※この作品はR-18です。

チェ夢エロ小説置き場   作:きちがい

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岸部隊長に処女を貰ってもらう話

 居酒屋の喧騒は、いつだって私の耳鳴りを誤魔化すのにちょうどいい。安いハイボールのジョッキが汗をかいている。対面の席には、仏頂面で日本酒を煽る岸辺隊長。この人が醸し出す空気は、周囲のサラリーマンたちの馬鹿騒ぎをブラックホールみたいに吸い込んで無効化してしまうから不思議だ。

 

「たーいちょ。もう一軒、行きます?」

「断る。俺はお前と違って明日も早い」

「えー、つれないなぁ。4課の新参者たちはまだまだ元気ですよ? 大ベテランが一番最初に音を上げてどうするんですか」

「……お前も大概飲み過ぎだ。少しは加減を覚えろ」

 

 先生の減らず口に、私は「どぅへへ」と奇妙な声で笑ってジョッキを空にする。内臓なら、もう8割くらい悪魔にあげちゃった。だから今の私が酔っ払うのは、アルコールの分解が追いついていないだけのただの毒物反応だ。それを知っていて、止めるでもなく、かといって勧めるでもなく付き合ってくれる。この人のこういう所が、どうしようもなく「男」だなあと思う。

 

 マキマさんが支配するあの冷たい4課の中で、先生の隣だけが、唯一体温を感じられる場所。

 

「ねえ、先生」

「なんだ」

「私って、ネジ飛んでますか?」

 

 箸でだし巻き卵をつつきながら聞くと、先生は面倒くさそうに、微かに……本当に微かに、分かるか分からないかくらいの塩梅で片眉を上げた。

 

「今更まともぶるつもりか」

「あはは、違いますよぉ。そういう物理的な話じゃなくて。……精神的な、お話」

 

 私は頬杖をついて、じっと先生を見る。無精髭、死んだ魚みたいな目、そして頬の傷。かつて私を可愛がってくれた先輩たちとは違う。彼は、圧倒的に強い。そして、圧倒的に壊れている。だからこそ、私のようなどうしようもない欠陥品が隣にいても、動じない。

 

「私ね、最近思うんです。デンジくんとか、パワーちゃんとか……あの子たちのこと、守ってあげなきゃなって」

「そりゃよくない傾向だな」

「でもね、それって……私が生きたいからじゃないんです。あの子たちを守って死ねるなら、それが一番『綺麗な終わり方』なんじゃないかなって、そんなことばっかり考えてて」

 

 ここ最近の私は自分の人生の幕引きをどこにするか、そればかり探すようになった。理由は分かっている。銃撃事件で、姫野先輩を含めたたくさんの同僚が死ぬところを目の当たりにしてから、精神的に参っているのだ、ずっと。民間人を守るために死ぬ気で悪魔と戦って、結果、民間人に撃ち殺されて……それは、あまりにも、あまりにも惨い結末じゃないか。

 ……そんな死に方はしたくない。誰かに必要とされたい。誰かのために死にたい。そうすれば、ゴミみたいに捨てられた私の人生にも、エンドロールくらいは流れる気がするから。

 

「とんだ自己陶酔だな」

 

 先生の声は、冷ややかだった。

 

「死に場所を探す暇があったら身体を動かせ。お前が死んでも誰も感動なんかしねえぞ。ただ戦力が減る、それだけだ」

「うう、厳しいなぁ……。もっとこう、愛のある言葉はないんですか?」

「愛でお前が強くなれるならいくらでも愛してやる。」

「もー、これだから枯れたおじさんは」

 

 私はわざとらしく口を尖らせて、テーブルの下、自分のヒールで先生の革靴の爪先を軽くつついた。悪い癖だ。酔うと、そして不安になると、すぐにこうやって確かめようとする。こうして試し行為のような真似をして、相手がどう出るか。呆れられるか、軽蔑されるか、それとも――。

 

「ねえ、先生」

 

 私は声を勇気を振り絞って、テーブル越しに身を乗り出す。

 

「私のネジ、先生が緩め直してくれませんか」

 

 

 先生は、手元の猪口を置いて、私を見た。その目があまりに静かで、私は蛇に睨まれた蛙みたいに動けなくなる。軽蔑される。怒られる。あるいは――。

 

 

 けれど、先生の大きな手は、私の頭の上にポン、と置かれただけだった。

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 

 成人してから数年。私は子供ではないし、こんなにも緊張してしまうのは、私が処女だからではない……と、思う。そう思いたい。やはり相手があの岸辺隊長だからなのだ、と。戦闘の手ほどきをしてくれた先生。私なんかじゃ手が届かないくらい、強くてかっこいい先生。そんな神聖な人と一緒に、この安っぽいラブホテルにいるという現実が、私の肌感覚を鋭くしているのだ。背中を冷や汗が伝っていく感覚。額に当たる空調の風。微かに香る、たばこのにおい。すべてが新鮮に恥ずかしくて、すべてが生々しく生ぬるい。

 

 部屋の鍵を開ける音が、ひどく金属的に響いた。

 

 重厚なドアが閉まり、オートロックが施錠される「カチャリ」という無機質な音が鼓膜を打つと、途端に世界の音が遮断されたような錯覚に陥る。安いビジネスホテルに毛が生えた程度の、決して高級とは言えないラブホテルの一室。壁紙は趣味の悪い花柄で、照明は妙に赤みがかっていて、空調からは微かに埃っぽい匂いと、安っぽい芳香剤のラベンダーの香りが混じり合って漂ってくる。

