葵が笑う世界で ー王と提督は、ただ1人を守る為にー 作:戌威
突如、海に黒い渦が発生する。
大気は震え、海は荒れ狂い、
災厄と恐れられた「冥焔の王」がこの世界に現れた。
ー鎮守府近海ー
「主砲一斉射、ってぇぇぇぇぇ!!」
「制空権を確保しました!このまま航空支援に入ります!」
「こちら第二艦隊!敵側面から突撃します!」
主砲の轟音、航空機のエンジン音、飛び交う無線、これらはこの世界では当たり前の光景だった。
突如出現した深海棲艦という怪物が世界中の海を支配し、人類は衰退の一途を辿っていた。
だが同時期に艦娘という救世主も現れた。旧時代の軍艦の魂が宿った人の姿をした戦乙女。
彼女達と人類は協力して、深海棲艦に立ち向かう。
そして今この時も海を取り戻す為に戦闘の真っ最中だった。
ビシッ…バキッ…!
「……!なんだ、今の音は…」
「長門さん!あれを、あれを見てください…!」
言われた先を見る。そこに大きな黒い渦が突然現れていた。
深海棲艦も気づいたのか回避行動をとっている。
艦娘達も安全圏まで退避。突然の事に互いの攻撃が止まる中、渦の中心が盛り上がり、そして破裂した。そこに立っている人影を見つけるも、何かおかいしい。
「人間、いや…なんだ、あれは…」
「人間、じゃない…いや待って、女の子⁉︎人間の女の子がいます!」
姿がはっきりと視認出来る距離まで近づいてようやく何なのか分かった。
男が人間の少女を抱き抱えていた。
少女は男の腕の中で眠っている様子で、男は目を閉じたままだ。
だが…やはり何かおかしい。何かが引っ掛かる。得体の知れぬ何かがある…
そう感じていた時、動いたのは深海棲艦だった。
「ナニカ、シラナイガ…ジャマダ、沈メロ…」
そう言って何十隻もの深海棲艦が砲を構え、照準を男と少女に合わせる。
「……!まずい!おい、逃げろ!」
「くっ…!だめ、間に合わない…!」
「逃げてーー!!」
艦娘達が叫んだ瞬間、男の両眼がゆっくりと開いた。
それを見た時、艦娘達は声が出ず息を呑んだ。
両眼の瞳は血よりも紅く、白目の部分は闇のように黒く、視線で射殺すような鋭い眼光。
何よりその眼には激しい怒りと哀しみが宿っている。
「ひっ…!な、何よあれ…!」
「に、人間じゃないの⁉︎」
だが次の瞬間、男の両眼は深海棲艦に向けられ一言だけ発した。
ーー俺の家族に…触れたな…ーー
瞬間、男の背中から赤い翼が6枚生え、それは激しく燃え盛る炎のよう。
そして自我を持つかのように畝りながら現れる黒い大蛇のような尻尾。
人ではない“何か”であると十分すぎる程理解出来る姿となる。
赤い翼が大きく広げられると、周辺の温度が急上昇していくのが分かる。
男から発される殺気とも、威圧とも言えるもので呼吸が苦しくなる。
身動きひとつまともに出来ない。いや、動けば死ぬと本能が激しく訴えていた。
「……禍々シイ、危険、コロセ…!!」
深海棲艦が一斉に砲撃しようとした瞬間、6枚の赤い翼から深海棲艦に向かって黒い炎が噴き出し、1本の巨大な炎の柱となって襲いかかる。悲鳴、絶叫を上げながら避ける間も無く巨大な黒い炎の柱に巻き込まれて焼き尽くされていく。だがそれだけでは終わらない。
男が指を鳴らすと巨大な黒い炎の柱が爆ぜる。そして海の上に急速に拡大して周辺に展開していた他の深海棲艦も飲み込まれて焼き尽くされていく。
たった数分の出来事だった。40〜50隻は居たであろう深海棲艦の艦隊が悲鳴と絶叫以外何も残さず焼き尽くされた。艦娘達はその光景を見て戦慄した。
「な、長門さん…今の、み、見ました?」
「あぁ…この目でしっかりと…何なんだ、一体何者なんだ…」
「……!長門さん、まずい、こっちを見てる…!」
その男の両眼が艦娘達にも向けられた。海の上が炎上し、大量の黒煙を上げて空を覆い辺りが暗くなる。両眼の紅い瞳を一層引き立たせ、解き放たれる圧がより強く感じられる。
