第二艦隊の旗艦の娘達が高見から面白そうに見つめる中
2人の提督の私怨に満ちた戦いが始まった
開戦早々名取が加古の砲弾を受け、中破・・それをかばう様に、羽黒が前進!
「これ以上、やらせません!」
羽黒は全砲門を加古に向け一斉砲撃をした
しかしその全てを、滑るように駆け抜ける加古は華麗に交わし、ニヤリと笑う
「加古スペシャルをくらいやがれー!」
加古が拳を突き出すと同時に魚雷が勢い良く海面下を走りだした。
そして彼女の放った全ての魚雷が獲物を求めて・・
そう、まさに狩場でウサギを追い込む猟犬の様に、獲物に向って容赦なく追い込み食らい付く!
「きゃーっ!」
その勢いある攻撃を交わす事が出来ない羽黒は、加古の魚雷を近距離で食らってしまう・・
加古の渾身のカットイン攻撃が見事に実り、ほぼ全弾命中の羽黒が大破、航行不能で沈黙した・・・
「よっしゃあ!」
加古が喜び、はしゃぐ姿を横目でチラリと見る提督は口角をあげた
加古の奴、調子が良い様だ・・
「へへへっ!いっちょあがり~v」
人差し指で鼻をこする加古
それとは対照的に身動きがとれずに、羽黒は海面に浮かんでいた
魚雷の当たり所が悪かったらしく、一命は取り留めたが、立つ事も出来ず、浮んでいるのがやっとの様だ
名取が砲撃をしながら羽黒に駆け寄る
「羽黒ちゃん!」
「ご・・ごめんなさい・・私・・」
名取の援護に入ったつもりが先に動けなくなり、羽黒が悔しそうに名取に謝る
「ううん、わたしこそ・・」
涙目になりながら、名取は羽黒に寄り添う
「名取!逃げろ!」
後方から高雄の叫ぶ声がする
「え?」
目の前には照準を合わせられない様に、蛇行しながら海面を滑り込んできた古鷹がいた
「古鷹ちゃん!」
名取は驚き、慌てて防御体制をとろうとするが、気付いた時には時既に遅し・・
「ごめん!」
古鷹は手刀で名取の首筋にダメージを与え、沈黙させた
名取は天を仰いだ状態のまま、うつろに海面に浮いた
「名取ちゃん・・ごめんね」
古鷹は駆け抜けながら元仲間・・名取が海面に崩れ落ちるのを確認し、颯爽と海面を駆け抜けた
「ふるたか・・ちゃん・・・わたし」
名取の声は誰の耳にも聞こえなかった
名取は心のどこかで、これで良かったんだ・・と感じていた。
名取沈黙のその間に、加古は、大破した羽黒の脇を抜け、海面を華麗に走り、次の相手の懐めがけて駆け抜ける
「羽黒!名取!」
高雄が羽黒の大破を確認して、情勢の不利を感じた
目の前に迫り来るはたった2隻・・しかも重巡洋艦
たった2隻の重巡に手玉にされ、既に半数の戦力が沈黙するという体たらく
マズイですわ・・このままでは・・・
高雄の顔が焦りの色を見せる
高雄の視界に提督の顔が入る・・明らかに怒りに満ちた顔をしていた
嫌な汗をかき、もう後がないと感じる
このまま行けば、私達に待っているのは・・・
廃艦処分
高雄の悲痛な心が自分達の末路を導き出す
「古鷹!提督!そっちは任せたよ!」
加古が海面を爽快に滑り始めた
「任せろ!いくぞ古鷹!」
「はい!」
颯爽と進む2人の前に龍田が立ちはだかる
「古鷹!こいつだけは俺にやらせろ!」
提督の目の色が変わる・・怒りに満ちると言うよりは、ぶっ飛ばせると言う喜びの色である
「提督、駄目です!いくら提督と言えども艦娘に素手で敵う訳が・・」
「ここは私が―――っ」
古鷹は提督の前に出て、龍田と提督の直線上に身体を入れようとした・・
が、しかし、提督はいち早く古鷹の前に出る、そして龍田との距離を縮める様に駆け抜けた
抜き去りざま、古鷹の頭に手をポンと置き、ウインクをする
「提督!」
慌てる古鷹・・龍田の機動力、刃物の切れ味、そして冷酷無慈悲な残忍さは祥鳳がやられた事で証明済み
しかもここは海上!明らかに我々艦娘の独壇場・・陸とは違い提督には余りにも不利
ましてや、提督は艦娘ではない!