 

 靴を脱いで上がる狭いタタキ。そこに並んだ私のヒールと、先生の大きな革靴。その対比を見ただけで、胃の腑がギュッと縮み上がるような感覚に襲われた。

 

 ――私、本当に来ちゃったんだ。

 

 勢いで言った。酒の力を借りて、弱いふりをして、寂しいふりをして(あながち「ふり」でもないのが救いようのないところだけれど)、この人を誘った。

 本当なら、ここで上手く立ち回れるはずだった。コートを預かったり、気の利いた冗談の一つでも言ってバスルームへ誘導したり、あるいはすぐに抱きついて甘えてみたり。そうやって素直で可愛い女を演じる手順なら、沢山沢山勉強していたはずなのに。いつか、先生と、こんな日が来ることを夢想して。

 

 ……動けない。

 指先ひとつ、動かせない。

 

 背後に立つ先生の気配が、私にとって山のように巨大で、圧倒的だから。デビルハンターとして彼が纏う死の匂いではない。一人の男性としての、生物としての格の違いのようなものが、この狭い空間では密度を増して肌にのしかかってくる。

 

「風呂は後と先、どっちがいい」

 

 沈黙を破ったのは先生。振り返ると、先生はもうコートを脱いでいて、それを無造作にハンガーに掛けようとしているところだった。ワイシャツ一枚になった背中は広くて、分厚い。全然全くもって、枯れてなんかいないじゃないか。

 

「あ……あの、えっと、先生が先で……」

「そうか」

 

 先生は淡々とネクタイを緩め、洗面所の方へと歩いて行ってしまった。取り残された私は、へなへなとその場に座り込みそうになるのを堪えて、ベッドの端に腰を下ろした。

 心臓が、煩い。ドク、ドク、ドク、と肋骨を内側から蹴り上げるような音が、耳の奥で反響している。

 

(……馬鹿みたい。自分から誘っておいて、今更なにを初心ぶっとるんじゃ~ワシは)

 

 自分を叱咤するように心の中のパワーちゃんを呼び覚まして、膝の上で拳を握りしめる。相手は先生だ。私の先生で、上司で、最強のデビルハンター。

 今まで散々、だらしないところも見せてきた。泣き顔も、血まみれの顔も、ゲロを吐いてるところだって。

 だから今更、裸を見られることなんて怖くないはずだ。

 

 それなのに、どうしてこんなに胸が昂るんだろう。

 

 シャワーの音が聞こえ始めた。その音が、彼が今、一枚の扉を隔てた場所で裸になっているという事実をまざまざと突きつけてくる。想像してしまう。あの傷だらけの体。無数の悪魔を殺してきた腕。私なんかよりずっと多くの死線を超えてきた、鋼のような肉体。

 私は逃げるように視線を逸らし、サイドテーブルに置かれた水のペットボトルを手に取った。キャップを開ける手が震えている。情けない。本当に情けない 一口飲んでも、乾き切った喉は潤わなかった。

 

 

 そうして数十分後、湿った熱気と共に先生が戻ってきた。

 腰にタオルを巻いたようなラフな姿ではない。備え付けの、少しサイズの小さそうなバスローブを羽織り、濡れた髪をタオルで拭きながら。当然だ。これから性行為をするってのに、服や下着を着て出てくるわけもない。当たり前のこと、当たり前のことのはずなのに……どうしようもなく異質なことに感じられてしまう。

 

「風呂、空いたぞ」

「は、はい」

 

 私は逃げるようにバスルームへ駆け込む。鏡に映った自分の顔は、酒のせいだけではない赤みで上気していて、目は潤み、酷くあどけなく見えた。

 まるで、初めて恋を知った少女みたいに。成人して、デビルハンターとして中堅とまで言われるようになって、今更何を。

 熱いシャワーを浴びて、念入りに体を洗った。酒の匂いを消すように。少しでも でもしゃんとして見えるように。けれどどれだけ洗っても、胸の奥の焦燥感だけは消えなかった。

 

 

 バスルームを出ると、部屋の照明が少し落とされている。

 先生はベッドのヘッドボードに背を預け、テレビも見ずに、ただ天井のあたりをぼんやりと眺めていた。その横顔はあまりに静謐で、きれい。男性的と評するのも違う、爬虫類みたいに静かな孤独。

 

 私が近づくと、先生は視線だけをこちらに向けて、顎で隣を示した。

 

「……座れ」

 

 短い命令。逆らえるはずもない。私はおずおずと、彼の隣、ダブルベッドの空いているスペースに潜り込んでみるシーツが擦れる音。マットレスが私の体重で沈み込む感覚。そして、隣から伝わってくる圧倒的な体温。

 近い。当たり前だけど、あまりにも近い。

 バスローブ越しでも先生の体温の高さが分かる。私の体温なんて、末端冷え性でいつも氷みたいに冷たいのに。先生はまるで暖炉みたい。その熱にあてられて、思考が溶け出しそうになる。

 

「髪、乾かさないのか」

「あ……自然乾燥で、いいかなって」

「風邪引くぞ」

「風邪なんかじゃ……」

 

 死にませんよ。そう続けたかった。けれど、声が震えてしまって上手くいかなかった。先生は「フン」と鼻を鳴らしただけで、それ以上は何も言わない。

 沈黙が落ちる。冷蔵庫のコンプレッサーが唸る音だけが、やけに大きく響く。何か喋らなきゃ。いつもみたいに、ふざけて、笑わせて、この押しつぶされそうな空気を誤魔化さなきゃ。そう思うのに、言葉が出てこない。隣にいるこの人の存在感が、私の全神経を支配してしまっているから。

 

 ふと、視線が落ちた。

 シーツの上に無造作に投げ出された、先生の左手。

 

 大きい。改めて見ると、本当に大きな手だ。指は太く節くれ立っていて、皮膚は厚く硬い。甲には古傷のような白い線が幾つも走っていて、指の付け根には硬質化したタコが見て取れる。ナイフを握り、銃を構え、素手で悪魔の肉を引き裂いてきた手。多くの命を奪い、そして多くの命を――まあ、その中には私の命も含まれているのだけれど――救ってきた手。

 

 それに比べて、私の手はどうだろう?