身動き出来ず時間だけが過ぎていく中、男の腕の中で眠っていた少女が目を覚まして顔を上げる。
「……え、ここは…ハヤト?」
「…………起きたか、葵。」
「(喋った!今、お互い名前を…!)」
「え、う、海⁉︎え、なんで海に?」
「分からない…だがそんなことより、葵が無事で良かった…」
「ハヤト…あれ?あの人達は…?」
「……知らん…だが敵なら殺す。」
そう言うと男の眼が更に鋭くなり、圧も増していく。
「ま、待て!こちらに攻撃の意思は無い!」
「そうです!私達は敵じゃありません!本当です!」
このままではまずいと感じた長門と吹雪が声を上げる。
得体の知れない男、いや怪物を刺激しないよう敵意が無いことをはっきり伝えなければ
先程の深海棲艦のような結末を迎えてしまう。
なんとかこの状況を乗り切ろうとしていると、少女が怪物の胸に手を当てて「大丈夫だよ」と声をかける。瞬間、怪物からの圧が弱まるのを感じた艦娘達。
「あの子が声をかけたら圧が弱まった…?」
「……(あの少女と怪物は一体どういう関係なのだ?)」
「あの、皆さん、私達も敵じゃありません。ハヤトも、私を守る為にしたことなんです。」
「…………葵の安全が最優先だ。葵が無事なら、それでいい。」
怪物の少女を見る表情も、少女が怪物を見る表情も、どちらも柔らかく優しいものだった。
あれは相手を深く信頼し、心を許しているものであると長門は直感で感じ取った。
長門は少し考えた後、通信をある人物へ繋げる。
「提督、長門だ。その、これから…」
「分かってる。全て見てたよ。まだ安心できないけど、少女の保護が最優先だ。鎮守府へ一緒に帰還して欲しい。ただし、男の方への警戒は怠らないように。」
「分かっている…では、これより帰還する。」
「長門さん、少女の保護は分かりますが…あの、なんというか…」
「……とりあえず今は一緒に連れて帰ることだけに集中しよう。皆、思うところはあるだろうがよろしく頼む。」
そう言うと他の艦娘達も長門の声に頷く。そして長門が保護を申し出ると少女は柔らかく微笑んで「お願いします」と答え、怪物も「…葵が言うなら…」と警戒は解かないが長門の申し出を受け入れた。そして長門達は鎮守府へ帰投する。これが最初の出会い。
そして、後に手を取り合い深海棲艦と戦う“戦友”になるとは今は誰も知らない。
ー鎮守府 執務室ー
長門達が保護した人間の少女が部屋の中央に置かれたソファに座っていた。
その後ろに立って再び鋭い眼光で圧を放っている怪物。
そしてその反対側に座る白い軍服を着た青年。名前は白瀬 海斗(しらせ かいと)。
この鎮守府の最高責任者である“提督”と呼ばれる者が、柔らかい表情で自己紹介を始める。
「私は白瀬と申します。この鎮守府の提督で、あなた方お2人を保護した艦娘達の指揮をしています。まずはお2人を無事鎮守府まで連れて帰ることが出来て安心しました。」
「ありがとうございます。私は雨宮 葵です。そして私の後ろに立って守ってくれているのがハヤトです。」
「………………」
「もう、ちゃんとハヤトも自己紹介しないとだめだよ?私達をここまで連れて来てくれたんだから。挨拶しないと失礼になっちゃうよ?」
提督とその隣に座っている長門、そして長門と一緒にあの場にいた艦娘達が一斉にハヤトの方へと視線を向ける。圧が凄い。体の震えが止まらない。だが目を逸らす訳にもいかない。
「………葵がそう言うなら、そうなんだろう。ハヤトだ…」
「うん、ちゃんと自己紹介してくれてありがとう。大好きだよ、ハヤト♪」
「俺もだ、葵。」
無表情でぶっきらぼうな自己紹介。かと思えばお互い好きだよと言い出す。
一体何だこれは…と頭が追いつかず、提督達は置いてけぼりを食らう。
「あー…あの葵さん、ハヤトさんとはどういう関係なんでしょうか?」
「私とハヤトですか?え、その…あの……///」
「葵は俺が命をかけて守るべき存在だ。葵を害する者は誰であれ、死を持って償わせる。」
