暗闇に赤々と染まる島・・
基地は紅蓮の炎に包まれ、辺り一面を熱が帯び、その熱を持った炎の輝きで辺りが満たされていた
既に火災によりる電力消失と共に外灯の灯は落ちて良いたが、炎の赤々とした灯りが周囲を照らしているのだった
そんな中、娘達の攻防戦は続いていた・・
いや、正確には新たな攻防戦が始まっていた
「いや・・ぜったいにいや・・・わたしいや・・」
海面を滑るように走り抜ける古鷹の胸騒ぎはドンドン増していく・・
提督のうしろ姿を追う悲痛な面持ちの古鷹はいっこうに提督のスピードに追いつけないでいた
それどころか古鷹は提督にドンドン離されていく・・・
そして行く手を阻むように深海棲艦が次から次へと現れ、古鷹の行く手を遮る
「いや・・いや・・こんな所で・・」
深海棲艦を時には駆逐し、時には交わしつつ進む古鷹・・
そのもどかしさに支配された心は悲鳴を上げるしかなかった
そんな思いで後ろからついて来ているとは気付かない提督は時折飛び掛ってくる敵勢力をかわし、速度を更に上げる
通常では信じられないスピードで加賀に近づく提督に龍田が反応した
「あらら~何事ですのっ!」
左斜め後方から随伴する形で接近し、険しい顔と殺意を持って槍を突きつけた
その槍の刀を左手で握る提督
「!!」
思いもよらぬ突然の行動に、龍田は槍を提督が掴んだ手から引き抜こうとした
しかし、力が強くて槍がビクともしない・・・
それどころか逆に自分の手から槍を引き抜かれてしまう
なに!? うそでしょ・・
龍田をぎろりと見詰める提督の手のひらから血が滴り落ちる
「俺は加賀と話したいだけだ、敵意は無い」
龍田を見つめた提督の眼の鋭さに、今まで経験した事の無い身震いすら感じる恐怖を感じた・・
明らかに龍田の顔色が変わる
「わ、わかったわ・・でも」
龍田が苦し紛れに念を押そうと言葉を出すが、提督の声が遮った
「あぁ加賀には絶対危害を加えない・・それどころか何かあれば俺が盾になる」
「その為にお前のこれ、借りるぞ!」
龍田の手元から槍を持ち去り、更にいっそう加速を重ねた
「あっ!」
その加速の衝撃に龍田の身体は揺らぎ、体制を崩す
「なんなんですのぉ・・あいつ・・許さない・・」
一度ならず、二度までも・・そして今回は自分の槍さえも奪われ、不愉快さと疑念とやり場の無い屈辱で、龍田が困惑気味に身を立て直し、提督の後を追う様に滑り始めた
その直後、脇をすり抜ける様にして傷だらけの古鷹が駆け抜ける・・
突然駆け抜ける古鷹に慌て、駆け寄る龍田
「貴方達・・なにを企んでいるの?」
先程の動揺した心を見透かされない様に不適な微笑を見せ、古鷹に詰め寄る・・
しかし、龍田のこめかみには心の動揺の汗が流れる
あいつといい、こいつといい・・何が目的なの?
ひとまず、こいつだけでも沈めておいた方が良いのかしら・・・
龍田は心の中で不信感を持って琥珀艦隊の行動・・いや、提督とそれに続く古鷹を見ていた
「わ、私にも分からないんです・・と、突然・・あの人が、提督が血相を変えて加賀さんの所へ・・」
古鷹は今にも泣きそうな顔をして、自分にも理解できないと訴えた
「突然私達から離れて・・・提督と加賀さんは、お知り合いなんですか?どんな関係なのですか?もしご存知なら教えて下さい、龍田さん!?」
問うた筈の龍田に問いかけてくる古鷹、その行動に面を喰らいながらも、古鷹には敵対する気持ちのが欠片も無い事が分かった・・
なぜならば、龍田に伝わってくる感情、偽りの無い揺れ動く言動、余裕の無い行動、その全てが作戦行動をしている者の行動でも、瞳でも無い・・
そう目の前にいるのは艦娘ではなく、ただ自分の大事な男を心配している女の姿だった
古鷹への疑いは晴れたものの、龍田の困惑の度合いは更に増す・・
あの男・・・何者なの?
