※この作品はR-18です。

ゴールドクリムゾン・フルボディ   作:揚げた孫(ハメるの姿)

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第六章

『ふおおおおわぁん! これが神企業(メガコーポ)の軍事用回線速度! 快・適! っす!」

「あんまり慣れないようにね、って言ってもこんなに速いと普段使いしたくなっちゃうなあ」

 荒子一行がOMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)から正式に依頼(ラン)を受けて数日後。

 照は、そんな神企業(メガコーポ)の回線の快適さに浮かれている月詠(つくよ)に同情する程度には、通信の速さに驚きながら、大通りを歩いていた。

「ま、祭りだと思って存分に楽しもう」

 そう言いながら、長髪黒髪美丈夫は数日前から編んでいた術式熱量球(エナジーボール)を四文字化成極東本社ビルに、高空から一キロメートル超過大にして叩き込む。

『こっちも行くっすよっ!』

 その超巨大球を皮切りに、大小様々なOMI製の自爆ドローンがその巨大ビルに数千はくだらない数で突っ込んでいく。

 吹き荒ぶ爆風は周辺建造物に破片の豪雨を降らせ損壊、衝撃波は窓ガラスを何百枚も破った。

『照の兄貴、感触はどうっすか⁉︎』

「術式と物理、どっちにも対応出来る凄く分厚い一枚の城壁に守られてる、てな感じ」

 しかし、その術と物理の大瀑布で周辺を更地にしても、その巨大建造物は窓一つ傷ついていなかった。

『千年王国(ミレニアム)って訳っすね。凄まじいっす。奴(やっこ)さん、電脳網(マトリクス)からビルの接続を電子的にも物理的にも切ってるっす』

 紫髪アバターのハッカー兼ドローンリガー兼フィクサーは電脳網からその建物のセキュリティを解除出来ないか探るが、この時勢に普通一分一秒一コンマの電子情報が企業生命を分けるであろうに、その接続をことごとくを遮断していたことに舌を巻く。

「流石は全知全能。僕らがOMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)からバックアップを受けてマイルズ君の居場所も突き止めているのも、お見通しって訳だ」

 黒髪の魔術師は、爆風と破片から身を守る『矢避けの加護』を応用した防壁術式を展開しつつ、今度は小分けにした大量術式熱量球を、アクティブの探査波として何かの隙がないかや、術式的に接続出来ないかを調べていた。

「……やっぱり唯一神は凄いね。下手に辿ろうとすると、悪魔祓いの要領でこっちが焼かれそう。それに、一方的にやられるつもりもないみたいだ」

 巨大ビル下層、エントランスに続いているであろう出入り口四方から六枚羽の熾天使(セラフィム)から続いて、連なった車輪と多数の翼を持つ智天使(ケルビム)が数百、更に続くのは巨大な車輪に複数の目が備わっている座天使(ソロネ)が数千であった。

