団長と誓いを交わしたが、すれ違って病状が悪化して入院したコルベットさんが、主治医の青年医師くんと共に様々な困難に立ち向かった結果、医師くんとたっぷりイチャラブ❤愛し合ったことで団長との関係を整理する話 作:鍵山ゆーな
リオナイトは、その日から医師としての職務に復帰していた。とはいえ、心のどこかが置き去りにされたままだという感覚は、どうしても拭えない。それが怪我の後遺症ではないことだけは、彼自身が一番よく分かっていた。
朝の一件以来、コルベットとは顔を合わせられていない。彼女の姿が見えないこと自体が、胸の奥に小さな棘のように引っ掛かっていた。それは痛みというほどでもないのに、息をするたびに存在を主張してくる。
そんな中で、彼が最初に向き合うべき相手は決まっていた。
「瀕死の僕を救っていただいただけでなく、コルベットさんに医術の心得まで教えてくださったと聞いています。……心から、感謝します」
深々と頭を下げるリオナイトに対し、レッドチューリップは一瞬だけ視線を彷徨わせた後、どこか歯切れの悪い笑みを浮かべた。
「いや、いやいや……あなたのお師匠様には、常々
その妙な間と赤面は、彼女だけではなかった。妹たちも、それぞれ微妙に目を逸らしている。
「……?」
明らかに何かを隠している空気。だが、リオナイトにはその理由が分からなった。その鈍さに、レッドチューリップは一つ、わざとらしく咳払いをした。そして
「……先生。ゆうべは、
ぼそり、と一言。それで全てを把握するに至ったリオナイトは
「……ッ」
耳まで一気に熱が上がる。つまり昨夜のコルベットとの
「……重ね重ね、申し訳ありません。お恥ずかしいところを……」
内心頭を抱えつつ、深く頭を下げるリオナイトを、
「いやぁ、若いっていいわねぇ……なんてね。先生も、随分とお元気なようで」
レッドチューリップは軽く笑い飛ばす。だが、その笑みが消え、彼女の目が医師のそれに戻るのもまた、早かった。
「それで。コルベットちゃんの本音は、本人から先に聞いてるけど……先生としては、どうなの?」
それは問う彼女からしてみれば大問題。リオナイトにも感情が伴っているかどうかが、非常に重要だと彼女は感じていたからだ。その質問の意図を測りかねて彼が小難しい顔で言い淀んでいると
「というか。あなたたち、どういう関係?」
レッドチューリップは一拍置いて、静かに続ける。その問いは、あまりにも真っ当だった。
リオナイトとコルベットの関係は、表面だけを切り取れば、春庭の未来を背負って立つ男と誓いのある花騎士と、若い医師との禁断の男女関係。それは彼自身が医師として、そして春庭に身を置く者として、最もしてはならないと理解している類のものだ。
それが理解できるからこそ、そこまで露呈してしまったならばと、リオナイトはいよいよ覚悟を決める。
「……分かりました。あなた方だけには、お話しします。ただし……他言無用で。いいですね?」
彼の医師としての真剣な眼差しに、四姉妹は、医師の矜持にかけて頷いた。
「実は、あの行為は……治療、なのです。古代花騎士性魔力循環過剰症……ご存じとは思いますが。その最も有効な対処療法が……性交による循環調整です」
理論、症例、効果。リオナイトが全てを説明し終えた後も、妹たち三人は半信半疑の、えもすれば軽蔑とも取れる表情を浮かべていた。だが、ただ一人
「……なるほどねぇ」
長姉のレッドチューリップだけが、静かに納得の息を吐いた。
「だから、あの子は団長と離れている筈なのに、あんなに安定してるのね。ようやく腑に落ちたわ」
彼女のその仕草は、ナンテンがリオナイトが出した仮説や論に対して良い答えを出したと褒めた後に、その答えの破綻したり矛盾したりしている部分を容赦なく突き刺してくる時の様子に似ていた。
だから彼はレッドチューリップの心中に自身の得体の知れない何か重要な答えが存在していると直感で思っていて、
「……すみません。先生は、どうしてそこまで納得を?」
ついそれを興味本位で問うてしまう。そこでレッドチューリップは
「はぁ~~~~……ほんっとに、鈍い」
盛大な溜息を吐いた。そして、
「あなたね。そこまで調べ上げておいて、なんで自分が『依存されてる側』だって気付かないの?」
彼の欠点をはっきりと指摘してやった。その鋭すぎる指摘に、リオナイトは思わず言葉を失う。
「依存してない相手に抱かれようなんて思うのはねぇ、よっぽどの快楽主義者か、ただの
レッドチューリップからの続けてのそれは、やはり鋭く、そして決定的だった。彼女が自分をどう想っていたか。その視点だけが、リオナイトの内から完全に抜け落ちていた。
「……だから、あの子は朝、逃げたのよ」
その一言が、静かに、しかし確実にリオナイトの胸を打った。彼はそこまで指摘されて、ようやく理解し始める。
自分が向き合うべきなのは、病でも、その治療法でも、古代花騎士という存在でもない。コルベットという一人の女性の感情なのだと。
確かにそれは、医学書のどのページにも書かれていなかった観点だった。そしてそれは、彼自身がこれから一切目を逸らさずに向き合わなければならない最重要課題でもあった。
リオナイトがレッドチューリップの鋭い追及を受けてたじたじになっていたその頃。そこから少し離れた自らに宛がわれた客室で、コルベットはやはり頭を抱えていた。
「なんで……私、逃げちゃったんだろ……」
それは朝の出来事。彼女もまた、自身の感情と行動が乖離しているという事にはっきりと気付かされていた。
リオナイトに愛されて幸せだと思っていた筈なのに、身体は羞恥を感じて咄嗟に動いていた。裸など、とうに何度も見せあった間柄なのに、今更どうして。
そこまで考えて、彼女はようやく気付かされる。王都から出る前とは既に前提が変わってしまっているということに。
今までは必要な「治療」だった。だから触れられることも、見られることも、必要な行為として受け止められていた。けれど今は、違う。
「そうか……リオくんは……私の、好きな人、なんだ……」
自分の中に芽生えた感情に、コルベットは小さく息を呑む。だからこそ、はしたないところを見られるのが、怖かったのだ。そしてそれを自覚した途端、
「あああ……しかも私、昨日あんな恥ずかしい格好で……。最後なんか、リオくんに、もっと、って自分から跨っちゃって……うううぅ……。でも、でも……すっごく、よかった……❤」
昨晩の情事の内容をすっかり思い出した彼女は、真っ赤に染まってしまう。だがそれでも彼に抱かれたという事実に後悔が一切見られないというあたりが、その心境の変化を如実に物語っていた。
だからこそコルベットは、
「リオくんに、ドスケベえっちな花騎士だって思われて、ドン引きされて、嫌われたら、どうしよう……。もう、元の仲良しには戻れないのかな……」
はしたなく快楽を期待する気持ちと、はしたなく乱れたことでリオナイトに見捨てられるかもしれないという不安が入り混じった、複雑な心境となっていたのだった。
「やっぱ、お姉ちゃんたる私が、ちゃんと謝らなきゃダメ、だよね……?」
何に対して謝罪すべきかについて、未だ彼女自身整理も理解もできてはいなかった。だが、取り敢えず関係を修復するにはどちらかが歩み寄らねばならない。それを課題として理解していたコルベットは、意を決して部屋から出ようとする。その刹那だった。
「コルベットさん、いらっしゃいますか……?」
唐突に戸を叩く音。それに前後して、リオナイトからの声が掛けられた。それに驚いた彼女は
「ひゃ、ひゃいっ⁉」
思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「ああ、よかった……そちらにいらしたのですね」
リオナイトはどうやらコルベットの所在が確かめられたというそれだけで安心したようだ。無理に部屋に入ってこようとはしない。
「コルベットさんも、きっと戸惑っていらっしゃって、どういう顔をして僕と顔を合わせたらいいのか、わからないものと……理解しています。だから、このままドア越しで失礼します」
リオナイトの配慮は、先程までのレッドチューリップからの叱咤激励を踏まえたものだった。それを彼女は彼なりの優しさによるものと受け取っていた。
「昨日の、その……えっちのことです」
リオナイトは言葉を選びながらも、遂に逃げの言葉を使わなかった。行為の本質を正しく言い当てた言葉で、昨晩の事を顧みようとしていた。それをなんとなく察したらしいコルベットは、
「……うん」
一旦冷静さを取り戻して彼の話を聞いてみようと思ったようだ。
「今までは、必要なことだという言い訳ばかりで、自分の気持ちとか……コルベットさんがどう考えているのか、とか……その辺が疎かになっていた気がします。でも、それじゃ、ダメだと思ったんです」
それはコルベットが考えていたこととほぼ同様の事だった。そして、
「リオくんは私がモヤモヤしていた感情を具体的な言葉に出来て、一歩進んでいる。それだけでも流石は私の主治医だ」
とコルベットは実直に感心していた。だから
「私、ね……怖かったの。いつか、こんなはしたないこと、続けてたら……いつかリオくんに、見損なわれちゃうのかな、って思って……。だから、逃げちゃった……。ごめんね、傷ついたよね……」
彼女は自然と今朝の行動について、自分なりに分かった事を伝えた上で素直に謝していた。
「いえ。いくら治療とはいえ、そもそもが倒錯的だったのですから、そう考えてしまうのも当然です……。そしてそうであったとしても、「おかしい」という点を正す事から逃げていたのは……間違いなく僕です」
リオナイトは彼女の言葉を否定はしなかった。いや出来なかった。憧れだった女性と身体を交えられなくなる。彼もまたそれが怖かった。だから、倒錯を正そうとすることから逃げていた。つまり彼等はお互い様の状態だった。
「でも、これだけははっきり伝えたくて。コルベットさん以外が、もしこの病気で苦しんでいたとしても、僕は……。他の人にはコルベットさんにしたようには、決してしません。患者がコルベットさんだからこそ、この治療法を続けたいと、思っています」
続けてリオナイトが口にした言葉には、その治療の為の行為自体も、彼女の為だけにする特別だ、という深い意味が込められていた。
それを理解した彼女は、思わず感極まってしまっていた。扉一枚隔てただけなのに、彼の言葉が胸の奥に直接触れてくるような気がしたからだ。
「……それって……治療だから、とか……義務だから、じゃ、なくて……?」
コルベットの声は、かすかに震えていた。彼女は自分でも気付かないうちに、答えを欲しがっていた。
「はい。医師としての判断ではありません。……一人の人間として、です」
リオナイトは、それを迷わず肯定した。短い言葉だったが、その重みはコルベットには十分すぎるほど伝わっていた。
「だから、もし……コルベットさんが、もう怖いと思うなら。あるいは、距離を置きたいと感じるなら……僕は、その選択を尊重します。治療の方法は、別の形を探します」
それは、最早逃げではなかった。初めて彼が、自分の欲望よりも彼女の感情を優先して差し出した選択だった。ドアの向こうで、コルベットは唇を噛みしめる。
「……ずるいよ、リオくん……。そんなふうに言われたら……私だって、この気持ち……ちゃんと考えなきゃいけなくなるじゃないっ」
コルベットの小さく笑う声。だが、それは泣き笑いだった。
「私ね……怖かったけど……嫌だったわけじゃ、ないの。むしろ……大切にされてるって、感じてた。だから余計に、壊したくなくて……逃げちゃった」
彼女は、ようやく自分の感情を言葉にできていた。そしてコルベットからの続けての
「……それに……。治療じゃなくなったら……触れてもらえなくなるのかな、って……思ったら……それも、怖かった」
実質的な情愛の告白に、リオナイトは息を詰める。
「コルベットさん……」
「だから……えっと……」
扉越しに、彼女はそっと深呼吸をした。そして、
「今すぐ、どうこう、って答えは出せないけど……逃げたままは、嫌。ちゃんと……向き合いたい。だから、ちゃんと話そ? 私もあなたも、お互いを知らな過ぎたのかも、ね」
はっきりと希望を口にした。コルベットのその言葉に、リオナイトは静かに、しかし確かに救われていた。
感情の起伏を落ち着かせたコルベットは、改めて自室にリオナイトを招いていた。
彼女の希望で、リオナイトは彼女の豊満な乳房を背にして、彼女に抱きかかえられていた。そんなコルベットが知りたかったのは、ただ一つ。
「リオくんは、どうしてそこまで、私に尽くしてくれるの……? 私は、ただの、古兵。あなたとは、接点なんてなかったはずなのに……」
彼がそこまでして献身してくれる行動原理だった。リオナイトはそれを問われたことで、そもそものすれ違いが最初から起きていたということを改めて理解するに至っていた。
「古い話をします。僕の実家は、この町から更に西に二日行ったあたりにある、森の中の村にありました。そこは、今では既に樹海に飲まれています」
リオナイトが、静かに語り出す。その言葉選びで、コルベットは既に彼の故郷は失われているのだということを理解し、息をのんだ。
「飛行型の、大型の、害虫でした。今で言えば古代害虫と呼ばれているものでしょう。それに呼応して、大小の害虫が群れを成して襲ってきました。僕の村は、それらに襲われて、あっと言う間に、潰滅しました」
震えながらの彼の口から続けて語られた事実に、トラウマを想起されているのだろうと感じたコルベットは思わず彼の身体を強く抱きしめていた。
「……ありがとうございます。でも。もう死にかけで、ダメだ、って思った時。そこに救世主が現れたんです。それが、コルベットさん。あなただった」
「えっ……?」
唐突に、自分の名前が出て来たことで、彼女は固まってしまう。彼女はその光景に心当たりが無かったからだ。
「やはり、そうなのですね。そのあたりの事情は、師匠から何度か聞きました。あなたは封印が解け掛った状態でこのブロッサムヒルを彷徨っていたと。だから、僕は、恐らくその時に、コルベットさんに無意識のうちに救われた者の一人……なんだと思います」
リオナイトは続けた。それで彼女はようやく彼が自分に深い敬意を抱き続けてくれていることの真意を知ったのだった。
そこからは単純だった。コルベットに憧れたリオナイトは彼女が病弱であるという噂を聞いて、居ても立っても居られなくなった。どうしてもあの時命を救ってくれた人に恩返しがしたいと、医師を志したと。
「ですから、小さい頃から憧れていたコルベットさんの主治医になれて。そしてあの日。あなたに僕の初めてを貰っていただいて……。偶発的な出来事でしたけど、それはとても光栄な出来事でした。だからこそ、あなたが僕から離れていってしまう事が、怖かった」
どこかで手段が目的に入れ替わりすれ違っていた結果、昨日までの倒錯的な形になってしまった。彼は今までの倒錯的な行動の原因をそう結論付けた。その分析には、コルベットも納得だった。
「結果的に、僕は今、あなたを救えているかもしれない。でもそれはまだまだ途上です。あくまで、こうして触れ合う事、そして身体を交えることすらやはり対処療法でしかなく、根治は現状無理です。だから、最後まで責任を持ちたい。例えどういう結果になっても、です」
何時しか再び抱きしめる力を強めていたコルベットの手にそっと触れながら、リオナイトはもう逃げはしないと力強く宣言した。すると、彼女は再びぽたぽたと涙を零していた。それは明らかに嬉し涙だった。
「ふふ、我ながら理屈っぽい……。一人の人間として本当に言いたいことは、そうではなくて……。あの、ですね……。僕のこの身体と命は、コルベットさんに救ってもらったものですから……。治療の為とはいわず、どういう形でも、あなただけに捧げるつもりです。それも、間違いなく、約束します。だから、いいんです。あなたが求めてくれるだけで、僕はうれしいから……」
コルベットの涙が再び落ち着いたのを見計らったリオナイトは、改めて彼女への気持ちの答えを口にした。
今すぐに結論は出さなくてもいい。身体が欲しいなら求めてくれても、それは決して嫌ではない。それを改めてリオナイトに保証してもらえたことで、コルベットはすっかり安らいだ気持ちにさせられていた。
こうしてリオナイトとコルベットは、自分たちの関係を静かに整理した。
それは最早「魔力調整のための治療」ではなく、互いの不安や孤独が発作へと変わらぬよう、合意のもとで寄り添い合うための、名付けるならば「ひとつの儀式」だった。
その関係が、外から見れば身体を重ねるだけの間柄に過ぎないとしても、それは二人にとって十分だった。明確な言葉や約束は交わさずとも、確かに惹かれ合っているという暗黙の了解のもとで触れ合うことを、二人は選んだのだから。
それを終えたリオナイトが翌日から取り掛かった仕事は、投宿する宿屋を一棟丸々借り切った上で、本格的に仮設の病院として機能させられるようにするための町側との交渉だった。
それにはリオナイトの他、引き続き協力を申し出てくれたチューリップ四姉妹を代表してレッドチューリップ、そして彼の助手であり、新たな医師団の一人となったコルベットが同席していた。
コルベットが見て回った限り、この町に早急に必要なのは清潔な環境で医療が提供されるための施設。つまり「病院」だった。花騎士の死亡事故も、それがあったならば防げた話かもしれない。彼女はそう考えていた。
「成程、それは願ってもない話です。私共は医療の手助けが必要でも、それに縋る事すら現状できておりません。それを往診という形でも改善してくださるのなら、病院の設立にはいくらでも協力致しましょう」
「ありがとうございます。僕も王都に戻り次第、こちらの宿場町に定期的に往診があるように早急に手配いたしましょう」
町側としては、かの花騎士病死事故に加えて、周囲の害虫の動きが非常に活発となっていることも重なって、ますます往来で訪れる者達が減りつつあったのを課題としていたようだったから、リオナイトが示した救済案に概ね協力的であった。
かくして、彼等が元々借り上げていた宿は、一棟丸ごと仮設の病院となる事が決定した。その設営に関してはチューリップ四姉妹が中心となって行われることとなった。
一方でリオナイトとコルベットは、彼が負傷していた間に病室として使用されていた部屋を早速仮設の診療所として流用して、外来患者の受け入れを開始していた。
病院とするからには普段の生活をするには手狭だろうということで、隣接していた宿の建屋も彼等に貸し与えられることになった。リオナイトとコルベットの関係を配慮したのだろうか、チューリップ四姉妹はそちらの建物に寝食をする場所を移していた。
生活する拠点が分かれたことで、以前よりは密接に関わる事は少なくなったもの、リオナイトとコルベットと彼女達との交流は適切な距離感で継続されていた。
そんなある夜。その日の診察時間を終えても診察室に残ってカルテの整理を行っていたリオナイトの許に
「リオくん、お疲れ様」
コルベットが温かい飲み物を差入れにやって来た。彼は小さく礼を言ってそれを受け取る。彼女は患者が普段座るための丸椅子をリオナイトが診察に使っている机の横に持って来ると、彼に寄りかかる様にしながら腰掛ける。
そんな彼女がふと文中に気になった文字を見つける。
「一般の人も、魔法力って持ってるんだね」
それは花騎士として当たり前の事過ぎたからこその視点だった。リオナイトはコルベットのその疑問に勿論です、と頷く。
「花騎士には、魔法力に素質のある方が世界花の祝福を受けることで、初めて芽吹いてなる事ができますが。そこまでには至らなくても、魔法力は多かれ少なかれ、誰でも持っています。例えば……」
そこまで口にして、リオナイトは静かに自身の魔法力を発動する。すると
「わわっ⁉ えっ、待って⁉ カルテが飛んでる⁉」
先程まで机の上、彼の目の前にあったカルテのファイルが、自律的に保管用の棚へと戻っていく。それは攻撃特化の魔法力を持つコルベットには絶対に出来ない所業だったから、彼女は思わず感嘆の声をあげていた。
「とまぁ……花騎士でない僕でも、このくらいの簡単なことはできるということです」
実践して見せたことで、コルベットは実直に納得した様子だった。彼のそれに目を輝かせて拍手を送っている。その様はまるで、初めて手品を見た少女のようなあどけさがあった。リオナイトはそのコルベットの仕草に、小さいながらも思わず胸を突かれていた。
「そうだとしたら……ねぇ、リオくん。なんかさっきのカルテ、変だと思う。この人もだけど……魔法力、おかしなぶれ方してない?」
コルベットが違和感に気付く。確かに正常値の範囲内ではある。だがどれも魔法力の数値に不自然な上振れが見られた。
該当のカルテに記載された人物は、どれも今日風邪様症状でやってきた二十代の男性と三十代の女性。職業や住環境は一切異なり、症状が出た事について、心当たりはないとのことだった。
最近こういう症状の患者がぽつぽつ見られるようになってきていたから、それに何か不気味な「引っかかり」を覚えたリオナイトはカルテを見直していたのだった。そこにコルベットの直感が加わったことで、違和感はより強くなった。
「確かに……変だな」
リオナイトは小さく呟いた。今日の患者たちは皆裕福そうで、清潔な水を使い、保存状態の良い食料を口にしている筈だった。そして彼等からは害虫被害の申告も一切なかった。
魔法力の乱れを招く要因として考えられるものが、どこにも見当たらなかった。それでも確かに、何かが「内側」から崩れ始めている感触だけが、リオナイトの中に消えずに残っていた。
「ふ、ぅぅ……っ」
これ以上共通項や再現性が無い以上、違和感ばかりを詮索しても仕方がない。そう感じたリオナイトは問題の追及を一旦止め、身体を伸ばした。