「もう、大袈裟だよ///」
「……(何だこのやりとり…てか温度差が激し過ぎる…!)」
「そ、そうですか…(これはまずいな…あの眼、そして口調からして本気だ。)」
提督はふう…と息を吐いた後、気を取り直して2人にこのまま鎮守府での保護をしたいと改めて話す。葵は一度ハヤトを見る。ハヤトは何も言わず頷く。言葉は交わしてないが2人はそれだけで意思疎通が出来る程の仲であると誰もが分かった。
「白瀬さん、よろしくお願いします。私もハヤトも何でここにいるのか分からないので…」
「葵の安全が保たれるなら、それでいい。」
「分かりました。色々聞きたいことはありますが、今は部屋へ案内します。部屋は2人分用意してますが…同室の方がいいですか?ハヤトさんはどう思いますか?」
「ど、同室ですか⁉︎ハ、ハヤトと同室…///」
「同室で構わん。その方が葵を守りやすい。」
「分かりました。では同室ですね。赤城、加賀、2人を部屋へ案内してくれ。」
「畏まりました。では、ご案内しますね。」
「葵さん、着替えはこちらで用意してるからそれを使って。」
「着替えもですか!ありがとうございます!えへへ、皆さん優しいね。ね、ハヤト?」
「……葵がそういうなら、そうなんだろう。」
そう言いながら2人は赤城と加賀に連れられて執務室を出ていく。
扉が閉まると同時に提督は「はあぁぁ…」と深いため息をついてソファに深く座り直す。
隣に座る長門も同じように深く座り直して額に手を当てて天井を見上げる。
「参ったな…どう考えてもあの男は怪物だ。しかもあの子を守る為なら本当に殺る目だった。本気過ぎる…皆、大丈夫か?」
「大丈夫な訳あるか…ずっと心臓を握られていた感覚だったぞ。提督、少女の保護は分かるが、本当にあの怪物まで保護するのか?大本営に報告すべきだと思うが…」
「勿論、ちゃんと報告するさ。司令長官に迷惑をかける訳にはいかないからね。ただ、あの男のことは”特級戦力”の可能性あり、とだけ伝える。もし協力を得られれば、この上ない最強の戦力だ。」
その言葉に長門含めたその場にいた艦娘達が驚きの声を上げた。
”特級戦力”といえど、あの怪物の手綱を引ける訳がないと。
そもそも協力してくれる訳がないとも声が上がる。
「皆が言うのも分かる。だがまずは対話だ。怪物ではあるが、全く話が出来ない、しないという感じはしなかった。ちゃんと腹割って話せば聞いてくれるはずだよ。」
「あたしは絶対危ないと思うけどなあ…」
「瑞鶴、提督が一度言い出したら聞かない、曲げないのは今に始まったことじゃないでしょ?」
「翔鶴姉ぇ…そりゃ、そうだけど…心配じゃん。」
「まあ、とりあえず夕食後に聞いてみるさ。」
そう言って提督はコーヒーを一気に飲み干すと
「よし!」と気合いを入れて立ち上がり執務机に向かい報告書を書き始める。長門も自分の頬を両手で軽く叩いて立ち上がり同じく秘書机に向かって作業を始めるのだった。
ーー夕方 鎮守府内の大食堂ーー
この時間は鎮守府に所属する艦娘達が一斉に流れ込んでくる。
総勢100名近い艦娘が所属しているので食堂もかなり広く、そして用意されるご飯の量も半端では無い。主に空母艦娘と戦艦艦娘達がかなり食べるので、半端ない量でもいつも全て無くなるのだが…
そんな大食堂の空気は今、かなり緊張の中にあった。
原因は勿論ハヤトだ。無表情で口数も少ない。何を考えているのか全く読めない、分からない。分かるのは圧倒的な存在感と周囲に放つ圧ぐらいだ。料理をとっている者、取り終えて席に座っている者、食堂へ入ってくる者、皆が全く同じことを思い、感じていた。
ーなんだこれは…危険過ぎるだろ……ー
提督はその2人の前に座り、赤城が葵の分の食事を持ってくる。
今日はチキン南蛮定食or鯖の塩焼き定食と書いてあった。葵は目を輝かせて「チキン南蛮定食!」と叫び、今は目の前に置かれたチキン南蛮定食を見て大喜びだった。
