提督は大和を出迎える為乗り込んだ高官専用車の車内で思いにふけっていた
そして隣りに座る古鷹は提督の隣りで今後の進行を思考していた
提督は古鷹が本日のスケジュールを読み上げる声に曖昧な返事を繰り返し
古鷹の言葉が耳に入らないほど上の空であった
提督は思い出していた・・・今から2年前の事を
「どういう事だ!」
「簡単に言うのならば、我々の行為行動が深海棲艦に喧嘩を売り続けていると言う事なのです」
元帥閣下は目の前にて論を論じる、不敵な態度で淡々と述べる科学者と対峙していた
閣下の周りを高級将校である大将クラス以上の者達が半円を描いて
半円卓のテーブルに用意された椅子に着座し、事の成り行きを見ていた
そしてその場に校長閣下の姿もあり、校長閣下の秘書官兼護衛官として同席が許された提督は校長閣下の後ろに立つ形で会議に加わっていた
科学者から告げられる事実と思わしき導き出された推論が
元帥閣下をはじめ、その場に参加した者達の口をつむらせた
「では改めて詳しく説明致しましょう」
科学者は薄暗い会議室の中、スライド上映機を使いあの惨劇から得たデータと
敵、深海棲艦の行動パターンを図式化して説明を開始した
「我々は今、我が国周辺の制海権を奪った深海棲艦との死闘を長年行っております
我ら人類は制海権を奪われた事により、産業は疲弊し、国力も衰退の一途を辿って、今に至ります
それを打開する為、我々の先人はこの戦、深海棲艦との死闘において、艦娘を用いました
その用いた艦娘の力は絶大であり、また軍・・特に海軍の根幹、主力を成す存在となってます」
スライドには多数、そして戦艦を始め空母等々各クラスの艦娘の写真が映し出されている
「しかし我々はこの軍備の根幹である艦娘の事を思った以上に理解していない・・
どうやって産まれるのか?どうして我ら人間を模写した様な姿形をしているのか?」
「そして、どうして女・・なのか」
「我々は理解しないまま艦娘を一兵士一兵器として使用しているのが現状です」
艦娘の裸体、そして今の今までに蓄積された艦娘の生命体としてのデータが映し出された
「我等はこの人類と似て非なる者を当たり前の様に使用し
そして簡単に破棄している事実に気付かなければなりません・・・が、しかし
それを理解し、扱っているのもは誰1人、我が軍、いや我ら人類には誰1人として居ない事は
明白であると言わざるを得ない事実が存在しております」
科学者はスライドフィルムを次々とスライドさせ、様々な映像をスクリーンに映し出していた
長年使い慣れてきた兵器、艦娘の扱いを知らないといわれ、面白くなさそうな顔をする高級将校達を尻目に科学者は嘲笑うかのような顔をしたまま話しを続けた
「さて、艦娘への疑問は今これぐらいにして、深海棲艦について少しお話をしたいと思います」
科学者はメガネをクイッと中指であげた
「さて、奴ら・・いや、彼女らは一体どこから来たのでしょうか?そして目的は?」
科学者の表情が子供が小動物をなぶる様な嬉しそうな顔になる
「まずはどこから来たか・・」
「それはおそらく彼女ら深海棲艦は我が国近海の海溝深くから現れたと思われます
そして我々と対峙し、勝利したついでの結果、制海権を奪い現在に至ると推論します」
スライドには深海棲艦の進行ルートの書かれた海図が映し出されていた
「制海権を奪取した深海棲艦は定期的に群れを成し、占拠した海を回遊している事が今回判明致しました
この行動はある行為を行う為の行動で、それについては後ほど説明致します・・
ひとまず、この現象を深海特別急行・・リミテッドエクスプレスと呼称します
「では、なぜ彼女らは我々の制海権を奪い、海を占拠し定期的に回遊し続けるのか・・
そして事有る毎に我々人類に接触し、死闘を繰り返すのか・・」
科学者の口元がニヤリとゆがみ、会議室内の苦虫を潰した様な苦々しい顔をした高級将校達の顔を面白そうに見渡した、その見渡す表情は屈折した喜びに満ちた表情であった