「提督駄目です!下がって・・」
古鷹は必死に、提督の後を追う
このままじゃ提督が死んじゃう・・
「あらら~人間風情が私達に向ってくるとは・・あはv 死にたいのねv」
提督との一騎打ちの為、龍田が勢い良く滑り込み、更に間合いをつめる
死神が大カマを振るうが如く、提督に対して尊大に槍を振りかざして襲い掛かる
ニヤリ!
その油断しきった龍田の動きに提督は微笑んだ
え?何だ、こいつ?
龍田が血相を変えて驚く、楽勝と慢心した心が招いた結末が目の前で起きる
提督は龍田と接近直後、突如土台を消して龍田の懐に入ったのだった
まさか!?と言う顔をする龍田
龍田は間合いが取れないだけではなく、そのまさかの行動に対処できずに、相手の居ない空間めがけて槍を振るってしまった
「バカめ・・」
提督のその言葉に龍田は慌てて身をひるがえそうとしたが、提督がいち早く龍田の首根っこを掴み、そして顔面から海面に力任せに叩きつけた
龍田の身体が上下逆さまになる・・・
龍田は顔面を殴打し、鼻から血を流し、白目をむいた
明らかに敗北・・
そんな状況になりながらも、龍田はまだ自分が置かれた状態に納得も理解もしてなかった。
ただただ、顔面から叩きつけたらたという屈辱よりも、顔面を叩きつけられた痛みよりも
なぜ人間ごときに遅れをとったのか!
・・・その疑問に苛まれていた
事の顛末を間近で見た古鷹は、提督のむちゃくちゃぶりに唖然とする
以前から強い人だとは分かってはいたけれど、まさかこんな出鱈目に強いとは・・
感心しながらも呆れる古鷹・・いや正確には呆れる以上に恐怖を感じた
「あら、人の事心配してる余裕があるのかしら?」
古鷹が「はっ!」とした時には古鷹の身体が平行にすっ飛んでいた
高雄の渾身の衝突で、バランスを崩す
「いまよ!」
崩れた所に容赦なく霧島の砲撃が加わり、あっという間に古鷹と高雄の周りに爆煙が上がった
「古鷹!!」
提督の顔色がいっきに青ざめる、提督は龍田をたたきつけた手を離し、
再び土台を形成し、古鷹めがけて飛んでいく
「やったか!」
元主の歪んだ心が喜びの声を上げる
爆煙が凄くて、古鷹の居るあたり一面が見渡せない
爆煙の中から古鷹の髪の毛を鷲掴みにし、身体を強引に引きずり廻そうとする高雄が出てきた
「さぁ、大人しくなさい!!」
「うぅぅ・・」
古鷹が朦朧としていた
「キサマー!その手を離せぇぇぇ」
物凄い形相で迫り来る提督の迫力に一瞬たじろぎ身動きが止まる高雄
提督の繰り出した拳で艤装が砕けちり、高雄が中に舞う・・・
一瞬の出来事に、高雄は唖然としたまま身体を海面に打ち付けた
なんなの・・こいつ?
ほんとに・・・人間?