そして何を企んでいるのかしら・・
自分の思考では理解出来ない・・かといって、今の自分では歯が立たない・・
でも、とにかく目の前で起きている事には対処しなくてはならない
少しでも迷い、思考を停止し、立ち止まった段階で取り返しのつかない勝敗が決まる・・
「あなた古鷹と言いましたね・・事情は分っかりました、ついてらっしゃいな」
最悪の場合、この娘を使えば良いわ・・
龍田は加賀に何かが起こった時の保険として古鷹を連れて行くという選択を選ぶのであった
そしてボロボロになっている古鷹をなんとなく見捨てる事も出来ないと・・片隅で感じた
それぞれの思惑を抱き、2人は提督の後を追う為加速する
それぞれの思惑が交差する湾内で
その娘は静寂の中、静かな面持ちでそこに居た
時折、弓を引く音だけがその静寂を打ち破る・・
その静寂を打ち破る度に、深海棲艦の多くが距離を縮めれずに海の藻屑と化していた
「湾内に侵入した敵はあらかた、片付いたようね・・・でも油断は禁物ね」
自分の周りの海域をなめる様に見渡す加賀
自分に立ち向かう大半の深海棲艦を沈黙させてもなお、油断は出来ないと弓を構える
そんな中、ある方向から只ならぬ気配を感じ、弓を構えた
「!?」
矢を射る寸前までで動作を止め、その人物を見定める・・
ヨ級潜水艦を串刺しにして返り血を浴びる男が1人そこに居た
「何しに来たのです・・用は無いはずよ」
加賀はその人物をあしらう様に突き放した物言いをする
「いえ、自分には確かめなくてはならない事が1つあります」
その目はまっすぐに加賀を見詰め、戸惑いながらも真剣な面持ちだった
「あ、貴方は・・・加賀・・加賀型1番艦正規空母加賀ですか?」
加賀を前にして、改めてその存在を本人の口から確かめようとした
「・・・・・」
「えぇ・・それがなに?そんな目でわたしを見詰めて・・私の顔に、何かついていて?提督さん」
少し不愉快そうな口調で問いに答える
「え?あ・・あぁ、これは失礼しました・・」
提督は突然の無礼を詫びた
「それで、私に何か相談?」
弓を携えたまま加賀は周りを見渡し警戒していた
「加賀・・・いや、先生・・私を、私を覚えていませんか・・?」
唐突に加賀に問いかける
「・・・」
沈黙したまま加賀は矢を射り、近づいてきた深海棲艦を射殺した
歯がゆい無言の時間が流れる
「あなたなんて知らないわ」
加賀は興味なさそうに答えた
「覚えてらっしゃりませんか?以前・・子供の頃先生に教えを頂いた・・」
知らないと言う言葉にそんな筈は・・と改めて食らい付く
「答えは一緒よ・・・」
加賀は提督の言葉をあしらいながら矢を立て続けに射る・・・
矢から変化した流星が敵勢力を駆逐する
「しかし・・・」
納得のいかない提督は更に加賀に対してこちらの心情を伝えようと必死に訴えかけようとした
しかし、加賀はそれを遮るかのようにトドメの言葉を告げた
「あなた、何か勘違いをしているようね」
冷ややかな瞳が提督を動けなくする
「私は生まれてこの方、生徒を取った事はありません
ましてや、貴方のような出来の悪い教え子なぞ持った事も有りません」
加賀は冷徹に淡々と述べる・・告げ終わった後、決して提督と目を合わせる事も無く淡々と矢を射る・・
「私は貴方と会うのは今日が初めてです・・こうして言葉を交わすのも同じです
それでももし、まだ私に執着するのなら・・貴方は私に出会い、教えを受けた事があるというのならば
それは私が生まれる以前、私では無い私・・もう1人の加賀といわれていた別人との記憶でしょう・・」
加賀は突如提督目掛けて矢を向けた
「私には貴方の記憶はありません・・・これ以上話のムダです