「それは、ついで・・です」
科学者の口から出た「ついで」と言う言葉に会議場内の降誕たちがざわめく
「ついでだと?」
「はい、ついでです・・彼女らにとって制海権など意味がないのです
ある事を成す為、ある目的を遂行する為だけに、ついでで制圧しているだけなのです」
ついでと言う言葉に、今まで多くの戦いを勝ち抜き、モノにしてきた1人の大将が噛み付いた
ついでで多くの仲間や娘達が死んでいったのかと噛み付いたのだ
しかし科学者はそんないきり立つ言葉にも同ぜず淡々と話を進めた
「良いですか?我々と違い彼女らにとって制海権は意味がないのです・・
彼女らは目的は別にあります、その目的を果たす為にそのついでに制海権を奪い
そしてその目的遂行の為に現在に至るまで制海権を掌握
定期的に回遊をし、制海権を握り続け勢力下においているだけなのです」
「制海権が目的では無いとすると何が目的なのだね?」
校長閣下が事の成り行きを見つつ、元帥閣下に変わり口を開いた
「彼女らの目的・・今まで仮定でしか有りませんでした・・
が、しかし先日の演習海域での攻防戦ではっきりしました」
「演習海域での惨劇でかね?」
提督が苦々しい顔をして校長閣下と科学者とのやり取りを耳にした
「はい」
その科学者の返事にいまいち理解が出来ない高級将校達が再びざわめく
「彼女らの目的・・それは彼女ら深海棲艦がこれまでとって来た戦術パターン
攻撃パターンから行動原理を引き出し、現勢力図に当てはめて
更に先日の演習海域での行動パターンを当てはめてみると・・・・
彼女らの目標は一目瞭然です、その目的は馬鹿でも分かります」
「目的はなんだ、早く言え!」
元帥閣下が科学者のもったいぶった言い方に少し苛立ちを見せながら再び口を開いた
「艦娘狩り・・艦娘そのものの抹殺です」
「艦娘だと?」
「はい」
その答えに会議室内は愕然とした雰囲気に支配された
「深海棲艦の目的が艦娘だと?我々人類では無いのか?」
「はい・・その通りです。人類殲滅は艦娘の抹殺のついでです」
「ばかな・・そんな事が・・」
そしてそんな事の為に我々は制海権を失ったのか?という落胆に満ちた雰囲気になっていた
しかし科学者はそんな空気にはお構いなく、導き出した論を述べ続けた
「彼女らの目的は同属・・もしくは同属亜種である艦娘の奪還、もしくは排除にあると思われます
その証拠に演習海域に多くの艦娘が集まった場所に引き寄せられ、殺戮の限りを繰り広げました」
「まて・・ならわしの息子や久住の奴が死んだあの海域はどう説明する」
元帥閣下が科学者の結論を否定気味に質問をした
「あぁ・・あの事件に関しては深海棲艦の回遊ルート、リミテッドエクスプレスが原因です
回遊ルート近くに相当数の艦娘が居た事により引き付けられたに過ぎません
今までは感知される事はなかったのですが、運が悪い事に回遊時期に艦娘が集まりすぎたのでしょう・・」
「蟻の行軍の前に角砂糖を山ほど置いたのと変わり有りません」
詰まらなさそうに結論だけ述べ、質問の応答を切り上げ、持論を続ける
「彼女ら深海棲艦はある種の匂いをかぎ分ける、もしく波長を拾う事が出来ると推測されます
艦娘の放つもの・・一種のフェロモンと考えて頂いて良いでしょう
普段は嗅ぎ取る事の出来ないわずかなフェロモンですが、ある一定数を超えると遠方でも感じ取る事が出来る」
「先ほど述べた様に、蟻に角砂糖・・・そうですね・・他で例えるのなら・・
そう、まるで夜、殺虫灯に引き寄せられる蛾といった処でしょうか」
科学者は述べ続けた・・
その衝撃的な結論と推論で会議場内は沈黙と化した
科学者は艦娘の出すなんかしらの匂いないし、波長がある一定数を集める事により
深海棲艦を引き寄せる効果が出てしまう事を告げた
そしてその効果により、結果、深海棲艦を引き寄せてしまう・・・と
久住達や元帥閣下の息子が亡くなった時、そしてあの演習海域での惨劇は
この不幸な事が重なって起きたと結論付けたのであった