「続きは、明日……かな?」
「そうしましょう。あまり根詰めても身体に毒ですからね」
今日の業務を終了するとコルベットと認識を合わせたリオナイトが立ち上がろうとする。すると不意に彼の白衣がきゅっと掴まれる。それはコルベットによるものだった。
その彼女は何かを求めるかのような、伏せ目がちな表情で彼を見つめていた。それに頷いた彼は改めて、その裾を掴む為に差し出されていた手を握って応答する。
それは二人だけの秘密の合図。暗黙だからこそ、口に出さずとも伝わる方法で、二人はタイミングを計っていた。
立ち上がったリオナイトはやはりどこか恥じらう様子を見せるコルベットの手を引いて、連れ立って二人が普段一緒に眠る、少し前までは彼女に宛がわれていた客室へと向かう。
パタン、とドアが閉まる音。そこから先は、医師でも花騎士でもない、ただの二人の時間だった。
しゅうしゅう、と湯気が立つ音が部屋に響く。リオナイトが暖炉で湯を作っていた。
交易中継地とはいえ地方のまだ大きいとはいえない宿場町。おいそれと入浴するなどいうことは頻繁には難しい。
だからどうしても、日々の清潔維持は温めた湯に浸したタオルでの清拭が主だ。
「お湯、ありがとね。っ、ふぅ……」
準備をするリオナイトに声を掛けた、看護服を脱いで下着姿となっていたコルベットは、早速かなりカップが乳房をしっかりと支えられるように大きめに作られた、縫い付けられたレース生地と草花の紋様の刺繍が大人びた印象を与える藤鼠色のブラジャーを取り外してゆく。彼女が後ろ手にホックを外すと、それでも窮屈そうに収まっていた柔肉がぶるん、と揺れ動く。
豊満な双乳を惜しげもなく晒しつつ、遠征中であって手入れが難しいことから以前よりも濃いめに陰毛が生え揃う様子もはっきりと見て取れるほど透け感がある、ブラジャーと同様の意匠である大人の色香があるショーツもゆっくりと脱いでしまい生まれたままの姿となったコルベットは、丁寧に畳まれていた看護服の上に、身に着けていた下着類を置く。
彼女は続けて長い緑髪を、髪留めを使って後頭部に丸くまとめてゆく。身体を拭き合うには、長髪はどうしても邪魔となってしまうからだ。
「ほら、リオくんも早くっ」
準備を終えたリオナイトをコルベットが急かす。それに頷いた彼は、白衣を机の上に置いて、作務衣を開けさせてゆく。
生まれたままの姿となった二人は、まず立ったままゆっくりと抱き合う。それは「その先」が無い日でも必ず行われる、二人の儀式のようなものだ。それで彼等は互いの身体に異変がないかどうかなどを確かめ合っている。
「肩、凝ってるね」
「やはり、座り仕事ですから……。わ、コルベットさんもかなりすごいですよ」
「うん、そうかも……最近、素振りもしてないから……運動不足かな。あと、おっぱいも結構肩に来るのよね……」
「あはは、確かにすっごい大きさですもんね。でもふわふわで……僕は好きです」
コルベットがリオナイトの背中のあたりに優しく触れながら指摘する。それはコルベットも同様のようで、二人は暫し互いの肩を揉み解すように触れていた。
それが一段落すると、二人はそれぞれ互いの他の部位へもゆっくりとかつ優しく触れて、見えないところに傷や吹出物などがないかも念入りに確認してゆく。
「コルベットさん、少し汗かいてますね」
「今日はちょっと患者さん多かったから、走り回ったからかも……ごめんね、臭うかな」
「いえ、全然大丈夫ですよ。寧ろコルベットさんのいい匂いが、強くて……安心するというか」
リオナイトは少し彼女の身体を強く抱いて、甘えるように彼女の肩へとしな垂れかかる。それをコルベットは嬉しそうにしっかりと受け止めていた。
「汗かいてるなら、冷えちゃうといけない。早速しましょうか」
彼の提案に、コルベットは小さく頷いて寝台の端へと腰掛ける。その彼女の身体を、リオナイトは温めたタオルでゆっくり、だがしっかり念入りに清拭してゆく。
「おっぱいも、おねがい……。やっぱり、おっきいと、汗、溜まっちゃうから……」
コルベットの要望に頷いたリオナイトは、早速彼女の柔らかな双乳に優しく触れつつ、彼女が汗が溜まりやすいと常々口にする谷間や下乳の裏側を重点的に拭ってゆく。
「ちょっと、張ってますか?」
「そう、かも……。もうそろそろ二週間だもんね。
コルベットの乳房を触ったついでに、とリオナイトは婦人科的観点でも彼女の身体を確認していく。その様は最早すっかり総合診療医の様相を見せていた。
「下着も失礼……下物は、大丈夫そう、と」
続けてリオナイトは、彼女が先程脱いだばかりのショーツを手にして、クロッチに着いた汚れに血液などが混じっていないかを確認していた。それに
「うう……。なんか、ぱんつの汚いとこ、まじまじと見られるのは、やっぱ恥ずかしいな……」
コルベットは思わず赤面していた。毎度の必要な確認であるとはいえ、好意を寄せている男性にそれを見られるのは、はしたないという羞恥の方が勝ってしまうようだ。
「できれば、それまでには王都に戻りたいですね」
「そう、だね。準備が出来たらレッドチューリップ先生にここは一旦お願いして、私達は王都に戻って、だっけ」
「ん、ありがと❤ それじゃ、交代しよっか」
自身の清拭が一段落したことを見計らったコルベットが、声を掛ける。それで二人は位置を入れ替える。
彼女もやはり、汚れを落とすようにしっかりと、だが優しく彼の身体を拭ってゆく。時折コルベットも感じてしまうような部分に触れるとリオナイトは身体を小さく震わせる。その度に
「ふふ、かわいい……❤」
コルベットは彼の様子を実直に口にするようになっていた。それは、王都に居た時分には無かった確かな変化だった。
「あむ……❤ ちゅっ❤ れろ……っ❤」
不意に、彼女がリオナイトの乳首を優しく咥え、舌先でちろちろと舐り始めた。コルベットから与えられる突然の性感に、思わず彼は身体をびくびくと震わせてしまう。
「あは、リオくんも、ちくび❤ よわいんだぁ❤ それじゃ❤ ん……❤ れる……っ❤」
彼の反応にすっかり気を良くしたコルベットは、彼の身体をゆっくり寝台に押し倒しながら自らも彼の横に寝そべると、彼の新たに発見した性感帯を優しく舌先で愛でる動きを止めぬまま、手にしていた濡れタオルを彼の滾り始めていた逸物に宛がって、優しく恥垢や小水による汚れを拭きとってゆく。
汚れが落ちたのを確認した彼女はタオルを寝台の外に放ると、そのまま優しく幹から亀頭に掛けてを溢れ出てきつつあった先走りを使って潤滑を得ながらちゅこちゅこと扱いてゆく。無論、舌先の動きも相変わらず止めぬままだ。
「コルベットさん、それ、っ……」
「ふふ……❤ きもちいい……?」
優しく、かつ甘美な二点責め。それも今までの彼女では考え得なかった新たな奉仕方法だった。
「ぼ、ぼくも……」
「あ……っ❤ なめて、くれるの……? うれしい……❤」
リオナイトからの声掛けに蕩けた表情で微笑んだコルベットは、身体を起こして仰向けに寝転がった彼の頭上に尻を向けながら覆い被さる。
そうして相互口淫の態勢となった二人。リオナイトは早速既にじっとりと蜜を溢れさせつつあるコルベットの秘唇や陰核に優しく舌を這わせる。彼女はそれに思わず甘ったるい嬌声を漏らしてしまう。それもまた彼女が団長にもして貰った事がない愛撫だった。
負けじとコルベットもすっかり滾ってしまっていた彼の雄蕊を咥えて、先端を舌で舐りながら幹を優しく左手で擦り、リオナイトの性感を刺激してゆく。
「今日は、さいごまで……?」
「ん……❤ リオくんの、お○んぽ❤ わたしの、お○んこ、に❤ ほしい、な……❤」
雌蕊から口を離したリオナイトの確認に、やはり雄蕊から口を離したコルベットが頬を染めつつ頷く。それも二人の関係が整理されてから有意に表れた傾向だった。
どこまで進むかは、その時の二人の気分次第。この日は最後までということになったが、軽い性的接触だけで終わることも、勿論ある。
「コルベットさん、いい、ですか……?」
「ん……❤ お○んぽ❤ いれて……❤」
そして二人は正常位、コルベットが仰向けに横たわった状態のところにリオナイトが覆い被さる形で交わる事が多くなった。以前はコルベットからの一方的な騎乗位や対面座位ばかりであったから、それも大きな変化だ。
彼女からの「合意」を得たリオナイトが、ゆっくりと彼女の秘唇へと逸物を侵入させてゆく。
侵入してくる逞しい雄蕊が膣壁を抉り、膣道を無理矢理押し広げてゆく感覚を得たコルベットは
「ひ、ひぁっ……❤ す、すご……っ❤ リオ、くん、のっ❤ すっごく、おっきいの❤ はいってきて……っ❤」
早速待ち侘びた肉棒の挿入によって与えられる快感で身体を震わせている。だが、リオナイトは直ぐには抽迭を開始しようとしない。彼はコルベットからの
「はやく、うごい、てぇ❤」
という蕩けた視線を感じながらも、彼は暫く膣の形が肉棒に馴染むまで膣奥深くまで肉棒を挿入したままにして、コルベットの豊満な双乳の、ぴん、と膨れ勃って存在感を主張している乳首を優しく舐るなど、別箇所の愛撫に専念していた。そうして
「ん、んぅぅっ❤」
コルベットが思わず腰を動かして快楽を欲してしまう状態まで焦らしたリオナイトは、いよいよ満を持してゆっくりと抽迭を開始する。
「ん、やぁっ、だめ、だめぇ……っ❤ ん、おっ❤ おく……ごりごり❤ しちゃ、だめぇ❤ きもちいぃ……❤ おっきぃ、お○んぽ❤ すっごく、きもちいぃよぉ……っ❤」
彼女は数度軽く抽迭されただけでも早速絶頂に至らしめられてしまったようで、気持ちよさそうに嬌声を上げて悦ぶ。
リオナイトの側も実のところ余裕を失っていた。コルベットの膣は、肉壺は咥え込んだ逸物を優しく舐りつつもきつく収斂し、精を搾取しようとしてくる。
そして少しでも抽迭をしようものなら、膣壁が肉棒をゆっくり蕩かすかのように蠢動して、彼に容赦なく快感を与えてくる。
それに耐えきれなくなってきたリオナイトは
「コルベットさん、っ……きもち、いい……?」
「んっ❤ すっごく、いい、っ❤ リオくんの、お○んぽ❤ かたくて、おっきくてっ❤ ん、ぅぅっ❤ おく❤ もっと❤ もっと、いじめて、っ❤ ひぅぅ、っ❤」
コルベットの様子を確かめながら、少しずつ抽迭の速度を高めてゆく。
リオナイトの肉茎の根本には既にどろどろと精が溜まりつつある。それを感じ取っていた彼は、コルベットの膣内にそれを放つべく、先程よりも大きく抽迭を繰り返して高みを目指す。彼女は最早譫言で
「ん、ぅぅ❤ リオくん、の❤ お○んぽっ❤ しゅごい、よぉ……❤ リオくん、の❤ お○んぽ❤ わたしの、お○んこに❤ ぴったり、すぎ、てっ❤ きもち、いい、よぉ❤」
彼の肉棒の虜になってしまっているということを暗に認めてしまっている。それに嬉しさを感じていた彼は、いよいよ止まらなくなり、絶頂へと向かって抽迭の間隔を短くしてゆく。
「あッ、らめ……イぐ……っ❤ おっきいの、くる、っ❤」
「ぼく、も、もうっ!」
二人は絶頂に至る刹那、互いの身体をしっかりと抱いたままに動きを止める。彼女の最奥にはリオナイトの精が勢いよく迸っている。そのどくどく、と脈動する肉棒の感覚を得たコルベットは
「んぅぅぅぅっ❤ わたしの、お○んこの、なか……で……せーし、でてるよぉ……❤」
恍惚の表情のままで下腹部を撫でつつ、艶のある息を吐いていた。同時に達したことで、二人は確かな充足感と満足感を得る事が出来ていた。
秘唇や逸物、そして随所に溢れた二人の体液を拭って後始末を終えたリオナイトとコルベットは、部屋の明りを落として一つの寝台で同衾する。
入浴の代替で清拭し、そのまま気分が乗ればゆっくりと慈しむかのように身体を交える。それが関係を整理してからの、二人の肉体関係の在り方だった。
一度の回数も求め合う激しさも以前よりは慎ましい方向へと落ち着きつつあったが、それでも互いの充足感は王都に居た時のそれよりも段違いに高かった。
先程までの行為の余韻で幸せそうにしているコルベットの身体を、リオナイトがそっと抱き寄せる。
「……っ❤」
それに、彼女も嬉しそうに応じて、彼の手を背に回して強く抱き返す。幸せな気分を胸いっぱいに溜め込んだコルベットは、明日も頑張れそう、と頬を綻ばせる。
「こんな幸せな日々がずっと続けばいいのに……」
彼女はそう思いつつ、既に寝息を立てているリオナイトの寝顔を眺めながら、ゆっくり微睡の中に落ちて行った。
リオナイトが違和感を覚えた、魔力の異常な上振れが見られる患者は、その日を境にして、徐々に増えつつあった。ただし、診療所にやってくる市井の患者は皆イエローチューリップが調合した解熱鎮痛剤を服用することで、数日の倦怠感が残る程度で回復する。
だから違和感こそ残るものの、それは季節性の風邪、もしくは地域性のある軽い熱病のようなものだろう、とリオナイトは当初判断していた。
町から借り受けた、元々宿だった建屋の病院への改装もチューリップ四姉妹の尽力で完成間近となっていた。だから、リオナイトとコルベットはいよいよ王都への一時帰還を検討し始めていた。
当初の予定通り、病院へと発展した建物は一旦彼女達へと移管して仮運営してもらい、その間に王立医療センターに医師と不足しがちな物資の応援を要請する手筈になっている。
将来的にはここを医療中継拠点として機能させることもリオナイトの頭の中には構想として存在したが、それはまだまだ先の話となりそうだ。
かくしてレッドチューリップ達に病院運営に関する引き継ぎを済ませたリオナイトとコルベットが王都への一時帰還を開始する日がやってきた。
「皆さんには本当に、色々お世話になりました」
「その言葉はまだ早いです。大変なのはこれからですから。応援、期待してますよ」
二人の見送りに出たのは、ホワイトチューリップだった。姉三人は非番のようで、連れ立って市場に出かけている様子だ。
「レッド先生、そして他の皆さんにも、よろしくお伝えください」
コルベットも深く頭を下げる。この一月、医師としての基礎はレッドチューリップから教わったようなもの。彼女はコルベットにとっては実質的な師匠であったから、それは当然の反応だった。
「それじゃ、コルベットさん。行きましょう」
「はい。今度こそ、リオくんは私が守ります」
王都からの途上に軽口としていた言葉を、コルベットは再び口にする。但し、そこからはすっかり浮かれは消えていた。彼女のそれには、確かな自信が浮かんでいる。それにリオナイトは頼もしそうに頷いたのだった。
リオナイトとコルベットは慎重な移動を開始していた。町の近辺は害虫の巣窟と化している。それは事前に判明している周知の事実だ。
無論二人も決して無策で二の轍を踏もうとは考えていない。彼等はいわば「伝令役」。それはつまり、かの町の命運を背負っていると同義。彼等の至上命題は無事に王都まで辿り着くことだ。だから、こんな再序盤で躓く訳にはいかなかった。
予めコルベットはリオナイトに音を立てない歩き方を教示していた。彼がそれを用いて先行する。最も危険なのは、横槍と後背からの奇襲だ。だから、殿軍役をコルベットが勤める。二人組としては、現状ではそれが一番現実的な役割分担だった。
「リオくん、止まって」
コルベットが小さく合図をする。これも予め二人で決めていた符牒。常にコルベットが後ろにいるかを定期的に確認する癖が付いていたリオナイトはそれに気付き、後退して彼女との距離を縮める。
「あれ、見て……」
彼の身体を寄せて、彼女が自身と同じ方向を向かせる。そこには
「害虫が、あんなに……⁉」
彼が負傷してきた際に襲って来たのとほぼ同数の「群れ」が存在していた。
規模だけ見れば当時と変わらない。だが、再びあの数で襲われればひとたまりもない。それだけは対害虫戦に関してほぼ素人であるリオナイトでもはっきりと分かる。
「あの子たち、地下に巣があるんだ……」
更にコルベットが気付いたことを口にする。リオナイトもよく目を凝らして見てみると、確かに隊列の先頭は森との境界にある窪地から地下に潜り込んでいる様子。奇襲が地中からだったという事も、これで納得できる。
「ちょっと、回り込みましょう。ロスですけど、下手に刺激して襲われてもたまりません」
「私も、同感。ここはまだ様子見だね」
二人の見解は一致した。彼等は素早く転身し、南東へと先程同様に慎重な移動を開始する。だが。
「こっちにも巣穴……⁉」
コルベットは回り込んだ先でも同じように害虫が出入りしている箇所を見つけて困惑していた。既にそのような場所が二か所もあるということは、二人がまだ見つけていないだけで、他にも多数ある可能性が高い。
「まさかとは思うけど……地下の巣穴で、町が半包囲されている……?」
「えぇ……そんなの、アリですか……? でも、そう考えないと、ちょっと辻褄が合わないですよね。コルベットさんの意見に、僕も賛成です」
コルベットは最悪の事態を想定していた。そして彼女の戦闘勘が、理由は言語化できないがそれが間違いではなさそうだ、ということを告げていた。事態は、二人が思っていたよりも深刻そうだ。
「でも待って。なんだかあの子たち……様子がおかしいね」
コルベットが続けて、どうも彼等の動きが緩慢であるようだ、という事に気付き始める。理由は分からないが、どの個体も妙にゆっくりと進み、隊列も乱れ気味だ。
「何でしょうか。確かに、今まで見てきた害虫のどの個体にも見られなかった動きですね……」
「でも、リオくん。一旦理由を考えるのは後回しにしよ。これはチャンスかもしれない」
コルベットは即断していた。この動きの悪さなら、一番薄い部分を突けば自身の足なら戦闘を経ずともこの巣穴地帯を抜けれる。彼女はそれを確信していた。
「リオくん、しっかりしがみ付いてて。おっぱい以外でね。失敗したら全部パァだから」
彼の身体を抱いたコルベットが軽い冗談で彼の緊張を解しつつ、突入のタイミングを計り始める。それで呼吸を整えた彼もそれに小さく頷いて、荷物を胸に抱いて指示に従う。その刹那だった。
「待って! 待ってくださいっ‼」
後背から必死そうな声が掛かる。それで突入を寸でのところで踏みとどまったコルベットは思わず舌を打った。
「ごめんなさい……」
邪魔をしたということをはっきり自覚していた声の主、ホワイトチューリップはすぐさま謝す。それに殺気を収めたコルベットは小さく首を振った。
「何事ですか。凄い汗と顔色だ」
リオナイトは彼女の様子から異変を直ちに察知して、持っていた荷物から竹筒を差し出しながら問う。小さく謝してそれから水を一口含んで、ようやく一呼吸置けたホワイトチューリップは
「姉さんが……レッド姉さんが、高熱で、倒れてッ……‼」
危急である凶報を口にしたのだった。
急報を受けて、リオナイトとコルベットはホワイトチューリップを伴って町へと素早く踵を返していた。
幸いにも例の緩慢さが功を奏して、害虫たちはリオナイトとコルベットが突破を図ろうとしていた事にすら気付いていなかったようだ。だから、撤退は容易だった。
「すごい熱だ……それに脈もとんでもなく早い」
手慣れた手つきで医療用のグローブを身に着けたリオナイトが、早速レッドチューリップを診る。
そして患者に転じた彼女も流石は医者の端くれ。発病までの状況とバイタルをイエローチューリップに頼んで書き残させていた。だからリオナイトはレッドチューリップの初期臨床像を素早く把握する事が出来ていた。
「レッドチューリップさん。無理のない範囲で構いませんから、教えてください。市場で何か口にしましたか」
リオナイトが真っ先に疑ったのは、食中毒だった。ここまでの急性症状が出るとすれば、彼の知識の内にはそれしかなかった。
「え、っと……げきから、カレー……」
「ちょっと姉さん……何てのを食べてるのよ……」
息を切らしながら口にしたレッドチューリップから出て来たそのメニューに、ホワイトチューリップは嘆息する他ない。
「マジだよ。姉さん、すっっごく、辛そうなの食べてたわ」
「うんうん。水ガブガブ飲んでたもんね」
それをイエローチューリップとパープルチューリップが裏書きする。それで末妹は再び嘆息せざるを得なかったが。愛用のボールペンを顎に当てて逡巡していたリオナイトが
「待ってください。その水って、皆さんが普段持ち歩いている水筒のものですか?」
ふと思いついたことを訊ねてみる。すると
「うんにゃ、水筒のじゃ足りなくて。姉さん、料理店の卓上の水差しからも飲んでたかな……」
「そんな、姉さん……。あまりに、軽率すぎる……」
イエローチューリップが重要な証言を口にした。そしてやはり末妹は呆れてものが言えなくなってしまう。
「なるほど……。それは、煮沸されていない、生水である可能性が高いですよね……?」
それを聞いて更に深く逡巡していたリオナイトが、ふとこの町の衛生状況から推測して口にする。彼のそれは、いよいよ核心へと近づきつつあった。
そしてその指摘で、イエローチューリップの顔色が一瞬で変わった。彼女はすぐさまそれを確かめに、その料理店へと走っていた。
「リオ、ビンゴだよ! あの料理店、井戸から汲んだ生水を、そのまま冷やして提供してたの‼ ついでに井戸の水も汲んで来た。すぐ検査するからちょっと待っててね‼」
彼の推測は正しかった。そして、レッドチューリップの発病が、生水を原因としているという可能性も出て来たことで、いよいよかねてからリオナイトが抱いていた違和感の点が線となって繋がり始める。
「花騎士の原因不明の高熱症状……。そして生水という盲点……。僕たちはもしかしたら、物凄い見落としをしていたのかも知れません」
これは最早ただの病気ではなく、水源汚染からくる感染症の可能性がある。リオナイトから示唆されたその言葉に、室内の空気が一瞬、凍り付いた。そしてホワイトチューリップとコルベットは、その重大さから戦慄を得ていた。
イエローチューリップによる水質検査の結果、井戸水からは謎の粒子が発見されていた。