 自分の右手を、そっとシーツの上に出してみる。白くて、細くて、頼りない。契約の代償でボロボロになりつつある体だけど、表面上はまだ女の形を保っているこの手。先生の横に並べると、まるで子供の手みたいに見える。

 

 触れたい。

 猛烈な衝動が、理性を飛び越えて湧き上がった。セックスがしたいとか、抱かれたいとか、そういう欲求よりももっと手前にある、原初的な渇望。ただ、この確かな強さに触れて、自分がここにいていいのだと、繋ぎ止めてほしかった。

 私は、おそるおそる、自分の右手を彼の左手の方へと滑らせてみる。シーツの上を、指先が這う。ズル、ズル、と微かな音を立てて。あと五センチ。あと三センチ。あと一センチ。

 先生は私が何をしようとしているのかきっと分かっているはずだけれど、動かない。拒絶もしない。それが許しのように思えて、私は震える小指を、彼の小指にそっと触れさせた。

 

 ビクリ、と自分の体が跳ねた。自分から触れた癖に。……熱いあったかい。指先一つ触れただけなのに、火傷しそうなほどの熱量が流れ込んでくる。乾燥した皮膚の感触。ゴツゴツとした骨の硬さ。私の指先なんて冷たくて湿っていて不快だろうに、彼は身じろぎ一つしない。

 

 ――いいんですか?

 ――本当に、触れてもいいんですか?

 

 心の中で問いかけながら、私はさらに指を進める。薬指、中指、人差し指。私の細い指が、彼のごつい指の隙間に滑り込んでいく……ゆっくりと、確かめるように。

 指の股と股が触れ合う、その一番深いところまで。いわゆる恋人繋ぎだ。誰かと愛し合う時にする、一番無防備で、一番親密な形。

 

 私の掌が、彼の掌に重なる。その瞬間、世界が反転したかのような衝撃。

 

「っ……ぁ、」

 

 小さく息が漏れた。硬い。熱い。大きい。私の掌は、彼の掌の半分ほども覆えていない気がした。先生の大きな手が、私の全てを包み込んでいる。飲み込んでいる。指の節の一つ一つが、私の指に食い込んでくる。たったそれだけのことなのに、全然大したことじゃないのに、その痛みが、どうしようもなく甘美で、苦しい。

 

 皮膚のキメが荒い。私の柔らかな肌とは対極にある、ヤスリのような感触。でも、不快なものでは決してない。むしろ、その荒さが彼が現実に存在している人間なのだと教えてくれる。悪魔でも、幻影でも、遠い憧れの存在でもなく。

 今ここにいて、血を通わせ、息をしている一人の男なのだと。

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン。

 心臓の音が、限界まで早まる。うるさい。うるさい。聞こえてしまう。繋いだ手のひらから、私の脈動が彼に伝わってしまうんじゃないかと思うほど、脈が暴れている。

 

 恥ずかしい。

 こんなの、ただ手を繋いだだけなのに。肌を重ね、粘膜を合わせ、唾液を交換するだけ。それだけ。それだけのこと、なのに。それなのに……どうして。

 どうして、たったこれだけのことで、こんなにも泣きたくなるんだろう。

 

 先生の体温が、繋いだ手を通して私の血管に侵入してくる。冷え切った血液が温められて全身を巡っていく。それはまるで、毒みたいに甘く、解毒剤みたいに優しい。

 

 指の腹で、彼の手の甲をなぞる。ザラザラとした皮膚の感触。硬い骨の隆起。

 

 心臓の高鳴りは、もう痛みすら伴っていた。

 胸が張り裂けそうだというのは、比喩表現じゃなかったんだ。

 全身の血が沸騰しているみたいに熱い。

 頭の芯が痺れて、思考がまとまらない。

 

 ただ、この手の感触だけが、世界の全てだった。汗ばんで、熱くて、痛いくらいに硬い、男性の手。先生の手。4課の頼れる隊長の手。

 

 そして今夜だけは、私の男の手。

 

「岸辺、さん」

 

 掠れた声で名前を呼ぶと、隣で気配が動いた。彼がゆっくりと顔をこちらに向けるのが分かる。でも、私は怖くて顔が見られない。今、彼と目が合ったら、私の中の何かが決定的に決壊してしまう気がして。だから、私はただ、繋がれた自分たちの手だけを見つめ続けた。赤みがかった照明の下、白く細い私の手が、先生の大きな手に飲み込まれている様を。

 それは酷く猥雑で、でも、それ以上に聖なる光景に見える。

 

「……なんだ」

 

 返ってきた声は、いつもより少しだけ優しく聞こえた。

 あるいは、そう思いたいだけの私の幻聴かもしれないけれど。今はそんな都合のいい妄想をすることくらい、許されてもいいだろう。

 

