昼休みの図書室の奥。
周囲に誰もいない静かな環境で、読書卓に本を広げて読書に耽る僕。
本のタイトルは「アクセルとブレーキ」だ。
車の本ではない。
人の内的な欲望の解放と、適切な抑制方法について書かれた自己啓発本だ。
「んっ♡」
僕のものではない声が小さく響く。
十分に抑制されているので、僕以外には聞こえないから大丈夫だ。
周囲に誰もいないとは言ったけど、ごめん、ちょっとだけ嘘。
でも見える範囲には誰もいないよ。
見えないところに八百万さんが隠れているだけなのだ。具体的に言うと机の下だ。
図書室の机には側板が付いているので机の下に隠れて僕の足の間に収まっている今の状態だとまず分からない。
僕は基本的に毎日ここでこうやって八百万さんから落とし物を返してもらっている。
「くっ!」
口腔内に唾液をたっぷりと溜めた状態で、火傷しそうなほど熱い舌で僕の亀頭を丁寧に
椅子がガタガタ音を立てているのは僕に忍耐力がないからだ。
ちゅるっ♡
じゅるるっ♡
「あ、待って……す、吸いすぎ……だよ、百さん」
アクセルべた踏みの八百万さんにブレーキを踏んでもらおうと足を動かすと、むにゅ♡っと柔らかい感触が膝に当たる。3年前のように芯に堅さのあるおっぱいは既に卒業していて今はマシュマロのように柔らかい。
あれからもう3年もこの関係を続けてる。
元々努力家で勉強家でもある彼女のテクニックは天井知らずに向上し、僕のような雑魚ペニスなどいつでも瞬殺できるまでに成長している。射精するのもさせないのも彼女の胸先三寸だ。
歯を当てないように唇でカリ首をはむはむされながら、裏筋を唾液を絡めた舌先で執拗に擦られ続ける。熱くねっとりとした潤滑剤で、僕の亀頭がデロデロに溶かされている。
竿と玉だって、今も彼女の手で弄ばれ、刺激を送り込まれ続けている。
「あ、無理。もう無理」
腰が勝手に震えはじめた。
「もう、ですの? 早くありませんか?」
割とズバッと心を切り裂く言葉を百さんは時々言ってしまう。
悪気はないのは分かってるけど。
「堪え性のないおちんちんは本当に仕方ありませんわね♡」
と、すっごく嬉しそうに言う。
はむはむしていた唇がきゅっと絞られ、吸引が強くなった。
口腔内粘膜に包まれながら亀頭が負圧で限界まで膨らんでいく。その状態で亀頭の先端を舌で左右に何度も
ぬちゅ♡
じゅぼじゅぼっ♡
じゅるるるっ♡♡
「あぁああっ! もう無理! 射精るうっ!!」
ぢゅるっ♡
ぢゅるるるるぅううっ♡♡
尿道を駆け抜けた精液が全部八百万さんの喉奥に吸い込まれていく。
茹だるような口腔粘膜に包まれたまま、ビクンビクンと僕のペニスが断末魔の痙攣を繰り返す。
「……はぁ……はぁ……はぁ」
長い長い射精が終わり、力が抜けた僕は机に突っ伏した。
彼女の口の中でペニスも萎え始めている。今ので4発目なのだ。もう無理、もう空っぽだ。
「……はい、どうぞ♡」
机の下から手が伸びてきて僕に錠剤を手渡してきた。
「これ……飲まなきゃダメ?」
「ダメですわ♡」
「……ねぇ? これ本当に合法の薬なの?」
「製薬会社が開発した合法のお薬ですわ♡ 製造コストが高すぎてお蔵入りになった代物なので薬効成分的には問題ありませんし治験も終わってる安全な合法薬です♡」
「……なんでそんなの持ってるの?」
「分子構造ってパテントで公表されてるんですよね。構造が分かれば私の個性で創造できますし、コストなんか関係ありませんし♡」
成分はともかく……やってることはかなりグレーゾーン寄りなのはよく分かった。
だけど彼女の言葉の端々にこれを飲んで頑張る僕への期待が滲み出ている。
八百万さんの体内にある落とし物は僕のペニスを舐めしゃぶることでしか返すことができないのだ。
つまりこれ全て僕の個性が招いてしまった事態だし、飲まないという選択肢はない。
「ゴクン……」
たちまち萎えかけていたペニスが充血して力強く復活する。
「この……即効性がむしろ超不安になるんだけど……百さん、これ本当に効果は勃起するだけなの?」