「数には数ってとこだね」

『直掩(ちょくえん)ドローン、回すっす!』

 はるか後方で複数の空母ドローンを操縦している月詠(つくよ)は、思考分割と中継ドローンを駆使して前線の照に多数のそれらを送り込む。

 先鋒を務めていた熾天使達には鎧袖一触ではあったが、くぐり抜けたドローンは智天使、座天使と銃撃や自爆特攻でぶつかっては、数を減らしあっていく。

「熾天使級は任せて」

 黒髪美丈夫は両方の腕から手にかけて術式陣を出現させて、迫り来る六枚羽の天使達を迎撃する。

 四方から四本の白く淡く光る生体剣が迫れば、四つの術式陣がそれぞれを防いだ。

「うん、OMIの術式収束具との組み合わせも上手くいってるね」

 術師は受け止めている防御術式陣から、『ベクトルを逆にする』陣にスイッチする。

「相手にとって不足はないから。一応、本音だよ?」

 彼はコミュニケーションが取れるとは思ってないながらも、戦中の調子を思い出しつつ、吹き飛んだ四体の熾天使と相対する。

 一番早くに復帰して、斬りかかってきた天使を赤と識別色を付けた。

 防御用の陣を展開しつつ、迎撃に即席の術式熱量球を複数放つが、全て切り払われる。

「じゃあ、これだ」

 照は指運にて偏差展開した陣から、水で出来た鎖をその片足に絡ませる。

 途端に失速し、そこに熱量球を叩き込もうとすると、

「そりゃ、援護に回るよね」

 と、白の識別色を与えた天使がそれらの球を全て切り払った。

 背後から青と黄に分けた残り二体の天使が挟むように腕から生えた剣を振りかざす。

「よっ、と」

 美青年はすかさず、重力反転術式と身体強化術式で増した脚力で素早く上空に跳んだ。

 眼下では多数のドローンと天使が銃撃、衝突、斬撃などが一望出来きる。

「ほいっと」

 高く滞空している彼は敵天使が優勢な箇所に向けて複数の術式熱量球(エナジーボール)を投射し援護する。

 しかし、いくつかは四色に識別した熾天使達が遮って、その放った魔術師の元へと迫った。

「なら、面はどうかな?」

 ビルに放った初撃には及ばないが、別口で編んでいた直径数百メートルはある熱量球を眼下に投射。

 赤と白に塗った天使が大きく回避運動。

 残りの緑と青の天使が、その巨大球をその下で戦っている天使達に被害が及ばないよう受け止める。

「見立て通りに、四大元素術式の系譜だね。地と水の相互作用で受け止めてる」

 照は整理の為に独り言を呟いて、相手取っている熾天使達が司る要素を解析。

 赤が火、白が風、緑が地、青が水の四大元素を担っていた。

 そして、その赤と白が剣を交差させて、連続で振り抜けば、その数だけの『火炎を纏って飛んでくる』高速斬戟が照を狙う。

「甘いよ」

 美丈夫は巨大術式熱量球を放ったインターバル中ではあったが、両脚に術式陣を展開。

 宙空で姿勢制御すれば、飛んでくる複数の剣戟を脚の振りで全てをさばき切る。

「古臭いけど堅実でクセのない術式だ。つまりは一回解き切ったら、分かりやすく使えるってことだよ?」

 照は、放たれた『炎を纏い飛ぶ』斬撃に付与されていた『火』と『風』の術式を解析して、『使える』と言う。

 事実として、

「術式解析完了、天使術式『深慮の火炎』、『正義の疾風』、付与(エンチャント)、対象:既発術式熱量球(エナジーボール)」

 既に放った術式熱量球とは、今まさに緑と青の熾天使が受け止めている巨大球のことであった。

「ビンゴ!」

 薄っすらとしか色の付いていなかった球が、空気を送られて酸素を大量に燃焼させた火球となって受け止めていた二体の天使を飲み込む。

 青に識別された熾天使がこれ以上は受け止められないと判断し、脱出する。

 水を司っていたその熾天使は、その属性から火球のダメージを半減出来たからだ。

 一方、緑に識別された天使はその熱量球に飲み込まれ、降下したその球は他多数の天使をも飲み込んで大爆発を起こして、周囲を吹き飛ばす。

「いやー、ドローンや装備、根回し諸々が企業持ちだと、気兼ねなく力を振るえていいね。ここまで使えるのは戦中以来かな?」

 美青年は重力反転術式で空に浮かびながら、久方ぶりの術式リソースが体中を巡っているのを実感する。

 その感覚を懐かしみながらも、術式陣を多重展開して、熱量球を多方向に連射しては相対している、三体に減った熾天使達を牽制していた。

「さて、こういうのは弱っているヤツから獲るのが定石だよね」

 浮かんでいる照は、青色に識別した焦げている天使に狙いを定めると、術式熱量球(エナジーボール)の多方向連射はそのままに、音を複数枚突破して接近する。

「へえ! 根性あるねえ!」

 狙われた青の熾天使は、退くのを選ばず、魔術師との激突を選んだ。

 照側も衝突を回避しようとせずに、『ベクトルを逆にする』術式陣を四重に展開して臨む。

「お⁉︎」

 天使は生体剣に祓魔の術式を乗せて、術式陣そのものを切り払った。

 美丈夫は咄嗟に物理干渉する防御術式と先程解析した天使の大元である『祓い』の要素を付与《エンチャント》した陣を展開して、寸前のところでその剣を受け止めた。

「出力で負けてないなら、反発するのは互角になるよ」

 同じ性質の『祓い』同士の反発により、鍔迫り合いのような膠着状態。

 その隙を、白に識別された熾天使が美青年の背後に迫る。

「残念、それは読めてた」 

 彼は、牽制に使っていた術式陣を背後に多数へ再展開。