黴にも似た何か。そしてそれは駆け出し医師であるリオナイトはおろか、戦場で長く野戦医師としての経験があるチューリップ姉妹の三人ですら見たことがない代物だった。
「なんなの、これは……?」
一番困惑していたのは、この手の検査で一番経験がある筈のイエローチューリップだった。彼女が分からないとあれば、他の四人の医師も首を傾げざるを得ない。
「なんか、引っかかります。リオくんは兎も角として、花騎士である私達が発症していないのは、何故なのでしょうか」
その中で一番新米の医師であるコルベットが、直感から核心を突いていた。それを耳にしたリオナイトが
「そうか、煮沸……! 僕たちは絶対に生水を口にしていない。それが発病を防いでいた訳ですね。コルベットさん、すごい‼ お手柄です‼」
レッドチューリップと残り五人の違いを明確にする。それは、この粒子が病原体であることと、予防は比較的簡単であるということが明確になった瞬間でもあった。
だが、解明が少しずつ進むその病は、既に重篤な発症をしてしまっているレッドチューリップの身体を確実に蝕み始めていた。
「ん、あぁ……ッ」
レッドチューリップが突然呻き声をあげ始める。それで医師たちは解明を一時中断せざるを得ない。
「まずい、痙攣はまずい! レッド先生の体力がかなり減ってます‼」
予断を許さない状況へと陥った。それをリオナイトが瞬時に把握する。
「姉さん‼」
すぐさま、ホワイトチューリップが治癒魔法の準備に取り掛かる。だがそこでリオナイトがレッドチューリップの身体に皮膚炎様の病変がある事に気付いて
「ちょっと待ってくださいホワイト先生! 様子がおかしいです! だめだ、素手で触ってはいけない!」
「でもそんな事言ってたら、姉さんがッ‼」
彼女を制止しようとした。しかし最早一刻を争えないと判断したホワイトチューリップはリオナイトの忠告を無視して、かつてリオナイトが危篤に陥った際にも使用した治癒魔法で長姉を救おうとした。ところがだ。
「がふ、っ……」
レッドチューリップはそれを受けた途端、血を吐いてそのまま動かなくなってしまった。
「さ、酸素吸入用意ッ‼」
その結果から、茫然とするホワイトチューリップを余所に、リオナイトが手早く指示を出した。
コルベットがすぐさま備品庫から先日たまたま運よく入手できていた酸素ボンベを抱えて持ってくる。それをパープルチューリップが手早く使用可能な状態へと準備してゆく。
その間、リオナイトからの警告を容れて使い捨てのグローブを装着したイエローチューリップが、姉の口元から噴き出た血を拭い、気道を確保する。
かくしてレッドチューリップはなんとか一命を取り留めたものの、それっきり彼女は意識を失ってしまったのだった。
レッドチューリップの昏睡。明らかな緊急事態だった。だからそれで医師団による病原体の解明は棚上げになってしまった。
そしてその混乱に拍車が掛かるように、次なる最悪の事態が彼等医療チームを襲っていた。即ち、素手でレッドチューリップの身体に触れてしまったホワイトチューリップの発病である。
「姉さんを救えなかったばかりか、瀕死にしてしまって……さらに自分まで、油断で……。もう、医師として失格です……」
明らかに落ち込むホワイトチューリップ。その彼女の手には、レッドチューリップの身体にも表れていた発疹がしっかりと表れていた。
だが、彼女は必死に姉を救おうとした。それを皆分かっていたから、彼女の責任を追及しようなどと思っていた者は、彼等医療チームの中には存在しなかった。
「応援、呼びにいけなかったのがつらいね……」
「コルベットさんッ!」
ぼそり、とコルベットが呟く。それをリオナイトが珍しく強く諫めた。それで彼女は今の発言がホワイトチューリップの感情を考えない、明らかに自分本位の失言だったと言う事に気付いてはっとする。
そしてまた自身の判断ミスを擦られてしまったホワイトチューリップは、更に意気消沈の様子を見せていた。
「ご、ごめんなさい……」
「いえ……コルベットさんのおっしゃることはご尤も……。わたしってば、なんか空回りしちゃって、みじめ、ですよね……」
小さく、だが生気を失いつつある声で、ホワイトチューリップは後悔を口にしていた。その様が、かつて自らが患者であった時の姿と重なってしまっていたから、コルベットはそれ以上何も言えなくなってしまっていた。
とかくも、治癒魔法が逆効果となる特異な症状。これによって、この町の医療体制は次第に崩壊の様相を見せつつある。
そして、レッドチューリップの命の期限も、刻一刻と迫りつつある。医師団としては、手を打つ時間が徐々に限られつつあったが、ここにきての手詰まり感もまた、大きかった。
二人の発病から三時間が経った。かの死亡してしまった花騎士の話を勘案すれば、恐らく急性症状が現れた場合における時間的猶予は、発病から六時間程が限度なのだろう。
レッドチューリップの命を救うなら、少なくともあと二時間程で結論を出さねばならない。それだけ、事態は逼迫していた。
不意に、
「ねぇ、リオ。あなたの荷物から、なんか音が鳴ってるわよ」
イエローチューリップが指摘する。リオナイトはそれを嫌と言う程知っていた。コルベットから放たれた魔法力が閾値以上になった時に発せられる警報音だ。
彼が慌てて荷物から魔法力計を取り出して確認するが。すぐにリオナイトは訝し気な表情を浮かべる。
「何故こいつが、鳴るんだろう……? コルベットさんは、なんともないのに……?」
リオナイトの疑問は正しい観察の結果だった。コルベットに「発作」の兆候は一切ない。なのに鳴る。故障なら音すら鳴らない筈だ。だからその可能性は除外できる。それらから導き出される答えは、最早一つだった。
「コルベットさんっ! すみません、すぐ、診察室から魔法力計! 二つ! 持って来て下さい!」
彼はその導き出した答えを医学的に証明するため、コルベットに機器を持って来るように依頼したのだ。彼女は頷くと、すぐさまリオナイトから要望された機器を携えて戻ってくる。
「リオ、どういうこと? その装置は、一体なんなの?」
状況が読み込めていない様子のイエローチューリップが訊ねてくる。彼は頷くと
「これは、僕が王都から持って来た魔法力計です。特殊な仕様で、普通では測れない魔法力の空間飽和量を測定することができるんです。そしてこいつの閾値は、コルベットさんが『発作』を起こした時の危険域にセットしてあるんです」
その装置の正体を語る。それで問題の深刻さを察したイエローチューリップの顔色が一変した。
リオナイトの推測が正しければ、今この部屋には、古代花騎士で古代花騎士性魔力循環過剰症の患者でもあるコルベットが発作を起こし、膨大な魔法力を放出した時と同様の魔法力が充満しているということになる。
「やっぱり、そうだ。レッド先生が三三四、ホワイトさんが二二六。合わせて五六〇です。僕の空間魔法力計の指す数値とほぼ近似です。コルベットさんですら、通常発作時の最大は四七七なのに、とんでもない上振れだぞこれは……!」
古代花騎士の魔法炉が暴走した時に近い数字が、普通の花騎士個人で出ている。それだけでも、古代花騎士性魔力循環過剰症を専門に診て来たリオナイトが冷や汗をかく程の事態だった。
今病床に伏せる二人の魔法炉は、まさに暴走しかけている。魔法力計の数値は、それを如実に物語っていた。
「事態は一刻を争います。すぐに二人の血液検査を行います!」
古代花騎士性魔力循環過剰症では、暴走寸前となると血中にも魔力由来の物質が染み出てくる。それが発熱や意識混濁、感情障害を起こす。それはコルベットやスイカズラの症例から既に明らかな事実だった。
元々身体の構造がそれにある程度耐えられるようになっている古代花騎士ならばともかく、それ同様の魔力物質が血中に放出されていたとしたら。現代の花騎士では耐え切れずに身体が壊れてしまうだろう。
専門医リオナイトの意向に頷いたコルベットとイエローチューリップは直ぐに二人の血液採取に移る。パープルチューリップはそれを即時検査できるような準備を整えてゆく。
レッドチューリップとホワイトチューリップから採取された血液は、直ちにそれぞれ真新しいシャーレに乗せられて顕微鏡にセットされていた。ミクロトームで試料化できれば最適だったが、そんな時間的猶予は最早なかった。
残った血液は引き続き他の感染症がないかの確認のため、パープルチューリップが検査を続けている。
「……ありましたね」
「ええ。間違いなく、例のアレよね、これは」
レッドチューリップとホワイトチューリップの血液サンプルを顕微鏡で覗き込んでいたリオナイトとイエローチューリップが、それぞれ声を合わせた。
彼女達の血液には、確かに魔力物質が含まれていた。だがそれは通常血液検査をした際に現れる形をしていなかった。
彼女達の血中魔力物質は見た事もない程にどろどろに溶けている様相を呈し、井戸水からも検出された黴様の物質がそれに付随するような様相がそこからは見て取れた。
「最早ここまで明確にあの黴様の何かが病原体であると分かった以上、名前を付けるべきだと考えます」
リオナイトが静かに宣言する。それには、血液の詳細検査で席を外しているパープルチューリップ以外の二人は同意だと頷いていた。
「リオくん。検査結果、出たよ。ホワイトとレッド姉さんの血液に、他の病気の所見は見当たらなかった。それに、名前が必要なのには、同意」
そして丁度良い頃合いに席を立っていたパープルチューリップも戻ってくる。先程の話が聞こえていたのか、先回りして賛同の意を表していた。
「話が早くて助かります。……あまりこんなくだらない事に時間を使いたくありません。あとで決め直せばいいだけですから」
リオナイトは淀みなく整然と、余計な議論は不要だと口にする。それに三人は静かに頷いた。
「……血中魔力物質が腐った様相を示す、胞子型病原体が引き起こす症状。それらを合わせて、『
一旦。その言葉で、それが仮の名称であるということが分かる。後からでも変更できる。それがこの場の皆の心理的負担を軽減していた。だから
「いいと思う。それじゃ、この黴みたいなのは、『魔腐胞』ってことだね」
「うん、それ以外、今のところ呼びようがないものね」
「賛成」
コルベット、イエローチューリップ、パープルチューリップはそれぞれその病原体が引き起こす病名について、合意したのだった。
「名前が決まったのはいいのですが……正直、最早手詰まり感がすごい」
リオナイトは改めて悲壮感を滲ませていた。病原体の分離と特定には成功した。病名の断定もできた。だが、打つ手はない。名前を与えたところで、治療法が生まれるわけではないからだ。
最早ここまでなのか。何か、見落としはないのか。師匠、ナンテン先生ならこういう時、どうしただろうか。
頭を抱えつつあった彼の白衣の裾を、コルベットがそっと摘まむ。それは例の「合図」だったが、今の意図はそうではない。リオナイトはそれをすぐ理解した。彼女は何かの直感を得たようだ。先般から、コルベットの直感は冴えに冴えわたっている。だから
「コルベットさん。遠慮は要りません。思った事を、どんっどん! 喋ってください!」
彼女の肩を思わず掴みつつ、リオナイトは発言を推奨する。遮られるのかと思っていたコルベットは一瞬たじろぐが。一つ大きく息を吸ってから
「リオくん、さっきから、私の症状に似てる、って言ってたよね。じゃあ、さ……私と同じように……その、レッド先生にも、ホワイトさんにも、リオくんが、えっちを、したら、治るってこと……?」
「リオ……。あなたねぇ」
「下世話な冗談を言っている場合では、ない」
やはり鋭いく核心を突く、直感からの疑問を呈した。まさかの赤恥を擦られる展開。それを耳にして、イエローチューリップとパープルチューリップは、まるで、路傍のゴミでも見るかのような、冷え切ったジト目でリオナイトを見つめる。
そしてコルベットは、それを口にしたことで、胸の奥がきゅっと縮むような、得も言われぬ不安に襲われていた。彼女は、リオナイトの身体が治療の為とはいえ他者に資されるかもしれない、と聞いて、それは約束が違うし、絶対に嫌だと思ってしまっていたからだ。
「あー、えっと……。ごほん。コルベットさん。それはごめんなさい、今は置いておいてください……」
「でもね、確かに、私の時はね……。リオくんと、その……えっち、したいな、って思ったとき……魔力が『外に流れた』感じは確かにしたの……。だから、それを上手く再現できれば、ってことだよね?」
「コルベットさんの症状とは、根本的に前提が違うんです。依存関係が……」
そこまで言い訳を口にしたところで、リオナイトの脳裏にはある可能性が浮かんでいた。逆転の発想だった。
「そうか。それさえ再現できれば……いけるかもしれない」
リオナイトは一人納得して発想を飛躍させ始める。残りの三人は完全に置いてけぼりだ。
「ねぇ、リオ。私たちにもわかるように説明して。私達は今、冷静さを欠こうとしてるよ。まさか、本当にレッド姉さんたちに
しびれを切らしたイエローチューリップが、三人の心境を代弁して彼に食ってかかる。それと前後して理論の構築が完了したらしいリオナイトは
「いえ。そんなことはコルベットさん以外には一切しませんし、したくはありませんが」
明後日の方向の言葉を思わず吐いていた。コルベットはその突然の「僕のもの」宣言で先程の不安を一気に吹き飛ばされたことで照れと嬉しさから真っ赤になり、イエローチューリップとパープルチューリップは惚気にしか聞こえないそれに、呆れ顔だ。
「ノロケはいらない。時間、ないんでしょ」
イエローチューリップの鋭い突っ込みで我を忘れていた事に気付かされたリオナイトは、再び咳払いを一つ。
「要は、魔腐胞症でやられた魔法物質をうまく体外に代謝できればいいんです。それも、性交以外の方法で。それには、イエローチューリップさん。あなたの薬剤師としての知見が必要だ」
そしていよいよ思いついた解決策を述べてゆく。確かに彼の理論には筋が通っていた。だが。
「……ねぇ。それ、マジで言ってる? そんな人体実験みたいな……。理屈は分かるけど、倫理的に踏み越えるわよ、それ。ま、私個人としては、リオが責任を取るってんなら、試す価値はあるとは思うけど……」
彼からの提案にはとうの本人も驚く程には、倫理的な問題を孕んでいた。
リオナイトの提案とは即ち、イエローチューリップが趣味と個人的な研究テーマを兼ねて作っている「媚薬」の製法を、今回の治療薬「魔力代謝促進剤」として応用できないかということだった。
コルベットの症例では、魔法炉が不安定となり感情が昂ることで、魔力が体外に滲み出て来た。それは恐らく、古代花騎士が魔法代謝の機序として持つ特異性なのだろう。
そして現代の花騎士には恐らくそれがない。だから魔力が十分に放出できず、循環したままになりがち。その感情による代謝機序を、薬剤で補う。それが彼の理論だった。
リオナイトは師であるナンテンから一度、
「今日参加した学会で、媚薬を作ってそれを論文にして発表した大バカタレがいた」
と憤りながら愚痴られたことを思い出していた。その時に聞いたそんなトンデモテーマを発表したその「バカタレ」の名前こそが、イエローチューリップだった。
勿論、当の彼女本人が指摘する通り、医師・薬剤師の倫理としては、完全に逸脱する。媚薬という代物は、学会で耳目を集め、えもすれば糾弾される程にそれだけ危険なテーマで、本来ならば研究することすら憚られる。ましてや、他人に投与など以ての外だ。
この手を用いて、本当にいいのだろうか。彼は自身の医師としての、その内なる問いかけの正しさをはっきりと理解していた。だが。
「リオくん、大変! レッド先生の魔法力計の数値が五〇〇を超えてるっ!」
コルベットが最早一刻の猶予もならないことを報告してくる。倫理について逡巡している猶予は、最早なかった。
過去の医学書や検死報告書から読み解くに、古代花騎士性魔力循環過剰症でも五〇〇を超えた数値は、過去の症例では全例が不可逆的な魔法炉破綻に至っていた。
「構いません。やりましょう。僕が全て責任を取ります。このまま手を拱いてみすみす救える命を失って後悔するよりは、やれることは何でもやってみる。それが僕の、医師としての信念です」
リオナイトはいよいよ決断する。無論本件の再現実験は許されないし、一発勝負。そしてそれが上手くいく保証もない。
報告義務もあるから、医師としての倫理を破った結果花騎士二人を死亡させた、という重篤な結果となれば、正式に医師という肩書きを失う事とるやもしれない。
だがそれでも、やれるだけのことはやる。このままでは間違いなく悪い方向で歴史に残ってしまう。本症例第一号の検死報告書の執筆医になる気は、彼には一切なかった。
医師としての未来を失っても構わない。それでもリオナイトは、人として、命の恩人たる彼女たちを見捨てることだけはできなかった。
彼等に残された時間は、最早かなり限られていた。調合も、恐らく一度きり。失敗は、患者二名の死を意味する。そんな中、リオナイトからイエローチューリップへの注文は
「依存性がないこと」
「投与後三十分以内の即効性」
「魔力炉に対する抗炎作用と抗真菌性」
「点滴として使用可能」
という、調合技術と薬学知識に照らしても、非常に高難易度の内容だった。それでも
「イエローチューリップさん。あなたならできる。いや、あなたに出来なかったら、この春庭では最早レッド先生とホワイトさんを救える者は存在し得ない。そう僕は確信しています」
リオナイトは全幅の信頼を彼女に寄せていた。それに頷いた彼女も
「なんだ、リオ。あなた、こういう土壇場ですっごく嬉しい事言ってくれるんだ。コルベットちゃんが惚れちゃう訳だわ。そこまで言われたら、私だって、もう絶対無理だなんて言えないじゃない!」
上手い方向に意欲を刺激されたようだった。
かくして、イエローチューリップによる一か八かの調合が、ついに開始された。
材料は
どれもこの町でありふれて提供されている、至って普通の材料だった。これらの組み合わせだけで滋養強壮と催淫作用を両立させる設計。その完成度に、リオナイトは感嘆しつつも、思わず言葉を失っていた。
「それで、抗真菌性と水溶性だったね」
「はい。煮沸でなんとかなる、ということは。恐らく原因物質である魔腐胞はその類の筈です。ですが、一刻を争う現状です。即効性を考えたら、別々の薬剤では難しそうですから。意識を失っている以上、経口投与以外でも使用できる点滴が一番効率的と考えました」
「その通りよ。若いのによくわかってる。真菌系の病原体には、これね」
続けてイエローチューリップが取り出したのは何やら白い滓のようなものが含まれる、乳白色の液体が入った小瓶だった。それを彼女は手早く漏斗に掛けて、その滓だけを抽出していく。
「これは……?」
「俗に『ペニシリン』と呼ばれている、青黴の生成物。他の菌類や微生物の繁殖を抑える効能があるの。『抗生物質』って、聞いたことあるかしら。これがそれよ」
リオナイトはその現物を目の当たりにするのは初めてだった。彼は無論、薬学理論としてそれの存在自体は知ってはいた。
だが、春庭では未だに「病気は魔法で身体の治癒能力を強制的に向上させて治すもの」という価値観が根強い。
だからこういった基礎薬学の研究ですらも、どうしても遅れがちだ。その最先端にイエローチューリップは常にある。それを目の当たりにしたことで、リオナイトは再び感嘆の息を吐いていた。
「よし、できたわ。あとはこれを真水に溶かせば……」
「待ってください。真水、空だ……⁉」
「なん、ですって……⁉」
ここにきて致命的な事態が発覚する。今から井戸水を煮沸して、冷まして、という工程を踏んだら、明らかに時間切れだ。リオナイトとイエローチューリップは土壇場での失敗を脳裏に浮かべて、血の気が引き始めていた。
「リオくん。イエロー姉さん。真水、あるよ」
そこへ待望のそれを大量に入れた大きなビーカーを抱えて持って来た人物が。それは、患者が横たわっている診察室にいた筈のパープルチューリップだった。
「パープル、ナイス!」
それをイエローチューリップは慎重に受け取りながら賞賛する。パープルチューリップはそれに首を振って
「褒めるなら、コルベットさんを。あの人、こんなこともあろうかと、ってリオくんとイエロー姉さんが調合始めてすぐ、お湯を作り始めた。今も作ってる。冷ます時間があったのは、間違いなくあの人のお蔭」
第一の手柄は彼女にあり、ということを明かしたのだった。
創薬は何とか時間的には間に合った。あとは、薬効があるまでに、レッドチューリップの命が持つかどうか。その賭けだった。
完成した新薬。名前はまだないが、それを投与する役目は
「それじゃ、コルベットさん。直ちに点滴の用意を」
リオナイトからの指示で、彼女へと移譲された。
「こんな大事な作業……本当に、私が、やっていいの……?」
「はい。あなたでなければなりません。この薬は、コルベットさん抜きでは完成しなかった。だから、投与するのも、あなたです」
リオナイトは、はっきりと、ただ彼女を諭すように言う。それには、イエローチューリップもパープルチューリップも、異議はないようだった。
師から提示された、「医学的判断はコルベットにはさせない」という条件は、既に曖昧になりつつあった。彼女は既に自分の意思で、リオナイトを救いたい、と動いていて、実際にそれを成してしまった。それこそがまさに、医学的判断に他ならなかったからだ。
既に彼女を医師として独り立ちをさせてもいい、とリオナイトは思っていたが。監督者であるナンテンにはその事もまだ報告できていないし、そもそも彼女が医師として活動する許可すら得ていないから、彼はそれに配慮したようだ。