さぁ、立ち去りなさい・・敵のこの大進撃により、自分の停泊する地を失い、また中継基地を失い、この海域での我が軍の制海権は失われたわ
ここは、貴方にとって、今の現状では留まる必要が無い場所のはず、もう用が無い場所のはずですよ・・早く戻って上層部にこの事実を具申するべき事態です」
「しかし!現に私の目の前には、私達に兵法を教えてくれた貴方が存在してるんです!」
「だから、述べたでしょう・・それはもう1人の・・・私以前の私であると」
加賀は機嫌が悪そうに提督の荒げる声を遮る・・珍しく声を荒げた
「提督である以上、貴方も理解している筈です」
加賀は、自分達艦娘は1代限りの魂、いつかまた生まれ変わり、提督の前に現れる
でも、魂までは生成されない・・生まれ変わっても魂がついて来ない、繋がらない・・
もうあの時の娘は存在しないのだと提督ならば艦娘を扱う上で知っておかないといけない知識・・
知識の初歩の初歩である筈と念を押した
それ以前に加賀は面白くなかった。
記憶の無い話・・いや、自分が自分でない時の話をされるのは不愉快極まりない
私は私であるために一歩も引かない覚悟で生きてきた・・
しかし目の前にはそれを否定するような事を言う者が現れ、昔の思い出を語る
その戯言を受け入れてしまうならば、私は私ではなくなる・・私の知らない私を私と認めてしまう
これは屈辱以外のなにものでもない、否!私の生きている価値すら失ってしまう
決して、私は認めない!
私は私である!私は今を生きている!今の私以前の私は私では無い!
加賀の前に加賀はなし!加賀の跡に加賀は無し!
故に、今を生きている私こそが加賀である!
それを否定しかねない存在・・・不愉快
加賀は苛立ちを見せながら敵を駆逐し続ける
「貴方の世迷言は分かったわ・・でも私には関係ないの」
「分かりました・・しかし自分は自分の判断で動かせていただきます!」
提督はそういうと龍田から奪った槍を片手に大立ち回りを始めた
「友軍を見捨てる事は出来ない!」
浮上してくる潜水艦、突如襲い掛かる駆逐艦・・手当たり次第目に入った物を駆逐し始める
その様子を面白くなさそうに遠くから龍田がにらむ
「許さないんだから・・」
愛刀を奪われただけではなく、粗雑に扱われ続ける事に殺意を抱く
その抱いたやり場の無い殺意を敵を駆逐する事に費やした・・・
されど、一向に減らない敵を目の前に、自分の愛刀を奪った相手には追いつけないで居た
「14cm単装砲だけでは思い通りに動けない・・」
歯がゆさが増す・・
それでもあと少しという距離まで、古鷹と龍田は近づいて来ていた
「提督・・なぜこんな事」
明らかに悲しみと怒りに任せてただ闇雲に敵をなぎ倒している・・
いつもの提督とは全く違う、動き、表情、そして苛立ちを前面に出している
その姿・・荒れ狂う様に敵を駆逐し続ける提督の行動を痛々しく見詰めながら古鷹は嘆く
提督は我を忘れ、敵を駆逐し続けた・・
自分のすぐそばまで古鷹や龍田が近づいてきている事すら感じる事も出来ずに
ただ目の前の敵を打ち倒していくだけだった
「先生」と呼ぶ自分を否定しかねない存在が、目の前でチラチラ動く・・
苛立ちは益々増すばかりの加賀
「ていとくーっ!」
やっとの思いで、提督達の居る海域に追いついた古鷹が提督の名を叫んだ
その声が加賀の耳にも入り、ついに苛立ちが頂点に達した
「しつこいですね、頭にきました」
古鷹が声を発したとほぼ同時に、突如加賀の不機嫌な声があがる
そして、1本の矢を射った
居る筈のない古鷹のその声に驚く提督
そして我に返り声のする方を振り向こうと体制を変えたその瞬間、提督の顔をすれすれに矢が飛んでいった
「!!」
慌てて矢の飛ぶ方向を見定める、その矢の向う先には・・・
古鷹が居た!