 無数の石礫(いしつぶて)が間断なく連射される。

「『地は風と相反する』、四大元素じゃあ基本だね」

 迫っていた天使の元々の音を破る速度と礫(つぶて)が連続投射される速度とが相まって、両者が衝突すると凄まじい破裂片と衝撃波が発生した。

「もう一体落とされているんだから、晒された隙はつきたいよね」

 照は維持している『祓い』を付与(エンチャント)した術式陣を維持しながら、相対する青の熾天使に語りかける。

「返答は期待してないさ。君達はシステムとしての役割が強いから」  

 拮抗しつつも、目の前の天使は彼を留めることに成功している。

 そして、今の戦いは一対多なのだ。

「──っ!」

 石礫(いしつぶて)の弾幕を強引に斬り払いながら、吶喊してきたのは赤色に識別された熾天使だ。

 それは、照の背後に展開されている投射術式陣を『祓う』と、彼を斬った。

 噴き出る大量の血液。

 両断とはいかずとも、胴体の太い血管が破断して、致死量の出血が発生する。

 斬った赤の熾天使は、その降りかかる血を回避する余裕は無く、しかし、残心にて宙空に留まっていた。

「……」

 斬られた魔術師はゆうに何リットルは血を噴出させている。

「……?」 

 ──まず疑問を持ったのは青色に識別された天使だった。

 『おかしい』と思う根拠は血の量だった。

 普通成人男性が一リットルでも出血すれば、意識が保てないどころか死の危険があるという。

 しかし、目の前の男は自身と競り合っている術式陣を維持したまま、既に何十リットルかは出血している。

 水を司る熾天使は男の血を浴びてる異属性同型熾天使に異常を伝えようとして、

「……血は術式触媒として優秀なんだよ?」

 死んだかと思われた魔術師が、講義のように血が術式にとって重要な意味を持つことを言う。

「肉体再生術式だって、造血術式との併用が基本なんだから、これだけの血を用意するのも朝飯前ってわけさ」

 周辺の気温が大きく下がる。

 血が術式陣の代わりをしているのだ。

 普通、陣には術式的な意味を持つ意匠や文言、呪文を事前に込めるが、そもそも即席でこれだけ強力な術式を行使していた魔術師自身の一部である血がこれだけ大量に振り撒かれていたらどうなるか。

 それは大規模な術式を発生させるのを容易にするのだった。

「『火は水と相反する』と『水は風で動く』、つまりは竜巻と濁流の合わせ業ってことだ」

 赤の熾天使に付着した大量の血液が水となり風となり、その二つは仕込まれていた術式により更に周囲からそれらの属性を呼び寄せる。

「水と風、暴風雨の完成さ」

 通常の気候ではあり得ない、音を越える風速に、雨というより濁流と言った方が正しい量の大瀑布が赤い熾天使を巻き込んだ。

 瀑布と暴風はその赤だけでなく、未だ傷一つ付いていないビル周辺の天使達とドローン群が争っている戦場を洗い流すように移動していく。

「これで君一体だけだね。これだけ減らしても君くらいの格の天使が援軍に出てこないってことは、頭打ちってところかな?」

 止血と傷口を塞ぐを同時に行う魔術師は、行動を制限されている手負いの天使に語りかける。

 これまで通りに返答を期待していない彼は、状況整理の為の独り言を呟いている。

 そうして、その美丈夫は防御術式を展開維持しながら、自ら発生させた分厚い雲を見上げた。

「時間通りかな? 君達クラスを引き剥がせて手数を減らせたなら、僕らの目標は達成出来たね」

『──!』

 青色に識別された熾天使は、美青年の目線の先の黒い曇天を見上げる。

「荒子に貼ったタトゥーシール、剥がれてないといいんだけどなあ」

 

 ***

 

 遥か高空──というには更に高い衛星軌道上、OMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)社所有の対巨悪怪神天罰機構『天神雷霆(ケラウノス)』が極東の大和国、港湾都市ヨコハマに居を構えている四文字化成ビル屋上に狙いを定めた。

 展開される誘導術式は衛星軌道上からであっても、目標地点への着弾誤差は数ミリ内に収まる正確さを持つ。

 地表から届けられた天神雷霆機関を内蔵した神造合金杭が格納庫から、射出腔に装填される。

 地表の四文字化生ビルを巨悪怪神と解釈された天神雷霆機関が加圧を始め、誘導術式がライフリングの意味を込められた回転をする。

 かつて神魔覚醒戦争にて自神話に現れる巨悪怪神を討つだけでなく、数多の異神達を貫いたその鍛治神ヘパイストスが鍛えた合金杭の弾頭に格納されているのは『黄金肉体(フタナリ)』──群雲荒子なのであった。

 射出腔に術式加圧されたエネルギーを以って、その杭が撃ち出される。

 ほぼ酸素の無い空間で、神気が付与された術式陣から潜り抜けて、役目を終えた陣から術式粒子の飛散が円状に発生。

 ほぼ宇宙膨張速度に達する神罰合金杭は、即座に大気圏に突入し、断熱圧縮による千五百度以上の高温と高圧に晒されながらも、複数の神話権能を付与された、たったの数トンの杭は、空想と科学とが融合した耐久力と速度にて、相対性理論による『光速になれば周囲の時間の流れが鈍化する』という物理法則の壁突破していた。

 その速度は衛星軌道から地表まで一秒もかからず、照が発生させた術式暴風雨を吹き飛ばして、四文字化生極東ビルに直撃する──、かと思われた。

 

 ***

 