高雄の中に疑念が渦巻く、そして状況が理解できないまま、打ち付けられた海面に身を沈め起き上がれない
「古鷹ーっ!」
提督が寄り添い抱きしめる
「うぅぅ・・・てい・・とく?」
朦朧とした意識が段々と戻ってきて・・・そして提督の腕の中に居る事を理解した
「わたし・・・・・」
「大丈夫か?」
ボーとしながらも、現状を確認する古鷹は砲塔の1つが大破しただけで、自分は大丈夫だと告げた
「どうする、下がるか?」
「いえ、や、やられたって…まだ、撃てます!・・最後までお供させて下さい!」
古鷹はぼ~としていた頭を引き締める為に自分の頬を叩き、気合を入れた
提督の険しかった顔が、少し緩んだ・・・
古鷹の髪をくしゃくしゃ~と撫で回し微笑んだ
「無理するなよ・・お前は俺の大事な女だからな、お前が居なくちゃ俺は生きていけない・・それだけは忘れないでくれ、調子が可笑しいと思ったら必ず下がれ・・いいな」
提督は気合を入れる古鷹に無茶をしないでくれと念押しをしたのであった
「了解です!提督も・・無茶しないで下さい、私も嫌ですからね、後家なんて・・私独りで生きるなんて嫌ですから・・・」
古鷹も提督の無茶振りに釘をさした
「すまん・・今回はオレが悪かった・・お前を絶対1人にはさせない、いつでも2人だ」
もう独り身じゃないと改めて感じる提督は反省していた
「お願いしますね・・あなた」
古鷹が愛おしそうな笑顔を見せる
「あぁ誓うよ」
提督は古鷹のほほについた煤をそっと掃った
体制を整えなおした提督と古鷹はいよいよもって、元主の盾となる空母雲龍に迫る
「やるぞ!」
「はい、やります!」
霧島は雲龍だけという状況を駆けつけて打破したくても加古に足止めされて、間に合わない
このままではマズイと、加古の攻撃を受けながらも苦し紛れに主砲を古鷹目掛けて撃ち放つ
しかし放った砲撃は、先程とは違い見当違いの場所に着弾するだけだった
「なにしてんの!」
加古が更に攻撃の手を強めた
「きゃっ!」
霧島の身体が爆発の衝撃で揺さぶられる・・
どうして・・どうしてなのよ?相手はたかが重巡・・戦艦である私が・・・
データ分析ではこちらが完全に上回っているはずなのに・・
霧島が焦りの色を更ににじませ、困惑をきたした
「あたしらはね~!錬度が違うんだよ、錬度が!」
加古が目を輝かせ、霧島に向けて、最後の一撃を言わんばかりにカットイン攻撃に入る
「加古スペシャルをくらいやがれー!」
ヴゥゥゥゥゥゥゥー
突然、暗闇に覆われた空間中に響き渡るサイレン
「!!」
「なに!?」
いっせいに動きが停止または、鈍化する
そして全員で今何が起きようとしているのか、動きを止め見渡す・・・
中継基地ではあわただしく動く気配が伝わってくる
そして、全ての物が、その慌しさとサイレンのけたたましさに気を取られていた
キャ―――――!
後方から悲鳴が上がる!
動けなくなっていた羽黒が悲鳴を上げながら、ソ級に海底に引き込まれつつ捕食された
「い、いや!いやー!こな・・」
羽黒の断末魔が海面下に消えていく
「敵?深海棲艦?」
一同が慌てる
なぜ!?
こんな所に!
戦闘海域でもない、ましてや、わが軍の中継基地の湾内で・・
各々が思考を巡らす、しかし誰一人真実にたどり着けぬまま身動きがとれずにいた
キャ――――!
今度は雲龍が引きずり込まれる
目の前で沈む雲龍に提督はあわてて駆け寄る!古鷹も提督の後を追い、雲龍の居る場所を目指す
かけながら手を伸ばすが、追いつかないまま雲龍は海面下に引きずり込まれてしまう
「な・・・なにが・・・お、お、お前ら、オレを・・俺を守れ」
元主が恐怖にたじろぎ怯え、艦隊に弱弱しく召集の号令をかけた
「古鷹!加古!戻るぞ!」
提督も事態の変容に危機感を覚え、2人に夕張たちの居る桟橋に向けて転進を図るように号令する
あ!
元主が一時、悲痛な声を上げた
元主の左後方海面から跳ね上がる深海棲艦のハ級駆逐艦
その大きな口が、元主めがけて飛んできた
「提督-っ!」
駆け寄ってきていた霧島が焦りの悲鳴を上げる
その悲鳴空しく、元主の左腰から左足を食いちぎられ持っていかれた
うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!
「見るな!」
その血が吹き出る様を見せまいと、提督は合流できた古鷹と加古に怒鳴る
その光景は余りにも惨憺たる光景であった
余りの痛さに悲鳴をあげ、白目をむき、冷や汗が止め処も無く出てくる元主
そして、血がとまらない・・・
古鷹はその断末魔を聞きながら、振り向かず、提督や加古と共に夕張たちの居る桟橋へ向う
霧島がやっとの思いで駆け寄り、提督に寄り添う
「提督!提督!しっかりして下さい!大丈夫です!スグに医者に来てもらいますから!」
霧島はとっさに提督を叱咤する
しかし、パニックに陥る提督は我を失いつつあった
そして、垂れ流す血に呼び寄せられた様に、無数のイ、ロ、ハ、ニ級の敵駆逐艦が
いっせいに血の滴る新鮮な肉に喰らいつこうと飛び掛った
やめて―――っ!