「……3ヶ月以上飲み続けると精子の生産量が倍増する効果がありますわ」
「もう一年飲み続けてるんだけど、それ最初に僕に言うべきだよね? ちなみに他には?」
「おちんちんのサイズがアップして、感度も永続不可逆的に上がりますわ」
やっぱり僕のペニスがクソ雑魚化してるのは八百万さんのせいじゃないか。
「……ダメでしたか?」
竿が百さんの手で上下に優しくシゴがれ、完全復活したペニスはあと10回は軽く射精できそうな勢いだ。
「ダメじゃないよ」
「よかった♡ じゃあ、お返しを続けますね♡♡」
僕のペニスが再び彼女の口腔内に飲み込まれ、舌が亀頭をペロペロと舐め回し始めた。
腰から背中を快感が駆け抜けていく。
「くぅ……」
耐えかねて股を閉じようとすると、百さんがダメですよと手で押し返してくる。そして僕のペニスをずるりと根元まで飲み込んだ。
まだまだ今日の分のお返しは終わらなそうだ。
◇◇◇◇◇◇
「とうとう明日が卒業式か……」
結局3年かけても彼女の身体に入り込んだ僕の落とし物をどうにかする方法は見つからなかった。頭の良いはずの八百万さんですら思いつかないのだから、僕に思いつけるわけがないとも思う。
そもそも八百万さんからも、これを解決しようという気概というか真剣さというものが感じられない。
まあ……僕のペニスを頬張ってモグモグしてれば、落とし物を返したいという切迫感には襲われないらしいし。日常生活を送る分には何の不都合もないというのが理由らしいけど。
僕もこの対症療法を誰もいない図書室でする分には全然かまわないんだけど。
最近誰も来ない空き教室とか、養護教諭が不在の隙を狙って保健室でとか、部活動に興じる女子部員たちの掛け声を聞きながら体育用具室で……とか一歩間違えたら見つかってしまう場所を八百万さんは選ぼうとする。
しかもそういう場所でする時に限ってやたらねちっこく僕のペニスを咥えるのだ。
絶対僕に喘ぎ声を上げさせようとしてくる。誰得なの?って聞きたい。
でも、それもきっと全部僕の個性のせいなのだ。
僕の個性にそんな性質は無いと思うけど、僕の個性のせいにしておいた方が精神衛生上都合がいい。
自室のベッドに腰かけ、完全に力を失った自分のペニスに触る。
最近は完全に空っぽになるまで射精させられるので、ここ2年ほどは朝勃ちとも無縁だ。どうも彼女は勃起している間は舐め回してお返しする時間だと思ってるようだ。
「はぁ……」
そんな彼女とも学校で会えるのは明日が最後だ。
進学先が違うからだ。
彼女はあの日本一の雄英高校ヒーロー科に推薦で合格している。
それはそうだ。百さんの個性は創造という極めて強力且つ貴重であって、何にでも応用できるヒーローとして活躍が期待されるものだ。
僕も学力だけなら受からないわけではなかったけど、実戦試験ではどうやっても受かるイメージが湧かなかった。
後で調べてみたら実践試験内容が「戦闘用ロボットを破壊してポイントを競う」と分かってやっぱり無理だと思ったものだった。落とし物の個性でロボットの破壊とか無理だろ。
……この三年間、僕の個性のことをずっと考えてる。
僕の落とし物の個性は2つの要素で成り立っている。
落とした物と僕自身との結びつき。
落とし物を拾った人と僕自身との結びつき。
この2つだ。
結局実験は途中で止めてしまったけれど、落とし物を拾った人の行動について覚えているか忘れているかを僕は選択することができる。
この3年間、僕が八百万さんにさせてきた全ての行動を忘れさせてしまえば、この結びつきの二つの内一つを解除することは多分可能だ。
彼女は僕との行為全てを忘れた状態で……僕のペニスに水分を返したくて堪らない衝動に襲われ続けるだろう。
それはきっと今よりもっとひどい状況だ。
だからとても選べない。
そして、もう一つの結びつき。
僕と落とし物との結びつきを解除する方法が思いつかない。
物忘れが酷くて落とし物をしたことを僕が忘れる?