ハヤトはコーヒーだけ。正直、人間の食事は食べられない。葵の手料理は例外だが。
そしてようやく全員の配膳が終えたので一緒に「いただきます!」と大きな声で言ったのを皮切りに談笑しながらご飯を楽しむ。葵も「美味しいぃ!」と笑顔でもぐもぐ食べていく。
その笑顔を見るだけでハヤトはお腹いっぱい。
葵もハヤトが見ていることに気づいてにこっと笑う。
自然とハヤトも柔らかい表情になる。
提督はそんな光景を見て、「この男もそこまで表情が柔らかくなるんだな…」と少しだけ人間らしさを見て感じた。
そして食事を終え、各々が食後のデザートを食べたり、紅茶やお茶、コーヒーを飲んで自由に過ごしていた。聞くなら今だな…と提督は2人に新しいお茶とコーヒーを用意して話を切り出す。
「2人に聞きたいことがあるんだが…」
「あ、実は私も聞きたいことがあったんです。」
「そうなんですか?では先にそちらからどうぞ。分かる範囲でならお答えできると思いますよ。」
「ありがとうございます。えっと、用意して頂いた部屋のパソコンで調べても出てこなくて…あの、”喰種”って知ってますか?」
「”喰種”…ですか?いや、聞いたことないですね…」
「知らない…じゃあ、”CCG”はどうですか?」
「……いや、そちらも聞いたことないですが…」
その瞬間、葵は驚いてハヤトの方を見た。
ハヤトはコーヒーを静かに飲んでいたが、会話を聞いていたようでこちらが何も知らないと答えると目を細めていた。
そしてゆっくりコーヒーカップを置くと提督に視線を向ける。
「つまり…この世界に喰種もCCGもいないということか…」
「まあ、そうですね…喰種もCCGも初めて聞きます。失礼ですが、一体何なんでしょうか?」
提督がそう返すと葵は少し躊躇っていたが、ハヤトがその質問に対して淡々と答え始めた。
「喰種とは…人間を喰らう怪物を指す。CCGは喰種を狩る者達の組織だ。」
「……は?え、な、今…なんて…」
突然何を言い出すのか…いつもならそんな冗談をとか、はいはいゲームや漫画の見過ぎだなとか返す提督もこの時ばかりは狼狽えてしまった。
ハヤトの雰囲気が、圧が、何より淡々と話すその姿が何かを物語っていたからだ。長門からの報告にあった「紅い瞳」「怪物」その言葉が脳裏をよぎったのも大きい。
そんな状況で追撃をかけるように葵も話し始める。
「ハヤトが言った通りです。私は人間ですが…ハヤトは、喰種です。」
その瞬間、食堂の空気がピタッと止まる。
聞き耳を立てていた艦娘達がその言葉に反応した。
喰種、人を喰らう怪物、ハヤトは喰種、今、ここにいる。
周りの艦娘達は一斉に立ち上がって身構えるが、葵も席を立って「待って!」と呼びかける。
「待ってください!確かにハヤトは喰種です!でも、でもハヤト達は本当はとても優しい人なんです!怖いところは確かにあります。私も最初は怖いと思いました…でも、みんな不器用だけど優しくて、誰よりも家族を大切にしているんです。みんな…みんな、生きていく為にそうなるしかなかった人達なんです…でも…世界はそれを理解してくれなかったから…」
そう話す葵は泣いていた。途中言葉を詰まらせながらも話していた。
そう思い込ませる為…とは思えなかった。演技ではないと提督はそう感じていた。
理由は分からない。だがこの間ハヤトは視線を伏せ、ずっと黙っていた。
その瞳は紅くはない、普通の人間の目だ。ただそこには深い悲しみと喪失感が宿っていた。
「……葵、そう思ってくれているだけで俺は…俺達は十分救われた。葵が側に居てくれたから、俺達は壊れず、生きていられた。ありがとう…葵。」
そう話すハヤトの表情はとても柔らかく、どこか哀しみを抱えた笑顔だった。葵はハヤトに抱きついてずっと泣いていた。
ハヤトは何も言わず、ただ黙って葵を優しく抱きしめて頭を撫でて…
人を喰らう怪物がここまでするのだろうか?