「古鷹!」
提督の焦る声が響く
矢は鋭く、空を切り、そして艦上攻撃機「流星」へ変化し、古鷹目掛けて飛んでいく・・
古鷹はその俊速な加賀の攻撃に反応が出来ないまま、接近してくる流星を見詰めるしか出来ない
何かしなきゃ・・そう思いながらも古鷹は身体が動かない、余りの突然、余りの出来事に、ただただ動けないまま迫り来る流星を見続けるしか出来なかった
流星の2丁の20mm機銃から銃弾が放たれ、海面に水柱を上げ古鷹に銃弾が迫っていた
そして・・流星の胴体下面の航空魚雷が放たれた
避けきれない・・
古鷹は迫り来る現状をただただ受け入れるしか出来なかった
もしかすると、これで提督とも永遠の別れになるかもしれないと・・覚悟を決めた
ごめん・・あなた・・・
物凄い轟音と共に、水柱が硝煙の匂いと共に立ち上がる
立ち上がった水柱と煙炎であたり一面が見渡せない
時折、爆煙の中から大破した破片が飛んでくる
「古鷹-っ!」
提督は慌てて、駆け出す・・そこには喪う者の後悔の念だけだった
なぜ、なぜ・・死ぬな、死なないでくれ・・俺は・・俺は・・・
提督は心のそこから後悔をし、そしてその悔やみは自責の念となり、駆け出した足は力尽き、嗚咽した
爆煙を目の前にし崩れ落ちる提督・・・
消え行く爆煙・・
そして・・・
古鷹はそこに居た・・・
提督は目を疑い、声を上げた
「古鷹っ!」
煤だらけになりながら、その声を感じる古鷹
「わたし・・・生きて・・る?・・・生きてるの?」
不思議そうな顔をして古鷹はそこに立っていた・・
そしてその古鷹に目掛けて提督が抱きつく
「古鷹・・・ふるだ・・か・・」
提督は人目もはばからず、古鷹を抱きしめた
「ていとく・・・てい・・と・・く・・・」
やっと、やっと、追いつけた・・もう離れたくない
いつでも一緒に居たい・・そう願わずにはいられない古鷹
2人は強く抱きしめた
「何メロドラマしてんだよ・・お二人さん」
呆れ顔で声をかける天龍
声のする方を見詰める2人・・天龍・・そして槍を取り戻した龍田が立っている
そして天龍と龍田が立つ脇に、海棲艦随一の雷撃能力をもつ「ソ級」潜水艦が腹を天に向け、絶命していた
「やりました」
そして遠くに加賀は満足そうに佇んでいた
天龍は迫り来るソ級に気付いていない古鷹や提督に焦ったと告げ
自分達は近接戦闘ゆえに間に合わないと思ったが、加賀の電探能力と航空戦力により
事なき事に終わって良かったと述べた
そう、加賀により古鷹は助けられたのだ
「これでわかったでしょ・・貴方達は邪魔なの、大人しく、立ち去りなさい、いいこれは忠告ではなく命令よ!」
加賀は提督に撤退命令を受諾する様に告げた
「しかし・・」
提督は古鷹を抱きしめたまま、異論を述べようと試みた
「この決定は譲れません・・」
今度こそは古鷹を射抜くと脅す加賀
「足手まといでしかないと言っているの・・
悔しければもっと己自身を鍛え、心を鍛え、そして錬度を上げなさい」
加賀は冷たく突き放す
湾口の彼方から、敵機が無数に飛来してくるのが見える・・
「女独り守れない貴方はこの戦場に居る価値は無いわ・・・木曽聞こえる?」
加賀は提督に引導を渡すと共に、木曽と連絡を取り始めた
「貴方、今二式飛行艇に居るわね・・」
「えぇ、そう・・そうして頂戴・・今からこのお2人さんをそちらに向わせるわ
貴方は2人を回収したら、そのまま貴方も一緒にこの場所から離脱しなさい」
加賀のこの言葉に、木曽が異論を述べているようであるが、加賀は「命令よ」と一蹴した
「木曽、いい?貴方は一刻も早く任務の報告をして頂戴・・我らが主が報告をお持ちよ・・
えぇ大丈夫、一航戦の誇りにかけて、こんな所では沈まないわ・・」
木曽も納得したらしく、通信が終了した
「天龍、龍田、貴方達は私と共に!」