無理だろう。僕が落とし物をしたのに気づかない時でもこの結びつきは発生している。僕の記憶の問題ではないのだ。
多分もっと超自然的な何かの力が必要なのだ。
八百万百さんの万物を生み出す個性のように。
方法は思いつかないけど、この2つの結びつきを同時に無くしてしまった時、八百万さんを縛り付けている僕の個性の効力は消えると思う。
そして効力が消えない限り彼女の人生は僕と結びついたままになる。
八百万さんが雄英高校に進学しても、休日には僕と会おうとするだろう。僕に返さないといてもたってもいられなくなるからだ。多分高校を卒業して彼女が無事にヒーローになっても、ずっと彼女を縛り付けて僕は生きていくことになる。
3年前の僕の愚かな出来心の実験のせいで彼女の人生を歪めてしまっている。
それが熾火のように僕の良心を苛み続けている。
卒業したら……か。
「まあそれも、明日の卒業式を無事終わらせてからだな」
アイロンがかかった制服がハンガーにかかっている。
手を伸ばして触れる。
これを着るのも明日が最後だ。
ちょっと感傷的な気分になる。
第二ボタンの出番はあるだろうか?
あまり、モノにならなかったけど柔道部で頑張ったおかげで体力もついたし、下級生との結びつきもできてる。
ハンガーに掛かった制服の第二ボタンに触れる。
ピシッ!
ボタンの留め具が割れてボタンが床に落ちた。
「ありゃ、不吉な……。いや明日壊れるよりマシか」
床に落ちたボタンを拾い、ボタン留め具の予備でつけ直している時、僕は不意に思いついた。
──思いついてしまった。
◇◇◇◇◇◇
卒業式が終わって。
泣いたりするクラスメイトも一杯いて。
新しい連絡先を教え合ったり寄せ書きしたりして。
落書きだらけにした黒板の前で、最後に先生を囲んで各々が個性をぶっ放した瞬間を写真に取ったりして。
普段は厳しい先生も今日だけは僕たちを止めなくて。
中学生最後の日としては最高だった。
──ここまでは。
これで最後の図書室。
みんなは校門とか校庭とか、桜の木の傍とか家族とか親友とかと集まっていて。
僕たち二人は図書室の奥でひっそりと逢瀬していた。
「あの……ね。きょ、今日が学校で会える最後だし……今日だけは絶対誰も図書室なんかに来ないだろうし……」
僕は地元の普通科高校に進学するけど、八百万さんは雄英高校ヒーロー科に進学する。当然今までのようには会えないのは彼女も分かってる。
「き、記念って言ったら変だけど……」
百さんが自分のスカートに手を掛けた。
「お返ししなきゃいけないから休日はもちろん会いに行くんだけど、平日はやっぱり無理だし」
「……そのことなんだけど、実は解決方法が見つかったんだ」
「え!?」
彼女が手に掴んでいたスカートをはらりと離した。
目を丸くして驚いている。
まさに青天の霹靂だろう。
僕だってそうだ。
想定外のことで驚き固まってる彼女の前で、僕は自分の制服の第2ボタンを外した。
手に持ったボタンを眺める。
3年間。
僕の個性のせいで3年間も彼女をひどい目にあわせ続けた。
それに終止符を打つ。
手が震えてる。
ふと、このまま関係を続けてもいいじゃないかと誰かが僕に囁いた。
その言葉を聞き流し、僕は彼女の前でボタンを落とした。
床に落ちたボタンが静まり返った図書室に音を響かせた。
終了の鐘の音だ。
「ごめんね」
百さんにそう言って、彼女の記憶を消す。
僕の個性に関係した、彼女と僕の逢瀬の時間がすべて消えていく。
3年間に渡る僕との記憶が消えるのはやはり衝撃があったのだろう。
彼女の目がグルンと裏返り、倒れかけたので、慌てて手で支えた。
意識のない彼女を椅子に座らせる。
そして落としたボタンを拾った僕は……僕自身の個性の影響を受けて、ボタンに込められた意思に、個性が引き起こす超常現象の効果に従い、僕と彼女の体内にある落とし物との結びつきを解除した。