「やっぱり、主神クラスの神罰術式なら、主神が出張るのは当たり前だよね」

 晴れた空。

 長髪黒髪で男の魔術師は術式で編んだ溶岩杭(ようがんこう)にて青色に識別した熾天使級を刺し貫いていた。

 それを済ませて吹き飛ばされた空を見上げて、

「でも、それで精一杯だったみたいだ」 

 と、自分達が講じた策が通ったのを確認する。

 その証拠に、消された神罰合金杭とは別口で高層ビルにヒビが入った。

 否、ビル全体に覆われていた膜のような層にヒビが入ったのだ。

「OMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)CEO──デウスの雷霆まで使わせてくれたんだ。これを無視する方が無理って話だろう」

 四文字化成トップが全知全能であるように、OMIトップも同じく全知全能の権能を持つ主神なのだ。

 かつての神魔覚醒戦争でよくあった事例に、全知全能神同士がいたちごっこのように拮抗してしまい、実際の戦場は下位神達が奮闘する羽目になったという。

「で、だ。その全知全能が初めて荒子を攻撃した時に、その存在ごと消せなかったのはどうしてか? っていうのが疑問だったんだけど、アイツの完全さ、調和性から丸ごと消すのが無理で、一点集中させた神罰で『心臓だけを消す』、のに精一杯だったんじゃないのか? っていう仮説だったんだけど、当たったみたいだね」

 確かに四文字化成のトップ神は、『天神雷霆(ケラウノス)』を消失させることに成功した。

 しかし、弾頭に仕込まれていた『黄金肉体(フタナリ)』──群雲荒子までを消すには至らなかったのだ。

 そして、その荒子が『千年王国(ミレニアム)』とまで称される金城鉄壁に『灼尽掌(しゃくじんしょう)』の牙を突き立て突破しようとしていた。

「僕が貼ったタトゥーシールは、荒子の衛星軌道上生存のためだけじゃなくて、『灼尽掌』の破壊力アップの効果も付与してるし、攻城兵装概念も込めてるから、主神天罰迎撃にリソースを振った状態で防げるかな?」

 反語であった。

 その通りに、宇宙膨張速度まで乗った灼熱の掌底は、『千年王国』の概念を打ち破る。

 

 ***

 

「……荒子さんっ!」

 四文字化生百階建てビル上層七七階目まで突破してきた荒子は、軟禁されていたマイルズと合流した。

「ようっ! 元気そうだな」

「おかげさまで……、って、じゃなくて、なんで俺がここにいるのが分かったんですか⁉︎」

「OMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)のヤツらが知らせてくれたんだよ。おおかたヘルメスあたりが感知したんだろう。そういうのはああいうトリックスター神の十八番(オハコ)だ」