「先生の、手が、大きいです」

「お前が小さすぎるんだ」

「……硬い、です」

「仕事柄な」

「……熱い、です……」

「……」

 

 先生は何も答えず、ただもう一度、私の手を握りしめた。

 私は濡れた瞳を閉じて、繋いだ手を自分の胸元に引き寄せた。彼の拳が、私の柔らかくて大きな胸に当たる。狂ったように跳ねる心臓の鼓動が、彼の手の甲に直に伝わってしまうけれど、もう恥ずかしがる余裕もなかった。私の命の音を、先生に聞いてほしい。

 

 

 私の心臓は、まるで先生の手の中で跳ね回る小動物みたいだ。

 

 トクン、トクン、と痛いくらいに脈打つリズムが、シーツに押し付けられた先生の手の甲に伝わっているのが分かる。こんなに乱れているのを悟られるのがたまらなく恥ずかしいけれど、同時に、この鼓動こそが私が女であることの証明のようで、先生に知って欲しいという欲求も止められない。

 すると、繋がれていない方の先生の手――空いていた右手がふわりと持ち上がり、私の頭に降ってきた。子供をあやすような、あるいは懐いた犬を褒めるような、無骨でリズムの悪い手つきで、ポン、ポン、と。

 

「……っ、」

 

 髪の毛ごしに伝わる先生の指の感触に胸が詰まる。いつも私が、デンジくんやビームくんにしてあげている「いい子、いい子」という庇護の仕草。けれど今、私は「される」側にいて、。その事実が張り詰めていた琴線を揺らし、目頭をじわりと熱くさせるのだ。

 

 撫でる手が髪を梳くように滑り落ちて私の頬を包み込み、親指の腹が涙で濡れた目尻をザラリと拭った。微かなタバコの残り香とアルコールの匂いが鼻腔をくすぐると同時、視界が影に覆われていく。

 

 ——あ。キスされる。

 

 そう認識した瞬間、私の体は反射的に動いていて、パシッ、と自分の掌で自分の口元を覆い隠してしまっていた。それは拒絶というにはあまりに弱々しかったけれど、それでも明確な「待った」の合図にはなったらしい。

 先生の動きがピタリと止まり、鼻先が触れ合うほどの距離で爬虫類めいた静かな瞳が私を覗き込む。

 

「……だ、だめ、だめです」

 

 手のひらごしに篭った声で必死に訴えると、先生は僅かに目を細め、不可解な行動を観察するように私を見つめた。

 

「……これからセックスをするのに、キスをするのはダメなのか」

 

 ぐうの音も出ない正論だけれど、違う、そうじゃない。

 

「だ、って……なんか、戻れない、気がするので」

 

 私の言葉に眉間の皺を少しだけ深くする先生に対し、震える声が指の隙間から漏れ出す。体だけの関係なら割り切れるし、寂しさを埋め合うだけの火遊びなら朝になれば忘れられる。ネジの外れた上司と部下に戻れる。でも、キスは駄目だ。唇を重ねて唾液を交換して、互いの呼吸を共有してしまったら、それはもうただの肉欲処理じゃなくなってしまう。魂の領域に踏み込まれてしまう。

 

 この人は嘘も誤魔化しも見抜いてしまう、から。正直に言わなきゃいけないと覚悟を決めて、私は潤んだ瞳で先生を見つめ返した。

 

「きす、したら……ほんとうに、すきになってしまいそう、なので」

 

 口に出した瞬間、それが自分の中で確信に変わるのが分かった。先生に依存しきってしまうことが、この強くて優しい人に心底惚れてしまって、先生なしでは生きられない体になってしまうことが、そしていつか先生がいなくなった時に私が跡形もなく壊れてしまうことが、私はどうしようもなく怖い。

 私の告白を聞いて、先生は「ハッ」と短く息を吐いた。呆れたような、けれどどこか楽しんでいるような乾いた嘲笑と共に、私の手首が掴まれる。

 

「かわいいな、お前は」

「ぁ、」

 

 抵抗する間もなかった。抗いようのない力で、けれど骨が折れないように注意深く、口元を覆っていた手が引き剥がされる。圧倒的な、男の人の力。声を上げる暇さえ与えられず、無防備に晒された唇に先生のそれが重なった。

 驚くほど優しく、薄い唇が形を確かめるようについばんでくる。カサカサに乾いた感触とたばこの苦い味、そして脳が溶けそうになるほどの熱が、まるで美術品に触れるような丁寧さで注ぎ込まれていく。

 

「ん、ぅ……」

「ん」

 

 鼻から甘い吐息が漏れた時にはもう、手首を拘束していた先生の手が指を絡める形に変わってシーツに縫い付けられていて、もう片方の手は私の後頭部を支えて逃げ場を塞いでいた。唇の隙間から侵入してくるぬるりと熱い粘膜の感触に理性を焼き尽くされ、私の中で張り詰めていた糸がプツンと音を立てて切れる。

 

 嘘をついた。

 私は、とっくに隊長のことが好きだ。……好き。やっぱり、好き。先生の弱さも強さも冷たさも優しさも、全部どうしようもないくらいに、大好き。

 

 永遠のようにも一瞬のようにも感じられた口づけが終わり、銀色の糸を引きながら先生がゆっくりと顔を離す。酸素が足りない頭でぼんやりと見上げると、至近距離にある瞳には、頬を紅潮させ、唇を濡らして瞳を潤ませた、どうしようもなく女の顔をした私が映っていた。

 

「……どうだ」

 

 低い声が耳元で響く。

 

「好きになったか」

 