大役を任されたコルベットは、今までどんな戦場に立って来た時よりも緊張しながら、レッドチューリップに対する補液の準備を整えてゆく。その手つきには、淀みは一切なかった。ただ、時間だけが、静かに彼女たちを追い立てていた。
投与から十分程度。早速特効薬の効き目が現れ始める。
「解熱鎮痛、皮膚炎症消失確認! 魔法力計数値、有意に低下! すごい、薬効ありだよ、リオ‼」
イエローチューリップが嬉しそうに叫ぶ。それには長姉が息を吹き返そうとしているという事に対する純粋な喜びが大きく含まれていた。
更に五分程度が経つと、
「ん、ぅぅ……? あれ、わたし……?」
遂にレッドチューリップの意識が戻ってくる。臨床的には大成功と言って遜色ない結果だった。
「大急ぎで、ホワイトの分も作ってくるね!」
「あっ、イエロー先生。できれば、少し効能は抑えめに!」
「わかってる。ホワイトはまだ、意識があるから、中程度症状ってことだね!」
イエローチューリップはリオナイトからの指示に頷くと、そのまま隣の作業部屋へと籠る。その後ろ姿を見送った彼は、医師としての大仕事を無事やりきった、と大きく息を吐いていた。
だが、ここで応急処置であったからこそおざなりになっていた問題が、いよいよ生じ始める。それは、「助かった」と誰もが思った、その瞬間から起きていた。
「ちょっと、リオ先生……。あなた、わたしに、なに、投与した、の……っ❤」
レッドチューリップの発情。それこそが、この特効薬の最も深刻な副作用だった。熱が引いたはずなのに、別の熱が下腹部の奥に、溜まる様に残っている。その奇妙な感覚に、彼女は悶えていた。
「古代花騎士性魔力循環過剰症の、感情による魔力代謝を応用した、現代花騎士にはない『感情の発露による魔法代謝』の機序を発生させる、先程完成したばかりの特効薬です」
リオナイトは敢えて感情を無にして、医学用語を淡々と述べる。レッドチューリップとしてもそれには頭では理解と納得はできていたが、
「これ、っ❤ イエロー、の、媚薬、じゃないのっ……❤」
その実の正体も彼女は見抜いていて、悩まし気な表情で彼を睨んでいた。
「すみません。本当に逼迫していたんですよ? ですから、死ぬよりはマシかなと……」
「そう、だけどっ……❤」
正体が露呈したということで、リオナイトはその意図を正しく説明した。そしてそれは医師の理論としては正しかったから、レッドチューリップは反論の余地がなくなってしまった。
「正直に言います。レッド先生が無事だったならば、僕はどんな後遺症でも引き受ける覚悟でした。倫理的に悖るということは、重々承知の上で、投与しています」
彼はそう口にして、僭越だったと謝した。レッドチューリップとしては、自分の命を救ってくれた彼に対して批判的な感情は持っていなかったから、それ以上の文句は言いようが無かった。
「そっかぁ……❤ じゃあ、その覚悟に、免じて、っ❤ へんな、薬❤ 投与したのは、許してあげる、けどっ❤ でも、責任とってもらわなきゃ、ね……❤」
いつもの調子を取り戻してきたらしいレッドチューリップが、先程の謝罪の言葉を盾に、いよいよ突拍子もないことを言い出し始めた。
未承認の薬を勝手に使われた事への医療従事者としての怒り。そしてそれを許す代わりの本気の要求。それに、リオナイトは得も知れぬ恐怖を抱いて、思わず後ずさる。
「簡単なこと、だよ❤ ねぇ、リオ先生……❤ わたしに、お○んぽ❤ 貸してぇ❤」
やはりそうきたか。リオナイトはレッドチューリップからの要求に戦慄を覚えていた。確かに責任を取るつもりだった、とは言ったが。彼は自身の発言の揚げ足を取られてしまったことで、思わず天井を仰いでいた。
「だ、だめっ‼」
そこに、彼の身体を抱きながら乱入してきた人物が。それは彼の身体の
「いい、じゃないっ❤ ね、コルベットちゃん❤ おねがいっ❤ さきっぽ、さきっぽだけ、だからっ❤」
「だめ、だめですっ‼ リオくんのお○んぽは、貸せませんっ‼」
リオナイトに「自分のもの」宣言をされ、いよいよ彼女面となって嫉妬を爆発させるコルベットに対しても、レッドチューリップは譲らない。この場における唯一の男性たる彼は、最早板挟みとなってたじたじだ。
「ああもう、面倒くさい……っ」
そんなリオナイトとコルベットに助け舟を出したのが、パープルチューリップだった。彼女は徐に立ち上がると、どこからともなく蠢く電動の張型を取り出して
「みんなね、
この場の誰もが思っていた事を代弁しながら、未だ身体が自由に動かないレッドチューリップの股を開いて、ショーツを無遠慮にずらすと、手にしていたそれを彼女の膣内へと押し込んでやった。
「~~~~~~っ❤」
それだけで強烈な快感を得てしまったらしいレッドチューリップは、再び意識を飛ばしてしまっていた。しかしそれは、とても幸せそうな蕩けた表情だったのは言うまでもない。
「魔法力計数値、異常なし。発熱なし。皮膚炎様症状なし。薬効は想定通り……。ヨシ!」
そんな長姉の副作用の
果たしてホワイトチューリップに対する特効薬の準備も進み、続けては彼女に対しても投与が開始されていた。
「さっきよりは『感情代謝作用』の効き目を弱くしたから、レッド姉さんほど劇的に効くというはとはないかもだけど……少し治りは遅いしゆっくりだから、辛いかも。ごめんけど我慢してね」
改良型第二版の注意事項について、イエローチューリップは末妹に説明する。先程のドタバタを朦朧としながらも傍で聞いていたホワイトチューリップは、それを覚悟で小さく頷いた。
「リオ先生も、コルベット
申し訳なさが先行しているらしいホワイトチューリップは、最終的に姉妹の危機を救ってくれた二人に深い敬意を抱いていた。それに二人は揃って小さく首を横に振っていた。
「私こそ、ごめんなさい。あなたの感情を考えずに……あなただって、お姉さんを助けたかった一心だったのに、それを無下にするようなことを言ってしまった」
コルベットも思うところがあったのだろう。改めてそれを謝したのだった。それは、この事件の終着点を象徴する、暖かな雪解けだった。
こうしてレッドチューリップの危篤という危機から紆余曲折を経て創薬された新薬は、改定第三版の軽症者用のものも作成され、それはイエローチューリップからの処方を通じて、この町の市井の人々にも普及していった。
倫理的に問題がある副作用が含まれることについては、軽症者用のほぼ催淫作用がほぼ出ないもの以外は、入院患者かつ中程度症状以上で、主任薬剤師であるイエローチューリップの許可がないと投与できない運用とする事が、一旦の過渡期としては決定されていた。
だが、新薬の倫理審査はまだ始まってすらいない。そしてブロッサムヒルの医療倫理委員会には、リオナイトの師ナンテンが委員として名を連ねている。これから先も紆余曲折があるだろうことは、皆理解し切っていた。
差し当たって、新薬として普及させるにも、新薬の倫理審査を経るにも、名前が必要だ。新薬の命名権は、五人の総意によって、今回の功績を称えてコルベットに与えられていた。
そして彼女は、その新薬に迷うことなくリオナイトの名を冠した「リオキュア」という名を付けていた。
勿論それの由来は「リオナイトが治す」という意味合いの語句。だがそれには、今後自身が医師としてそれを目にする度、いつでも彼の存在を思い出せるように、というコルベットの密かな願いも含まれていた。
レッドチューリップとホワイトチューリップの容体が安定し、新薬リオキュアの暫定運用が決まった翌朝、リオナイトとコルベットは王都への帰路についた。
詳細な別れの言葉は交わさなかった。彼らにとってこれは旅立ちではなく、未解決の問題を抱えたままの「持ち帰り」だったからだ。
相変わらず、町の外を半包囲するように形成された巣から出入りする害虫の動きは緩慢だった。寧ろ、以前よりもその動きが鈍っているようにもコルベットの目からは見えた。
だから、彼等はその群れを易々と突破し、出発から二日後にはようやく王都へと帰り着く事が出来ていた。それは実に、彼等が発ってから一月半振りの帰還だった。
早速王都では、リオナイトとコルベットの帰還を受けて、対策会議が開かれていた。その場所は、王立医療センターではなく騎士団庁舎の会議室だった。
その会議に参加したのは、騎士団首脳側からはナズナ、ポトス。医療現場の監督者としてナンテン。ブロッサムヒルの対害虫戦を指揮するサクラとウメ、そして各地への物資の輸送を担当する「アカシア隊」の隊長、アカシアの六名だ。
そして今回報告の主体となるリオナイトとコルベット。総勢八名が一堂に会していた。
「大半の方には初めましてとなります。王立医療センターにて、コルベットさんの主治医を担当しております、リオナイトと申します」
リオナイトは、初対面であった花騎士の面々に対して名乗る。それに対して、彼女たちは小さく頷いていた。
「早速ですが、今回僕たちが往診へ出向きました町の現状、そしてそこで発生している深刻な問題について、医療面・治安面から順にお話させて頂きます」
到着直前の害虫による襲撃。原因不明の難病の発生。そしてそれは先の花騎士死亡事故の原因と推察できること。そしてその難病の発生源は、今回新たに発見された病原体に汚染された生水であったこと。
医療面での内容だけでも、会議室に集まった一同、特にナンテンとアカシアを驚愕させるに十分な内容だった。
「成程。お前たちと連絡が取れなくなっていたのはそう言う事情だったわけだな。ようやく腑に落ちたよ」
とかくもリオナイトとコルベットが無事だったことに、ナンテンは安堵していた様子。だが。
「しかし、コルベットが医師として活躍していたというのは聞き捨てならんな。あの約束を破ったのか?」
早速師から鋭い指摘が飛ぶ。それにリオナイトは反論しようとしたのだが、その彼の白衣の裾をきゅっと掴んだコルベットが、それを制す。代わりに立ち上がった彼女が
「ナンテン先生。私が医師として活動し始めたのは、リオナイト先生を守ろうと……いえ、リオナイト先生の命を守ろう思った、自らの意思です。そもそも、私がそうしていなければ、私達二人は既にこの世にはおりませんし、こうして報告もできておりませんでした。それは間違いない事実です」
はっきりと、彼の意思は関係なかったと告げる。そしてリオナイトは最後まで、ナンテンが定めた条項を死守していたということも付け加えた。だから
「少し見ない間に、随分と饒舌になった。それだけ君が成長して、かつ病状が安定したということかな。……分かった。今回はそれは不問としよう。それと、コルベットに対し、今後も医師としての活動を許可する」
ナンテンもそれを認め、更にブロッサムヒルの医療倫理委員会の一員として、彼女への臨時の免許を与える。そのやり取りを聞いていたリオナイトは、内心安堵の息を吐いていた。
「コルベットさん、ナンテン先生。ありがとうございます。そして、その難病の件ですが。イエローチューリップ先生らの尽力により、既に新規重篤患者にも対応できる新薬が完成しています。倫理審査はこれからとなるでしょうが、一旦の臨床試験としては、当地に仮で設営した病院にて、厳重な管理の許で行われています」
続けて出て来たチューリップ四姉妹の名前に、ナンテンは早速眉を顰めていた。
「あいつらが、ねぇ……。身内に罹患者が出たんだ。下手なものは作っていないだろうが……。とにかく、今ここで話すべき内容ではないな。新薬については正式な手続きを踏んで、倫理審査に回すように。詳しい話はそこで聞く」
重要だが、諮問するのは今ではない。それを理解したナンテンは次の話へと移るように促した。
或いはそれは、彼女が普段から目の敵にするレッドチューリップ達の名前を聞いて、ただ気分を害されただけかもしれなかったが。リオナイトとしては一旦事なきを得た、と内心で思っていた。
「続けて、治安面については、私から……」
リオナイトに代わって起立したコルベットが、彼が負傷した際の害虫の異常な多さと、それが例の町を半包囲するように形成された巣から出現したものである、ということを報告する。
「そんな
アカシアがぼそり、と一言。それに同意だ、とサクラとウメも頷く。周囲を囲むように大きな害虫の巣が形成されて、半ば兵糧攻めのような形となっていたならば、連絡が途絶するのもやむを得ないと理解したようだった。
「ですが。これは好機であるとも私は考えています」
コルベットが逆説的な言葉で、今が攻め時であるということを発した。その根拠は例の害虫たちの妙な動きの鈍さだった。
現在もコルベットの魔法出力は十分の一程度に制限されたまま。それで以前は後れを取ったが、今の状態であれば、それでも片手で五十体はいける。コルベットはそう豪語した。それは彼女の古代花騎士としての戦闘勘から裏付けられたものだったから、軍備担当者としても納得できる話だった。
「了解した。すぐに花騎士を集め、掃討作戦を実施しよう。コルベットはその陣頭指揮を執ってくれ」
「果断、感謝します。微力を尽くします」
ウメが即断する。サクラもそれに頷いていた。コルベットはそれに、深く頭を下げたのだった。
その後会議室では作戦の詳細が詰められ、陣容は以下のように決定された。
右翼をウメ、バラ、カンヒザクラが担当。左翼はサクラ、アイビー、イチゴ。彼女達は鶴翼となって二手に分かれ、それぞれ南東と北西にある巣穴から突入する。
コルベットはかつて患者と看護師を兼務していた頃に瀕死のところを救った花騎士の同期達を率いて、本隊として中央に構える。志願だが、経験が浅めの者が多いからこその配置だった。リオナイトもそこに野戦医師として参陣する予定になっている。
この本隊の役割は、輜重隊の町までの護衛と、ウメ隊・サクラ隊の攻撃により巣外に溢れ出て来た害虫の処理と第一次即応医療への対応だ。
コルベットは想定外の事態が発生した場合の切り札として待機しつつ、平時は指揮に専念する。
そして今回一番重要な役割である輜重隊は、長年ブロッサムヒルで物資の輸送に携わってきたアカシア隊が担当する。
医療物資を直接チューリップ四姉妹が待つ病院へと運び込むのが隊長であるアカシアと、ダリア。清潔な水を提供する為の装置の運搬とそれの設営を担当するのが、副隊長のハリエンジュと、ルピナス
アカシア隊でも足の速いチェリーセージは、戦場を駆ける伝令役として各隊の橋渡し役となる。
これらの人員が揃うまでは、少なくとも三日を要する。更にそこから戦略物資の調達・差配などの時間までを含めると、最低五日は必要だろう。
それまでの間は、リオナイトとコルベットは普段通りの生活を送ることとなった。
だが、その間にもコルベットの立場には微妙な変化が生じていた。それは彼女が最早症状が安定したということで、患者という立場を卒業するということだった。
彼女の花騎士としての実戦復帰は、今回の掃討作戦で様子を見た後に問題がなければ、第一副団長への復帰という形で成されることとなるだろう。今回の作戦は、コルベットに対する実質的な試金石だった。
とはいえ、医師として開業する程の時間もなかったコルベットは、引き続き王立医療センターに所属する医師として、一時的にリオナイトの同僚という扱いになった。
看護師を経験した医師というのはあまり前例がなく、コルベットは多方面で活躍できる人材として重宝された。特にナンテンからの評価は非常に高く、
「もし古代花騎士という立場が重苦しくなったら、いつでも戻ってきていいぞ」
とまで言わしめた程だ。一番弟子を自負するリオナイトとしては、それには複雑な気分を抱かざるを得なかった。
そんなリオナイトも遠征で様々な苦しい経験をしたことで医師として一皮剥けたようで、判断速度や手の動きなどが以前よりも淀みなく、そして各段に向上していた。
この数日だけでも彼等は次第に王立医療センターにおけるエースとして認識されつつあった。
だが、そんな立場の変化があっても、二人の関係は不変だった。それはコルベットが普段寂寥を癒すリオナイトという存在が欠けてしまうと、途端に安定を失って魔力亢進症が再発してしまう恐れがあったからだ。
立場上、リオナイトが騎士団庁舎内にあるコルベットの自室に出入りする訳にはいかなかった。だから、彼女が押し掛け妻同然で、リオナイトの家に居候する形に自然と落ち着いていた。
二人は連れ立って帰宅することも憚られたので、敢えて別々に帰宅する。無理が出来ないコルベットが先で、諸々の引継ぎがあるリオナイトが後だ。
「ただいま」と「おかえり」を言い合える関係。それこそが、彼女が求めていた「普通」であったかも知れない。コルベットは今、何気ない幸せを、犇々と噛みしめていた。
そのような穏やかな日々が続いていた中。いよいよコルベットはこの日の午後、ウメとサクラからの訪問を受けていた。それは作戦開始の準備が整った事を意味していた。
コルベットとリオナイトが国家的な害虫掃討作戦に動員されるというのは予め院内にも伝えられていたから、同僚たちの動揺はなかった。寧ろ
「あなたたちならすぐでしょ。仕事を用意して待ってるからね!」
辛辣な冗談を口にされる程。王立医療センターでは如何に彼等への期待と信頼が厚いか、ということがそれだけで把握できる。コルベットとしては、既にそれを重荷だとは一切感じていなかったが。彼女は必ずここへ帰ってこなくては、という決意を新たにしていた。
その日はリオナイトもコルベットも、引き継ぎを終えたら随時あがってもよい、とナンテンからの指示を受けていた。先にそれを終えた彼女は、一足先に彼の自宅へと「帰宅」する。
花騎士として戦っていた時に身に着けていたローブの代わりに纏っていた白衣を脱いで、それを玄関にある外套掛けにそっとぶら下げたコルベットは、同じくそこにぶら下がっていた、かつての彼女を象徴していたローブを目の当たりにしたことで、
「明日。私は、いよいよ本格的に花騎士に戻るんだ……」
改めてそれを自覚して小さく息を吐く。
辞令を受けたあれきり、団長からコルベットへの通達や連絡は一切ない。それは或いは、彼がコルベットの事を慮った結果の選択だったかも知れない。
だがその「何もしない」という選択は、彼にとってはある意味不幸な結末を呼ぶことになるのだが、それにはまだ誰も気づかない。
そんなコルベットの脳裏には
「団長さんは、今回の作戦のことをどう思って、どう評価しているのだろうか」
という疑問がふと浮かんだ。それに思いを致した時、彼女は思わず胸を押さえる。
「私、
かつては「花騎士として使われなくなった」ことが「捨てられたかもしれない」という意識に直結していて、その不安から、身体が動かず、何もかもが上手くいかなくなり、絶望していたコルベット。
だが彼女は今、本当に必要としてくれている人と環境に恵まれている。そして、コルベットは今、制約がありながらも、自在に身体を動かせている。
その今昔の比較をしてしまった時、彼女は最早、団長に対して親愛や情愛といった身体を求める気持ちが向いていないのだ、ということをはっきりと自覚してしまう。
「そっか……。私、は……リオくんを……もう、掛け替えのない存在だって、思っちゃってるんだ……」
彼女は息を吐きながら、独り言ちる。それは、彼女の「持病」としての、団長からの完全な独り立ちを意味していた。
コルベットは無論、未だに団長を尊敬しているし、それから来る敬愛の気持ちも一切揺らいでいない。
だが、それはあくまで「花騎士」としてであって、「一人の女性」としての親愛と情愛の感情は別にある。彼女はそれを、レッドチューリップからの教えで知った。
彼女は当初、それを一緒くたにして敬愛を親愛または情愛だと錯覚していたから、精神が不安定になっていた。
それが今は明確に分離されている。それが今の自身の精神安定に繋がっている。コルベットはようやく自身の心をそこまで整理する事が出来るようになっていた。だからこそ、安易に「誓い」を受けてしまったことを、今更ながらコルベットは後悔し始めていた。
「これは……もう、私が付けていてよいものじゃない……。私には、もう、そんな資格はない……」
コルベットはそう独り言ちながら、そっと左手薬指に付いていた「証」を外す。そして、それを身に着けていたネックレスに通して、「飾り指輪」へと変化させた。彼女はそれを胸元に戻し、指先で一度だけ確かめるように触れてから、静かに手を下ろした。
錯覚だったからこその後悔。自分が選んでしまった過去から逃げない覚悟。そして本当にこれから愛すべき男の選択。彼女のその行動には、それらがはっきりと表れていた。
暫くすると、やはり明日に備えて引き継ぎを終えたリオナイトが帰宅する。
「ただいま、コルベットさん」
「おかえりなさい、リオくん❤」
気配を察して玄関で待ち構えていたコルベットと、未だ白衣を着たままのリオナイトは自然と抱擁を交わす。それはここ数日間だけですっかり習慣になってしまった、彼等の日常だった。
二人はそのまま連れ立って、脱衣所へと向かう。そして、すぐさま互いの衣服をゆっくりと脱がし合って、生まれたままの姿となり、再び抱き合う。それは、あの町で同居していた頃から、二人の間に自然と根づいた習慣だった。
「うわぁ、リオくん。また肩がっちがちだよ? たまにはお外で剣の練習をするといいかもね。今度一緒にしよっか」
「あはは、どうしても机に向かう仕事ばっかりになっちゃいますよね、医師の仕事は。コルベットさんこそ、腰も、かわいいお尻もカチカチだ……」
「そうなの~。今日はずっと外来の診察続きで……」
職場が同じであるとはいえ、今は同じ医師同士。以前のように主治医と助手兼患者という間柄で四六時中一緒という訳ではすでにない。だから別の箇所で仕事をしていて、殆ど顔を合わせないということもままある。
だから最近のこの時間は、二人は今日の仕事の内容だったり、明日の予定だったりを交わし合う事が多かった。だが、明日にはもうその穏やかだった日常も終わってしまう。