「さすが!オレを戦線離脱させないのはいい判断だ!加賀、俺を死ぬまで戦わせろよぉ!」
目を輝かせて加賀の判断に狂喜乱舞する天龍
「うふふ・・天龍ちゃん張り切りすぎだわ・・でも私の魚雷もうずうずしてるわ」
目を輝かせる天龍を見、己もワクワクし始める龍田
「それではこれでお別れね・・」
加賀は天龍、龍田を引き連れて、湾口の先に陣を構える青い瞳のヲ級正規空母を駆逐する為に滑り始めた
「先生・・」
「鎧袖一触よ・・心配いらないわ」
「御武運を・・」
共闘を拒否され、力の差を見せ付けられた提督にはそう声をかけるのがやっとであった
そして後ろ髪を惹かれる思いで、その場を後にした
去り行く提督と古鷹の後姿を横目で見る加賀
「荒削りですが、いい物を持っていましたよ・・」
加賀は自分でも気付いてはいないが、今までに見せた事の無い顔をした
「もし次があるのなら、今度は一緒に出撃したいものです・・」
ふふっと口元が和らぐ加賀
「何か言ったか、加賀?」
天龍が不適に微笑みながら敵を見定めていた
「いえ別に・・・・いえ、さすがにこれだけの大物になると気分が高揚します」
加賀は自分自身でも驚いていた、まさかあんな評価を自分が口にするとは・・
その自分も知らない自分に少し嬉しく感じ、気分が高揚した
「そうだろそうだろ、そう来なくっちゃな!おい、龍田!ビビってんじゃねぇぞ!」
「あ~ら・・わたし天龍ちゃんよりは上手よ、あはははっ砲雷撃戦、始めてもいいかしら?」
天龍の高揚に龍田の心も浮かれ気分になっていく・・
「貴方達、それなりに期待はしているわ」
「うっしゃぁっ!夜戦突入だ!」
天龍が満面の笑みで青い瞳を持つヲ級が旗艦の船団へ目掛けて突撃を始める
「私も出撃します!私の相手はどこ?私の魚雷うずうずしてるぅ~!死にたい艦はどこかしら」
龍田の目がキラリと輝き、同じく青い瞳を持つヲ級が旗艦の船団へ目掛けて賭けて行く
数に勝る敵も、加賀たちの攻防により湾内に侵入した敵は殆どが駆逐され、今は湾口で陣を構える本隊のみ
そして、その陣に構える青い瞳を持つヲ級を仕留めれば、この全てが終わると確信をした
加賀、天龍、龍田は、強い敵と戦えるという喜びを得たまま勢い良く戦火に身を投じた
暗闇の夜空が更に赤く染まるほどの激しい戦いが始まった
湾外に構えるヲ級正規空母を相手に一歩も引かない戦いを見せる加賀
龍田と天龍が敵陣に切り込み、相手の陣形を崩し続けた
「やぁんっ、私の後ろから急に話しかけると危ないですよ~」
背後から不意を狙い襲い掛かるト級軽巡に楽しそうに止めを刺し、踊る様に魚雷を放つ
「絶対逃がさないから~覚悟しなさ~い!」
ト級軽巡を仕留めた後にチ級重雷装巡洋艦2隻に狙いを定めた
踊る様に楽しむ龍田は自分の実力、そして強さを再確認していた・・
やはり、わたしは強いわ・・・
先程まで子供のように軽くあいしらわれていた龍田は、自分の強さに疑念を持ってしまった
本当に私は強いのか?もしかすると本当は強いと思い込んでいただけなのでは無いか?と・・
しかし、目の前で次々と自分よりもクラスが上の敵に戦いを挑み、駆逐している
その事実が、龍田の自信を取り戻させていた
今度あいつと出くわしたら、必ずその時は・・・
生きて帰りたいと戦いの中で思った・・こんな感情は今までに無い、初めての感情であった
龍田にとって、提督は特別な存在として心に刻まれた事を証明していた
そう、自分の強さを示す為に生涯にわたって命を狙う存在として・・
その近くで天龍は敵重巡洋艦「リ級」と真っ向勝負を挑んでいた
高い回避力、そして戦艦並みのしぶとさを発揮し続ける青い瞳を持つリ級相手に良く立ち回り
徐々にではあったが、敵を追い詰めていた
「いい腕じゃねぇか、褒めてやるよ・・しかしお前はここで終わりだ!