 自分が何をしたのか、私がどうなったのか、全部理解した上で言わせようとする意地悪さに、私は震える唇を開いた。認めたくない。認めたら負けだ。認めたらもう二度と、この人から離れられなくなる。

 

「……ひみつ、です」

 

 精一杯の虚勢で紡いだ明らかな強がりに、先生は満足げな肉食獣の笑みを浮かべて口の端を歪める。そして私の耳元に唇を寄せると、囁くように言った。

 

「お前は昔から、秘密を隠すのが下手だな」

「………………う。やっぱり、きらい、きらいです、せんせいのこと……いま、きらいになりました。いじわ……んむっ」

 

 唇から漏れた未練がましい抗議は、再び重なった先生の唇によって、物理的に喉の奥へと押し戻された。

 今度の口づけは、さっきまでの優しさとは打って変わって、強引で、容赦がなかった。逃げようとする舌を捕まえられ、絡め取られ、私の口内を蹂躙していく。それはまるで、「嫌い」という言葉の形をした私の嘘を、根こそぎ暴き立てるような暴力的な愛撫だった。

 

 酸素が足りない。頭が真っ白になる。抵抗しようと持ち上げた手は、行き場を失って先生の広い背中にしがみつくことしかできない。スーツ越しに伝わる筋肉の動き。背骨のライン。その逞しさに触れた途端、私の体から力が抜けていく。

 あ、だめだ。嫌いになんて、なれない。

 こんな風に、大人の男の人に全てを塞がれてしまったら、私はもう降参するしかないじゃないか。

 

「ぷ、ぁ……っ、はぁ……」

 

 ようやく唇が解放された時には、私は酸素を求める魚みたいに口を開けて、情けなく喘ぐことしかできなかった。視界が揺れる。先生の腕が私の腰と背中に回され、次の瞬間、世界が反転した。

 

 ドサッ、と鈍い音がして、背中が柔らかいマットレスに沈み込む。

 覆いかぶさってくる先生の影。

 天井の薄暗い照明を背負ったその顔は、逆光でよく見えないけれど、私を見下ろす瞳だけが、暗闇の中で鋭く光っているのが、わかる。それだけは、くっきりと。

 

「じゃあ、私がいつから先生のことをすきだったか、お分かりですか?」

「初めて会った時からだろ」

「……さてね」

「可愛げのないガキだな」

 

 私を見下ろしながら先生が低く呟いて、その指先が、ガウンのひもにかかる。

 

「……嘘だ。お前はかわいい。可愛くて、エロい」

「……えへ……えっち……」

「男の子なんでな」

 

 鎖骨が露わになり、冷たい空気が肌に触れる。

 

「ひ、ぅ……」

 

 声にならない悲鳴が漏れる。恥ずかしい。悔しい。先生の手が触れる場所から順番に、私の体は熱を持って、甘く疼いてしまっている。

 

「せん、せい……電気、けして……」

「嫌だ」

「み、みないで……恥ずかしい、です……」

「今更何を隠す必要がある。俺はお前の腹を縫ってやったこともあるんだぞ」

「それ、大昔のことでしょ。私が本当に新人だったころの……」

 

 というか、そんな昔のことを、ちゃんと覚えていてくださったんですね。

 

 そう尋ねると先生は何も言わなかったけれど、その表情がにわかに緩んだのが、私には確かに分かった。……ああ、先生、分かりにくいけどちょっとだけ照れてる。そのことが嬉しくて、私も少しだけ微笑んだ。ずるいひと。そんなに可愛い所を見せられたら、ますます好きになってしまうのに。

 

 私の胸が上下に波打つのを、先生じっと見下ろしている。

 品定めするような、あるいは、壊れかけの機械の修理箇所を探すような目。

 

「傷が増えたな」

 

 先生の大きな手が、私の腹部――大昔に先生に縫ってもらった、古傷の痕をなぞった。

 

「……っ、」

「痩せすぎだ。ちゃんと食ってるのか」

「た、べて、ます……これでも……」

「嘘をつけ」

 

 先生は呆れたように息を吐くと、その傷跡に、ごつごつとした唇を押し付けた。

 チュ、という水音が、静寂の中に響く。

 

「ひあ」

 

 愛おしむような。

 労るような。

 それは、性的な興奮よりももっと深い、内臓の奥底を直接撫でられるような感覚だった。

 

「ぁ……あ、せんせ、そこ、は……」

「痛むのか」

「いた、くない……けど……そうされると、ちょっと、苦しい、です……」

「そうか」

 

 先生は顔を上げると、今度は私の首筋に顔を埋めた。

 ジョリ、と無精髭が肌を擦る感触に、ゾクリと背筋が震える。

 

「苦しいなら、何も考えるな」

 

 耳元で、悪魔の囁きみたいに先生が言う。

 

「……はい、……はい、せんせい……」

 

 先生の唇が首筋から離れていくと、そこには熱っぽい余韻だけがヒリヒリと残された。

 

 代わりに、先生の大きな掌が、私の身体の地図を描くように動き始める。

 無骨で、分厚い手。

 ナイフを握りしめ、銃の反動を殺し、幾多の悪魔を葬ってきたその凶器のような手が、今は私の柔らかな肌の上を、驚くほど緩慢に滑っていく。

 

 鎖骨の窪みを親指でなぞり、そこから肋骨の一本一本を確かめるように下へ。

 ピアノの鍵盤を叩くみたいに、あばら骨の上を指先が叩く。

 

「……あばらが浮いてる」

 