だから今日の二人は時たま他愛のない話題を探しては会話を交わしながらも、無言で互いの身体を撫で合っている時間が多くなりがちだった。明日の話はしない。それは互いの暗黙の了解だった。
「そろそろ、お風呂はいろっか?」
コルベットの提案に、リオナイトは頷いた。二人は連れ立って浴室へと足を向ける。
王都では水が豊富であることから、毎日入浴する事が出来る。だが、時には水の一滴が血の一滴となることも、彼等は身に染みて理解していた。だから二人は、いつも一緒に湯に浸かっていた。
少し手狭になった浴槽に、リオナイトとコルベットは重なるようにして漬かっている。ふとリオナイトが
「あれ、指輪……」
彼女の変化に気付く。それに頷いたコルベットは
「……うん。私がね、自分から外したの。今はお風呂に入るから、って外したネックレスに、付いてる。私には、もう……ここに着けてるのは相応しくないな、って思って……」
心境の変化があったということを、はっきりと告げる。彼はそれには何も言わず、ただ彼女の身体をぎゅっと抱きしめる。
「ふふ、優しいんだ。何も、聞かないんだね」
コルベットは、その彼の気遣いが嬉しかった。言わなくてもわかる。分かってくれる。その信頼感が、彼女にとっては心地よかった。
「僕は……あなたを支えたい。例え、どんな形であろうともです。だから、あなたのすること、考える事は全て尊重して、応援します。そしてその結果も、一緒に見届け続けたいと、思ってます」
リオナイトの口から出たそれは、ある意味、これからも末永く一緒にいたい、という愛の告白にも聞こえる言葉だ。
二人は、この春庭が常に誰かの犠牲の基に成り立っているというのを理解していた。だから、それを敢えて口にしたところで、確約には絶対になり得ないということもまた、はっきりと理解していた。それでも
「……ありがと。すっごく嬉しいよ……❤」
コルベットはリオナイトにそれを言葉にしてもらえただけで、胸の奥が一杯になる思いで、多幸感を覚えていた。
「私はね……。昔から……それこそ、封印される前からだよ。『普通の女の子』になりたかった。それが夢だった。今でも、そう思ってる」
彼女は、言葉を選びながら口にする。それは、コルベットが今まで選択したくても出来なかったものだ。周囲の期待、義務、そして運命。それらが邪魔をしていたから、それは未だに彼女にとって「夢」だった。
「いいじゃないですか。僕は、『普通の女の子』とやらになったコルベットさんも、見てみたい。例え英雄でも医師でもなんでもなくなったとしても。きっとあなたは僕の憧れた、尊敬に値する、大好きなコルベットさんのままでしょうから」
コルベットの想いを聞いたリオナイトは、思わず自分の想いも口にしてしまっていた。すると、彼女は
「それは……私に対する……情愛? ……親愛? それとも……敬愛?」
彼にはっきりとその感情の区別を求めた。彼の肚は決まっていたから、ほんの一瞬の沈黙のあと、
「勿論、すべて、です」
敢えて、かつてのコルベットがごちゃまぜにしていた感情が、自分の中ではまっすぐ同じ方向を向いている、ということを、リオナイトは彼女の身体を強く抱きながら、迷いなく答えた。
リオナイトの気持ちが自分と同じ方向を向いている。それを改めて確認したコルベットは、浴槽に涙を落としていた。それは湯に次々と波紋を残してゆく。それが凪となるまで、彼はそのままコルベットの身体をしっかりと抱きしめていた。
「ねぇ、リオくん……。私、キスが、したい……。あなたと、キスが、したい……」
唐突に、コルベットが求めてくる。それは、今まで何度も身体を交えてきたり、互いの性器を舐めあったりしてきた彼等にあって、唯一不可侵であった部分。それを、いよいよ彼女の側から破ろうとしている。
「あ、その……」
「……やだ?」
「いえ、全然、いやではなくて……その。できることなら、ずっと、したいと思ってました……。でも、僕、初めてで……」
その要求を彼女から突き付けられた時、リオナイトは経験のなさからつい戸惑ってしまった。そんな初心な様子を目の当たりにしたコルベットは溜まらなくなってしまったのか、
「ん、っ……❤ れる、っ❤ ちゅ、んむ、っ❤」
強引に唇を奪いに行った。そのままコルベットは舌を挿し入れて、リオナイトの「初物」を堪能してゆく。彼も彼女の舌の動きに合わせて、おずおずと自らのそれを絡めてみる。
彼が舌を合わせてくれたことが嬉しかったのか、コルベットは蕩けたような表情のまま、水音を立てながら彼の唇を貪ってゆく。
「リオくん……つづき、しよ……❤ なんだろ。今日は……すっごく、あなたが、ほしい……❤」
普段はしおらしい態度での誘いが多いコルベットだが、今のそれはかなりの積極性。まるで「発作」の時のようだ。
リオナイトは実直にそう感じていたが。脱衣所に置いた魔法力計は反応していない。つまりそれは、彼女の揺るぎない本心ということだ。
その全く吝かでない希望に、リオナイトは改めてコルベットの唇を奪うことで、了解の返事とした。
二人は寝台の上に移動して、ひたすら唇を合わせ、舌を絡めていた。それはまるで、今まで我慢していた欲望の箍が切れたような、そんな様子だった。
その間にも彼等は互いの昂った性器をゆっくりと愛撫し合って、高まってゆく。
「はぁ、ふぅ……っ❤ リオ、くんっ……❤ ちゅ、ちゅっ……❤」
唇を離したコルベットが、ゆっくりと、彼の頬、首、肩と、上から順にキスの雨を降らせてゆく。その間にも、リオナイトの滾った逸物を優しく擦って、刺激を与え続ける。
彼もそれに呼応して、彼女の期待してぷっくりと膨れてしまった陰核をくにくにと優しく弄びながら、ぴん、と張った双乳の先端をやはり丁寧に舐ってゆく。
「ん、ぅぅ、っ❤ はむ、っ❤」
その与えられた性感にたまらず、コルベットは彼の胸元に強く吸い付いた。それは痣となり、しっかりとリオナイトの身体に刻まれる。こんなことは、彼女が他の男には一切したことがなかった行動だ。
「リオくん、っ❤ すき……だいすきっ❤」
遂に明確な情愛を口にしながら、コルベットは仰向けに押し倒した彼の身体の様々な部位に、唇で触れてゆく。それはまるで、自分のものである、ということをリオナイトの身体に刻み付けるような仕草だった。
ここまで明確に情を求められたのは初めてだったから、リオナイトには戸惑いが一瞬浮かぶ。本当に「発作」ではないのか、という専門医としての不安がどうしても過る。
だが、先程共に入浴していた段階で、互いの気持ちは確認済み。だからこれは間違いなくコルベットの本心だ。
確認を怠らなかったことで、彼はコルベットを信じ切る事が出来た。そう腑に落ちた瞬間、リオナイトは素直に彼女に身を委ねることが出来るようになっていた。
彼女の唇がリオナイトの足の先まで及んだことで、自然と彼等は相互口淫の態勢になる。彼の眼前には、既にとろとろ蜜を溢れさせ、雄蕊の挿入を待ち侘びているコルベットの雌蕊が晒される。彼はそれに夢中でむしゃぶりつく。
「ひぁ、っ❤ あぁ、っ……❤ ん、んぅぅっ❤」
途端、コルベットは悩ましい艶のある悲鳴をあげた。彼女は腰を低く落として、秘唇をリオナイトの唇や鼻に擦り付けるように尻を可愛く揺すって、更なる口淫をねだる。
そして与えられる快感に嬉しそうに身体を震わせながら、コルベットは彼のすっかり滾ってしまった立派な雄蕊にも口付けの雨を降らせてゆく。
二人はゆっくりと互いの性器を舐って愛情を確かめ合いながら、一つに溶け合うための準備を整えてゆく。
頃合いを見計らってどちらともなく口を離した彼等は、再びゆっくりと抱き合って、唇を合わせる。二人は必死に舌を絡め、先程までの愛撫に対する感謝と労いを伝える。そこに、最早言葉は不要だった。
「コルベット、さん……」
「ん……❤」
リオナイトの確認に、彼女は小さく頷く。どちらかが一方的に求める事だけはしない。それが二人の暗黙の約束だった。
ゆっくりと、雄蕊が花弁の奥に沈んでゆく。その感覚に、コルベットは甘ったるい声を彼の耳元で響かせた。
抽迭が繰り返される度、二人は舌を絡め、夢中で愛を確かめ合う。普段とは違う、声にわざわざ出さなくても伝わる、愛情と快感。とにかく二人は、今はだけはどろどろに溶け合って、一つになっていたかった。
やがて、二人は同時に身体の動きを止めた。彼等は深部までしっかりと抱き合って、互いの心音と身体の反応を確かめ合っているようだ。
「ん、ふぁ、っ……❤」
一瞬の沈黙の後、リオナイトと相変わらず密着させていたコルベットの唇から、微かに嬌声が漏れ出る。それは身体の奥を満たす愛情を受け止めた、幸せそうな一人の女性の声。古代花騎士という肩書きの英雄が出していいものでは、決してなかった。
後始末を終え、再び清潔な生まれたままの姿となった二人は、そのまま心地よい疲れの中、余韻に浸りながら抱き合いつつ同衾していた。
「ねぇ、リオくん……」
不意に、コルベットが口を開く。それに頷いたリオナイトは、彼女の艶やかな緑髪を優しく撫でる。それは、二人の間で最近新たに出来た、「何でも喋っていいですよ」という暗黙の合図だ。
「私って、重い女、だよね……?」
コルベットは、自身の愛情が相手に対して非常に重圧を掛けるものである事を自覚していた。そして相手にもそれを必然的に求めてしまう。それが今までは「依存」という形で表れて来ていた。
「そう、ですね……重いか軽いか、という観点だけで言えば……決して、軽くはないです」
リオナイトは言葉を選びながら、彼女の意を肯定する。優しさがある言い回しだったが、彼女はそれでも少し気を落としていた。だから
「でも……あなたにはふさわしく、そして、僕にとっては心地よい重さです……」
リオナイトはもう一度、彼女の髪を優しく撫でながら、コルベットを安心させるように、好意的であると言い換えた。それに嬉しそうに微笑んだ彼女は、ゆっくりと瞼を閉じる。
「おやすみ、リオくん……❤」
「はい、コルベットさん。おやすみなさい……」
二人は抱き合ったまま、幸せそうに眠りについてゆくのだった。
かくして、かの町を救うための掃討作戦と物資補給の後詰作戦が開始された。
道中は楔が効いているのだろう。害虫との遭遇は一切なかった。だが、いよいよ近付くにつれ、不穏な空気が立ち込め始める。それは各隊の花騎士達には犇々と伝わっていたようだ。
間合いは十分。作戦開始領域へと至ったコルベットは、それぞれの部隊長に対して一旦停止を指示しつつ、チェリーセージに偵察を依頼した。
暫しの待機。彼女は小さく息を吐いた。そして、普段持たぬ護身用の刺突剣を腰に下げるリオナイトの姿を横目で見やる。普段にない凛々しさ。それにコルベットは思わず息を飲んでいた。
ふと、彼女は左手に付く、彼に着けてもらった自身の魔法力計に触れた。隣にリオナイトがいる安心感。コルベットはそれを再認識する。そして彼女はそれの表示を確認する。数値正常。医師として、小さく呟く。
「コルベットさん! 情報通り、害虫たち、相変わらず鈍いですっ!」
チェリーセージの報告にコルベットは頷いた。そして彼女はいよいよ花騎士兼医師としての新たな戦いへと身を投じるべく、
「わかりました。ウメさん、サクラさん。始めてください」
幾多の戦場の砂埃が染み付いたかつての戦装束であるローブではなく、右胸に、青色の糸で刺繍された「Dr.Columbine」という医師としての彼女の名前とブロッサムヒル王家の紋様である鴇色の桜の花弁の刺繍とがはっきりと視認できる真新しい白衣を翻して、
「これより、害虫殲滅作戦及び友軍支援作戦を、開始します!」
最初の号令を発した。
右翼・左翼それぞれの、作戦開始地点への移動を確認したコルベットは、
「このまま本隊も前進します。チェリーセージさん以外のアカシア隊の皆さんはこのまま町へ直行。ツツジさんは彼等に害虫を寄せ付けないよう、気を付けながら護衛してください。動きは鈍いですが、くれぐれも油断はしないで」
続けて輜重隊と本隊の面々にも指示を与える。それは的確かつ適材であるように思えた。今のところ、目立った問題は見られない。
「わかったわ。さぁ、アカシア隊! 元気よく往くわよッ‼」
「わたしも、頑張りますっ!」
アカシアの号令に続き、早速大役を任されて嬉しそうなツツジも指示に頷く。彼等は早速、ウメとサクラの突入によって混乱し始めて、がら空きとなった町の正面入り口へと移動を開始する。
「ふぅ……」
「はい、コルベットさん。やっぱり、戦場に立つあなたも、すっごくカッコイイです」
そこまで指示を出して息を吐いた彼女に、リオナイトが竹筒に入った水を差し出す。彼女は小さく会釈すると、それを一口。
「ありがと。でも、これからが、本番。リオくんも、何があってもいいように、準備だけは整えておいて。このまますんなり、とはいかない気がする」
コルベットの直感が、また不穏さを伝えていた。それが理解できる彼は、頷くと早速野営の準備へと取り掛かる。先ずは火起こし。清潔な水は心もとない。幸いにして水源は近くにあるが、戦場では、生水は特に厳禁だ。
そうしていると、本隊の存在にも気付いた、巣穴から溢れてきた害虫たちが、こちらにも向かってくる。
「き、来ましたわっ!」
「ふにっ⁉ ほんとだっ!」
「落ち着いて。まだそんなに近くない。ハナモモさんとビオラさんは、必ず二人一組で一体にあたること。無理はせず、最悪撃ち漏らしても構いません。残ったのは私が始末します。先ずは安全第一です」
少し緊張を見せる、経験の浅い花騎士たちに、コルベットはやさしく、だが的確な指示を出す。彼女達はそれで心強さを感じたのだろう。大きく頷いて前を向いた。
「む……輜重隊にも、取り付いていますね」
そこで、火起こしと水の準備を整えつつ双眼鏡で町の様子を見ていたリオナイトが一言。
「あたしが行ってきますっ!」
彼の言葉に、早速伝令役として本隊に残っていたチェリーセージが志願する。コルベットはそれに頷いて許可を与えた。
「状況次第では本隊も前進させますので、必ず戻ってきてください!」
「はいっ、いってきます!」
コルベットからの追加指示に手を挙げて了解の意を伝えたチェリーセージは、早速足が止まるアカシア隊の許へと向かう。
「偶然、でしょうか。少しずつ本隊が薄く……」
コルベットの直感は、嫌な予感へと変化しつつある。次はどう出て来るか。彼女は引き続き状況を注視していた。すると
「……‼」
「わぁっ⁉」
「ふにっ⁉」
突然本隊の左横合いに、新たな巣穴が出現する。そこから数体の害虫が湧き出てくる。コルベットは素早く剣を抜き、それらを一瞬で屠る。
「大丈夫ですか⁉」
「わたくしは、大丈夫ですわっ」
「いったぁい……。ちょっとやられましたっ」
ハナモモには被害はなし。だが、不意を突かれたビオラが軽傷だ。彼女の左腕から出血が見られる。
「すぐ止血します。一旦下がって!」
リオナイトが駆けつけてくるので、彼女たちはそれに従う。
「リオくん、お願いね! 私はこの巣穴から出て来る奴らを徹底的に叩いておくから‼」
そのまま、二匹、三匹と次々湧き出てくる害虫を屠りながら、コルベットは医務全般をリオナイトに委任した。
「はえー、コルベットさん、すごぉ!」
「まるで鬼神ですわ。モモお姉さまよりもすごいかも……」
リオナイトからの治療を受けるビオラとそれを眺めるハナモモは、少し先で害虫をいとも簡単に屠ってゆくコルベットの姿に感嘆していた。
「ふふ。そうです。僕も、あの強さには何度か救われました」
手際良く止血を完了し、清潔な水で傷口を洗い流したリオナイトが、ビオラの腕に包帯を巻きながら口にする。彼女の強さは折り紙付き。一旦本隊に取り付いた害虫はなんとかなるか、と彼は考えていた。だが。
「え……。あれ……ふにゅ……」
「ッ⁉ ビオラさん⁉」
先程まで治療を受けていた筈のビオラが、脱力したそのまま地面に倒れ込んでしまう。彼女の身体は燃える程に熱くなっていた。そして先程治療を施したばかりの箇所には、彼にとっては見覚えしかない、不穏な皮膚炎様の症状が見える。
「魔腐胞症発症! 医療緊急事態を宣言します!」
こんな短時間で発症するはずがない。違和感を覚えたリオナイトがすぐさま叫ぶ。それに気付いたコルベットは一旦切り結ぶのを止めて彼の許へ戻って来る。新手の出現は止まっていたから、それだけは幸いな状況だった。
「どういうこと⁉」
「わかりません。ですが、負傷した直後、しかも傷口付近からの発症……害虫からの攻撃以外に考えられません」
コルベットの声掛けに、リオナイトは冷静に状況を分析しながら口にする。それは、この戦いが新たな段階へ入ったという事を意味していた。
思わぬ緊急事態だった。最早ここに本隊を据えて置く事すら危険だ。コルベットはそう考えていた。そこへ
「コルベットさ~ん! お待たせしました! アカシア隊とツツジさんに被害なし! 無事町に入りました!」
伝令役のチェリーセージが戻ってくる。何とかなりそうだ。コルベットは一筋の希望を見出していた。今守るべきは戦果ではなく、命。コルベットの決断は迅速だった。
「チェリーセージさん。お疲れのところごめんね。緊急事態です。ビオラさんが重傷。直ちに加療しなければ命に係わる。だから……このまま本隊も町に入ります。それをアカシア隊の皆さんと、病院にいるイエローチューリップ先生に伝えてほしいの。先生には『魔腐胞症だ』ってコルベットが言っていた、って言えば、伝わるから」
彼女は早速、具体的な指示を出した。チェリーセージはそれに頷くと、再び来た道を戻ってゆく。コルベットはこの時、「伝令」という役割が如何に大切かという事を身に染みて実感していた。
「リオくん、準備はいい?」
「はい、勿論。既に荷物はまとめてあります」
コルベットからの問いに、彼は感染症対策用に手術着を纏った上で、高熱で呼吸を浅くするビオラを抱きかかえていた。荷物持ちは、既にハナモモに依頼してあるようだ。
「流石だね。それでは、これから本隊も速やかに町へ移動します。リオナイト先生が先行。ハナモモさんはその後ろ。殿軍は私が引き受けます」
彼の手際の良さに頼もしそうに頷いたコルベットは、早速指示を出す。事態は一刻を争う状況だった。
アカシア隊に引き続いてであったため、害虫の追撃は散発的だった。コルベットの武と判断で、本隊も続けて町へ無傷で辿り着く事ができた。
「害虫を屠るのに使った武器はすべてここに集めて! 熱湯で消毒するまで、絶対に柄以外には触らないでください!」
コルベットがリオナイトの指示を受けて早速花騎士の面々から武器を回収していた。
「まるで生肉に触れた後の包丁ね……」
的確な例えをしたのはアカシアだった。彼女は野営での料理にも心得があるようだ。
「恐らく、この辺りの害虫自体が『魔腐胞』を持っています。それが毒を塗ったナイフのように、傷口から侵入してくる……」
「……厄介ね。チェリーセージ。この情報をすぐウメとサクラにも伝えてあげて。あなた自体は徹底的に戦闘を回避。いいわね?」
コルベットの見解に、深刻そうな表情でアカシアは頷く。そして、配下の伝令役に指示を与えた。それに了解の意を示したチェリーセージは三度伝令としての任へ向かってゆく。
一方のリオナイトは、
「リオ、こっちよ! すぐリオキュアを投与するわ。中等症用でいいわよね?」
「はい。まだ意識はあります。だからそれで大丈夫なはずです」
伝令を受けて病院の前で待機していたイエローチューリップにビオラの治療を引き継いでいた。担架に寝かされた彼女には、早速新薬が投与され始める。
「僕たち本隊と、アカシア隊の皆さんは無事ですが。今まさに害虫と戦っているウメさん、サクラさんの隊からは更に罹患者が出る恐れが高いです」
「わかった。リオキュアは引き続き多めに用意しておく。煮沸しなくても真水が得られるようになったのはマジででかい。物資救援、本当に助かってるよ」
リオナイトからの状況引き継ぎに、真顔のイエローチューリップは頷く。物資の運び入れによって、医療体制は間違いなく強化された。だがそれでも逼迫しかねない緊急事態は、悪化の一途を辿っていた。
日没が近付いたということもあり、チェリーセージから伝令を受けたウメとサクラも一旦町へと撤退してくる。
本陣というよりは対策本部に近かったが、指揮所は病院の隣にある、チューリップ四姉妹が宿舎として使っている建物に設けられていた。
そこで、現状確認と進捗状況、そしてこれまでに分かった事実の共有が行われている。
「魔腐胞症の感染状況をまとめます。本隊一名、アカシア隊なし、ウメ隊なし、サクラ隊二名。いずれも中等症」
リオナイトがホワイトボードに口にしながら記載してゆく。今回罹患してしまったのは直接害虫から傷を負ったビオラ、そして害虫の死骸の不審な様子を確かめようと、それに素手で触れてしまったアイビーとイチゴの二名。合わせて三名だった。
「リオナイト先生。これは、どのくらいで治癒するものなのだろうか?」
「花騎士各個の魔力や体力等にもよりますが、早くて一晩程度です。但し、今回は少し効き目の弱いものを投与していますので、二日は様子を見た方がいいでしょう」
「まいったな。ほぼ、半減か……」
ウメの確認に、リオナイトが医学的見地から述べた。それで彼女の表情は険しくなる。
「駆除の進捗はどうなっていますか?」
コルベットが訊ねる。それに
「ウメの方はあらかた片付いたみたい。でも私のほうがね……」
サクラが申し訳なさそうに口にする。油断があった、と彼女は素直に認めていた。
「魔力煮沸装置の整備状況については、私の方から説明させていただこう」
水源整備の役目を負っていたハリエンジュが続けて報告する。
魔力で動作する、井戸水を汲み上げて煮沸を行い冷やす、という一連の流れを自動化する装置は、稼働を開始していて、医療用の水を優先して生成し始めているとのこと。ただ、
「この町の人達、正直、相当厄介だ。井戸だけでは足りないからとか、井戸が遠くて面倒だ、とかいう理由で川まで汲みに行ったりしている人もいるみたいでね。それでは意味がないだろう」