悲痛な叫びがこだまする
反撃をしたくとも霧島には先の戦闘で、もう砲弾を打ち出せる砲塔は1つも存在してなかった霧島が、覚悟を決め、左足を欠損した提督を抱きしめ、飛んでくる敵の一部始終を凝視した
「・・・・・」
全てを食いちぎられると覚悟した霧島の目の前で、鮮やかなまでに舞い散る血吹雪
霧島は残酷なまでに美しく舞う血吹雪に見惚れる
綺麗・・・・
あぁ・・でも、もう私達は終わったのね・・・
そう思い、目をつむろうとした・・・しかし・・
それは自分達の血ではなく、明からに目の前で切り刻まれた深海棲艦の肉片と血であった
「よっしゃぁっ!」
「弱すぎる!!」
天龍と木曽が辺り一面を血の海にした
「あなたたち・・・」
霧島が呆然としながらも口を開く
「本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ・・ふふふ」
木曽が周りの深海棲艦を駆逐し始めた
「霧島ぁ~怖くて声も出ねぇかァ?ビビってんじゃねぇぞ!」
天龍も同じように駆逐する為駆け出した
「天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」
手当たり次第、目の前に現れる深海棲艦達を切り刻んでいく
「みんな優秀な子たちですから、心配要らないわ・・鎧袖一触よ」
霧島の脇に2人のボス・・第二艦隊旗艦の娘が立っていた
「貴方達・・いままで・・何を・・何をしてたの!」
霧島が呆然として、事の成り行きを見、そして叫ぶように口にした
その声は怒りに満ちた声だった
「霧島・・貴方は良くやったわ・・あとは私達に任せて、ゆっくりお休みなさい・・」
「今更、ふざけないでよ!」
霧島は食って掛かろうと身を起こし睨む
ザシュン!
霧島の背中から左の胸にかけて切り貫く音がする
「え?」
自分の胸から突如現れた刃に驚き、恐る恐るその刃を見、そしてその刃に触ろうとした
そんな霧島の背中に足をあてがい、行きよい良く刃を抜きさる
「ごめんね~・・刃へのおさわりは禁止されていますぅ~」
え?
え?
理解が出来ないまま、力なく身をよじる様に崩れ落ちる霧島・・
その目に映し出されていたのは、先程まで共に戦っていたはずの龍田
なんで・・・
そう心の中で問うた霧島は絶命し、身体が青白い光に包まれ、粒子になり粉雪が舞うように消えた
「ご苦労様でした、龍田」
「いえいえ・・これも任務ですからぁ~」
龍田は血のついた刃を振るい、血を払った
「それにしても、この艦隊は無能ばかりでしたわ・・私まで腐りそうになりましたw」
龍田は息絶え絶えの提督を見下ろし述べた
「お、お前・・・こ、これはどう言う・・つも・・り・・」
その直後、遠くの方から高雄の断末魔がこだまする
「お前等の指揮官は無能だなぁ、呪うなら、自分の使えた主を呪うがいい!」
木曽がサーベルで心臓を貫き、そして引き抜いた
「なんで貴方達が・・」
「次、生まれ変わる時はもっと有望な提督の元に嫁げる事を祈っているぞ・・」
木曽は高雄の心臓から吹き出る返り血を浴びながら、成仏するよう願った
高雄も身体が青白い光に包まれ、粒子になり粉雪が舞うように消えた
そして、木曽が浴びた鮮血も粒子になり消えていった
遠くで高雄が絶命する声が聞こえる中、第二艦隊旗艦のその娘は冷徹に語りだす
「最初は、ライバル同士の演習中の事故死で片をつけるつもりでした・・
しかし・・これは予定外でした」
残念そうな表情で今起きている現状を見渡す
「でも、喜びなさい・・・大きな誤算だけども、敵との艦対戦の末、貴方は名誉の戦死という段取りになるわ」
表情を変えないまま語り続ける
「ただの事故死で終わらすつもりが、これでご本家の家の格も上がる・・
そして庶民は熱烈的にこの名誉の戦死を祝して貴方を祭り上げてくれるわ
最後の最後に、お家の為、お父様の為にお役に立てるのよ・・」
「敵の大艦隊に立ち向かい、防衛ラインを死守する為に果敢に挑んだ提督・・名誉の戦死
そういう筋書きに代わるのだから」
「き・・さま・・こんな事して・・おや・・・じが・・」
口から血を吐き出しながら食らい付くようにしゃべる
「あらあら、何か思い違いをしてるようですね・・貴方は何処まで馬鹿で低俗で無能なのかしら?