なぜかって?それは~オレが一番強いんだからよ!」
しぶとかった動きを捉え、リ級を一刀両断した
「うっしゃぁっ!どうだ天龍様の強さ、思い知ったか!」
天龍は息の絶えた敵を見下ろし吼えた
徐々にではあったが、敵勢力をたった3隻で押し返し始めた
そして、ヲ級正規空母に迫る勢いを見せる
「敵空母の主力まであと少し・・・でも何か有りそうな予感がする・・
ここは流石に、慎重に攻めたいところだわ」
余りにも順調に快進撃を続ける自分達に一抹の不安を感じる加賀は
慎重になるように天龍と龍田に打電をしようとし、攻撃の手を緩めすきを見せてしまう
ドォォォン!
直撃?そんな・・・馬鹿な・・?
激しい轟音と共に加賀の頭が左右に揺さぶられる
加賀の側面から波と波の間に潜んでいたト級軽巡に砲撃を受けたのだ
油断した加賀の頭部が裂傷、額から血が滴り落ち始める
幸い、命に別状は無い程度の小破で済んだようだが、加賀は砲撃を喰らった衝撃で意識が朦朧とする
「加賀!?」
天龍が心配になり叫ぶ
その声に反応するかのように、反射的に「心配ない」と手を上げる加賀
しかし、直接頭を攻撃され、頭の中が混乱していた
わたしは・・・わたしは・・・・
えっと・・何をして・・・
暫く今の置かれた現状を理解し、行動するまで時間がかかった
その間にも、2発目が加賀のすぐ脇に着弾し、水柱を上げる
水柱が上がる中、暗く吸い込まれるような夜空を見上げた・・
加賀の瞳の中に、旋廻しながら飛び去る二式飛行艇が移りこんだ・・
しばし、それを見詰め固まる加賀
「私は・・私は生まれる前から、守りたいものを知っていた・・・けど、今の今まで思い出せなかったのね・・」
自分が所持していない筈の記憶・・思い出が、加賀の脳裏に浮かび、思いもよらない言葉を口にする・・
何かしら・・この心の奥でぼんやりとした、くすぐったい気持ちは・・身を焦がす思いは・・
これは自分の記憶なのだろうか・・・それとも・・・
加賀は不思議な気持ちでいた
「あの子、大きくなったわね・・」
何かを思い出したような顔をして、つぶやく加賀の顔は晴れやかであった
その時、加賀の後方から無数の友軍機、艦上戦闘機「烈風」が加賀の頭上すれすれに編隊を組んで飛び去る
それに続き艦上攻撃機「天山」が大編隊を組んで烈風の後を追う
「これは・・?」
加賀は血の足りない頭を懸命に使いながら、現状を把握しようと努めた
編隊から分かれた数機の天山が通過しがてら、加賀を襲ったト級軽巡を沈めていく
そして天山の後を追う様にやって来た零式艦戦52型そして21型が数機、直掩についた
この海域で、飛ばせる者は私以外に居ないはず・・・でもあの烈風と天山・・そして零戦は我が友軍機・・
なぜ・・居ない筈の空母から・・・
加賀は敵の攻撃をかろうじて交わしながら、辻褄が合わない事を懸命に考えていた
その思考をする加賀の脇を勢い良く駆け抜ける者がいた
「夜のダンスタイムv夜戦いきまーす!」
舞風が華麗にそして楽しそうに駆け抜けた
「え?」
加賀は一瞬面を食らう
「ここからはあたし達の出番だね!よっしゃあ!バリバリいこうぜ夕張!」
力強く駆け抜ける加古
「分かってるわ加古!さぁ~この装備色々試したいのよねv兵装実験軽巡としては腕が鳴るわ!」
夕張が新しく偽装した装備を嬉しそうに愛でながら、駆け抜ける
「敵艦を捕捉、撃破します!みんな準備は良い?」
「お――!!」