人を喰らう怪物であれば、今この瞬間にも襲っていたのではないか?
提督だけでなく、艦娘達も同じことを考え、今すぐ敵として排除するという考えを一旦置くことにした。
「…ハヤトさん、改めてお聞きします。あなたは…喰種ですか?」
「…喰種だ。」
「分かりました…では他の質問です。先程俺達と仰ってました。
葵さんもみんなと、仰っていた…他にも仲間がこちらにいるんでしょうか?もしいるのであればお二人同様、こちらで保護します。」
「……いや、その必要は、ない…」
「必要ない?」
「……俺の家族は…葵以外、死んだ…」
「…………!!」
「だから、その必要はない…」
視線は逸らさない。言葉は短い。だからこそ、その言葉が重く感じた。
提督もハヤトから目を逸らしていない。だから分かった。嘘ではないと。
「…分かりました。知らなかったこととはいえ、辛いことをお聞きして申し訳ない。」
そう言って提督は頭を下げた。
それを見たハヤトは一瞬驚いた反応をする。そして目を細めて呟く。
「……葵以外にも…いるんだな…」
「…それは、どういう意味でしょうか?」
「俺を恐れている…だが、向き合おうともしている。信頼に足る人間だ…」
予想外の言葉に提督は頭を上げてハヤトを見る。
無表情。だがさっきまでの鋭い眼光が少しだけ和らいでいるように感じた。
葵も涙を拭って提督を見て嬉しそうに微笑んでいる。
「そう言って頂けて光栄です。今後もそう思って頂けるように努めます。」
「…そうしろ。であれば、俺は貴様を殺さない。」
「ありがとうございます。では私からも質問を…いや、頼みと言った方がいいですね。ハヤトさん、あなたにです。」
「……許す。言え。」
「ありがとうございます。では単刀直入に言います。あなたの力をお借りしたい。」
その瞬間、大食堂の空気がピリついた。気温もなんだか下がったような気もする。
瑞鶴は「言っちゃった…!」とおろおろして翔鶴に静かにと注意され、長門は提督をいつでも守れるようにほんの少しだけ腰を浮かせる。
「………いいだろう。葵に安全な場所を提供してくれた…その礼だ…」
「……!ありがとうございます!では私は早速大本営に報告してきますので、一度失礼します。」
そう言って提督は足早に大食堂を出て行った。残された艦娘達はこの状況どうしたらいいんだよとなっていたが、そこに葵の声が響く。
「あの!えっと、雨宮 葵です!皆さん、よろしくお願いします!」
そう言って周りの艦娘達に頭を下げて挨拶していく。
艦娘達も自然と挨拶を返していき、少しだけ空気が軽くなっていく。
ハヤトは再びコーヒーを一口啜り、静かに目を伏せるのだった。
今はまだ信用出来ない者達が多い。
深海棲艦とは別の脅威が同じ鎮守府にいて、共に過ごすなんて危険過ぎると。
だが後にこの怪物が提督と肩を並べ、艦娘達と共に海を駆け抜け、「仲間」「家族」になること。
そして1人の女性を守る為に、何の躊躇いも無く世界すら焼き尽くす“災厄の王“だと知ることを。
今はまだ、誰も知らない。