本当にあの方のご子息であらっしゃるの?
これを望んだのは貴方のお父様・・全てはそう御当主様のご意思による筋書きよ・・・」
はっ!とする提督
「貴方はやりすぎたのよ・・・世継ぎの予備パーツでしかない癖に目立ちすぎたのよ・・」
龍田が語りう合う2人に群がう敵を切り殺してく中、
もうすぐ黄泉の世界に旅立つであろう提督にたむけの言葉を贈っていた
「貴方が今までしてきた事にどれだけ、お父様が、ご本家が、迷惑をしてきたか・・お分かりですか、ぼっちゃま?
たかが妾の産んだ子供の分際で、奥様がお産みになられたお兄様方にも迷惑をかけ続けた事を・・貴方にはお分かりですか?」
冷徹に今までの悪行が全ての原因で、今のこの現状になっていると告げる
「貴方は厄介者なのよ・・お家の為に、お父上の為、お兄様方の為だけに大人しく尽くしていればいいものを、思い上がってやりたい放題・・どれだけご家族に迷惑をかけ続ければ気が済むのかしら・・
しかもやりたい放題やった挙句に、あんなクソみたいな重巡1人に執着して我が主の顔に、泥を塗り、更に恥を上塗りして・・・」
彼女は弓を射るよう構えた
その手の中に青白い粒子が集まり、青く発光し弓の形を作り出す、そして矢を携えた姿に変わる
「最後ぐらい、家の名誉の為になって死になさい」
額にめがけて、矢を射る
そして、全てを終わらせた
動かなくなった、提督を龍田が足蹴にする
亡骸は力なく、土台から滑り落ち、海底に沈み始めた・・・
それに群がう敵潜水艦たち・・
暗闇の海に暗闇色以外の色で一時的に染まった
「さんざん、私達の仲間を食い物にして来たんだから、今度は貴方が食い物にされる番よ~」
龍田は笑顔で、クソ提督を見送った
ここに古鷹を追い回す輩の企みは、あっさり終焉した・・
そんな事になっているとは知らず、この事態が起きる少し前に、深海棲艦の攻撃をかわしつつ桟橋に戻った提督は夕張たちと合流してた
「提督!」
夕張が鳴きそうな声で提督の名前を叫ぶ
この混乱の中、タンカに載せたものの、敵勢力の攻撃で九七式輸送飛行艇が破壊され、それと共に桟橋も崩れ落ち、岸へ行く手段を絶たれ身動きがとれない状態のまま、祥鳳の血に誘われて襲い掛かる深海棲艦を、何とか夕張と舞風が撃破し続けていた状態であった
桟橋の向こう、陸地では現地の兵士達が、慌しく、反撃を試みながらも撤退の準備をしているのが見える、そして基地から炎が上がっている・・
この状況ではあの基地はもう使えない
「クソっ!どうにもならんのか」
提督達に襲い掛かる深海棲艦を、古鷹をはじめ、加古、夕張、舞風が満身創痍になりながら駆逐し続けた
しかし、数が多すぎる・・この攻防にもそろそろ限界の域にまで達しようとしていた
祥鳳が、私を見捨てて提督達だけでもこの場を・・と、力なく口を開く・・・
その言葉に提督は激昂する
そんな事は絶対しない!お前は必ず俺が連れて行く!
祥鳳の手を力強く握りしめ、祥鳳のその発言を認めなかった
しかしそう言ったものの、その言葉とは裏腹に、現状はもう・・・
提督達は現実と思惑との間で、先が見えない状態に陥っていた
その時、襲い繰る敵の背後から無数の地吹雪を上げながら近付いて来る者が見えた
「敵が沢山群がっていると思ったら・・なんだお前ら!まだ居たのか!」
その時天龍が提督達の近くに滑り込んできた
提督達は突然現れた天龍に身構えた
「おいおい、俺とやるつもりか?やめとけよ俺に敵う訳がない・・」
天龍がボロボロになっている提督達を見渡し、不適に笑う
ん?