 先生が、独り言のように呟いた。呆れたような声色とは裏腹に、脇腹を撫でる手つきは執拗だ。ザラザラとした指の腹が、私の薄い皮膚を擦る。その摩擦熱だけで、どうにかなってしまいそう。くすぐったいような、痛いような、それでいて芯から蕩けてしまいそうな感覚。私はシーツを握りしめたまま、まな板の上の鯉みたいに小さく跳ねることしかできない。

 

 先生の手が、さらに下へと伸びる。微かにかかっていたガウンがめくれて、冷たい空気が下半身に触れたのも束の間のこと。すぐに下着を引き下げられて、生まれたままの姿を先生の前に晒すことになる。

 

「っ……!」

 

 反射的に太ももを閉じようとすると、先生の膝が強引に割り込んできた。

 

「開け」

「恥ずかしい、です」

「今更だろ」

 

 抵抗は許されない。

先生の太い太ももが、私の両足を物理的に押し広げる。無理やり足を開かれた無防備な格好。天井の照明が隠しようのない秘部を照らし出しているのが分かって、顔から火が出るほど赤くなりながら、せめて顔だけでもと腕で覆い隠そうとする。

 

 けれど、先生はそれすら許してくれない。

 私の膝の内側を掴んで、さらに大きく広げさせる。

 

「こっちを見ろ」

「むり、です……」

「上官命令」

 

 そんなめちゃくちゃな上官命令があってたまるか。私は涙目で、恐る恐る先生の方を見た。……けれど先生は、私の股間をいやらしい目つきで見ているわけではなかった。

 ただ、真剣に。これから解体する獲物の急所を見定めるような、あるいは、大事な所有物の状態を確認するような、昏く、重い瞳で見下ろしている。

 

 そして。

 先生の節くれだった指が、私の内太ももを這い上がってきた。

 

「ひゃ、ぅ……っ」

 

 敏感な内側の皮膚に、先生の硬いタコが当たる。

 ゾワゾワとした電流が腰のあたりを駆け抜け、おもわずビクリと背中を反らせてしまう。

 

「力が入りすぎだ。もっとリラックスしろ」

「む、無理です……先生の手、ざらざら、してて……」

「悪かったな、労働者の手で」

「そ、じゃ、ないって、あ」

 

 先生は鼻で笑うと、そのまま躊躇なく、私の秘部へと手を伸ばした。熱い掌が、割れ目を覆うように被さる。その圧倒的な質量と熱量に、私は「あ」と短く声を漏らして息を止めることしかできない。

 

 ぬちゃ。

 

 微かな水音が、静寂の中に響く。先生の手が動いた。優しく、けれど確実に、私の濡れた場所を探り当てる。

 

「……随分と、仕上がってるな」

「っ、い、言わないで……!」

「お前は嫌いな男に触られて、こんなになるのか」

「ちがう、ちがいます、いじわる、しないで」

 

 その言葉攻めが、恥辱となって私の感度をさらに高める。中指が、割れ目に沿ってゆっくりと上下して———クリトリスを掠めるたびに、脳髄が痺れるような快感が走る。

 

「ぁ、んっ……せん、せ……っ」

「ここか」

「あ、っ、だめ、そこ……!」

 

 先生は反応を楽しむように、一番感じるところを親指の腹でぐりぐりと弄った。硬い指。容赦のない圧力。自分で触るのとはまるで違う、他者に侵入される感覚。

 それも、私が世界で一番敵わない、岸辺先生に。

 

 やがて、準備は十分だと判断したのか、先生の中指が、ずぷりと私の中へ沈み込んできた。

 

「ひ、ぅ……ッ!」

 

 異物感。太い指が、内壁を押し広げて入ってくる。窮屈さと、それを満たされる充足感が同時に襲ってきて、私はシーツを握りしめた拳に爪を食い込ませた。

 

「……きついな」

「せんせ、いの、指が……太い、から……っ」

「力を抜け。……お前、処女だろう。初体験の記憶を、痛みで終わらせる気か」

「あ、う」

「黙って身を委ねろ。……悪いようにはしない」

 

 ばれ、てたのか。先生は動揺する私のお腹の上に反対の手を置いて、ポンポンと優しく叩く。子供を寝かしつけるようなそのリズムに、張り詰めていた緊張が少しだけ緩む。その隙を逃さず、先生はさらに奥へと指を突き入れた。

 一本、そして二本。

 

「あ、あ……!」

 

 かき回される。

 中のひだ一つ一つを、先生の指紋が確認していくみたいに。ゴツゴツとした関節が、敏感な内壁を擦り上げる。

 

「あ、ぁっ、あ……っ! んぅ、ぁ!」

 

 いやだと思うのに、つつましやかにしたいと思うのに、声が抑えられない。恥ずかしい声が、勝手に喉から溢れてくる。先生の指が動くたびに、腰が勝手に浮き上がり、足の指が縮こまる。

 

 気持ちいい。

 悔しいけど、どうしようもなく気持ちいい。頭のネジが、さらに何本か弾け飛んでいく気がする。

 

「お前は、本当に……」

 

 先生が、私の耳元に顔を寄せて、荒い息と共に囁く。指の動きは止めないまま。むしろ、さらに激しく、執拗に中の弱点を抉りながら。

 

「手のかかる生徒だ」

 

 チュ、と耳たぶにキスを落とされ、同時に指が奥の奥を突き上げた。

 

「ひ、あ、~~~~~っ!!」

 

 視界が白く弾けた。

 