彼女が指摘した通り、装置を整備したとて、住民自体の意識の低さが問題となって、根本的な解決には至っていない。それに
「この町、トイレも共同だし、なんなら水洗でもないわ。恐らく地下で井戸水の再汚染が起きているまである。そこからなんとかするなら、もう上下水道を整備するしかないわよ」
イエローチューリップも補足する。衛生教育も必要そうだということが、それで分かる。
「課題が山積み、ですね……」
それらをやはりホワイトボードに書き出していたリオナイトが、ぼそりと一言。それを聞いて誰かが椅子に深くもたれる。それで椅子が軋む音が、静まった部屋に響く。会議室に集まった面々は重苦しそうに一様に首肯する。
「情報は出揃った、な。では、明日は私とサクラ、そしてコルベットが三人で残りを始末。それ以外の面々は課題に各個対処。それでどうだろうか?」
ウメが現状に即した提案をする。司令官であるコルベットは同意だと頷きつつそれを容れて
「はい、そうする以外になさそうですね。それでいきましょう」
翌日の行動方針を決したのだった。
無事だった花騎士の面々は、チューリップ四姉妹が使っている建屋の空き部屋にそれぞれ宿泊することになった。
病院となった建屋は、現在診察から入院までの全て機能が一階に集約されていて、二階は大半が物置になっていた。
そして、リオナイトとコルベットが使っていた部屋は、当時のまま。二人はそこにしけ込んでいた。
二人はいつもの「儀式」を普段より念入りに行っていく。それは害虫が「魔腐胞」という毒を持つということが判明した以上、生傷の確認はより慎重にならざるを得ないからだ。
「ん、大丈夫そうだね」
「コルベットさんも、無傷だ。よかった……」
生まれたままの姿の二人は、そのまま安堵の息を吐きながら、改めてゆっくりと抱き合っていた。その日常に変化があったとすれば、そこに「口付けを交わす」という行動が一つ加わったということだろうか。
コルベットは清拭の間も、隙あらば彼の唇を奪っていた。だから、身体を拭き終わるまでに、いつもより時間が掛ってしまっていた。
「コルベットさん、キス、すごく好きですよね……」
「すごく、じゃない。かなり……❤ リオくんは、いや……?」
「いえ……コルベットさん、となら……いくらでも大歓迎です」
交代してリオナイトの身体を拭く番になっても、それは変わらなかった。それを好意的に受け止めていると彼は明かした。それにコルベットは嬉しそうにしながら、彼の身体中にキスの雨を降らせてゆく。
「こ、コルベットさん、っ。そんなに、したら……」
「ふふ、しってる❤ おっきく、なってる、ね……❤」
リオナイトが震えながら声に出す。コルベットはそれが意図的であるということを、妖艶な笑みを浮かべながら明かした。
「きょうの、リオくん……❤ すっごく、カッコよかった、からっ❤ おなかの、おく❤きゅんきゅん、ってしちゃってるの……❤ ほら、んっ……❤ さわって、みて……❤」
コルベットは口にしながら、彼の手を自らの股間へと誘導する。そこは彼が愛していないにも拘わらず、すっかり蜜を溢れさせていた。
「明日も、早いですから……一回だけに、しましょうか……」
「えへへ……❤ それでも、シてくれる、リオくん、やさしい……っ❤」
彼女からの誘いを断るのも無粋。そう考えたリオナイトは、ゆっくりとコルベットを寝台へと押し倒してゆく。暫くの間、部屋には彼女の甘ったるい蕩けた声が木魂していた。
後始末と再びの清拭を済ませた彼等は、再び抱き合いながら寝台に横たわっていた。コルベットは、
「ふふ……❤ リオくん、せいぶん……いっぱい、補充できたぁ……❤」
愛情をたっぷりと注がれた下腹部を撫でながらご満悦だ。そんな彼女の身体を
「明日は、別行動ですね……」
リオナイトが少し不安そうな声音でぎゅっと抱く。コルベットはそれに小さく頷く。
「でも、リオくん。大丈夫、だよ。こうして、帰る場所があるから……不安はない、よ❤」
コルベットは言葉を選びながら口にする。それでリオナイトはなるほど、と主治医の顔となって唸る。
帰属意識、そしてそこにいる親愛の相手。それこそが、彼女の発作を抑える環境的な治療法だったかも知れなかったと、彼はそれで気付き始めていた。
「明日また、無事、帰って来たら、おかえり、って……だきしめて、ね❤」
害虫を相手にしている以上、絶対無事という事はあり得ない。万が一はどうしてもある。だが、彼女の無事は確信している。だからリオナイトはそれに深く頷くと、
「はい。ですから、必ず、帰ってきてくださいね……」
コルベットの身体を強く抱きしめて、約束を交わすのだった。
翌日は夜明けと同時に、各自が昨晩決められた役割に従って汗をかいていた。
コルベット、ウメ、サクラで巣穴の徹底駆除に向かっていた。昨晩アイビーとイチゴが命がけで解明した事実から、死骸には一切手を触れずにそのまま魔法で焼却処理することが徹底された。
ウメが先行して害虫を屠り、それをサクラが魔法で処理する。そしてそんな彼女達を護衛しつつ、コルベット横撃や後背からの奇襲に備える。三人の役割は明確だった。
コルベットは医務武官であるということもあって、万が一に備えて中等症用リオキュアの点滴パックを数回分携えている。現場で負傷などという事故が起こった際に即応できる体制が整っていた。
これはリオナイトとイエローチューリップが昨日の空き時間に話し合って準備していたものらしい。真水が容易かつ安定的に入手できるようになったからこその、対応だった。
だからコルベットは、想い人の機転に感謝しながら、安心してウメとサクラの背中を護ることができた。
一方の病院棟では、医療チームの連携が光っていた。
昨日発症してしまっていたビオラ、アイビー、イチゴの治療はレッドチューリップとホワイトチューリップで治療経験があるリオナイトが担当。それをホワイトチューリップが補助医師兼看護師として支えている。
普段からの外来患者対応は主任医師であるレッドチューリップと副主任のパープルチューリップが担当。
そしてそれらに必要な薬剤は、イエローチューリップが調剤を一手に引き受けている。
これはリオナイトとレッドチューリップとが話し合って決めた陣容。まさに適材適所の見本と言うべき、見事な采配だった。
残りの無事だった面々はインフラの整備に精を出す。
水道周りは引き続きハリエンジュが中心となって担当。昨晩のイエローチューリップの提言を容れて、先ずは病院と公共便所の水洗化と下水道整備が優先されていた。
下水処理に関しては、魔法煮沸装置の一式の中に下水用のものも含まれていたから、それを井戸とは分けて設置することで、一旦は処理済みを下流へと放水することで対応できそうだった。
川への導水路の掘削をアカシアが指揮し、それを受けて残りの面子が手分けして行ってゆく。
この町の構造を一変させる国家事業は、一見順調に進んでいるかに見えた。
昼食の休憩時。
「あ、リオ」
「お疲れ様です。イエロー先生」
彼等は病院建屋の台所でたまたま顔を合わせた。二人は、食事自体は市場で済ませてきたようで、彼等は食後の飲み物を得ようとして、偶然に集まったようだった。
「丁度良かった。リオ、あなたに話がある」
イエローチューリップの顔つきが真剣なものだったので、リオナイトはそれで軽い世間話では済まなそうであることを理解した。だから、
「立ち話もなんでしょうから、フロントへ」
彼はイエローチューリップに場所替えを提案した。そこには確かソファーとテーブルも置かれていた筈だ、とリオナイトは思い出していたからだ。
「それで。話とは」
彼女とそれぞれ応接用に設置されていたソファーに向かい合わせで座ったリオナイトが、早速切り出す。イエローチューリップは小さく頷くと
「昨日ハリエンジュが対策会議の中で言ってた、社会構造の問題だけれどね。根本原因は、多分……この病院なのよ」
深刻そうな表情のままで、気付いたことを口にしてゆく。
この病院は元々リオナイトが、コルベットの「病院が必要」という提案を容れて、町に掛け合って設置させたものだ。つまり現在に於いては、町に税を納めている人々の公共インフラだ。
そして町からは土地建物、そして薬剤の材料や必要な医療機器といった資材の一式を無償で提供して貰っている。だから医療は常に無償で提供されていた。
「その、『タダ』ってのが本当はダメなの。実際は税を払っている人が使う以上、維持の為に全くビタイチ、ゴールドを払っていないか、と言われたら無論違うけれど……まぁ、見かけ上は、無料よね」
リオナイトはその指摘を受けてなるほど、と唸る。「医療は無私」という考え方も根強い春庭では、診察料や調剤料といった技術料自体は取らない事が多い。それはリオナイトとしても賛成だから、それ自体は問題ではなかった。
問題なのは、住民の意識だった。
例え魔腐胞症になったとしても、薬を貰って数日寝ていれば治る。また罹っても、病院に行けば無償で診てもらえる。
重症化しないことと、いつでも自腹を切らずに医療を受けられることに、ここの民衆は甘え切っている。それがイエローチューリップの指摘する社会構造の問題だった。
「こんなことをいつまでもやっていたら、薬草屋さんは間違いなく商売あがったり。だって、私っていう存在が強すぎるから。一般の人は誰も彼等からは、『材料だけ』は買わなくなるよ。そうすると、町にリベート込みで卸す、行政側とベタベタな業者以外は残らなくなる。実際、少しずつ薬草屋さんが減っているのを、私は目に見えて把握してるわ」
既に綻びの兆しは見えつつある。それをイエローチューリップは如実に感じ取っていた。だから彼女は、手遅れとなる前に設立者であるリオナイトにそれを話そうと思っていたらしい。
「今すぐにとは言わないけれど……せめて薬代、機器代といった必要経費だけは、医者にかかる人間からは徴収すべきと、私は思う。実際、スタイルも良くて美人な姉さんとただ話をしたいだけで病院に来る、スケベなご老体も多いしね」
イエローチューリップの指摘は間違いなく正論だった。民衆の安全意識が欠如しているというのは、リオナイトとしても何となく感じていた違和感。
それがようやく線で結ばれて目に見えてきたことで、彼もそれは真剣に検討をすべきだろう、と思いを致していた。
そしてその話を聞いたリオナイトの頭の中では、以前からあったこの土地を医療の中継地として使うという構想が徐々に具体化しつつあった。
だが、目の前の問題が解決し切ってもないのに、今それを誰かに語るのは早計だ。彼は、そうも考えていた。だから、この場ではそれを披露するのは止めていたのだった。
ウメ・サクラ・コルベットの三人は夕方前には無事何事もなく害虫の巣から帰還していた。彼女達が戻って来たということは、当初の目的は達したということになる。
それを受けて開催されたその晩の対策会議。その場で
「今回の出来事を期に、病院の経営を町から切り離すべきと考えます」
リオナイトは提言した。それは昼間のイエローチューリップからの指摘を踏まえたものだった。
病院が町営であるからこその歪み。そしてそれに甘え切っている住民たち。その結果、危機感が薄い。それを理路整然と説明された花騎士達は、思わず唸らざるを得なかった。
「私は、リオナイト君の意見に賛同する。害虫という災害によるものは仕方ないにしても、それが今日決着が付いた以上、いつまでも甘えていられたら、我らとしても困るのはその通りだ」
昨晩問題提起をしたハリエンジュが、いの一番に賛成意見を口にする。特に今の態勢が臨時であるということが、彼女の危機感を増長させていたようだ。
「私も、賛成かな。確かに病気じゃないのに、暇つぶしに来る
医療従事者側として賛成したのは、外来を担当する主任医師のレッドチューリップ。イエローチューリップが言っていた通り、それを矢面で引き受けている以上、十分思うところがあるようだ。
「成程……。私のようにただ害虫を屠るだけの者では事情は深くわかりかねるが。この体制がいつまでも続く、と町の住民は理解しているということだろうか?」
「はい、仰る通りです。恐らく、今回のこの体制が『臨時』であるということも、彼等は一切理解していないでしょう」
「……むぅ。それは困ったことだ……」
ウメが口にした疑問を、リオナイトはハリエンジュが感じていた危機感を代弁しつつ淀みなく肯定する。それで彼女は深刻そうな表情となる。
リオナイトの意見に反対はないようだったが、現状どうすべきが正解か。それを皆が考慮して一瞬の静寂。それを
「あの……」
コルベットが破る。それに頷いたリオナイトが
「どうぞ、コルベットさん。忌憚のない意見を是非」
発言を許可する。彼女のこういうった時の直感にはいつも助けられてきたから、それを遮ることは彼にはできなかった。
リオナイトからのそれを受けて一つ呼吸を置いたコルベットが
「決着が付いた、というのはまだ早計……と思います。確かに害虫はウメさん、サクラさんの尽力で見える限りは潰しました。ですが、感染源……特に害虫側の仕組みが解明されていません。これが詳しく分からない限り、また『毒』を持った害虫が再発してしまう可能性は……ないでしょうか」
言葉を選びながら、自身の直感を言葉にしていく。それは集まった面々、リオナイトすらからも抜け落ちていた観点だった。
「確かに、そうかも……。そこに気付ける、コルベットちゃん、すごい……」
サクラが驚きの声をあげる。それには皆同意のようだった。
「その通りだな。この体制をまた構築再現できるか、と言われたら難しいと言わざるを得ない。その原因究明は今、戦力が集まっているうちにやらねばダメだろう」
ウメも賛成に回る。確かに先にやらねばならないことがある以上、リオナイトの提案は一旦優先度を下げざるを得ない。
「明日、私とリオナイト先生で、巣穴の調査に出ようと思います。その間、皆さんには町の防衛を。そしてリオナイト先生が言っていた、経営独立の件の、詳細検討を。それぞれお願いできますか」
彼女の口から出たのは、かなり現実的な提案と指示だった。この場の誰もがそれを聞いてコルベットの成長を肌で感じていたから、それに反対意見を述べるものは、最早存在しなかった。
翌朝、リオナイトとコルベットは慎重に巣穴への潜入を開始していた。
既に殲滅は完了している筈。だから、危険はないと思われたが、それでも何があるか分からぬ以上警戒を怠る訳にはいかない。
だからかつて二人で旅をしていた時のように、リオナイトが先行、コルベットが殿軍という隊列だ。
リオナイトは今回検査器具や医療器具などを携えていた。事故が起こった時に対応できるように、ある程度の医薬品も持ち込んでいた。
その彼が持ち込んでいた機器の一つ、空間魔法力計は先程から
「成程……すごい溜まりっぷりですね。これが全部害虫から放出されていたということですか……」
その異常性に納得しながら、彼は慎重に奥へと進む。特に淀みがひどかったのは北西側であるから、二人はそちらへと自然と向かっていた。すると
「……? 振り切れたぞ……⁉」
空間魔法力計を見ながら歩いていたリオナイトが異常を察知して立ち止まる。それに気付いたコルベットも敵襲を予感して思わず身構える。
「あれー、コルベットじゃん」
「ほんとだー。お姉ちゃん、こんにちわ!」
だが現れたのは「敵」ではなかった。ミズウォルム。かつて三大害虫と呼ばれた、外園と春庭を護る存在。それが人間との交流をする為に形成した「交渉役」の、見た目は少女の者たち。
白髪の子が「シロ」、青髪の子が「アオ」。どちらもコルベットにとっては顔見知りだ。
「シロさん、アオさん。こんにちは。どうしてここに?」
「それはコッチの台詞ー。なんでコルベットはこんな偏屈な地下にいるの?」
「それに、こっちのお兄ちゃんは、誰?」
コルベットの疑問は軽く流されてしまった。逆に矢継ぎ早に質問を返してくる彼女達に彼女はたじたじだ。
「初めまして。僕はリオナイトといいます。僕は、コルベットさんの主治医です。そして今日は、この穴を調査しにきました」
コルベットに代わり、彼が関係性と訪問理由を語る。それで彼女達の興味はリオナイトに移ったようで
「へー。お医者さんなんだ」
「調査って、何? お兄ちゃんは何を調べてるの?」
今度はリオナイトに矢継ぎ早の質問を浴びせ掛ける。それに
「ふふ、大丈夫。好奇心旺盛なのはわかりました。僕と一緒ですね。だから、順番に説明しましょう」
リオナイトは優しく声掛けしながら、経緯を概要ながらシロとアオに説明していく。
「害虫が、病気……ふぅん」
「そんなこと、いままであったかな?」
シロとアオは顔を見合わせて訝しんでいた。どうやら心当たりはなさそうだった。だからリオナイトはある可能性に気付いていた。
「あの、つかぬ事をお聞きします。シロさん、アオさんは、
「そうだよ!」
「外園騎士ミズウォルム! カッコイイでしょ!」
リオナイトの確認に、シロとアオは胸を張る。それに成程、と一つ頷いた彼は
「それでは、一つ、お願いがあるのですが、いいですか?」
「うん、いいよ~! お兄ちゃんは、わたし達の話、ちゃんと聞いてくれるし、シロは好きかな」
「ちょっとシロ……。まぁ、いいか。ボクもお兄ちゃんのことは、嫌いじゃないから」
彼女達に協力を要請した。二人はそれに素直に応じてくれる。
「ごめんね、ちょっと手を出して。はい、ありがとう。これを、着けてもらってもいいですか?」
リオナイトが差し出したそれは、個人用の魔法力計。彼は二人に手早くそれを装着してゆく。すると
「な、七〇〇超……⁉」
二人からはリオナイトが真っ青になるような数値が出力されていた。ミズウォルムの化身という経緯を考えても、信じられない値だった。
彼はすぐコルベットを見やる。彼女はリオナイトが何をしようとしているのかを瞬時に理解したようで
「シロさん、アオさん。ごめんね。あなた達の、血液検査をさせて貰ってもいいですか?」
医師として、重要な確認をするための要請を行った。
「え、コルベットもお医者さんだったの⁉」
「すごーい!」
アオの驚きの声とシロの感嘆。それに嬉しそうに微笑んだ彼女は
「ありがとうございます。だからこそ、シロさんとアオさんには、協力してほしくて。いいでしょうか?」
改めて要請する。二人は顔を見合わせて暫し逡巡していたが。
「シロは、いいよ。でも、痛くしないでね……?」
「ボクは、痛いのは別に……平気さ」
彼女たちはそれに応じる姿勢を見せた。それに頷いたリオナイトは、
「それでは、シロさんにはコルベットさんが。コルベットさんのほうが、間違いなく上手ですから、全然痛くない筈です。アオさんのは、僕が採りましょう」
彼女たちの希望に沿うように人選を決める。そして医師二人は早速、「ミズウォルムの採血」という、前代未聞の新境地へと至ってゆく。
彼女達から採取した血液の色は、人間のものと何ら遜色はなかった。リオナイト個人としてはそこに興味が尽きなかったが。今それは全く問題ではないから、余計な事は口にしなかった。
彼は早速、荷物からシャーレを二つ取り出し、それぞれを顕微鏡で確認してゆく。
「やはり、ある。魔腐胞が……」
リオナイトはそれを確認して、確信した。彼女たちもまた、魔腐胞に感染しているのだと。だがそうすると、腑に落ちない部分がある。
「シロさん、アオさん。更につかぬ事をお聞きします。あなたたちは、病気になったりしないのですか?」
リオナイトの確認。それは魔腐胞症ということだけでなく、ミズウォルムが病気全般に罹らないのか、という聞き方だった。
「そうだね……あんまり、ないよね?」
「うんー。多分だけど。もし病気になって死んじゃっても、代わりはいっぱいいる、ってことかも」
彼女達の答え。それはミズウォルムという存在の特異性を十二分に表していた。
彼等は、シロとアオが例外的に人の形をしているだけで、根が同一である中、各個は無性生殖のような状態らしく、とにかく数が多い。
今は敵対する意思がないからそうしないだけで、彼等がその気になれば、そこら中にいる、という状況を簡単に作り出せる。
それがかつて花騎士……いや人類が彼等と敵対していた時分に尋常なく苦戦した理由だった。
だから必然的に世代交代が人間を含めた他の生物ではあり得ない速さで進む。それがミズウォルムという存在の「免疫力」の強さを示していた。
「そうか……だから、発症しないんだ。魔腐胞は、ミズウォルムに感染しても、病気にさせたら集団免疫で処理されてしまう……。割に合わない。だから、気付かれないように潜伏感染しているのか……」
リオナイトが気付いた事実。それは進化論のような話だったが、次第にこの問題の核心へと近づきつつある。無症状感染。それが成立し得るとすれば、辻褄は合う。だが。
「それがどう他の害虫に感染するか……それがわからないな」
彼の次の疑問が、手詰まり感を示していた。
そこが解明できなければ、この話はただ「ミズウォルム」という存在の、歴史の復習であるだけだからだ。
「リオくん、待って。……あるよ。ミズウォルムの魔腐胞が、害虫に感染する瞬間が」
コルベットがそこで、何かをひらめいた。それは彼女が「花騎士」で、ミズウォルムとの戦いも経験していたからこその気付き。
ミズウォルムは、害虫に「寄生」してそれを自由に操る事が出来る。それで「ヌシ」レベルの害虫と戦わされて何度苦戦したことか。コルベットはそれを思い出していたようだ。
「そうか。その時に害虫の体内に魔腐胞が『転移』するんですね……。それで、花騎士と戦って敗れ、用済みとして捨てられた、魔腐胞が感染した個体が、環境を汚染した……。なるほど。ようやく腑に落ちました」
魔腐胞の生活環。それが判明した。それ自体はよかったが。本当にそうか、という確証はまだだ。どうしたらそれを検証できるか。果たしてそれが倫理的に許されるか。それが次の課題だった。