天龍が気付く・・
「おい・・もしかしてあいつ負傷してるのか?」
祥鳳を見て、どうした?と言う顔をした
「あぁ、お前達の仲間・・龍田にやられたんだ」
提督がにらむ様に天龍の言動に反応した
「おいおい、俺をにらむなよ・・恨むんだったら、龍田を・・いや、龍田に命令したあのボンクラを恨め」
そういうと親指で、先程まで居た海域を指差した
古鷹の元主の方を指差す天龍・・
そこには2人の人影が立ち、倒れこんでいる2人の姿が見えた
「・・・とは言いつつも、まぁ龍田が刺したには違いない」
親指を立てた方向から、木曽がそのやり取りに答える様に語りながら滑り込んで来る
「木曽!?」
天龍は自分の横に滑り込んできた木曽に視線を送る
「その侘びと言っては何だが、お前達にチャンスをやる・・やる気があるなら、自分達でもぎ取れ」
木曽が語ろうとした内容に勘付く天龍が慌てる
「我々の乗ってきた二式飛行艇がこの岸の反対側の岩礁地帯に隠してある」
木曽が不意に助け舟を差し出す
「おい、木曽!」
天龍が慌てる
「その二式飛行艇には、我々の仲間が大破した時用にと念の為に、入渠用のドックがいつでも稼動出来るように1つ積んである
もしも・・もしもだ、お前達が自力であの二式飛行艇までたどり着けるのなら、使わせてやるぞ」
提督達の顔の表情が変わる
「木曽、テメー!」
天龍が木曽の胸ぐらを掴み、今の発言に噛み付く
「ただしだ、いくら隠してあると言えども、この状態だ・・まだ無事とは限らない
もしかすると、もう敵の手に落ちているのかもしれない
さぁ・・どうする・・それでもやるか?それとも・・その娘をこのまま見殺すか・・・」
「お前が決めろ!」
木曽が提督に迫る
提督が一筋の汗を流し、不適に微笑み木曽に問うた
「本当に・・有るんだな?」
周りが静まり返る
「あぁ武官の誇りに誓って!」
木曽は誇り高き眼差しで提督を見つめる
「古鷹!舞風と交代して、夕張と共にタンカを担げ!」
「舞風、加古お前達は前衛、全ての障害をなぎ払え!」
提督は号令をかける!
「おぉ!」
そして琥珀艦隊は行動に移った!
木曽が指を刺した岩礁地帯までの距離はかなり遠い・・
しかし、今出来る事は木曽の言う事を信じて二式飛行艇を目指して湾を横断するしかなかった
それしか、今の祥鳳を助ける手段が無い・・それ以上に時間がもっとない
提督は全てを賭けて、湾内に飛び出した
飛んでくる敵を一刀両断にした天龍と、その傍らに居た木曽が、提督達が祥鳳をタンカに載せて湾を滑り出して駆け抜ける姿を見ていた
「俺は知らないぞ・・・」
天龍が怒りを堪えながら、呆れた口調で木曽を戒める
「大丈夫だ・・我々の目的は果たした」
木曽がボスの居る方を見詰める
矢を射る姿が見える
今回の茶番の全てが終わる瞬間だった
「目的は果たした、これぐらい、ウチのボスも認めてくれるだろうよ!」
そういうと琥珀艦隊の面々の後を追いかけるように木曽が滑り出した
「お、おい!ちょっと待て!」
天龍が1人残される
「情に厚いと今に死ぬぞ・・」
天龍は桟橋に寄りかかりながら、木曽の後姿を望んでいた
目の前では、まだ戦闘は続いていた
しばらく戦闘をぼけ~と見ていた天龍の目の前に、雁首並べて深海棲艦がうようよ揃い始める
「さて、俺達もそろそろ本気を出してこいつらを殲滅しないと、こっちが全滅しかけねぇ・・
夜戦は嬉しいが、こういう後味悪い仕事は金輪際にして欲しいものだ・・ぜっ!」
天龍は刀を構え深海棲艦の群れの中に突進した
「オレの名は天龍!ふふふ・・怖いか?怖いと思うなら、その名を身体に刻んで海の藻屑となれ!天龍様の攻撃だ!うっしゃぁっ!」
天龍の目が輝き、嬉しそうに切り付け続ける・・
終わる事の無い夜戦に身を委ね、狂喜乱舞し楽しむ様はまさに鬼人であった