「では・・君が言うように艦娘のある種の匂いないし、波長が呼び寄せてしまうというのならば
我々は自ら招きいれていると言うことかね?」
「そういう事になりますな」
「しかし、それでは一定の数を揃えて遠征や討伐なぞ出来ないではないか」
「その通りです」
元帥閣下と科学者とのやり取りを聞いて、これは参ったという態度があちらこちらで見受けられた
「良いですか・・だから我々はまだ何も理解していないと言うのです」
何も映し出されていなかったスライド上映機に再びスライドフィルムが挿入され、スクリーンに映し出される
「我々の先人が遥か以前、艦娘を発見し、保護という名目で人類に組み込み、搾取し活用しました
そしてその得体の知れないものである艦娘を人類と告示している
意思疎通が出来ると言う事だけでそれを兵器として扱い
己の欲の為に彼女らを女として扱い、身体の純潔を奪い
更に身体だけではなく、命まで酷使しするという図式を作り上げました」
「今となってはそんな我々にとっては今では当たり前な事ですが
彼女ら深海棲艦にとっては違うのです、受け入れがたい事なのです」
会議室で1人、論を論じる科学者の言葉がその場に居る者達の認識の甘さを突き続ける
「深海棲艦にとって、艦娘は同属亜種な存在・・突然変異か何かで生まれた亜種なのです
その存在は彼女ら深海棲艦には忌むべき存在なのです」
「故にその忌むべき存在は自らの手で葬り去らなければならない
もしくは自分達の為に活用せねばならない・・しかし、現状は我々人類に搾取され
そして事ある毎に目の前でチラつく」
科学者は不適に微笑む
「忌むべき存在を駆り、そして我が物顔で深海棲艦の生活の場を奪い、それを排除する人類
我々は深海棲艦の日々を略取し続ける者、彼女らの世界の秩序を乱す異世界の侵略者と同じなのです」
静まり返った会議室で科学者の声だけが響き続ける
「彼女らの目的は艦娘の奪還解放もしくは殺害殲滅、そしてついでに人類の殲滅なのです」
微動何せず、あっさり艦娘の解放、人類の殲滅が最終目的だと言ってのけた
「ばかな!我々が正義ではなく、略取する悪だと?そんな事あるものか」
高級将校が科学者の空論で妄想とも思える結論に異を唱えた
「果たしてそうでしょうか・・我々は艦娘という存在を彼女らの意思とは関係なく搾取し続けてきました
人類と似て非なる存在でありながら、彼女らの容姿とその力に魅了され、我が物とし続けた」
「そして仕舞いには愛でる対象としてはべらかし始める・・
彼女ら深海棲艦にとっては見るに絶えない状況のはずなのです
彼女ら深海棲艦にとってみれば、我々が行う行動は何1つ彼女らに恩恵を与えないのです
恩恵を与えないどころか、亜種である隠しておきたい恥部を堂々と見せ付けられる
そんな尊厳を踏みにじられた状況を黙ってみて入れるでしょうか・・
我々人類が同じ立場なら黙って見てられないでしょう・・きっと抹殺、排除を考えます」
科学者は淡々と述べていた
「そして同属から忌む存在である艦娘にとっても人類とかかわった事は悲劇です
艦娘にとって、我々人類と一緒に居る事は搾取され続けるだけで、恩恵は皆無なのです」
「彼女らにとって我々は人類は例えるなら、田畑を荒らし身内を奪い、搾取の限りを繰り返す悪い鬼
そして彼女ら深海棲艦はそれを正す為、立ち上がった桃太郎と言った処でしょう・・」
「鬼は主人公に討伐されなくてはいけません・・」
静かに科学者は告げた
「我々が桃太郎では無いのか?あいつ等深海棲艦が鬼ではないのか!」
高級将校の一人が口を開く、しかしその反論にくだらないと言う顔で科学者は言葉を返した
「果たしそうでしょうか?我々人類の行動は彼女らにとっては何1つも恩恵を与えてません
恩恵を与える所か、身内を殺し、そしてドロップした娘を奪い去り、尖兵として仕上げ送り出す
その所業・・身内同士を戦わせるのは悪魔と言わずしてなんと言うのでしょうね?」