古鷹が蛇行しながら加賀を追い抜き、旗艦として命を下す
「左舷、砲雷撃戦、用意!・・・撃てぇー!」
いっせいに琥珀艦隊の砲撃は始まる
「加賀さん、少し下がってください!ここは私達が!」
駆け抜けざまに加賀に告げる
「私達、夜戦は得意なんですっ!そして提督の愛してくれる我が艦隊・・
琥珀艦隊の良い所、たくさん知ってもらえると嬉しいです」
「加賀!大丈夫か?」
木曽が滑り込んでくる
「木曽、あなた・・どうして・・」
「お叱りはあとで・・」
加賀の無事を確認して、木曽も天龍、龍田、そして琥珀艦隊の面々が戦いを繰り広げている戦場へ身を投じた
事の成り行きを見る加賀・・
そこへ提督が駆け寄りハンカチを差し出す
「先生・・いや、加賀・・これを」
ハンカチを受け取る加賀
「やはり友軍を見捨てて行ける訳は無いのです」
提督の眼差しはいっぱしの男の目をしていた
「すみません・・」
そして帽子を目深くかぶり、うつむきがちに視線を落とした
「祥鳳!お前は加賀と共にここに残り、友軍の支援を!
名取!お前は俺のそばを離れるな!今から前進する!俺について来い!」
「はい!」
名取はここまで祥鳳と共に提督の後方をつき従い、近づいてくる敵に向って砲撃を加え続けていた
名取?
先の戦いで轟沈したものとばかり思っていた彼女の名を聞き驚く加賀
なぜ、あの子が?しかも、この子に付き従って・・
疑問が先行するも、その不思議な光景に我を忘れて高揚した
そう、分かりました、良いでしょう・・貴方達の実力見せていただきます、実戦で!
加賀の心が躍る、自分でも明らかに分かるほど高揚した気分は止める事が出来なかった
そしてうつむきながらニヤリと加賀の口元が笑う
「ここは譲れません・・」
その言葉を発し、提督に近づき舌を絡めて唇を交わす
「!?」
突然の事に驚く提督・・
そして加賀と提督の唇と唇が離れる時に糸を引く
「さぁこれで短い間ですが、一時的に貴方の情報を得ました
これにより私は貴方の指揮下に入りました、この私を貴方の思う存分使いなさい!」
「貴方には完全に私を使いこなせるとは思わないけど、それなりに期待はしているわ」
加賀はハンカチをガーゼ代わりに傷口にあて、鉢巻で閉め、体制を整え直す
「せんせい・・」
提督はあまりの事に、一瞬気が抜ける
「何をしてるの?さぁ!」
加賀に促され、呆けいていた提督は我に帰る
「あ、は、はい!」
「命令を変更する!祥鳳、加賀、両名は俺に続け!後方より艦載機を発艦させ各攻撃隊の援護を!
あの戦いの渦の中に居る大事な仲間達の帰る道を必ず確保せよ!」
「了解しました!」
「わかりました」
「名取はこの2人の護衛を!出来るな!」
「はい、必ず!」
名取は祥鳳、加賀の直掩についた
「加賀さん、祥鳳さん、わたし・・ご迷惑をおかけしないように、が、頑張ります!」
「名取!気負うな!」
「は、はい!」
その提督の声に名取は嬉しそうに微笑んだ
戦いは熾烈さをました・・
ヲ級正規空母から発艦され、襲い来る敵艦載機に手を焼く夕張と舞風
その2人に祥鳳の烈風が支援に入り、次々と敵機を落とし続け、大いに活躍する
そしてそのヲ級の両サイド、2時と10時の方向より迫り来る新手が見つかる
タ級戦艦が1隻ずつ、リ級重巡洋艦を携え提督達に迫り来る
その思わぬ敵の出現に一度は形勢不利に落ちるも、これを加賀、祥鳳の両艦から発艦した天山と流星が足止めに成功!