 男性器を持つ女は焼け落ちた上着を払って、彼女の髪の毛で編布、爪や垢で装具された下着姿になった。

「流石に照の術式は使い切ったか」

 彼女は煤まみれの地肌に、丁重複雑に貼り巡らされたタトゥーシールが役目を終えて消えているのを確認する。

「逃げますか……?」

 小柄で金髪の少年は不安そうに、ここから脱出するのか、はたまたなことを察知して、念の為に質問する。

「んにゃ、戦(や)り合うつもりだ。根本を片づけなきゃ、いたちごっこだしな。戦いたくないなら、照呼んでやっけど?」

「……俺も、戦います」

「……どうやら、奴(やっこ)さん、中々骨のある神サマみてぇだったな」

「はい……!」

 マイルズは短いながらも、あの本来は四文字で呼ばれる神との交流で、試練を乗り越える意味を考えて、打ち倒すべき相手だと確信と覚悟を胸に生まれさせていた。

「んじゃ、やるぞ!」

「はいっ!」

 銀髪の女と金髪の少年が手を繋げば、『纏憑依(オーバーポゼッション)』にて瞬時に女がホムンクルスの少年を纏った。

 紅の外殻に鋭角的なシルエット、両肩両腰に二対四基のスラスター、手には外殻と同じ色の紅の槍があった。

『飯はちゃんと食わせて貰ってたみてえだな』

「食事と宿の手配には自信があるのでな」

 天井に荒子が空けた穴と舞わせたコンクリート塵を気にせず、白髪長身、上下とも白のスーツに整えて、手には一本の両刃の長剣を携えた男が現れた。

『オメエみたいな清貧一番みたいな神サマだったから、粗食じゃねえか心配だったんだ』

「客人となれば、それは例外であるよ。仔羊の肉に青菜、パンに葡萄とバランスは考えているのである」

『しっかり面倒見てくれてドーモ。で? アタシらの再会に茶々入れなかったのは余裕だからか?』

 紅を纏った『黄金肉体(フタナリ)』の女は、手にしている槍を数度回して掴み心地と、ヤフが今さら現れたことの確認をする。

「否である。久々の主神天罰を消したのでな。意外と余裕はないのである。しかし、敢えて言うのであれば、貴様を倒してマイルズを取り戻す程度はやり切ってみせるとも」

『はんっ、強がり言うってことは油断はしてねぇ、ってことだ』

「そう受け取ってもらって構わないのである」

 神は手にした長剣を払い、辺りに散る塵を吹き飛ばす。

『んじゃあ、アタシの『黄金』とテメエの『全知全能』、どっちが強(つ)え比べようじゃねえか!』

豪っ! と紅の外殻は四基全てのスラスターを後方に噴かして、突撃。

 音を何百枚も超える一撃を四文字の神は長剣を構えて受ける。

 速度の乗った槍の上からの薙ぎと、それを長剣で受ける為に踏ん張った両の脚で、そこの階からビルが衝撃で倒壊するのであった。

 