その反論に言葉が返せない高級将校
嫌な感じで口角が上がりニヤリとする科学者
「我々は選択を迫られているのです・・閣下」
その後、会議室は静まり返ったままであった
提督は演習海域の惨劇から1年余りも後に行われた極秘会議の事を
身震いと自分達の信じて居た物が根底から覆る恐怖に満ちた感情で思い出していた
そしてその真実と思われるモノと心の中で対峙し続けていた
「提督、提督ぅ!」
「あ、あぁ・・なんだ?」
「何だ?じゃ有りません、もう聞いてましたか?」
古鷹は別次元に言っていた提督にぷんすか怒っていた
「もう今日は大事な日なんですから、しかっりして下さいよ」
「す、すまん・・・」
提督は古鷹の怒る姿に微笑んだ
「な、なんですか・・もう何笑ってるんですか」
「あ、いや・・俺の女は可愛いなぁって思って・・」
突然の告白に顔を真っ赤にする古鷹
「な・・・なにを急に・・・・・」
古鷹が急に勢いを失い、顔を赤く染めたまま恥ずかしそうに提督の目を凝視できなくなった
「ばか・・・」
うつむく様に視線をそらした古鷹は嬉しそうに、そして困った表情で書類を見つめ顔を埋める
暫く顔を埋めた古鷹はその間に気持ちを切り替えて改めて提督の目を見た
「公務中はそういうのは無しって言ったでしょ・・あなた」
「す、すまん・・そうだったな古鷹」
提督は古鷹に頭を下げ、古鷹の気持ちを受け止めて、自分が軽口を叩いたと反省した
古鷹はそんな素直に自分と接してくれる提督を改めて好きだと実感し
心の奥底が少しくすぐったい気持ちに成った
「もう・・今回だけですよ、あなた・・じゃなかった、提督v」
そんなやり取りの中、お互いを見つめ合い苦笑いをした
提督は事実がどうであれ、自分の目の前には自分が愛する女がいる、そしてその愛する女と男女の関係を持ち、その結果子供まで授かったのは事実・・
故にどんな事があっても、誰がどんな事を言おうが、自分を愛してくれる女がいるという事実は誰も覆させない事だと改めて感じていたのだ
「これからは気をつけるよ古鷹・・公務に集中できてなかった、すまんな
・・でも、古鷹のそういう所が俺を助けてくれるんだ・・そして好きなんだ、ありがとう」
提督は古鷹の可愛らしさと真面目さを兼ね備えて愛してくる姿に感謝をした
いつもと感じが違う提督に少し不安を感じながらも古鷹は気を取りなおして微笑んだ
「では、提督宜しいでしょうか?」
「うむ、よろしく頼む」
笑顔で返答した提督はその笑顔とは裏腹に、車窓から見える街の風景を一瞬眺めた時に複雑な顔をした・・
古鷹に気付かれないように
車はとある軍事施設内にある研究所に停車されていた
中は運転手以外誰も居ない・・提督と古鷹は研究所内地下施設に居た
「さぁいよいよですよ・・お母様がドックから開放されます!
・・やっと戻ってこれるんですね・・あなた」
古鷹が研修室地下にある巨大入渠用カプセルドッグの前に提督と共に立っていた
「あぁ・・あと30分で母さんは戻ってくる・・長かったな、古鷹」
提督はこの3年間を一日千秋の思いで待っていた
あの惨劇のあとの3年間は色々な事が起き、そして多くの事が変わった
そして何より、この3年間大和が居ないという事が大きく提督や第壱琥珀艦隊の面々
そして大和を知る者の心の負担となっていた
「お前達も来ていたか・・」
「閣下!そして名取・・」
提督と古鷹の前に名取を連れて校長閣下が歩いてきた
「古鷹ちゃん、久しぶり・・元気だった?」
「うん、元気にしてたよv 名取ちゃんは元気だった?」
「うん、私も元気だった・・でもちょっと忙しいけどね・・あははは」
「そうだよね・・閣下のお仕事の事考えると、お側は大変だもんね・・」
「古鷹ちゃんこそ、現場復帰おめでとうv 子育てと両立は大変だと思うけど頑張ってね」
「ありがと~v」
古鷹と名取はお互いの近況を笑顔と苦笑い交じりできゃぴきゃぴ話し始めた
それを見て閣下と提督は互いに苦笑いをしつつ、咳払いをして話が盛り上がる前に場を収めた