その足止めした隙を狙って加古、古鷹両艦によるカットイン攻撃でとどめをさし、その間に夕張と舞風による酸素魚雷攻撃によりヲ級の完全に沈黙させた
「・・・・」
先程まで戦い続けた海域は、今は朽ちた艦より燃え上がる炎と、誘爆による爆発音だけであった
戦いはここに終焉を迎えた
「やったのか・・・?」
提督の喉がなり、そして一筋の汗が流れる
「やりました・・」
祥鳳と共に、偵察機を飛ばし、残存艦隊が無い事告げる報告を得た加賀が満足そうに掃討作戦の終了を告げた
「・・・・」
「・・・・」
「あは・・・あはは・・」
あははははははーっ!
それぞれの場所でお互いを見詰め笑い始める
「あははは!勝ったぞ!勝った!」
「あはは、やったぁv」
「よっしゃぁっ!見たか俺様の実力!」
「やったぁーっ!やりましたっ!私っ、嬉しい!」
喜び合う面々は勝利の味をかみ締めていた
しかし、喜ぶ提督達には、忍び寄る一隻の潜水艦に気付かない・・
「良い作戦指揮でした。こんな艦隊なら、また一緒に出撃したいものです。」
加賀が改めて提督の指揮を賞賛する
「加賀にしては珍しい事もあったもんだ・・なぁ!」
天龍が初めて加賀が人を褒める所を見たとおどけた
「有り難う・・加賀」
「みんな優秀な子たちですから、当然の勝利です」
「みんなご苦労様な・・」
「だめ・・・だるい・・・艤装が・・・あー、マジで死ぬ~、死ぬほど寝かせてー・・」
加古が気だるそうにしていた
「加古・・もう少し我慢しろ、あとで死ぬほど寝かしてやる」
提督は加古のいつものおねだりに微笑んでいた
そのやり取りの最中、一発の魚雷が放たれ海面下に一筋の線を描いた
迫り来る魚雷に誰も気付かない・・
更に距離を縮める魚雷・・
魚雷が確実に獲物を捕らえたのを見届け、満足した様に魚雷を放ったカ級潜水艦は微笑み力尽き海の底に沈んでいった
その事実を知らないまま、笑顔で勝利を味わい集う提督達・・
そう、この時完全に皆が油断していた・・
まさか1発の魚雷が狙っているとは・・・
そしてその狙いが提督であると言う事を!
「!!」
その海面下に描く線に気付いた数名が声なき悲鳴を上げ、顔を強張らせる
提督が後ろから迫り来る魚雷に気付いた時にはもう時遅し!回避できる距離ではなかった
「くっ!」
ドォォォン!
艦娘達の近距離で、提督目掛けて放たれた魚雷が爆発した
「提督!」
琥珀艦隊の面々が蒼白となる
爆風に飛ばされ、爆煙で視界を奪われ、爆音で全ての声がかき消された
突然の事態に、古鷹は何も理解できないまま呆然と燃え盛る炎を見ていた
ていと・・・く・・・
夕張と舞風が怪我をして海面にうずくまる、祥鳳も遠くまで飛ばされ、動けない
損害の少なかった名取は身体を起こし、今起きた事を理解できないまま、燃え盛る炎を見て涙を流す
加古と木曽が提督の名を叫びながら燃え盛る炎の中に突っ込んだ
龍田と天龍はすっ飛ばされた身体を起こし、魚雷を放った敵を探しまわる
「出て来いこのヤロー!」
天龍の声が夜空に空しくこだまする・・
「いや!いや・・・いや-!」
古鷹は両手で頭を抱え、狂った様に泣き叫び、頭を振った
勝利はしたもものの、多くの犠牲を払ってしまった
勝って手にしたものは何だったのだろうか・・・
空しさだけが皆の心を支配した
そして古鷹の心は今、音を立てて・・・
つづく