 まず上空を取ったのは荒子であった。

 ビル内での一合でヤフを階下より下、地下まで叩き付けた隙に取ったのだ。

『っと、そう都合良くは取らせてくれねえよなぁ!』

 そう悪態づけば、高空からかつて二つの悪徳の都市を滅ぼした『火球』と『高熱の硫黄』が雨霰(あめあられ)と降り注ぐ。

『この程度で焼けると思うなよっ!』

 紅の鋭角的シルエットは、主に自身への直撃軌道の巨大な火球と硫黄を薙ぎ払いながら、スラスター群を噴かして更に上へと飛ぶ。

 火と硫黄で構成された雲の中へと突っ込むがやることは変わらない。

 自分達に迫る巨大球を剛槍の元、薙ぎ払い路(みち)を切り開いていく。

 そうして、音を超える速度が乗ったまま、神罰雲を突破すれば、

「来たのであるな」

 上を取った四文字化成CEOが斬撃にて出迎える。

『はっ、『神はどこにでもいる』ってか⁉︎』

「否、神の愛故に『どこにでもいる』のでな」

 槍を持つ紅は、迫る白の剣戟を穂先の払いにて受け流し、一瞬の視線を交わして、更に上へと飛ぶ。

「見下されるのは性に合わないのであるな」

 そうヤフが言えば、荒子達の軌道上に白い剣が置かれるように何千と現れる。

『当てたかったら、もっと持ってきてな!』

 紅の外殻を纏った人型は、連続刺突とその突きに少しの捻りを加えて、一番近くに迫る白剣を迎撃、折れ飛んだ剣が後方に続いていた剣群に当たるよう吹き飛ばす。

「流石の戦闘技能。戦争経験者は伊達ではないな」

 剣群を目眩しと誘導にした四文字トップが、ホムンクルスを纏った紅のそれらの処理の隙をついて瞬間移動から一撃を繰り出す。

 右からのそれを荒子は見てから、右側のスラスター二基を噴かして紙一重でかわす。

 その回転を利用して、白い剣達を砕きながら(あるいは幾つかをあえて受けながら)、現れた神に向けて薙ぎ払いを繰り出した。

 荒子達がかわす、の一動作分の間で体勢をアジャストしたヤフは、その槍の一撃を長剣の振りにて防ぎ、飛ばした。

「振り返れば塩になる」

 悪徳の都市を抜けた女が神の言いつけを破り、人大の塩柱なってしまった天罰を唱えれば、ターンにて回避した彼女にそれを見立てて、塩化のソレを当てはめる。

 たちまち白い粒子が紅を染める。

 が、

「ふむ、『黄金肉体』は伊達ではないのであるな」

『あたぼうよ、これくらい垢落としに丁度いいくらいだ!』

 即座に身震いで生態鎧表面の塩を振り落とせば、血に似た紅が現れ、スラスター全基を後方に噴かせば、弾かれた槍を構え直して突きを放つ。

 かわせないと判断した四文字の神は両刃の剣身を盾にして、それを受け止めた。

「体が『黄金』であって、槍は副産物であるな」

 受け止めた槍を自身の権能で消せば、勢いよく噴炎を放って横を紅の鎧が過ぎ去っていく。

『槍、再生成します!』

 全速力で距離を取って仕切り直した荒子の脳内にマイルズの声が響けば、その手には紅の槍が現れる。

『灼尽掌(しゃくじんしょう)・槍炎之型(そうえんのかた)、ってな』

 彼女は手にしている紅の槍に安定した火力を思わせる蒼い炎を纏わせた。

「来るのであるな」

 ヤフは紅と蒼が四基のスラスターと石突からの噴射で全速力の吶喊を察知する。

 敢えて受けて再度槍を消して、その隙をつこうとした彼(か)の神は構える。

 そうして、受ければ、

「完全さ故のエネルギーであるか!」

 神と紅蒼が衝突することにより、地球を何十周をもする衝撃波が発生しつつも、その神は槍を消さなかった理由を察知する。

『灼尽掌はアタシの完全性、調和性の押し付け。ソイツを手に纏わせられて、武器を手足延長として鍛えていれば、同じことするのはお茶の子さいさいってな!』

 その完全と調和の黄金を持つ女は弾かれつつも、優れた体幹で体勢を整えれば、弾かれた勢いと四基のスラスター制御で上空へと位置を取る。

「行かせてもらうのである」

 四文字神は、長剣を構える。

 『神はどこにでもいる』の解釈を利用した移動術式で紅を纏った鋭角的なシルエットに狙いを定めた。

『来いや!』

 その紅も槍を構えて突撃の姿勢を取る。

 そして、

「フリ、なのである」

 彼我の数百立方の空間が消失した。

『っ!』

 突如縮んだ距離に、咄嗟の姿勢制御をする荒子。

 しかし、それは隙となるのだ。

「一撃、取らせて貰う」

 ヤフがその隙をつき、長剣による上段に構えた神速の剣戟が入った。

『荒子さんっ!』

『こんくらい、すぐに治せるっ!』

 落下をスラスター噴射で踏ん張りながら、『黄金肉体(フタナリ)』の女は斬り裂かれた生態鎧とその下の肉体を同時に再生させながら、構え直す。

「流石の肉体であるな」

 天使達の主は、それらと同じ肉体的特徴を持ちながら、全くの別次元な強度に感嘆しつつ、再度構える。

『荒子さんっ! 空間消失、来ます!』

 女に纏われている少年ホムンクルスはパッシブながら鋭敏である知覚から、四文字神が先程と同じ攻撃をしてくることを察し、彼女に伝える。

『応よっ……!』

 傷を塞ぎ切った女はその警告から、燃え盛る槍で斬撃を受け止めようとした。

「二度ネタはつまらないのであるからな」

 しかし、空間を消して間合いを操る神は眼前に姿を現したかと思えば、それを消した。

『後ろですっ!』

「だが、遅いのである!」

 少年が警告するも、その通りに、神速の一撃は背後に現れるという一動作を含めても、荒子へのダメージとなった。

『荒子さん、すみませんっ!』

『気にすんな! やりようはある……!』

 そういう生態鎧を纏った女は手にしている蒼い槍の炎を強めた。

『マイルズ! 頼むぜっ!』

『……上ですっ!』

 とどめとばかりに畳みかけるよう攻勢に出てきたヤフを、槍からのエネルギー波をアクティブソナー代わりにして、先程よりも感知速度と範囲を広げた知覚で対応する。

『喝っ!』

 一心同体となった少年から伝えられた知覚を元に、荒子は上方に両肩のスラスターから拡散させた噴炎を、自身の生体エネルギーを乗せて放つ。

「……っ! 甘いのであるっ!」

 上を取ったヤフは、知覚を噴炎で焼き付けられながらも、その一刀を迷わず敵へと降ろした。

 斬り裂かれる黄金の噴炎はその一撃の勢いを殺すことはなく、しかし、全知全能神の知覚を一瞬奪う。

『舐めんなっ!』

 『黄金肉体(フタナリ)』の群雲荒子は、額を生体鎧の上からかち割られながらも受け止め、右手で四文字神を捕らえる。

 そうして、動きを瞬間だけ止めれば、左手に掴んだ蒼に燃え盛る槍を彼の神の右脇腹に突き刺した。

『全・開・出・力ぅぅぅぅっ!』

 かつて神魔覚醒戦争にて幾多の神を灼き殺した業は、槍の形を取っていても、その威力は落ちていなかった。

 纏っている少年型ホムンクルスの出力向上を受けたその刺突は、遥か何千万度となり、再び神殺しを達成するのであった。

 

 ***

 

「荒子さんっ!」

「大丈夫だ。デコの皮膚が割れただけで骨までは割れてねえ」

 四文字神との戦いを終え、四文字化生ビル跡地の地上に降りて『纏憑依(オーバーポゼッション)』を解いたマイルズは、顔面が血まみれの荒子を心配する。

「荒子さん、どうしてあの神(ひと)を倒せたんですか?」

「セーフハウス襲撃された時に一回、灼尽掌(しゃくじんしょう)当てたんでな」

「いや、説明になってないんですが……」

「あー……、オメエもさっき灼尽掌から出てた能動探査で知覚してたろ? アタシのコレは攻撃する以外にも知覚の拡大みたいな機能があるんだワ。それでアイツの構造的に脆い部分を感知出来た」