「ごめんなさい・・」
古鷹と名取が自分達が今公務中と言う事を思い出し、それに似つかわしくない行動を
とったと反省し少ししゅんとした
「名取、後でゆっくり話せば良い・・今日はたっぷり時間が有る」
閣下は名取の頭を優しく撫で微笑んだ・・閣下は名取の笑顔が堪らなく愛おしいのだろう
しゅんとした顔をした途端、頭を撫でて微笑み、名取を気遣った
そしてそんな閣下の優しさが嬉しくて名取は閣下の為だけの笑顔を惜しみなく見せた
そんな姿を見ていた提督も古鷹の頭に手を置き「まぁ久しぶりだもんな、仕方ないさ」と気遣った
古鷹は苦笑いをしつつ提督に「ごめんね、気をつけるますね」と気遣ってくれた提督に微笑んだ
お互いのやり取りも一段落付いたのを見計らって閣下は移動を促した
「さぁここに居てはこれからの作業の邪魔になる、我々は控え室で大和の帰還を待とうではないか」
閣下は改めて大和の入った入渠用カプセルドッグを見つめ言葉を発した
「そうですね・・・」
そして提督も大和の眠るカプセルを見つめる
「はやく話がしたいな・・眠り姫と」
「はい・・」
閣下は隣りでカプセルを見つめる提督の肩に手を廻し、2人で歩き出した
その2人に付き添う様に古鷹と名取は先程よりは控えめにお互いの事を話しながら付いて行くのであった
そして2時間後検査の終わった大和と対面した4人は泣き笑い、そして5人は戻ってこれた事に感謝した
翌日、提督宅の門の脇で警備をする守衛の兵士達が眉をひそめてげんなりした状態で立っていた・・
今日の提督宅は大勢の人が出入りをし、そして異常なまでに賑やかであった
そんな中、提督は仏間で父親の位牌と対面し、なにか物思いにふけっていた
「提督なにしてんの?早く!」
「あ?あぁ・・すまん」
廊下から仏間を覗き加古がでぼけっとしていた提督を呼ぶ、
そして廊下まで出てきた提督の手を取り、早く早く!と促されるまま祝宴の場に引きずり込まれる
「それでは、ご当人よりご挨拶を・・・」
鈴木が上座に座るこの祝宴の主役である人物を立たせ、言葉を求めた
そこには3年前と変わらぬ美しさと優しさを兼ね備えた1人の女性が深々と頭を下げ、そして微笑んでいた
「皆さま、ご心配をおかけしました・・私、大和型戦艦一番艦大和、
無事入渠も終わり帰って来ました事ご報告いたします
この度は私の為にこんなにも多くの方々に集まって頂き感激しておます」
大和は深々と改めて頭を下げた
「もう、とにかくこの祝宴は一生に残る良い思い出となりますわ・・みんな有り難うね」
大和は自分の快気祝いで集まってくれた皆の前で深々と頭を下げ微笑んだ
そして古鷹と提督を抱き寄せ、自分の脇に立たせ、そして孫である提督の息子を抱き上げ喜んだ
更に夕張を呼び寄せ自分の脇に立たせ輪に入れる、夕張の腕の中には乳飲み子が抱かれていた
「もう~眠りから覚めたら一気に2人のお婆ちゃんになっちゃってて、私嬉しいわv」
大和が眠りに付いていた3年間の内に夕張は指輪の力も借りず独自に提督の子を身籠ったのだった・・
身籠った時は衝撃と感激で周囲が驚いた・・特に妊娠した本人が一番驚いていた(苦笑)
そして夕張は先々月見事無事男の子を産んでいたのだ
因みに興味津々の他の艦娘達に身籠るコツはなにか?と問われた時
本人曰く「色々試した結果」だと意味深に微笑んだ
「これで我が家も安泰ねvありがとう古鷹ちゃん、夕張ちゃんv」
大和は満面の笑みで2人とその孫を抱き寄せ涙していた
その光景に、そして大和の健在ぶりに出席した者達は大いに喜び歓喜した
「さぁみんな、母さんの快気祝いの祝宴だ、大いに飲んで食べてってくれ!」
提督は振る舞い酒を片手に大和の為に集まってくれた者たちに酌をして回った
屋敷内に入りきれない者達の所まで出向き酌をする
提督宅には苦楽を共にした元教官連中、そしてその教官に付き従う艦娘達
鈴木やあかり、閣下、そして金剛や飛龍、名取・・多くの者に酌を自らして廻ったのだ