「……シロさん、アオさん。その『乗っ取り』は、人間に対してもできますか?」
「うん、多分……?」
「やったことは、ないけど……できるとは思うよ」
リオナイトの確認。それに二人はやはり顔を見合わせながら。それに頷いた彼は、
「それでは、どちらかで構いません。僕にやってみてください。そしてすぐ抜け出して。それで、僕が魔腐胞に感染したら、今考えている理屈は正しいと言う事が証明できる」
研究倫理と理論検証を両立する方法を思いつく。それは自己犠牲を厭わず原因究明を優先するという、彼の覚悟の表れだった。
「リオくん⁉ そんなの、危ない、ダメだよ⁉」
彼を危険に晒す確認方法だ。当然、コルベットは反対する。だが
「大丈夫です。僕用に軽症者用のリオキュアがあります。それをすぐ投与すれば……軽い発熱程度で済む筈だ。そしてそれが出来るのは、シロさんアオさんの協力が得られている、今しかありえない」
リオナイトの決意は揺るがない。寧ろ、それが条件が揃っている今しかできない確認方法であるということも説明されてしまったから、コルベットは何も言えなくなってしまった。
「それじゃ、お兄ちゃん。いくよ……?」
「はい、いつでもどうぞ」
リオナイトの身体に入るのはシロが実施する。それを覚悟を決めた彼が頷く。そうして、一か八かの「臨床試験」は実施に移された。
身体が自分のものでなくなる奇妙な感覚。彼がそれを味わっているうちに、それは一瞬で終わった。
「はい、おしまい。うん、元に戻れた。できたね」
「へー、本当にできるんだ……ボクも今度やってみようかな」
「だ、だめですよ……やるなら僕だけに、ぐっ……」
シロが成功を確信し、アオは無邪気に言葉を吐く。それを止めようとしたリオナイトは、思わず苦悶の息を吐いた。明らかな倦怠感。彼が想定していた臨床症状としては正しいものだった。
「リオくんッ⁉」
「大丈夫、落ち着いて……すぐに採血を。その後、リオキュアを一パック、静注で」
その反応に駆け寄るコルベット。リオナイトはその彼女に手早く医師として指示を出す。
それはミズウォルムの乗っ取りと自意思での離脱という行為が、人体には影響を何ら及ぼさなかったという証明にもなった。
コルベットは早速それを手際よくこなしてゆく。そして先程リオナイトがやって見せたように、顕微鏡を覗いて彼の血液を確認する。
「あった……! リオくん、魔腐胞、あったよ!」
コルベットが嬉しそうに叫ぶ。彼の理論が正しい事が証明された瞬間だった。
点滴で特効薬を投与したことで、事なきを得てはいるものの、彼は魔腐胞症を発症した患者であることは間違いない。その状態のリオナイトを放置する訳にはいかなかったコルベットは
「シロさん、アオさん。ありがとうございました。あなたたちがいなかったら、本当に手詰まりでした」
彼に代わって丁寧に礼を告げると、
「彼を休ませなければならないので……私達はこれで、失礼しますね」
その場を辞して、手早く撤退する意思を見せる。それに頷いた彼女達は
「わかったー。お兄ちゃん、お大事にね」
「今度はボクにも、試させてね!」
それを承諾して手を振る。去り際のアオのそれには、二人は思わず苦笑いをせざるを得なかった。
リオナイトとコルベットが去った後。
「あの二人、デキてたね……」
「そうかな? そうかも?」
何となく察したアオの指摘に、シロは不思議そうな感じで首を傾げる。
「シロさ、さっきお兄ちゃんの中に『入った』んだから、わかるんじゃないの?」
「あー……。ほんとだ、デキてるね!」
アオの指摘に、リオナイトの精神思考をトレースしたシロが告げる。この「乗っ取り」の欠点が唯一あるとすれば、それだった。
「……ま、いっか。ママの周囲からライバルが減るのは悪い事じゃない」
「そうだね。パパはわたしたちのもの、だもんね」
二人はそれを敢えて「見なかったことにする」ということですぐさま合意していた。それは、彼女達にとっても黙っていた方が都合がよさそうだから、という、ただそれだけの理由からだった。
巣穴から戻った二人は、すぐさま対策会議を招集していた。リオナイトには軽い発熱が未だ見られたが、ここは圧す場面だと判断した彼は強行した。コルベットも最早それを止めはしなかった。
「リオ……。あなた、またよくそんな無茶を……」
「でも倫理的には正しい。コルベットちゃんやその辺の害虫で試さなかったのは英断だわ」
早速先程の感染経緯を聞いたイエローチューリップが呆れつつ。そしてその判断をレッドチューリップが賞賛した。それだけでも、彼の行動の正しさは証明されたようなものだ。
とかくも、これで水源まで汚染されてしまった理由までが判明した。巨大な巣の中での、魔腐胞症の害虫巣窟でのパンデミック。それによる地下土壌汚染。それが根本原因だった。
「これでようやく……状況は固定しました。間違いなく、私達の勝利です。ここに、害虫の巣の完全制圧を宣言します」
コルベットが静かに告げる。それは、花騎士として、医師として、この件でもうこれ以上人を死なせることはあり得ない、という意味合いも込められていた。
今まで苦楽を共にして来た花騎士達、そしてリオナイトに異存は全く無かった。だから彼等は、彼女のそれに、惜しみない拍手を送ったのだった。
リオナイトは王都に帰還するなり、顛末報告書の作成に取り掛かった。
併せて、魔腐胞および魔腐胞症に関する研究論文、そしてその特効薬である「リオキュア」に関する倫理審査の申請書も準備していく。
これらの作業でリオナイトが不在となる代わりは、コルベットが務めていた。彼女は、医師として独り立ちできるだけの力量を、既に備えていた。それがナンテンにも証明できたからこその役割だった。
未だ騎士団からの、コルベットに対する評価や扱いの変更に関する辞令や連絡は一切ない。だからこそ、そういう役割で対応するのが一番自然であるように思えた。
自宅の書斎。そこでリオナイトは筆を走らせていた。今報告書に記載しているのは、その後に起きた不穏な出来事の話だ。
ウメやサクラからの報告により、ブロッサムヒルの国家としては例の町の事を放置しておくことが出来なくなった。
よって、引き続きアカシア隊とブロッサムヒルの国家建設局が中心となって巣のあった地下空洞部分を埋める土木工事と、上下水道のインフラ整備が国家予算によって開始されることになった。
それは、その町が半ばブロッサムヒル王家の直轄地とされる事と同義だった。自治権は停止され、花騎士と王立医療センターの医師が町の方針を決定する。それに住民は異論を挟むことが出来なかった。
同時に、病院の民営化と医療の有償化も図られた。これはチューリップ四姉妹が主導していた。
国家予算で運営される王立医療センターの分院ではなく、あくまで彼女達が経営する、個人的な病院。そういう扱いとすることで、医療に使用する資材を自由競争で仕入れる形に変化させたのだ。
そしてそれは、意外にも医療倫理委員会の承認済みだった。どうやら委員会でも、以前から資材の仕入れが御用商人に偏っているという事を問題視していたようだ。
それを改革するモデルケースとして、チューリップ四姉妹を利用できるのではないか。そんな政治的な思惑も、そこには垣間見えた。
一方で、住民はそんな強引な国家の介入に困惑していた。特に医療の有償化は、彼等にとっては青天の霹靂だった。
だからそれに反対する者達は、自然と町を去った。その彼等は、町の北側に流れる川沿いに西進した上流に新たな集落を形成していた。
そこは、魔腐胞の土壌汚染・水質汚染が著しい土地だった。だがそれを、医療の重要さの一切を理解しようとしなかった彼等が知る由も、当然一切ない。
魔腐胞が慢性的に寄生し続けるとどうなるか。それは害虫には有意に見られた兆候だったが、人間の臨床像としては乏しかった。だから、その新たな集落では原因不明の高熱で命を落とすものが続出していた。
中等症のままで何とか生き残った者達は、命からがら元の居住地に辿り着いて、医療に縋った。
だが、既に病院はチューリップ四姉妹の個人病院となり、平時運用に切り替わっていた。受診は無論のこと、特効薬「リオキュア」の投薬も当然有償だ。症状の過多だけでは最早如何ともしがたい隔絶が、そこには存在していた。
もちろん彼等の事情を汲めば、気の毒な話ではある。だが、例え花騎士であっても、誰であっても、その病院では最低限資材の利用料を徴収する。それは、このブロッサムヒルにおいては稀有な、公平な医療制度だった。
無償受診を特例として認めるには、かなりの時間が掛る。それを説明された助けを求めていた者達は、その残酷な事実に絶望するしかなかったのだった。
そこまでを客観的な事実として記したリオナイトは、筆を置いて一息吐く。いつしか、彼の横には帰宅したそのままの、白衣姿のコルベットが寄り添って座っていた。その彼女は静かに寝息を立てている。時計を見やれば、既に日付が変わっていた。
「コルベットさん、遅くなってごめんなさい。
リオナイトが彼女の身体を揺すって起こす。それで寝惚け眼ながら意識を取り戻したコルベットは、嬉しそうに彼の身体へとしがみつく。
職場や立場に微妙な変化はあった。だが彼等の関係は今のところ不変だった。
最も波乱があると誰もが思っていた特効新薬「リオキュア」の倫理審査は、意外にも、あっさりと承認された。
その決め手は、「チューリップ四姉妹以外の花騎士に対しても有意に薬効があった」という臨床結果だった。
更に先にリオナイトが魔腐胞についての研究論文を発表していたことも良い方向に働いていた。
彼の専門分野であった「古代花騎士性魔力循環過剰症」の過去症例研究と、そこからの着想であるということも、審査申請に十分な説得力を与えていた。
リオナイトはそこで、敢えてコルベットとの「研究」については徹底的に秘匿していた。その個人的な事情との切り離しも、やはりここでは良い方向へと物事を動かしていた。
イエローチューリップは既に薬学研究の第一人者として認識されていた。その彼女が個人的に行っていた「媚薬」の研究から着想を得たという点は、リオナイトは新薬に関わる事として正しく記載していた。
だがそこでも、彼の過去の姿勢が大きく評価されていた。リオナイトが当初イエローチューリップに要求したこととして、最も重要視したのが「依存性がないこと」だった。
これにより、設計はリオナイト、調合創薬はイエローチューリップ、という役割が明確になり、設計思想に透明性を持たせる事が出来ていた。
更に、依存性を徹底的に抑えたことで、それは「麻薬などの危険薬物よりはよっぽど管理しやすい」という評価にも繋がっていた。
結果として、彼の申請した「リオキュア」の倫理審査は、「今後も使用時には医師・薬剤師の両方の承認が必要」という条件付きで、承認された。晴れてリオキュアは、正式な治療薬として認められたのだ。
これらのリオナイトがまとめた成果は、ブロッサムヒル王家やポトスが騎士団と兼務して所属する諜報機関「ディープ・レコード」を通じて各国に伝達された。
その危険性を耳目で感じた各国首脳もまた、自らの配下組織に命じて魔腐胞に関する研究を開始させていた。
リオナイトとコルベットの活躍が春庭全体へと伝わり始めたのと前後して、リオナイトは意外な者からの重大な訪問を受けていた。
「ぼ、僕が……陛下から、叙勲⁉」
王宮からの使者からそれを聞いたリオナイトは、驚きを隠せずにいた。だが、その叙勲の決定を通知する、彼に宛てられた親書に記載のあった授与理由は明確だった。
「重要な交易拠点を類まれなる医術で救い、ひいては春庭全体を揺るがす可能性があった重篤な感染症の特定と、その防疫に関する顕著な功績を称える」
どうやらリオナイトの活躍がブロッサムヒル女王の耳目にすら止まったらしく、その詳細を確認して感嘆した彼女は、即決だったそうだ。
「えぇーっ⁉ し、失礼。私が、ですか……⁉」
そしてそれと前後して、コルベットが担当していた外来診察室からも驚きの声が。どうやら彼女も同様の理由で叙勲なされる事が決まっていたようで、そちらにも別途使者が訪れていた様子だ。
女王から直々の叙勲。それは、リオナイトのような一般人はおろか、コルベットのような経歴を持つ花騎士ですらも、よっぽど顕著な活躍がなければ滅多にない大事だ
コルベットの医師としての顕著な活躍と、それによる叙勲。当然それを、団長も耳にしていた。騎士団としても、彼女の活躍に無関心では最早いられなかった。
だから彼は
「コルベットを、花騎士としても医師としても、活躍できる場所に置くのが適当か……」
彼女に新たな役割をどう与えるかについて、真剣に検討を開始していた。
その決定内容が、早速コルベットに対して辞令として手渡されていた。
「コルベットを第一副団長として復帰させる。また、医師との兼務を認め、当面はカレンサスにおける拠点医療の司令官としての任を与える」
団長からのそれを、ナズナから受け取ったコルベットは、いよいよかねてから自身が抱いていた不安が現実になってきた、ということを理解した。
即ち、本当に愛してしまった相手、リオナイトとの忙しいながらも穏やかだった日常の終焉。いつまでも幸せが続けばいい、と願っていた彼女にとってそれは、ある意味非常に冷酷な命令だった。
叙勲を受ける日は、彼等が慌ただしい日々を送るうちに、あっと言う間にやって来た。夕方より玉座の間で行われる叙勲式。それには、騎士団長もわざわざ時間を割いて参加していた。
そして列席した、彼の騎士団に属する並び立つ名だたる花騎士の面々。コルベットに代わって副団長を交代で務める者達の姿もあった。
普段から身に着けている名入りの白衣の下は、真っ黒で
同じくあの日あの町を救うために戦場に立っていた時から愛用している、「Dr.Columbine」と名前が刺繍で入る白衣を纏いつつ、その下は彼女の女性らしさを強調するかのような、象牙色・淡い銀・深い赤の三色の調和が美しい、背や胸元の露出が大胆な意匠ながらも、彼女の品の高さを伺わせる、イブニングドレスを身に纏ったコルベット。
二人は今、偉業を成した医師としてブロッサムヒル女王の前に並び立っていた。半年も前の、気弱で悲観的な患者と、それを必死に治そうとしていた主治医という関係の二人は、もうどこにもいない。
女王が玉座から進み出て、二人の白衣の胸元に、叙勲を施す。それは、確かに二人にとっては、大変な栄誉だった。
この叙勲に際しては、本来ならば国家試験を受けて合格せねばならないところ、功績が大ということで特例として、医療倫理委員会よりコルベットに対して正式な医師免許が交付されており、それの手交も女王を介して行われた。
「
その言葉の意味を、コルベットは一瞬、理解しきれなかった。だが、女王からそれを受け取ったコルベットは、深く首を垂れてからようやく実感する。まさかこんな栄誉に与れるとは。こればっかりは、彼女としても感涙であった。
叙勲式の後は、騎士団庁舎の大広間で祝宴が開かれていた。団長は最初の挨拶で
「この度、コルベットの復帰が決まった。彼女には
彼女の復帰を皆に告げたきり、席を外していた。どうやら首脳の位のお偉方に呼ばれて、緊急の会議に参加している様子だった。
主賓であるリオナイトとコルベットは同じ前面の席に団長と並んで座る形。団長が不在になった途端、そこにはひっきりなしに来客があった。
その中でも一際象徴的だったのが、すっかり酒を深く浴びて酩酊気味のナンテンと、それを肩に抱くレッドチューリップの組み合わせ。
「おぉ~。リオ~。飲んでるかぁ~⁉」
「この人、普段飲まないだけで、酒が入るなり、かなり絡んでくるのね……」
どうやら二人はそこそこに和解したらしい。ナンテンはこうなる前にはちゃんと色眼鏡を外して、素直に姉妹の功績を称えていた、ということをレッドチューリップは語る。
「なにお~~。まだ、わたしは、おまえのこと、ちゃんと、みとめた訳じゃ、ないからなぁ~。こんかい、だけ、だぞっ!」
「ああはいはい。わかってるから……」
それが癪に障ったのか、ふらふらと海藻のように揺れながら憎まれ口を叩く師匠の様に、リオナイトは苦笑せざるを得なかった。
そのままナンテンはリオナイトにも絡み酒を始める。そこにイエローチューリップを始めとした三人もやって来たので、賑やかになったな、と感じたコルベットは
「ちょっと、お花摘みに、行ってきますね」
丁度いい頃合いと間合いだと感じて、中座して化粧室へと向かう。
宴会場を出たコルベットは、一つ息を吐く。ドレスの上から羽織る白衣に着く、胸元の立派な勲章が、ひどく重たく感じられた。
花騎士、医師としての「評価」を十二分に得た。そして待望していた「役割」も団長から明確に与えられた。与えられたそれらは、間違いなく立派なもの。彼女は充実しているはずだった。だが
「なんでだろう……どうしてか、心がからっぽに、なったような……」
コルベットは得も言われぬ空虚感を覚えていた。それは彼女が
「これが本当に自分が求めていたものだっただろうか」
という疑問を抱いてしまっていたからに他ならなかった。
彼女の中座した時に口にした理由も七割ほどは正しかったので、コルベットはいそいそと目的地へと向かおうとする。その途上、
「見て~! 昨日、私も遂に団長さんから貰えたの‼」
「すごいじゃないか! 私なんて、開花もまだなのにな……」
コルベットとしてもどこかで見覚えがある花騎士の二人が、廊下で世間話を交わしているのが彼女の目に入る。
片方の短い金髪の花騎士は、左手に付く指輪を大事そうに、だが誇らしそうに、相棒であるらしいもう一人のやはり短髪の、美しい白髪が特徴的な花騎士に見せびらかせている。
コルベットはその光景を目の当たりにして、
「そうか……昔ならいざ知らず、『誓い』なんて、もうそんな程度なんだ……」
それが最早勲章程度の意味にしかなり得ないということに気付く。気付いてしまう。
コルベットのそれは、四百五十年前もの価値観。誓いを受けるとあれば、大変な栄誉で、それを交わした団長と生涯を添い遂げるのは当たり前。彼女はその認識のままだった。
だが、現代では最早違う。団長の愛は求めないと与えられない。それをはっきりと認識したコルベットは、そっと自身の価値観を現代仕様にアップデートする。
そうすることで、コルベットの中では、今まで見聞きしてきた、色々な事が腑に落ちてくる。団長の態度も、立場も、レッドチューリップの助言も、自身の「体質」との相性の悪さも。
団長は、一人の花騎士だけには愛情を注げない。身は一つなのに、三桁後半もいる彼女達に毎日のように縋られている。それは最早自明だった。
彼女が本来生きていた当時は、選んで「貰えた」。だから、愛を「独占」できた。だが、現代においては、団長と誓いを交わした花騎士というのは特別でもなんでもなく、当時と比したなら、「非常にドライ」な関係だ。
リオナイトと身体を交えてしまったこと。「治療」という言い訳で自分の気持ちから逃げて来たこと。そして正直になってからもどこか心の奥に罪悪感が引っかかっていたこと。それすらも「お互い様」だった。コルベットはいよいよそれらの全てを察してしまった。
「私、なんか、ばかみたい……。そんなの、最初から、わかっていた、つもりだったのにね……」
認識の誤り。価値観の違い。そこから来るすれ違い。それを全て正しく理解したとき、彼女は先程まで自覚していた空虚感の正体を知った。
やはり「私が欲しかったのはこれではなかった」と。
「もう、いいんだよね。求めなくても。求められなくても。だって、それは……『普通の女の子』としての、私には、最早不要なものだもの……」
静かに、ドレスの手袋外したコルベットは、左手薬指に敢えて今日だけは付けていた
重荷から解放された。指輪が下がるネックレスから手を離した瞬間、彼女は紛れもなくそう感じていた。
「ふふ……。やっぱり、私は、団長さんには、相応しくない女……」
自嘲気味にそう独り言ちたコルベットの脳裏には、その時かなり狡猾な考えが浮かんでいた。花騎士と、情愛を両立する。それは、彼女の
「でも、それが許される世の中、ですものね……。団長さん……ごめんなさい。私は……『花騎士ではない』コルベットは、もう……あなたのものでは、なくなってしまいました……」
コルベットは、確定的な選択をしていた。誰を愛すか。誰と日常を共にしたいか。誰と添い遂げたいか。それに対する彼女の答えは、最早明確だった。その結論は、不思議なほど静かに、彼女の胸に落ちていた。
コルベットが様々な重荷を降ろして化粧室から出てくると、先程の二人組は廊下から姿を消していた。そのかわりに、廊下の先で、聞き覚えしかない声がする。
「あれ、どこだろな……ここも、女性用だけ……」
彼女の目線の先には、男性用の化粧室を探して彷徨うリオナイトの姿が見えた。
「リオくん?」
「あ、コルベットさん……。すみません、僕もその、『雉撃ち』なんですけど……男性用のが見当たらなくて……」
彼女からの声掛けに、リオナイトはばつが悪そうに困っているという事を口にした。彼女は一瞬逡巡した後、
「こっち!」
彼の手を引いて、下階へと誘う。確かに上階には女性用の化粧室しかなく、男性用はそこにしかなかった。騎士団庁舎に不慣れな彼は、それが理解できていなかった様子だった。
一つ下の階に降りた二人は、男性用の個室に入っていた。入るのは一人で良かった筈なのに、何故かコルベットまで無意識のうちに一緒にそこへ付いて来た。その理由が、この時点のリオナイトには良く分からなかった。
「取り敢えず、シていいよ。私は向こう、向いてるから」
「あ、はい……」
出ていく気はないんだな、と言う事を了解したリオナイトは、いそいそとズボンを下げ、便座に座って用を足す。どうもコルベットが耳を赤くしながらチラチラと様子を伺っているようにも見えたが、それを彼は気にしない事にした。