 彼女が広げた掌(てのひら)から高温故の陽炎が揺らめく。

「えっ? でも、全知全能っていうくらいなんですし、なんで弱点みたいな部位が……?」

「大方、戦後失った神気の代わりに自分トコの救世主とでも習合したんだろうよ。それで右脇腹に槍突き刺せば、『救世主死亡』の逸話の再現になったんだろう」

 荒子はようやく止まった額の血を拭いながら、勝てた要因を説明する。

「どうして弱みになることを……」

「だーっ、もーっ! 動機なんてどうでもいいだろっ! さっさとズラかって飯にすんぞ! こちとら、宇宙輸送でしばらくなんも食ってねえんだ!」

「荒子さん、そういうとこ図太いですよね……!」

 激戦で何度も傷を負いながらも、空腹の方が大事(おおごと)の彼女らしい感想に少年は安心していいのやら、呆れたのやらと複雑な気分になってしまう。

「そうだ! ヤフさんからの伝言があるんです!」

「なんだ? 手短にしろよ?」

 少年がとっくに討たれた神のことを話題にして、空腹で機嫌の悪い女は怪訝な顔になる。

「えっと、ビルの前で十字を切って……」

 そうやって、金髪の少年は跡形もないビル前に立って、右手で額、胸、左肩、右肩を順に触って十字を切った。

『見事であった』

「うわぁぁぁぁ!!!!」

「どわっ!」

 すると、先程死んだヤフが現れたではないか。

「死んどけや、ゴラァ!」

 荒子は即座にアイアンクロー(無論『灼尽掌』である)を現れた神に放つ。

『は、離すのであるっ! 私は残り香のようなものなのでなっ! 今際の伝言役だっ!』

 流石の四文字神なだけであって、荒子の神殺しの業でも瞬時には消えなかった。

「……んだよ? 恨み言か?」

 彼女は怪訝そうに手を離す。

『否、私にはそういう想いはないのでな。貴女にではなく、マイルズに用があるのである』

「お、俺ですか……?」

 名指しされたその少年は、警戒しつつも、前に出る。

『うむ、要件から伝えよう。懐妊めでたいのである。種は荒子、周期は三週間目だ』

「へっ? はぁっ? ええええっ⁉︎」

「どっ、どういうことだ⁉︎」

 その場にいた金髪の少年と銀髪の女は、神代と現代が合わさった世の中でも訳がわからないことを告げられ、理解が出来なかった。

『順を追って説明するのである。天使強化プロトタイプホムンクルスがマイルズ、君であるな』

「え、ええっと、そうですね……」

 改めて名前を呼ばれ、理解が追いつかない小柄な少年は全知全能神の残り香に耳を傾ける。

『君一人で購入された天使全てを強化出来るとは思わないのは同意が取れるのであるか?』

「まあ……、それは分かります」

 実際、彼が生体鎧として纏われたのは荒子一人であった。

 確かにもう何百万と売れている天使達に対して、マイルズ一人だけというのも不可解である、というのは彼にも理解出来た。

『そこで、同型のホムンクルスを量産したかった、というのも話から分かるはずだ』 

「おい、待てよ? じゃあ、その量産の仕方って……」

 隣で聞いていた荒子は察しよく、その増やし方に思い当たった。

『生前の私──ヤフとの性交から生まれたモノを増産する、が想定されて造られたのである』

 人に似た存在を造る、というには一番自然な方法であった。

『無論、君一人に何万と産ませる想定ではない。一人産んで貰えたら、そこからクローンなりで増やす予定であった。普通の人との全く違う部分が付与されたホムンクルスと、製造ロンダリング、という形であるな』

「……『神企業法律《コンプライアンス》』では、『新たに神が人を造るのを禁止する』ってヤツか」

 流した血を増産しきった『黄金肉体(フタナリ)』の女は、目の前の神の置き土産が言わんとしていることを段々と察したきた。

「えっ? それは……」

「四文字化生はここ数年の業績が悪かったんだ。戦後復興で人手代わりに売れていた天使の需要が下がってな。その天使のアップデートなり、パッチなりにマイルズ使って新しいそれらを売り出そうとしてたんだろうよ」