提督は行く先々で祝いの言葉を貰い、そして酔っ払いと化した仲間に絡まれ、返杯の嵐で呑まされ続けた
それでも笑顔は絶えず、返杯の度に母親である大和の復帰を喜んだ
祝宴は日が落ちるまで続いたのであった
「それでは、また・・おやすみなさい」
最後の客が提督宅を去り、やっと静けさが訪れた
「やれやれ・・・」
提督は顔を真っ赤にし、泥酔寸前のまま最後の客を見送って戻って来た
「おぉお疲れ・・」
「あぁ今日は有り難うな、鈴木」
鈴木が居間で靴下を脱いでくつろいでいた
「大丈夫か?足がふらついているぞ・・少し横になれ」
「あぁすまん・・そうさせてもらうわ、あかり」
提督はあかりに促されるまま、鈴木の横をすり抜け縁側にペタンと座り、そのままゴロンと横になった
外には気持ちよいそよ風が吹いていた
「それにしてもよく飲んだものだ・・」
あかりが珍しく提督の愚行とも言える酔い方に苦笑いをし、でもそこがお前の良い所だと微笑んだ
「提督ぅ~!提督もこっちに来て飲むネ~v」
金剛があかりを呼ぶ、金剛の周りには空になった徳利や一升瓶が沢山転がっていた
同じ様に天龍と木曽が金剛の相手になり飲んでいた・・そして加古は酒のつまみを取りに行くと席を立つ
木曽は差ほどでも無いが、天龍も金剛同様かなり出来上がっている状況が一目で分かった
「おい・・お前達、飲みすぎだぞ」
呆れるあかりに「大丈夫ね~!」とケラケラ笑いながら、徳利のまま飲み干した金剛
それを見て俺も負けね!と徳利を持ち飲み干そうとする天龍、しかし手を鷲掴みにしてそれを止めに入る木曽
加古はつまみを取りに行くと言ったまま戻ってこない・・どうやら逃げたようだ(苦笑)
「これは明日はだめだな・・」
金剛達のの酔い方を見てあきれる
あかりは提督の横にちょこんと座り、ゴロンとなった提督の真っ赤に酔った顔を見る
「私はお前と出会えて幸せだった」
あかりは酔いつぶれた提督の顔を見続けた
「本当なら、あの時お前と一緒になれたら・・・私も」
あかりは誰にも聞こえないような声で過去となってしまった提督との思いを吐露した
「いや・・過ぎた話だったな・・・あぁ~私も酔っているなぁ」
あかりは提督の横で伸びをして自分の中にある昔の思いを払拭しようとした
伸びをしたその顔は酒に酔って赤いのか、はたまた昔を思い出し赤いのか、本人以外知る余地の無かった
提督はあかりのそんな想いに気付かないまま寝息をたて始め、夢の世界に入っていった
「古鷹」
「はい」
あかりは古鷹に提督を起こさないよう小声で提督が寝てしまったと告げる
「あらあら・・あなた、駄目ですよ、風邪引いちゃいますよ、あなた・・」
古鷹は甲斐甲斐しく提督を優しくゆする、その顔は幸せそのものであった
提督は寝ぼけ眼のまま身体を優しくゆするその手に手を添えて「古鷹・・俺は・・好きだ」と寝言を言う
その寝言に真っ赤になる古鷹は暫し動けず固まった
そしてそれを見たあかりは、微笑みその場を後にする
「お2人さん、ごちそうさま・・それでは私はこれで失礼するよ」
あかりは、古鷹には笑顔を、提督にはこのお惚気ヤローめがと提督の鼻をキュッとつまみ、少し悔しそうに微笑んだ
「古鷹・・すまん、金剛はあのざまだ・・すまんが今夜は泊めてやってくれ」
「はい、了解しました・・あれじゃあ帰れませんもんね・・
最初からそのつもりでしたし、大丈夫ですよ」
あかりの願いに快く応える古鷹は、どうせならあかりさんも泊まっていきませんか?と問うた
・・が、しかしあかりは古鷹の提案を丁寧に断り、一人実家へ帰宅するのであった
送り出す為あかりを玄関まで見送りに出た古鷹は手を振った後歩き出したあかりの後姿を見て
「なんか少し寂しそう・・いつものあかりさんじゃない感じだったなぁ・・」と思ったのであった
あかりを送り出した後も提督宅は賑やかに、そして今日と言う日を祝い続け
夜遅くまで灯が落ちる事はなかったのであった
これが出撃前最後の祝宴となる事も知らずに
つづく