「柔道部に入ったって聞きましたわ」
「うん、入ったよ」
「今頃ですか?」
「うん、今頃」
昼休みの図書室。
そろそろ日差しにも夏の気配が漂い、気温も高くなってきてる。
1年生が部活に入る時期はとっくに過ぎている。
含むところのありそうな八百万さんにちょっと言い返す。
「いいじゃないか、僕の勝手だろ?」
「柔道部に入っても強くはなれませんわよ?」
「だから知ってるって」
今は個性社会だ。
人間の規格は失われて久しい。
異形体、もしくは個性で300㎏のバーベルを片手で持ち上げる人も珍しくはない。
単に膂力の問題でもない。レーザービームを放つ個性や、全身を鋼鉄化、軟体化できる人も大勢いる。見た目は人間形態でも関節可動域が全然違う人だっている。
こうなってくると前時代の格闘技なんかクソの役にも立たなかったりする。
例えば炎を噴き出す相手に柔道で技をかけようと組み付いたら全身大火傷で死んでしまうだろうし。
なので個性が浸透し誰も彼も超人化してる現在はスポーツも含めて武道系部活は廃れて今ではもうすっかり少数派、マイナーな部活動と化していて、部員もまともな数が揃ってなかったりする。
武道を学ぶより自分の個性を鍛えた方が確実に強くなる近道だって誰もが知ってる。
「……手の火傷は大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、見た目ほど酷くないから」
ヒーローたちが消火する前に焦ってドアを開けようとした報いだ。
あと10秒待てばこんな火傷は負わずに済んだ。
こういうところも僕はバカなのだ。
ぐいっ。
八百万さんに引っ張られるように図書室の奥へ移動する。
「どうしたの?」
「落とし物をお返ししますわ」
「は?」
休んでいた八百万さんが一週間ぶりに登校してきたのだ。
僕は落とし物などしていないし、そもそももう実験は止めた。
……あれ?
じゃあなんで八百万さんは僕と図書室で話をしてるんだ?
◇◇◇◇◇◇
「実は、どうやってお返しすればいいのか私にも分かりませんの」
口を大きく開いた状態で八百万さんが座り込んでいる。
彼女の説明を聞いても訳が分からなかった。
「……あの。もう一度聞くけど僕が八百万さんの口の中に落とし物をしたの?」
「はいですわ」
「……いつ?」
「誘拐未遂事件のあった日ですわ」
無い無い。
落としてないだろ。
そんなことした記憶ないよ。
「一週間前の口の中なんて、そんなのもう残ってないでしょ?」
仮に本当だったとしても、口の中に僕の落とし物が残ってるわけないし返しようがない。
「でも絶対に返さないといけませんの」
言い張る彼女を見つめる。
見つめたまま感覚を研ぎ澄ませる。
この強情さは彼女の性格によるもののように思えるけど、僕の個性の落とし物のせいにも思える。
僕の個性の影響なら僕は感じ取ることができる。
集中して集中して…………彼女の中に自分の個性の残滓のようなものがないか探ってみる。
──あった。
「………………なんで?」
彼女の身体の中に僕の落とし物があった。
確かに感じとれる。
えええ?
僕、何を落としたんだ?
訳が分からないよ。
◇◇◇◇◇◇
「で、なんで口を開けたままなの?」
僕の前に跪き、口を開いたままの八百万さん尋ねた。
「私の口の中にあなたが落とし物をしたので、口からお返しするしかないのですわ」
「真面目に言ってる?」
「大真面目ですわ」
中学1年生、12歳の八百万さんの口の中を覗き込む。
虫歯が一本もない綺麗な歯並びにピンク色の舌が収まっている。透明な唾液と混じりあって口腔粘膜がすごく柔らかそうだ。女の子の口の中なんてマジマジと見たのはこれが初めてだ。
八百万さんの舌は先端が尖り気味でどんな隙間にでも入り込みそうな形状をしていた。
「口から……返す?」
「そうですわ。だからあなたのおちんちんを出してくださる?」
僕は八百万さんの顔を見つめた。
彼女は正気だ。
ただ僕の個性の影響下にあるだけだ。
「僕……何を落としたの?」
「分かりませんけど、おちんちんから落としたものが私の口の中に入ったのですわ」
どういうこと?
「それを……どうやって返すと?」
口の中にもう無いよね?
「多分……水分のようなものだったと思うのです。飲み込んでしまいましたけど、私の体の中にちゃんと落とし物としてあるのは分かるんです」
「うん」
僕もそれは個性で感じ取れてる。彼女の身体中に分散しているのだ。
……多分だけど水の分子の形で。
「なので、口の中におちんちんを入れてもらって、水分を……えっと、唾液になりますけど、擦り付けていればほんの少しでもお返しできるのでは……と思うのです」
「………………」
解除。
「やっぱり唾液を擦り付けられるなんて汚くてお嫌でしょうか?」
「…………そんなので返せると思う?」
「返せないと思うと焦燥感に襲われて心臓が苦しくなるのです。どうしても……どうしても返さないといけないのです」
八百万さんが決意のこもった目で僕を見ている。
解除ったら解除。
「あの……舌と口全部使って擦り付けて密着させて、唾液を何度も染み込ませれば……時間はかかるでしょうけどきっとお返しできると思うのですわ」
「……うん。そう、だね」
解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除ッ、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除、解除しろよ! 解除ッって言ってるだろ! 解除! 解除、解除、解除解除解除解除解除解除解除解除解除解除、解除ッ、解除ッ、解除ッ、解除ッッ!! 解除ぉおおおおおおッ!!!!
ダメだ!
解除できない!!
分かってたけど!
僕の落とし物の個性は、落とし物を返されてはじめて解除されるのだ!
ああ、なんてこった!
「あぁ……お願い、ですわ。早くおちんちんを出して、ください。もう一週間も我慢し続けて胸が張り裂けそうなんです!」
八百万さんが本当に辛そうな顔を浮かべている。
「くそ!」
僕は何をしてるんだ!
ズボンと下着に手をかけ、僕は自分のペニスを露出させると八百万さんに突き出した。
どうしようもなく最低な僕のペニスは自分でも見たことがないくらい堅く勃起して反り返っていた。