「そうじゃなくて」
「こ、こうですの?」
ペニスを握りしめるより、擦った方が勃起につながることを懇々と説明してようやく納得してもらえた。
彼女にはこの一ヶ月間、休日を除いて毎日一回は触って貰ってきたけど、いつも下に押し下げるだけだったので、八百万さんもおっかなびっくりという感じで竿の中央あたりをゆっくりと擦っては手を離している。
で、僕はと言えば自分で言うのも何だが幸せの絶頂にある。
望み続けた願いが今叶っているのである。
「……最高だ」
「え? これでいいんですの?」
手で握った細い棒を親指でへし折るような動きで、僕の亀頭をへし折りかけていたのを慌てて止める。
「さっき最高だって言ってませんでした?」
止められた八百万さんはかなりの不満顔だ。
いや普通に考えてなんでへし折ろうとするの?
おかしいでしょ。
それはそれとして僕は本来黙っているべき内心を口に出して喋ってしまうという悪癖があることを、八百万さんに懇々と説明して何とか分かって貰えた。
「つまり、私におちんちんをこうグニグニされるのが最高ってことですの?」
「うん、まあ……そう」
「
八百万さんが僕の顔をじっと見つめてきた。
そしてペニスをフニフニグニグニしながら感触を確かめている。
「うん」
その無垢な少女のような振る舞いがスイッチになったのか、僕のふにゃちんにようやく血液が流れ込み始めた。
「わ、わわ、ですわっ!」
どんどん堅くなって太くなって長く伸びていく。
それに伴い包皮が後退し始めて亀頭がむき出しになっていく。
好きな女性にペニスを握りしめられたまま、堅く勃起していくのを経験してる男子中学生って多分滅多にいないはず。
「……最高だ」
「思ったままを全部口に出しちゃうの?」
また口に出してしまったらしい。
思ってることをそのまま喋るとか、よく言えば裏表がないってことだけど、要は人格がペラペラで薄っぺらすぎるってことだ。
僕は本当にどうしようもないやつだ。
◇◇◇◇◇◇
ちゅくっ♡
ちゅくっ♡
ちゅくくっ♡♡
八百万さんの指が僕のペニスの上で上下に繰り返し動き回っている。
僕の名誉にかけて誓う。
八百万百さんはとても勤勉で努力家なのだ。
百さんの親指がゴリっと亀頭のカリ首を擦り上げた。
「おふっ!」
情けない声が僕の口から洩れる。
腰も震える。
ペニスの先端に我慢汁の雫が盛り上がっている。
「やっぱりこういうのでいいんですのね!」
良いんです。
良いんです。
最高です。
ガッチガチに勃起して反り返ったペニスを見て八百万さんはしきりに頷いている。
どうやら僕の勃起がお気に召したようだ。
「じゃあ……抜く?」
「抜きます」
ぶちっ!
一気に20本はいかれた。
あまりの衝撃でペニスが激しく前後に揺れ、ピピッと我慢汁の雫が周囲に飛び散る。
股間に手を当てて苦悶のあまり僕は無言で悲鳴を上げた。
本当に抜かれるとは思ってなかった。
僕の反応の大きさに八百万さんが口を開けたまま驚いている。
「うう……血が滲んでる」
男子の陰毛を一気に20本引き抜くお嬢様が存在するなんて昨日までの僕なら絶対信じなかっただろう。
でも今は信じるよ。疑うやつがいたら殴ってでも信じさせてやる。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないです」
ジンジンと痛む。
さっきまで僕は最高に幸せだったのに今は最低だ。
原因はもちろん僕にある。
誠意が僕に足りてなかったからこんなことになってる。
人によってはこの痛いのが良いと言い出す奴もいるかもしれないが、僕にはそんな性癖は無い。少なくとも今は無い。
◇◇◇◇◇◇
「あ、そろそろ時間ですので」
八百万家の送迎用の車が校門に到着する時間なのだ。
八百万さんは抜いた僕の陰毛を鞄に仕舞いながら下校の準備を始めた。
僕も下着とズボンを穿きなおして、彼女と共に校門までの短い道のりを一緒に歩く。
一応こんな短い距離でも女子と一緒に下校ということになるんだろうか?
男子が日々夢見る最高のイベントと呼べるのだろうか?
僕はどうだって?
残念ながら股間が痛くで甘酸っぱい気持ちには一切なれないよ。
「──では、また明日」
そう言って八百万さんが車に乗り込もうとしたところへ後ろからやってきた車が追突した。
唐突で突然だった。
「は?」
衝突した黒塗りの車から屈強そうな男たちが何人も降りてきて、八百万家の運転手を引きずり出して殴って昏倒させると、八百万さんを抱え黒塗りの車の中に強引に引きずり込んだ。
あっという間の出来事で、僕が唖然としている間に車が発進する。
「ゆ、誘拐だッ!!」
僕が叫んだのは車が出発した後だった。
寝ぼけすぎだろ僕。
車の衝突音を受けて周囲でパトロールしていたヒーローが何人か向かってきていたけど、初動が間に合ってない。
逃走する車に今から追いつけるとはとても思えない。
「うわ、うわあああああ! 八百万さんがぁあああ!」
ヒーローに駆けつけるのが遅いなんて責めてどうする!?
彼女の一番近くにいたのは僕なのだ!
できること……僕にできることは!?
地面に落ちていた石を慌てて拾う。
逃走する車に向かってへっぴり腰で投げつけた。
ダメだ。投げつけた石は時速100㎞も出ていない。全然届かない!
筋肉もない!
個性も役に立たない!
「あぁあああっ!!」
再び振りかぶって石を投げる。
「戻って来い! 僕の八百万さんを返せ!!」
僕が投擲した石が地面に
キキィイイイイイイイイ!!
逃走していた車がいきなりハンドルを切って急ブレーキをかけた。
車が猛烈にスピンして壁に衝突する。
ド、ドン!!
ボンネットから煙を噴いて車が完全に停止した。
「え、えええ!?」
いや驚いている暇はない。
事故った車の中に八百万さんがいるんだ。
ボンネットからの煙はすぐに炎に変わった。
全速力で駆ける僕の横を、役立たずは引っ込んでろと言わんばかりに何人ものヒーローが追い越していく。
「ちくしょう! ちくしょうおおお!!」
◇◇◇◇◇◇
「昨日大変だったねぇ」
翌日の学校は八百万さんの誘拐未遂事件の話題一色だった。
当の八百万さんは家族と一緒に警察の保護下にあり、今日は休むみたいだ。
というか、しばらく学校には出てこないかもしれない。
「お前、目の前で八百万さんが攫われたってホント?」
「……ああ」
聞かれたくなかった。
クラスメイトが攫われようとしてるのに何もできなかった役立たずのモブと罵られているようなものだ。
僕が彼女と一緒にいるところを誰かが見ていたからこんなことを聞かれてるんだろう。
僕は知らないし関係ないなんてトボけるわけにはいかない。
僕は僕が無能だったことを否定するほど卑劣ではない。
「八百万さん、車がスピンした時個性でクッションを生み出して自分の身体を包んだらしいよ。だから無傷だってさ」
もしかして僕を慰めようとしてる?
声をかけてきたクラスメイトを見つめる。
「元気出せよ。俺たち中1だぞ、大人でもヒーローでもないんだ」
「……そうだけどさ」
でも僕には何かができたはずなんだ。
それが悔しくて仕方がない。
■実験予定 消せる記憶の範囲
→実験は中止。ノートはゴミ箱に捨てた。