『その通りである。そして、その目論見に横槍を入れてきたのがOMI(オリュンポス・マルチ・インダストリー)であるな』

「荒子さん達が神企業(メガコーポ)間の抗争に利用されたのって……」

 マイルズは事の発端である、彼の護送依頼がOMIの狂言であったことを思い出す。

『そこは多神企業(メガコーポ)ならではの柔軟性であったな』

 神の残り香はその企業間抗争の結果である敗因を冷静に分析する。

 一柱(ひとり)より多柱(おおく)である方が事態を巧妙に運べる。

 ある意味で当たり前の帰結であった。

『戦時中と直後はワンマンであれば速戦即決で良かったが、変化を求められれば鈍るのは当然であった』

 神であった存在は回顧するよう呟く。

「それだけじゃねえだろ。オメエのところは慈善事業にもリソース割き過ぎてたしな」

「そうなんですか⁉︎」

「弱者救済といやあ、四文字化生が代名詞に出てくるくらいには力入ってたからな」

『それは受け入れたあやつの願いだったのでな』

「救世主、か……」

 荒子は呆れるように、勝った決め手の要因に思い当たる。

『私は戦わねば私を信じる者達が救われぬから当時は戦ったが、あやつは最後まで戦うことに反対していたのでな』

「なんで、その人を受け入れたんですか……?」

『逆である。あやつが私と習合するのを望んだのだ』

「三位一体だからって無茶したモンだ」

 父と子と霊は同一である、の解釈を利用した習合であった。

 そして、それを果たした理由は、

「神魔覚醒戦争による人口の大幅減だな」

 信仰で成り立つ神々が戦争を辞めた大きな理由の一つであった。

 かつて百億超過の繁栄を十分の一にまで死に至らしめた大戦争。

 人口増加こそ神々の顕現を発生させたが、それらが減れば居られなくというのは当然である。

「弱った神格を保つのに救世主との習合をした、と」

『で、ある。そして、戦後は信仰というパイを巡って、商売を始めたがあやつの遺言もあってか、損切り、ということが中々難しかったのであるな』

「株価が下がるってよりも、そういう慈善事業に精を出し過ぎたってヤツだな」

『それもである。闇市にも今ひとつ馴染めなかったのも痛手であった』

「それで苦し紛れに俺を造ったって訳ですか……」

『商売っ気がなかった、というのは嘘であるが、君を使い潰す気は無かったというのは信じて欲しい』

「それは……」

『無論、信じる信じないは自由である。私はかつて造った人々を楽園から追いやった過去があるのでな』

「……」

 少年は全知全能だったはずの神が、どこか疲れ果てた人に見えてしまった。

「……俺は貴方の事をとやかく言う経験と記憶はありません」

 ですが、と続けて、

「でも、貴方がくれた葡萄は美味しかったです。有り難う……、御座います」

『……その感謝で世が回れば良かったのだがなあ』

「神さんが残念がるたぁ、世も末だな」

「ちょっ、荒子さん……!」

『いいのである。君達は勝った。私は負けた。その事実を覆すには、もう過ぎたことであるな』

 神が遺した分御霊がブレ始めた。

『時間である。もう、私が願うのはマイルズ、君とその子が息災であることだ。荒子、どうか面倒を見てやって欲しいのである』

「心配すんな。アテはあるし、孕ませた以上責任は取る。でも、やり方には文句つけさせねえぞ?」

 テメエを信仰してるわけじゃねえんだからな、と荒子はぶっきらぼうに釘を刺す。

『それを聞けただけで満足である。ではな。どうか、君達に幸福と祝福があらんことを』

 そう言い遺した神の残り香は、光の粒子となって消え去った。

「……荒子さんはあの神様のこと、どう思いますか?」

 天に昇ったのを見届けたマイルズは、隣にいた荒子に今更聞いても仕方ないことを聞いた。

 仕方ないことであったが、彼はどうしても彼女の口から聞きたかった。

「どうもこうも、やり辛い神さんだったつーの。一柱(ひとり)で言うだけ言って、あとは人に投げるんだからな」

 だが、まあ、と、

「悪いヤツじゃなかったのは確かだ」

「有り難う御座います」

「ナンに対してだよ?」

「俺が荒子さんに感謝したかっただけです。貴女があの神(ひと)に悪い印象を持ってなかったのも含めて、ですけど」

「ったく、好きにしろ。それと、さっきも言ったが、責任は取ってやっから安心しな」

 そういわれた子を宿した少年はモジモジと身じろぎする。

「あの……、照さんにはなんて伝えたら……」

「気にすんな。アタシからちゃんと説明すんよ。それにアイツなら、オメエとガキの為に色々用意するとか言い出しそうだしな」

「えぇ……。いやまあ、あの人なら言い出しかねませんけど……」

 そうこう二人が今後に思いを馳せていると、「おーい! 二人とも迎えに来たよー!」と改造装甲車から身を乗り出している件の長髪黒髪の男が来た。

「ま、積もる話もあるが、今はズラかろうぜ。とにかく飯だ。腹減って仕方ねえ」

「……」

「ん? なんかまだあるか?」

「あの、ちょっとだけいいですか?」

 ビル跡地を去ろうとした荒子に対して、マイルズはそこで少し立ち止まる。

「……ったく、好きにしな」

 と、彼女は少年が手を組んで祈っていたのを待つのであった。

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