「は、は……はっ……」

「……上出来だ。初めてにしては、素質がある」

「いらないです、そんなそしつ……」

「大事な素質だぞ。これがあるかないかで、男の気力にも関わってくる」

 

 先生の指が引き抜かれると、私は糸の切れた操り人形みたいにシーツの上に崩れ落ちた。

 

「……じゃあ先生は今、ちょっとは気力が出てますか?」

「ああ。十二分にな」

「ばか……」

 

 荒い呼吸が収まらない。酸素を求めて胸が大きく上下するたびに、視界の端で自分の胸が揺れるのが分かった。

 

 先生は、自分の指についた愛液を無造作に拭うと、再び私の上に覆いかぶさってきた。けれど今度は、私の顔を見るのではなく、その視線はもっと下――激しく波打つ私の胸元に釘付けになっていた。

 

「せ、んせい」

 

 私が名前を呼んでも、先生は視線を外さない。先生の大きな手が、ゆっくりと私の胸に伸びてくる。

 指先での愛撫に気を取られていて、すっかり忘れていた。下着まではだけさせられた私は、今、上半身も完全に無防備な状態なのだということを。

 

「……随分とまあ、育ったもんだ」

 

 先生が、呆れたような、感心したような声で呟く。

 その掌が、私の左胸を鷲掴みにした。

 

「ひゃ、ぅ……っ!」

 

 熱い。そして、重い。先生の手は大きいはずなのに、私の胸はその掌からも溢れ出してしまうほど豊満だった。指の間から、柔らかな白い肉がむにゅりと食み出す。

 

「……お前、栄養は全部ここに行ってるのか」

「そ、んな……じろじろ、見ないで……」

「隠すな。いい眺めだ」

 

 先生は私の抵抗など意に介さず、溢れる脂肪の塊を捏ね回し始めた。大きく、重たく、たわわに実った果実。私の華奢な肋骨の上に乗っているのが不自然なほどの、暴力的なまでの質量。

 それを、先生の無骨な手が、形を変えるほど強く握りしめる。

 

 ぐにゅ、ぐにゅ、と、肉が押しつぶされる音が、耳に近い距離で聞こえる。

 恥ずかしい。

 ただの脂肪の塊なのに。先生に触られているというだけで、どうしてこんなに熱を持ってしまうんだろう。

 

「重いな」

 

 先生が、私の胸を下から掬い上げるように持ち上げた。

 ずっしりとした重量感が、先生の腕にかかる。

 

「……デビルハンターには邪魔な大きさだ」

「っ、や、や」

「だが、男にとっては都合がいい」

 

 先生は意地悪く笑うと、親指で先端の突起を弾いた。

 

「あ、ぅっ!」

 

 硬く尖った乳首が、先生の硬い指に擦られる。

 電流みたいな痺れが胸の奥に走り、私は背中を反らせた。その拍子に、両方の胸がぷるん、と大きく揺れ、白い波のように波打つ。

 その光景を、先生は見逃さなかった。無精髭の生えた口元が、私の胸の谷間に埋められた。

 

「ん、あ……っ! ジョリジョリ、する……!」

 

 髭の感触が、柔らかすぎる皮膚には刺激が強すぎる。痛いような、くすぐったいような。先生は私の胸に顔を埋めたまま、深く息を吸い込んだ。

 

「いい匂いだ。ガキのくせに」

「もう、ガキじゃ……あり、ません……っ」

「教師に口答えをするな」

 

 先生が、右の乳首に噛み付いた。

 

「ひ、あぁっ!」

 

 甘噛みなんて優しいものじゃない。歯を立てて、強く吸い上げる。ジュ、ジュル、と、いやらしい水音が響き渡るくらいに。

 まるで赤ん坊が母乳を求めるみたいに、あるいは獣が肉を喰らうみたいに。私の大きな胸は、先生の口によって形を変え、吸い込まれていく。

 

 吸われるたびに子宮の奥がキュンキュンと疼いて、先ほど達したばかりの場所からまた蜜が溢れてくるのが分かった。

 

「せん、せい……つよ、い、吸うの、つよい……っ」

「お前はこちらの方が好みだろう」

「そ、なこと、なんで」

「それくらい分かる」

 

 先生は一度口を離すと、唾液で濡れて光る乳首を、指でつまんで引っ張った。

 そして反対の手では、もう片方の胸を大きく揉みしだく。左右同時に責められて、私は右へ左へと首を振って喘ぐことしかできない。

 

「あふ。せんせ、あかちゃんみたい……」

 

 視界いっぱいに、先生の頭と、私の白い胸が映る。先生の男らしい褐色の肌と、私の真っ白な肌。先生のゴツゴツとした手と、私の溶けるように柔らかい胸。

 せんせい、かわいい。ずるい。すき。

 

「……バブー」

「っ……あっははは!やめ、やめてくださっ、そんな、あはっ、あはは……」

 

 前言撤回。こんなに良い声でばぶばぶ言う赤ちゃんが居てたまるか。先生は口角を綻ばせもせず、いつもの感情のなさそうな笑顔でそんなことを言うものだから、私は馬鹿みたいに笑ってしまう。

 

「……さて」

「ん、う」

 

 先生が、自分のガウンに手をかけた。柔らかな衣擦れの音が、処刑宣告のように響く。ズボンと共に下着が下ろされ、先生の怒張したモノが露わになった。

 

 大きい。手も大きければ、そこも規格外だ。凶暴な血管が浮き上がり、赤黒く脈打っている。

 

 あんなものが、私の中に入ってくるの?