水栓を操作して蓋を閉じた彼は、
「ありがとうございます。助かりました」
コルベットに礼を言いつつ声を掛ける。すると彼女は無言で抱き付いてくる。彼の首に触れる左手には、硬い感触がなかった。だから
「コルベットさん……」
リオナイトは何も言わず彼女を抱き返しつつ、艶やかな緑髪を優しく撫でる。それが合図だと理解できるコルベットは
「ふふ……やっぱり、やさしい。何も言わなくても、わかるんだ……❤」
嬉しそうに独り言ちる。
「前も、言いましたよ。応援する、って。その為なら、協力は惜しみません」
それが彼女の夢を叶える為の行動であるということに気付いたリオナイトは、コルベットを勇気づけるように、一言。彼女はそれに嬉しそうに頷いた。
「私の、女としての、心と身体は……もう、間違いなく……リオくんの、もの。今日、いろいろあったから……。それで……はっきり、わかったんだ」
具体的に何がどうとかは言わず、コルベットはただ淡々と言葉を紡ぐ。それにリオナイトは聞き入るように頷く。
「でも……やり残したことが、まだ、ある。だから、まだ……花騎士は続けなきゃ、って思ってる」
彼女の指すそれは、恐らく、錯覚だった「誓い」との決着。それが理解できるリオナイトは、彼女を抱く腕に少し力を入れる。
「うん……。ありがとね。たぶんね。リオくんは、優しいから……。何も言わなくても、きっとわかってくれる。そう信じてる。でも、言うべきは、言わないと。間違ってたら、困るから……」
いよいよ決心したコルベットは、最早彼の暗黙の優しさだけでは満足できないと感じていたから、
「私は、これから、団長さんを裏切る。花騎士としての私と、女としての私は、もう別物……。だからこそ、これから私は、団長さんに『花騎士』として……抱かれようと思う。そして、それが終わったら……リオくんには……私を、女の子として、あなたを、愛する、一人の女として、抱いてほしい……」
要求を明確にする。それは、リオナイトに対して明確に「共犯」となることを求めるものだった。彼は愛した女性のそれに迷いなく頷くと
「コルベットさん。僕からの……あなたへの、最後の処方です」
こうなる事を予想して準備していたのだろう、一つの密封された器具を彼女に手渡す。
「これ、は……?」
「ペッサリーという、婦人科の器具です。子宮口を……物理的に塞ぐ時に……使います」
リオナイトは、それを医師としてではなく、コルベットの希望を叶える為に、ただの何ら資格を持たぬ一人の男性として、彼女に対して処方した。それだけでももう、医師としては失格だ。
「ふふ……❤ いけない、リオナイト先生❤ 間違いなく、倫理規定違反、ですね❤」
それが自分が望んだ通りであることを把握したコルベットは、嬉しそうに、だが妖艶な笑みで、医師として批判した。そして
「でも、共犯になって、ってリオくんに、言ってる時点で……私も、医師としては、失格……。だから、お互い様、かな……❤」
自分にも最早そんな偉そうなことを言う資格はない、ということをはっきりと口にしたのだった。
「手助けは、必要ですか……?」
リオナイトの確認に、コルベットは
「うん……❤ つけたこと、ないし……それに、ね。それは……できれば、リオくんに、つけてもらいたい、な……❤」
小さく、だが嬉しそうに呟くと、早速身に着けていたドレスを捲りあげて、それと調和するように選ばれたと思しき、可愛らしい小花の刺繍が随所にあって清楚そうに見えながらも、彼女の綺麗に整えられた陰毛がはっきり浮かぶ程に透け感がある大胆な意匠の、藍白色のTバックショーツを晒して、すぐさま準備を整え始めていた。
二人が席に戻ると、宴に参加していた者達の大半はもう酩酊状態になっていた。床で、はしたなく転がったまま夢を見ている者まで出ている有様。凄惨たる状況だ。もう誰がどう戻ってきても、そこから抜け出そうにも、最早誰も気にしないだろう。
そんな混沌を極める中、ようやく団長が戻って来た。会議が長引いたのだろう。少し窶れた表情をしていた。
「コルベット。今回のこと、個人的にも大変嬉しく思う。私としても何か報いたいが。希望はあるかな?」
その彼が不意に、彼女に声を掛ける。それは、コルベットにとって願ってもない一言。誘惑する理由を作る手間が省けた、と小さく頷いた彼女は、
「それでは、僭越ながら……あなたが、欲しい……です」
花騎士として、要求する。彼女の一世一代の虚言だった。ただ、今の私人としてのコルベットには団長との交わった証も確かに必要だった。だから、半分は嘘ではない。
そしてそれに裏があるとは気付けず、相変わらず彼女の全ての感情が自身に向いていると錯覚している団長は、
「わかった。それじゃ、私の部屋へ……」
彼女の手を引き、その場を辞そうとする。その刹那。コルベットの目線がリオナイトと一瞬合わさる。
もう二人の間では、これから起こる事は既定路線だ。だから
「ご武運を」
彼からの目くばせ。それを受けて、リオナイトからそう言われた気がしたコルベットは、かなり気が楽になっていた。
「あらら、リオ。いいの? コルベットちゃん、団長さんに取られちゃうよ?」
そこに少し派手めの青と黄色の二色を基調としたドレスを着たイエローチューリップが盃を持ってやってくる。彼女はある程度事情は把握しているから、揶揄い半分だ。
「そう、見えますか?」
リオナイトはそんなイエローチューリップからの問いに、平然と意味あり気に口にしながら、彼女とも盃を交わす為に少し残っていたワイングラスの中身を呷る。
彼のその余裕そうな感じに何かを仕込んだのだな、と察したイエローチューリップは
「はー。あんたも、なかなかやるものね。ま、後悔だけは、しないようにしなさいな」
手元にあった酒瓶から彼の空になったグラスに酒を注いでやろうとする。すると
「あ、この後多分、まだ
リオナイトがまた意味深に。それはまるで、コルベットに「発作」が起きる事を予期しているような一言。本当に
「リオといい、コルベットちゃんといい……。あんたたち、連携ぴったりすぎて、時々ほんと怖いのよね……」
ある種の誉め言葉を口にしながら、改めて自らの持っていたグラスと彼のそれを合わせて音を立てたのだった。
団長と共に執務室に至ったコルベットは、自分と団長の様子を伺う視線の存在に気付いていた。恐らくは、ポトスかナズナ、またはその両方。
普通なら他人に性交の様子を見られるなどというのは甚だ不本意だ。だが、恐らくこの後自分は「発作」を起こす。
そしてそうなった場合、速やかに
その監視者に怪しまれぬよう、彼女はゆっくりと、だが見せ付ける様に、白衣とドレスと下着を脱いで、生まれたままの姿へと変わる。
そうして準備を整えた彼女だったが。やはり一人の女性としては、事前に
「おいで、コルベット……」
既に脱衣を終えていた団長が寝転び、その一言だけを告げる。それは、明らかに自分から求めてこいと言わんばかりの仕草。「証」の有無にすら気付きもしない。
彼にとってはそれが「普通」だったが。愛される事に慣れ過ぎたコルベットにとっては、それはあり得ないような雑さだ。こんなにも受け身だったのか、と失望しつつも
「はい……団長さん……」
覚悟を決めたコルベットは、ゆっくりと彼の上に跨る。
その大きさは愛した男と然して変わらぬ。かつて処女を捧げた時分はこんなにも、と思っていたが。今となってはこの程度か、とコルベットはどうしても比較してしまう。
彼女は先程
コルベットはそのまま、幹を手で扱きつつ彼の先端を膣の浅い所で擦り上げて、必死に彼から精を絞ろうとする。彼女が満ち足りている際には、絶対にしないような行動だった。
然るに団長はそれでも「久々」の快感を得ているようで、
「コルベットの、膣内……すごく、いい、よ……」
呼吸を乱しつつある。もう少しだ。彼女はそう感じていた。だが、その今必死になっている自分がコルベットとしては非常に惨めだった。だから、
「リオ、くん……っ」
コルベットは、自然と、心の中で愛する人の名を呼んでしまう。すると、その気持ちが溢れ、彼女の血中魔力物質は飽和状態へと近づいてゆく。
「うう、っ、すご、っ……!」
団長はこの状態となったコルベットと交わったのは初めてだった。だから、耐え切れず精がこみ上げてくる感覚を得る。
「だす、ぞ、っ」
「きて❤ きてぇぇえっ❤」
早く終わらせたい衝動から、コルベットは蕩けた声を出す。既にコルベットが「発作」を起こしてしまっているという事にも気付かず、団長は精を迸らせる。
それを受け止めたコルベットは、目的を達したという達成感から、蕩けた表情を浮かべていた。その様は、「団長に抱かれたかった古代花騎士」の様子としては満点だった。
「あ……」
団長の逸物を身体から排す。その動作だけで精一杯だった。彼女はそのまま寝台に沈み込んでしまう。
「コルベット……?」
その様子がおかしいと言う事に、流石に団長も気付いてくる。身体が熱い。これは異変だ。そう直感した彼は
「ナズナ、ポトス! すぐ医師を、リオナイト君を呼んでくれ‼ あとコルベットに服を着せてやってくれ‼」
してやったり。熱で浮かされながら、コルベットはどこか満足そうな表情を浮かべていた。
ナズナに呼ばれたリオナイトが駆けつけると、コルベットは寝台に仰向けに寝かされていた。その横には、不安そうな表情の団長とポトスが。
団長の様子を一瞥した彼は
「コルベットさん、コルベットさん。聞こえますか?」
脈を取りつつ魔法力計を装着させて様子を見る。すると彼に触れられたことで、コルベットの容態は次第に落ち着きを見せる。
「脈拍、正常。魔法力数値、異常なし……」
コルベットのバイタルを確認していくリオナイトの様子は、専門医そのものだった。目の前の女性と共謀しているようには一切見えない。
「ん……あ……リオナイト、先生……?」
そこで彼女がはっきりと意識を取り戻す。それで元々部屋にいた三人は安堵の表情を浮かべる。主治医としては予め想定していた程度の症状だったので、彼はそのまま淡々と応急処置を進めてゆく。
「恐らく、『気持ち』が昂ってしまったのが原因でしょう。あまり
寝台の様子から、コルベットに騎乗位でもさせていたのだろう。それに気付いたリオナイトは、少し怒気を含んだ言葉を吐いた。団長はそれに恐縮せざるを得なかった。
リオナイトは少しまだふらつくコルベットを肩で支えながら、彼女が騎士団庁舎に与えられている自室へと向かっていた。
団長からは
「今日は無理はしないで休むように」
という指示が先だってコルベットに対してあったのも、彼等にとっては都合が良かった。
「えへへ……リオくん、ありがと、ね……❤ さっきの、団長さんに、おこってたところ……すっごく、カッコよかった……❤」
コルベットはすっかり女の顔になって、彼にしがみ付いていた。その彼女を労うように、背中越しにうなじや髪を撫でてやりながら、リオナイトは彼女に負担を掛けないようにゆっくりと進んでいた。
そうして部屋へと辿り着いた二人は、錠を落として朝まで誰も入って来ない密室を作り出す。そこからは、愛する二人だけの時間だった。
二人は一先ず簡易的な浴室を兼ねた化粧室へと至る。コルベットは先程の
その少し上気した様子に頷いたリオナイトは、持っていた医療器具入れから取り出した、真水で生成された膣内洗浄液を使用して、彼女の身体の奥を丁寧に洗い流してゆく。
その処置の優しさと労るような丁寧さに、コルベットは嬉しさから思わず震えていた。
先に使ったものには、殺精成分が含まれていた。だからそれを洗い流す二本目を使って、彼女の膣内の
「コルベットさん。ペッサリー、外しますか?」
「ん……❤ もう、いらない、から……❤」
リオナイトの確認に、彼女は嬉しそうに頷く。それはもう、「女」としては二度と団長には抱かれるつもりはない、という彼女の覚悟の表れだった。
それに頷いた彼は、ゆっくりと彼女の子宮口を覆っていた器具を取り外し、彼女の女性器を妊娠が可能な状態へと復元させる。
その一連の「後始末」を済ませた彼等は、式典に出ていた格好のまま、舌を絡めた接吻を交わしながら寝台へと縺れ込んでいた。
もう二人は服を脱がし合うのすら億劫なようで、最低限だけを露出させたままに、キスを交わしながら、互いの性器を優しく、だが確実に愛撫しながら高まってゆく。
不意に、リオナイトの指にはどろ、とねば付いた液体が齎される。彼がそれを改めてみると、彼の指には最早既成事実作りしかないとはいえ、先程の性交によって彼女の藍白色のショーツの、か細いクロッチにこびり付いてしまっていた、団長の精だった。
「万が一があったら、いけないから……」
リオナイトはそう小さく呟くと、コルベットの下半身の方へ身体を移動させる。そして彼女の様々な体液で汚れてぐしょぐしょになってしまっているショーツのクロッチをしっかりとずらして、ぷっくりと膨れた陰核や秘唇を団長の精が入り込む余地がないように、丁寧に舌で舐ってゆく。
「ん、はぁ、ぅっ❤ リオくん、だめ❤ そこ❤ さっき、だんちょーさんに、なかだし、されちゃったばっかり、で……きたない、よぉ❤」
コルベットはリオナイト以外に穢されてしまったことに罪悪感を覚えつつも、羞恥からその行為を拒絶する。だが彼はそれを無視して、指も二本程彼女の膣内に挿入して、じっくりと優しく愛撫を続けてゆく。
今まで以上に丁寧な秘唇への口淫。コルベットはそれにすっかり溺れてしまっていて、
「やぁ、っ❤ なんか、すごいの、きちゃう❤ だめ、だめぇぇっ❤ ん、ぅぅぅっ❤」
いよいよ耐え切れず一際大きな絶頂へと導かれた。すると、彼女の秘唇から透明な液が噴き出てくる。
「や、やだぁ❤ わたし❤ しお❤ ふいちゃって、る、っ❤ だめっ、リオ、くんっ❤ みないで❤ みちゃ、やだぁぁ❤ ん、ぅぅっ❤ だめ、とまらない、よぉ❤」
その間もリオナイトは愛撫を止めずに陰核を刺激し続けたので、彼の顔やその直下にあった寝台の敷布、更にはコルベットが尻に敷いていたドレスのスカートの一部はすっかり水濡れの様相を呈してしまっていた。
「ご、ごめん、っ……いっぱい、よごしちゃった……」
「ふふ、大丈夫……コルベットさんが、いっぱい、気持ちよくなってくれてるって、わかります……。すごく、嬉しいです、から……」
慌てるコルベットを余所に、それを気にするでもなく、再び彼女の股間に顔を埋めようとするリオナイトを
「ま、まって……❤ わたしも、シたい……❤ リオくんの、お○んぽ❤ なめたい……っ❤ いっしょに、きもちよく、なりたい、の……❤」
彼女がしおらしく制した。それを了解したリオナイトはコルベットと位置を交代し、仰向けに寝転がる。
その上に彼女がゆっくりとドレスのスカートの裾を摘まんで、辛うじて下着で覆われている下半身を晒しながら彼の頭上に跨る。
そうして相互口淫の体位となった二人は、互いの性器を優しく舐って、同時に高まってゆく。
リオナイトは彼女の窄まる口腔内に吐精してしまいそうではあるが、まだ多少は余裕がある。一方、先程から何度も強烈な絶頂へと至らしめられているコルベットは、最早身体が快感を欲して止まず理性が蕩けてしまっているようで
「んぅ、ぅぅっ❤ らめ❤ そこ❤ クリ、らめっ❤ また、でちゃうっ❤ んひ、っ❤やっ❤ らめぇ❤ リオ、くんっ❤ らめぇ❤ わたしの、おもらし❤ のんじゃ、らめだよぉ❤ うぅ、っ❤ はずかしい、けど❤ しお❤ ふいちゃう、の❤ くせに、なっちゃう、よぉ❤ ん、ッ❤ ひあぅ、っ❤」
小刻みに絶頂に至っては、秘唇から潮を吹き出してしまうのを留められずにいた。
そうして暫く互いの性器を蕩かすかのような相互口淫を続けていると、
「リオ、くん……っ❤ わたし❤ もうっ、がまん、できないっ❤ んぁ……っ❤ れる……っ❤ わたしの、おくち、で❤ こんなにも、おっきく❤ なっちゃった❤ リオくんの❤ かちかち、の❤ お○んぽ❤ お○んこ、に❤ ほしい……っ❤」
遂に性器の疼きが限界に達してしまったらしいコルベットが、逸物の雁首から裏筋にかけてを優しく舌先で舐りつつ、しおらしく要求する。リオナイトもこれ以上彼女に口淫で高められてしまうと暴発の危険があった。だから、コルベットの要求に小さく、だがはっきりと首肯する。
ここまで高められて精巣にどろどろと溜まり切った精液を彼女の膣奥に注ぎたいと志向して射精を堪えていたリオナイトは、彼女の要求に応じて、再びコルベットの身体を寝台に仰向けに横たわらせてその上に覆い被さると、
「それじゃ、コルベット、さん……。いれます……っ」
彼女の口淫で最大限まで滾っている剛剣の先端を、やはり自身の口淫を受けてとろとろに蕩けてしまっている、挿入を待ち侘びてびくびく震えるコルベットの秘唇に押し当てて、確認の問いかけを口にしながら、いよいよ挿入に至ろうとする。すると、
「あのね、リオくん……。さいきん、わたし、おくすり……もらって、ないから……。だから、たぶん、あかちゃんの、もと……きっと、いま……ここに、あるの……」
刹那の唐突なコルベットからの告白。それにリオナイトは身体をぞく、と震わせていた。
「でも……だからこそ……リオくんの、お○んぽ❤ ほしい、の……❤ あなたとの、あかしが、わたしは、ほしい……❤」
排卵はすでに起こっている。それをコルベットは医師として理解している。そしてそれでも精を受け容れる覚悟をしている。そこまで言われてしまえば、リオナイトとしては男冥利に尽きる。だが。
「本当に、僕、で、いいんですか……?」
リオナイトは、それでも確認を怠らなかった。二人の間では、独り善がりには決してならない。それは彼等がかつて交わした大切な約束だったからだ。それにコルベットは、美しい緑眼の瞳に涙を湛えながら
「リオくんの、じゃなきゃ……やだ……。あなたの、が、いいの……❤」
はっきりと宣言した。それでリオナイトは改めて深く頷くと、滾り切った雄蕊をコルベットの花弁目掛けて埋没させてゆく。疼き切った膣内にいよいよ待ちかねた肉棒が挿入されているというただそれだけでも、
「んぁぁ……❤ おっきな、お○んぽ❤ はいって、きて、るっ❤ はぅ、んぅぅ、っ❤」
コルベットは嬉しそうに身体をびくびくと震わせて絶頂に至らしめられてしまう。
リオナイトが早速抽迭を開始すると、彼女は彼の唇を無遠慮に奪って、舌を挿し入れてゆく。彼もそれに応じて、彼女のそれに自身のを絡めて快感を分かち合ってゆく。
「きもちいぃっ❤ わたしの、お○んこ❤ リオくんの、お○んぽ、じゃないと❤ わたし、イけなく、なっちゃったのっ❤ だから❤ せきにん❤ とって❤ とって、ねっ❤ずっと、っ❤ ずっと、いっしょ、が❤ いいっ❤ ん、ぁっ❤ そこっ❤ はぅ、っ❤ そこ、すきぃっ❤ あっ❤ あふぅっ❤ また、イく、イっちゃうっっ❤ リオくんっ❤ すきっ❤ だいすき、っ❤ あっ❤ リオくん❤ また、イくっ❤ おっきな、お○んぽ、で❤ イぐぅっ❤ ふぁ、ぅ❤ ひぁぁぁっ❤」
コルベットはリオナイトへの愛情を口にしながら、びくびくと身体を震わせつつ、最早本日何度目かも最早分からぬ絶頂へと導かれた。彼女の膣は最奥まで迎え入れていた最愛の肉棒から精を絞るべく、咥え込んだ強直をきゅうきゅうと締め付けて離さない。
リオナイトはコルベットの身体に体重を掛けるようにしてきつく抱きしめながら、
「ぼく、も……もう、っ! コルベット、さんっ……いい、ですか……ッ?」
膣内射精の最終確認を訊ねる。まだ抜く余裕はギリギリある状態だ。だが、コルベットは嬉しそうに頷くと
「ん、っ❤ きてぇ❤ リオくん❤ せーし、なかだし❤ してぇ❤ キス❤ キスハメ、しながら❤ お○んこ、に❤ たねづけ❤ してぇ❤ わたしの、お○んこ❤ しきゅう、の、なか❤ たぷたぷに、してぇ❤ あかちゃん❤ デキちゃうくらい❤ しきゅう❤ たぷたぷ❤ なるまで❤ せーし❤ なかだし、してぇ❤ んッ、んぅぅ、っ❤」
自身も彼の身体に必死にしがみつきながら、同時に絶頂に至ることと、その刹那の接吻をねだった。最早二人は止まれなかった。
再びの絶頂を、二人は舌を絡めた接吻を交わしたままで迎えた。皮肉にも先程の団長との仮初の性交の刺激によって既に排卵を迎えてしまっていた、コルベットの命の源が揺蕩う子宮目掛けて、リオナイトの濃い子種汁がどぷどぷ、と迸ってゆく。
その子種は早速彼女の子宮に吸い上げられていた。払い出さられたばかりの卵子目掛けてそれらは殺到する。
「はぁ、はふ、ぅ……❤ ん、んぅ❤ リオくん、の、おチ○ポ❤ まだまだ、かたい、っ……❤」
先程まで限界まで高められていたとあって、射精直後であるにもかかわらずリオナイトの剛剣は未だ萎える素振りを見せない程には張りつめていた。コルベットの膣はその埋まったままの肉棒を嬉しそうにきゅうきゅうと締め付けて離さない。
「んぁ❤ ふあっ、リオ、くんっ……❤ うれしい、……っ❤」
言わずとも続きを求めていたことを、わかってくれる。それに嬉しそうに微笑みつつ、ゆっくりと再び抽迭を開始するリオナイトの身体を抱きしめながら、コルベットは女としての幸せを、たっぷりと噛みしめてゆくのだった。
二人は体液が随所に付着して再着用が出来ない程どろどろになってしまった正装を寝台の外に脱ぎ散らかしたまま、愛し合った余韻に浸って抱き合っていた。
リオナイトも、コルベットも、自分の意思で互いを選んだ。そこには証はなかったが、二人の絆は揺るぎないものへと変わっていた。彼等の心に、後悔は一切ない。
然るに、リオナイトは、彼女だけをカレンサスへと往かせる訳にはいかなかった。自分がいなければ、コルベットはまた壊れてしまう。それをはっきりと自覚していたからだ。
「なんとしても、付いていかなければ……」
リオナイトは幸せそうに瞳を閉じて寝息を立てるコルベットの頭を優しく撫でてやりながら、今の医師としての安定した職を擲つ決意を新たにしていた。