

 これ、お礼も言わずに受け取るだけで済めばもう少し楽なんだけどな。

 

 僕に届けてくれる人の労力を考えれば、非常に心の狭い考え方だと思う。

 でも中学校に上がった頃の僕は、まだまだ子どもで、自分のことしか考えられなかった。

 

 

「はい」

 

 ある時から、僕に落とし物を届けてくれる人が、落とし物を届けてくれた後スッと離れていくようになった。

 お礼を言えるタイミングがない。すぐにいなくなるからだ。

 

 お礼を言いたくても僕はお礼を言えない。

 言う暇がないという言い訳を得て僕の心は若干軽くなった。

 

 

「……でも変だよな。都合が良すぎないだろうか?」

 

 僕にとって都合が良すぎる。

 そしてこうなったタイミングも不自然すぎる。

 

 

 

 ──僕は自分の個性について実験をすることにした。

 

 

 

 中学校1年2組の僕のクラスにはものすごく綺麗な女子が一人いる。

 八百万(やおよろず)百(もも)という名前で黒髪のポニーテールが異常なくらい可愛いくて綺麗なのだ。

 

 それに僕も男子なので彼女の中学1年生とは思えないくらい大きな胸についつい視線がいってしまう。

 

 だけど、お嬢様な感じが言葉のあちこちから零れ落ちるようで、クラスの男子は積極的に関わるというより高嶺の華という感じで鑑賞用という距離感だった。もちろん地味個性しか持ってないモブの僕もそんな感じだ。

 

 だけど僕は個性の実験をするのだ。

 クラスの他の女子とはクラスメイトとして普通に関係性ができてしまっている以上、実験結果を見極めるためには普段接触のない女子の方が都合がよかった。

 

 まあ言い訳だよね。

 下心はあるよ。

 実験にかこつけて彼女と色々接触できたらなぁなんて、僕はそう思っていた。

 

 少なくとも実験を始めた時は。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「これ、落としましたですわ」

 

「……ありがとう」

 

 僕は八百万さんから落とし物を受け取った。

 いきなり実験が成功してしまった。

 

 やはり……落とし物を拾った人が僕に届ける時の行動に僕の意志が影響を与えるのは間違いないようだ。

 

 そればかりではない。

 自分の意志で落としたものでも効果がある上、拾って欲しい相手を指定することもできるのに僕は気づいてしまった。

 

 手の中の1cmくらいの小さな消しゴムを改めて見る。

 

 八百万さんに向かって誰にも気づかれないようにこっそりと教室の床に転がした消しゴム。

 意図しない方向に跳ねて、別の女子の足元に転がって行ってしまったのだ。

 

 なのにその女子は消しゴムに気づかず、少し離れた場所で背を向けていた八百万さんがわざわざ振り返って消しゴムを拾い、持ち主など分かるはずもないのに僕に届けてくれた。

 

 そしてお礼を言えるように待機までしてくれた。

 ついこの間までの落とし物が返される時と状況が一変してる。

 

 

「……なるほどなぁ」

 

 ノートに実験結果を記録していく。

 

 

 ■実験1 教室で消しゴムを落とす

 →お礼を言えるように待っててくれた

 →拾う人を指定できた

 

 実験1回で結論を出すのは早いかもしれないが、多分間違いない。

 個性:落とし物は、落とし物を拾った人の行動に影響を与えることができる。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昼休み、僕は図書室に行って書棚の隅に消しゴムを落とした。

 八百万さんは読書が好きみたいで休み時間には図書室にいることが多い。

 

 そしてすぐに図書室を出て、誰もいない空き教室から中庭を見下ろしていると果たして八百万さんがやってきた。

 

「あら、ここにいましたのね。落とし物ですわ」

 

 そう言ってスタスタと僕に近づいてきて、僕に消しゴムを渡してきた。

 そして僕の頭をよしよしと撫でてくれた。

 

「ありがとう」

 

 そして八百万さんは教室を出ていった。

 

 そんな意図はなかったんだけど、彼女が僕の頭を撫でる時に目の前でゆっさゆっさと揺れた大きなおっぱいが目に焼き付いて離れない。

 

「すごかった。おっぱい……ゆっさゆっさとすごかった」

 

 

 ■実験2 図書室で消しゴムを落とす

 →頭を撫でてくれた

 

 一般的な人間関係を飛び越え、常識ではあり得ない行動もさせられるということが分かった。

 

 

 

 昼休みが終わり、教室に戻るとタイミングが良く八百万さんは席に座っていて周りに女子が誰もいなかった。

 僕は彼女の横をできるだけ自然に振る舞いつつ歩きながら呟く。

 

「……頭を撫でてくれてありがとう」

 

「どういたしまして?」

 

 彼女はそう返事して、なにやら考え込んでいたがすぐに元の顔に戻った。

 

 

 ……なるほど。

 

 僕の個性で影響を受けて突飛な行動をしたことは憶えているらしい。

 その後の表情の変化を見るに、何らかの形で彼女の中で決着がついたらしいが。

 

 僕は自分の席に座り、ノートを広げて実験結果を書き込んだ。

 

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