 

 ……指でさえあんなにきつかったのに。

 

「……怖いか」

 

 そんな怯えを察したのか、先生が低く尋ねてくる。怖くない、訳では、ないけれど。私はどうにか顔を取り繕って、恐る恐る首を横に振ってみせた。

 人差し指で、自分の口角をにっ、と押しあげて。

 

「こわく、ないです。……先生のなら、壊れても、いい」

「馬鹿。壊してどうする」

 

 先生は呆れながらも、サイドテーブルからゴムを取り出し、手早く装着した。その慣れた手つきに、一瞬だけ胸がチクリとする。大人の余裕。先生の過去。

 でも、今は私がここにいる。

 今、先生を受け入れるのは私、だから。

 

 先生が、私の足の間に体を割り込ませてくる。その先端が、濡れそぼった入り口に押し当てられた。

 熱い。火傷しそうな熱。

 

「入れるぞ」

 

 私は先生の背中に腕を回し、しがみついた。腰が、身体が、ゆっくりと沈み込んでくる。

 

「あ、あ、ひゃあ」

 

 入り口が限界まで押し広げられる感覚。太い。硬い。ミシミシと音がしそうなほどの質量が中に侵入してくる。

 

「っ、ぐ、ぅぅ……!」

「……力むな、ゆっくり進めていくから」

 

 先生は言葉通り、焦らすようにゆっくりと、時間をかけて進めてくれた。ミリ単位で内壁を擦り上げながら。狭い膣内が、先生の大きさ形に変えられていく。……そんな、苦しいほどの充満感。

 お腹の底まで、先生で埋め尽くされていくのが、嬉しくて、愛おしくて、たまらない。

 

 やがて、根元まで完全に収まった瞬間。

 

「は、ぁ……っ、入っ、た……」

「……痛く、ないか」

「いたくない、ないです、痛くない……」

 

 先生が、苦しげに顔を歪めて息を吐く。の表情がたまらなくセクシーで、私は思わず腰を揺らした。

 

「うごい、て……先生、動いて……」

「こら、無理をしようとするな」

「でも……っあ!」

 

 先生が腰を引き、そして打ち付ける。

 ズチュッ! と激しい音が響いた。

 

「あ、っ! んあぁ!」

 

 深い。指なんて比じゃない。最奥の子宮口を、直接ノックされるような衝撃。突き上げられるたびに、私の体はシーツの上で跳ねる。

 

 そして、その衝撃に合わせて、私の大きな胸も激しく揺れた。重力に逆らうように跳ね上がり、また落ちて、潰れる。……自分の視点で見ていても変なのだから、先生から見たら、ますます滑稽だろう。

 先生の胸板に押し付けられ、形を変え、汗ばんだ肌同士が張り付いては離れる。

 

「……っ、乳が、邪魔だな」

「あ、んっ、ごめ、なさ……っ!」

「謝ることはない。……最高だ」

 

 そう言って、ピストン運動を続けながら、再び私の胸を掴んだ。動きに合わせて揉みしだき、指を食い込ませる。

 

「わ、あ、あ、……!」

 

 下からは剛直で突き上げられ、上からは大きな手で胸を蹂躙される。快感の許容量を超えて、頭が真っ白になる。

 

 先生の汗が、私の胸に滴り落ちる。

 先生の吐息が、私の顔にかかる。

 

 そのたびに私は、先生とえっちをしている現実を生々しく思い出して、泣きだしたいような気持になるのだ。すき、すき、すき……せんせいのことが、だいすき。

 

「岸辺、さん……っ! きしべ、しゃ……ッ! すき、すきぃ……っ!」

「……名前を呼ぶな。うっかりすぐ出しそうになる」

「すきっ、すき……だって、きしべさんのこと、だいすきなんだもん……!」

「っ……ああ、分かった、分かった」

 

 あ、いま、先生の余裕が目に見えて崩れた。嬉しい。たったそれだけのことが、たまらなくうれしい。私がしまりなくへらへら笑うと、先生は私の口を塞ぐように、あるいはもう何も見たくないとでも言うように、唇を重ねた。もう好きと言葉に出して言えなくなってしまったから、それに代わって気持ちを伝えたくて、何度も何度も先生の唇を吸った。

 

 激しくなる音。揺れる胸。絡み合う視線。

 

「~~~……♡♡♡」

 

 そうして、身体中がスパークするような絶頂に全身を呑み込まれた。。……それとおんなじタイミングで、先生が私の中で脈打ち、熱いものを吐き出していく感覚がゴム越しにでも伝わってきた。あ、一緒のタイミングでイけた。嬉しい、嬉しい。

 

 私の内側も呼応するように収縮し、先生を締め付ける。長い、長い余韻。

 

 先生は私の胸の上に倒れ込むと、重たい頭を、私の豊かな谷間に埋めた。私の胸が先生の枕になる。

 ドクドクと早い先生の鼓動と、私の鼓動が重なって、一つのリズムを刻んでいるみたいで、ますます嬉しい。

 

「重い、です、先生」

 

 しばらくたってまともな言葉が喋れるようになってから、掠れた声で訴えかけるけれど、先生は変わらず胸に顔を埋めたままだ。

 

「……」

「せんせ」

「……」

「……せんせい」

「……」

「…………わかった、わかりましたよ」

 

 私は、汗で濡れた先生の髪を、優しく撫でた。このやたらに大きくて悪魔討伐には邪魔なばかりの胸も、今日ばかりは役に立ったのかもしれないと思うと、嬉しい。

 

 

 

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