各々各自がそれぞれの思惑を果たす中、提督は提督達の思惑・・
祥鳳の入渠の為に必死に向こう岸へ移動をしていた
「それ、ワンツー!」
大きくジャンプ&ターンをする舞風、いっきに3隻の敵駆逐艦を殲滅する
「あたしってば強くなりすぎぃ!」
調子に乗り、ドンドン先行する舞風を加古が諌める
「舞風!先行しすぎ!祥鳳の護衛任務だという事をを忘れるな!」
「わかってるって~!」
舞風が速度を落とし、加古の隣りに並び立つ
加古と舞風の両艦が迫り来る敵艦を駆逐し続けた
そして加古と舞風が良く働いてくれるお陰で、古鷹と夕張はタンカを担ぐ事に集中できていた
「祥鳳は大丈夫か?」
提督は時折祥鳳の容態を気にする
「まだ大丈夫です・・容態も安定してます」
夕張が祥鳳の顔色を見ながらタンカを担ぐ
「あと少しだ!頑張るんだぞ、祥鳳!」
提督は祥鳳を激励しつつも、周りを警戒して見渡していた
提督は先程まで、自分達が熾烈な戦いを繰り返していた現場をふと見た・・
その海域に独りの艦娘が佇んでいた
そして先程まで戦闘が繰り広げられていた海域は、今は戦闘の空白地になっていた
いや・・
厳密に言うと、近付こうとする敵をロングレンジ攻撃で撃破し続けている為、
その艦娘の周りだけ、戦闘の空白地帯に見えてしまっているのだ
その為、否が応でもそこの現場に独りたたずむ艦娘が目に入る・・・
提督はしばしそれを見つめる・・・
あれほどの錬度、さぞ名のある娘だろうと提督は思考をめぐらせる
弓を引く姿が美しい・・・
そうまるで、あれは・・・・・・
突然提督は胸騒ぎを覚えた
まさか!?
胸騒ぎを抱いた提督は居ても立っても居られず、古鷹たちにそのまま二式飛行艇へ向うように告げ、船団を離れる
「提督ーっ!」
いきなりきびすを返して船団を離れる提督を古鷹が心配そうに叫んだ
しかし、今の提督にはその古鷹の声が届かなかった
古鷹の中でなにか嫌なものを感じた
「?」
船団を離れた提督に木曽は気が付く
自分の方向へ滑り込んできた提督は近づき様に自分の抱え込んだ胸騒ぎをぶつけて来た
「木曽!お前達のボス・・あの娘は誰だ!?まさか正規空母の―――っ」
提督の血相を変えた顔に木曽は思わず応えてしまう
「あぁ・・加賀型1番艦正規空母・加賀だが、それがどうした・・?」
木曽のその答えに提督は蒼白となった・・・
まさか・・
まさか・・・そんな・・・そんな事が・・・
急に動きを止めた提督の土台に、何事か?と木曽が引き戻り怪訝そうな顔をした
「どうした・・・加賀に何か―――・・」
木曽は異様なまでに蒼白な顔の提督に驚く
提督が蒼白な顔をしたまま、その艦娘・・・
加賀型1番艦正規空母「加賀」を見ていた
「先生・・・・」
提督の口から思いもよらない言葉が出るのであった
そして、無意識のうちに身体は加賀へ向けて駆け出していた
行っちゃ駄目!
その姿、行動を遠くから古鷹は見詰めて叫ぶ
古鷹の感じた、嫌なものがもの凄い勢いで加速する
古鷹の胸がギュッと締め付けられる
加古が異変に気付き古鷹の元へ駆け寄る
「古鷹ぁ!どうした?あれ・・提督は・・・」
「あ!」
加古も提督が戦場の中を駆け抜けていく姿を見つけた
夕張が叫ぶ
「加古!古鷹と代わってあげて!」
そして古鷹に叫んだ
「古鷹、絶対離れちゃ駄目よ!」
夕張が古鷹にゲキを飛ばす!
「貴方は何処までも提督に着いていきなさい!」
加古も行って来い!と後押しをする
舞風も前方で「任せてぇ!」とガッツポーズを繰り出す
「みんな・・ありがと・・私、必ず、連れ戻す!」
駆け出す古鷹
神様・・・
今古鷹に出来るのは、提督目掛けて駆け続ける事
そして、ただ神に願う事だけだった
提督のうしろ姿を追いかける古鷹は
ひたすら、追いつかない提督の背中を懸命に追いかける
ていとく・・・
それは悲痛な叫びだった
つづく